第6.5話~中川菜々の大好き~
私、中川菜々は新任の教員である。この春からここ、結ヶ丘女子ポケモン高等学校で教鞭を取る事となった。私が受け持ったのは1年B組。この2日間過ごしただけでわかる、みんな可愛くて優しい子だった。
特に、私が気になっているのが……澁谷かのんさん。あの子からは、ポケモンが大好きだというオーラがムンムンと伝わってきていた。けれど、入学初日はそれを覆い隠しているみたいで。私は心配だった。きっと、過去にポケモンと何かあったのだろう。でも、その次の日にはコンテスト科の唐可可さんに自身の気持ちを話していた。ポケモンが、大好きだって。あの子自身の口から、その言葉が聞けて本当に良かった。
え?なんで違う科の子の名前までわかるのかって? ふふっ、学生時代に生徒会長だった頃の癖が抜けていないみたいです。春休みの間に全部の学科とクラスの子達の名前と顔は一致しているのですよね。
自宅に帰ってきた私は、荷物を片付けて簡単に夕飯を済ませる。そうだっ。嬉しい事があったし、少しの贅沢は許されるだろう。デザートに高級きのみのジュースを開けながら、とあるグループの通話部屋を立ち上げる。その人達は、すぐに電話に出てくれた。
『あ、菜々ちゃん! お疲れさま!』
『お疲れ様だYO!』
「お疲れ様ですっ! 歩夢さん、侑さん!」
『おっつー、菜々せんせ!』
電話に出てくれた人達。ポケモン育てやを営んでいる高咲侑さん。シノノメシティでくさタイプのジムリーダーを務めている上原歩夢さん。オダイバシティのかくとうタイプのジムリーダーにして、私のライバルでもある宮下愛さん。みんな、私の高校時代からの親友です。
「もう、愛さん。菜々先生と呼ぶのはやめてください。今の私は……」
通話相手である愛さんに煽られて、三つ編みにしていた髪をスルリとほどく。さしずめ、これは私のフォルムチェンジといったところでしょうか。そうして、髪留めをつけた私は……。
「トーキョー地方のチャンピオン、優木せつ菜ですよっ!!」
そう! ある時は高校教師、またある時はこの地方のチャンピオン! そしてまたある時は……! っと、これはまたいつかお話する機会があるでしょう。とにかく! いくつもの顔を合わせ持つのが私、優木せつ菜の正体なのですっ!
『あははっ! せっつー、学校でボロなんて出してないよね?』
「大丈夫ですよっ。バシャーモ達も学校には連れてっていませんし。おいでっ、バシャーモ!」
私は居間の方でくつろいでいたバシャーモへと声をかける。
「シャモ!」
「ふふっ。今日もお留守番、ご苦労様ですっ!」
ポケモン達に留守番をさせるのは申し訳ないが、チャンピオン業の傍ら、正体がバレないように教鞭を取るにはこうするしかないんですよね。
『でもせつ菜ちゃん、チャンピオンと先生を一緒にするなんて大忙しじゃない?』
「大丈夫ですよ、侑さん! どっちも私のやりたい事ですから! きっと大変でしょうけど、絶対に楽しいです!」
『せっつー、本当に大変だったら愛さんにチャンピオンの座を譲ってくれてもいいんだからね~?』
「むっ、聞き捨てなりませんね。次の防衛戦でも勝つのは私ですよ!!」
こうして週に1回、皆さんと通話をするのが私達の習慣なんです。休みの日なんかはお酒を開けながら、ワイワイと騒ぐのがまた楽しいんです!
『せつ菜ちゃん』
「はい! どうしましたか、歩夢さん?」
『今日、いつもよりテンション高いけど……何か、嬉しい事でもあったの?』
「~っ!! そうなんです、そうなんですよ! 実はとある生徒が……」
そうして私は、かのんさんの事を話し始めました! かのんさんの話を、皆さん真剣に聞いてくださっています。
『そっかぁ、そんな子がいたんだね……』
「最初は、自分の大好きを押し殺しているだなんて、悲しい子だって。そう思いました。私も先生として力になってあげたいと考えていたのですが……その必要もないぐらい、強い子だったみたいです!」
『ふふっ、よかったね。せつ菜ちゃん!』
「はいっ! まぁ、先生らしい事を何かする前に解決してしまったのは少し寂しい……だなんて、これは私のワガママですけれど」
それが偽らざる私の本音だった。この人達を前にすると、そういった心の奥底にしまい込んでいたモノがなんでも出てきてしまう。
『そんな事ないよ! せつ菜ちゃんの気持ち、いつかその子に伝えられるといいね』
「歩夢さん……はいっ! 今度は、私もポケモンが大好きだってお互いに伝え合えたいですね!」
『それでこそせつ菜ちゃんだよ。えへへ』
そうして、歩夢さんと笑い合う。歩夢さんは、優しくってまさしくヒロイン属性といいますか。なんと言うか、凄く私の好み、なんですよね……。
『あぁーあ。また始まったよ。歩夢とせっつーのイチャイチャ』
『ホントホント。見てるこっちは気まずいんだから』
「『イチャイチャなんてしてませんっ!』」
私の考えが顔に出ていたのか、そんな風に愛さんと侑さんにからかわれてしまう。別に、歩夢さんにそういった感情は抱いていないです! これは本当です! でも、私にないモノを持っている歩夢さんには純粋に憧れているというだけなんです。
私と歩夢さんの声が重なって、みんなで笑い合う。この時間も、私は大好きだった。
先生も、チャンピオンも、親友達との時間も。全部が全部、私の大好きだから。それらを全部、抱きしめて。これからも中川菜々、優木せつ菜は頑張っていくのです!!
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以降は不定期更新とさせていただきます。これからも『ポケきら』をよろしくお願いいたします。