ポケットに煌めきを詰めて   作:NiwaNiwa

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今日も元気に毎日連載、3日目でございます。


第3話~煌めきを心に宿した少女~

 現在、私は体育館に並べられた椅子に座って、他の生徒と一緒に舞台の上に立った校長先生……あれ、理事長だっけ?まぁ、とにかく偉い人の話を聞いている。

 

「このような形で、第1回生を迎える事が出来た事を、心より嬉しく思います」

 

 何が言いたいかは分かって貰えるだろう。こういう偉い人のお話って……凄く退屈!!周りの生徒が真面目に先生の話を聞いているであろう中、私はなんとかして頭の中で暇を潰そうと考えていた。

 

「ご存じの方も多いと思いますが、この学校は……」

 

 そのお話によるとこの学校、結ヶ丘女子ポケモン高等学校はもともとポケモンバトルの教育に特化した学校だったらしい。あ~、そういえば。アオヤマタウンのポケモンジムのジムリーダーって、その結ヶ丘の前の学校の卒業生だっけか?

 偉い人のお話は退屈だし、今一度ポケモンジムのシステムでも思い出してみよう。いつかの私も、ジム巡りをしようだなんて考えてた頃があったな。小さい時の話だし、それももう叶わない夢物語なんだけどね。

 トーキョー地方には、18のポケモンジムが存在している。ポケモンが持つ18タイプそれぞれに、得意とするトレーナー、即ちジムリーダーがいるってわけだね。確か、アオヤマジムはノーマルタイプのジムだった気がする。そのうち6つのジムをクリアして、それからポケモンリーグへと挑む事ができる。他の地方だと8つらしいんだけど、数が少ないと侮るなかれ。

 ここトーキョー地方はポケモンバトルの聖地。どのジムでも本気の勝負が日夜展開され、人々を楽しませている。人気がある、というのはそれだけジムリーダー達の強さの裏付けでもあるし。

 そして、忘れちゃいけないのがポケモンリーグ。年に一度開かれる、ジムバッジを6つ集めたトレーナー達によるトーナメント。それぞれのジムバッジの有効期間は3年だから、少なくとも3年以内にジムリーダーを6人倒した強者しかいない、トーキョー地方最高峰のバトルイベントだ。そして、トーナメントを勝ち抜いた最後の1人がチャンピオンに挑み、そこでも勝てたら……晴れてその人がトーキョー地方のチャンピオン、ってわけ。

 そんなこんなで考え事をしてたら終わりの挨拶が聞こえてきたので、私も周りの動きに合わせて、教室への帰路を辿った。

 

***

 

 さて、教室に戻ってきました。戻ってからしばらくして、扉から先生が入って来る。黒髪で長い三つ編み2つを、それぞれ左右に前へと垂らしている。左右でピッチリ同じ長さの三つ編み、そしてシルバーのアンダーリムの眼鏡が、いかにもお堅い先生という印象を与えていた。

 

「はじめまして、皆さん。今日から1年間、ここ1-Bの担任を務めます、中川(なかがわ)菜々(なな)です。教員としての歴は浅いですが、皆さん仲良くしていただけると嬉しいです」

 

 真面目そうな印象とは裏腹に、柔和な笑みを浮かべて挨拶をした先生。その笑顔は、思わず惚れ惚れしてしまいそうな程に綺麗だった。

 

「はいっ、先生! 先生は何タイプのポケモンが好きですかー?」

「やっぱり先生って、バトル強いんですかね……」

「男のタイプはどんな人が好みですかー!」

「彼氏とかいるんですか!?」

 

 みんな美人先生の事が気になったのか、次から次へと手が伸びる。中には下世話な質問も混じってる気がするけど、先生は最初の質問に答える気になったみたい。

 

「好きなポケモンのタイプですか。それは勿論、ほの……んん゙っ。ポケモンのタイプに、貴賤なんてありませんよ。先生の事もいいですが、まずは皆さん。これから1年間共に過ごすクラスメイトへと自己紹介をしましょうか」

 

 おぉ、先生として100点の返し方。でも、最初に何か言いかけたような?まぁ、気のせいかな。

 先生の一声で教室の波は打ったように静かになる。1人、また1人と自己紹介をして……私の順番が回ってきた。

 

「ガイエン西中学から来ました、澁谷かのんです。えぇっと……」

 

 夢は、世界で一番のポケモントレーナー。喉まで出かかったその言葉を押し殺し、

 

「ゆ、夢はポケモンブリーダーとかいいんじゃないかなって思ってまぁ~す」

 

 適当な言葉を選び出した。なんかすみません、ポケモンブリーダーさん。ポケモンブリーダーのお仕事は素敵だなって思ってます。

 

「……」

 

 私が座る直前、一瞬中川先生と目が合った気がした。その目は……私の中の何かを見透かそうとするような、それでいて悲しそうな目をしていた。

 全員の自己紹介が終わったところで、再びみんなの視線が中川先生へと集まる。

 

「では、皆さん。改めて1年間、よろしくお願いします。今日はこれで解散となりますので、気をつけて帰ってくださいね」

 

 中川先生は最後にお辞儀をして、教室から出て行った。その途端、教室はザワザワと騒がしさを取り戻す。中には、手持ちのポケモンを机に出して紹介し合ってる人もいた。

 

「ねぇねぇ、澁谷さんだっけ?」

「えっ?は、はい」

 

 私が帰ろうと支度をしていると、前の席に座った子がくるりとこっちを向いて話しかけてきた。緑がかった髪の毛を、頭の上でお団子に纏めている子だった。名前は確か……

 

「八島さん、だっけ?」

「うん!八島(やしま)八重(やえ)、ヤエでいいよ。前後の席だし、仲良くしようね!」

「う、うんっ。じゃあ私も、かのんでいいから」

「かのんちゃん! よろしくね!」

 

 そう言って、ニッコリと笑いかけてきた。よかった、早速同じクラスに友達ができそう。ちぃちゃんはいるけど、いちいちバトル科の教室に通ってお喋りってのも面倒だしね。それに……みんながバトル科の中、1人普通科。まるでヤミラミの群れに囲まれたメレシーの気分だろう。今朝みたいに嫌な思いはもうたくさんだった。

 

「何々ヤエ、もうお友達?」

「うんっ! かのんちゃんだよ~」

「いいなぁ。あ、私は七草(ななくさ)七海(ななみ)ね。ナナミでいいから!」

「私は九条(くじょう)九野(ここの)。ココノって呼んで!」

「ナナミちゃんに、ココノちゃん……うん、よろしくね」

 

 どうやら3人は元々知り合いみたい。既に出来てる輪の中に入れて貰っていいのかなんて思いつつも、これでお望みの普通の高校生活っぽい事ができそう。

 

「かのんちゃん、ポケモンブリーダーになりたいって言ってたよね。実は私もなんだ」

「へ、へぇ~……」

 

 私の自己紹介を思いだしてか、ココノちゃんが詰め寄ってくる。ヤバい、まさか適当にひり出しただなんて言えない……上手く話を合わせられるかな!? 助けて、ポケモンブリーダーさん!

 

「ほらココノ、かのんちゃん困ってるじゃん」

「あっ! ごめんね、かのんちゃん」

 

 助けてくれたのはポケモンブリーダーじゃなくてナナミちゃんでした。ホッとしたのも束の間、次いで出てきた質問は私の顔をさらに青ざめさせる。

 

「そういえば、かのんちゃんはどんなポケモンを持ってるの?」

「えっ!?」

 

 そう、私は……ポケモンを持っていない。これだけは、誤魔化そうにもどうしようもなかった。

 

「因みに私はナックラーだよ。おいで、ナックラー!」

「ナック」

「私はヤトウモリ! アローラに旅行へ行ったときに捕まえたんだぁ」

「グルル」

「私はココガラ。ほら、かのんちゃんにご挨拶して」

「ココォ?」

 

 3人とも、自分の前に思い思いにポケモンを出した。そして……うっ、3人が私に向ける期待の視線が痛いや……ここは謝るしかないよね。

 

「こ、こんにちはみんな。あのね、実は私ポケモンを持っていないんだ」

「えっ、そうだったの!?」

「ごめんね、そうとは知らずに……」

「ううん、気にしないで」

「お詫びと言ってはなんだけど、私達のポケモン撫でてってよ」

 

 ナナミちゃん達は一歩引いて、私とポケモン達が向き合う形を作って笑顔を浮かべている。一方私はと言うと、今朝のバネブーとの出来事を思いだして、中々手を出せずにいた。

 

「かのんちゃん、どうしたの?」

「えっ!? な、なんでもない! ほら、よ~しよ~し……」

 

 大丈夫、マリルの時は上手くできたじゃん、私。なんとか顔に笑顔を貼り付けて、恐る恐る真ん中でドシッと構えているヤトウモリへと手を伸ばす。けど、次の瞬間。

 

「ヤトッ」

「あいたっ!」

 

 クルリと方向転換したかと思うと、ベシッと私の手を尻尾で叩いてきた。私の手はその勢いで隣にいたココガラの前へと飛んでいく。

 

「ココッココッココッ」

「いっつぅ!?」

「こら、ココガラ!」

 

 さらには、ココガラが私の手を何度もつついてきた。しかも丁度ヤトウモリに叩かれた所を的確に、何度も何度も。たまらず私はココガラの前から手を逃したんだけど、その行き先が不味かった。今現在、私の手は大口を開けたナックラーの目の前。そして、私の手がナックラーの口の中へと消えた。

 

「ガブッ」

「ぎゃー!!!!!」

 

 教室に私の悲鳴がこだましたのは、言わずもがなだった。

 

***

 

「い、っつつ……」

 

 うぅ、まさか登校初日に保健室に行くなんて。あの後、平謝りのナナミちゃん達に保健室に送られて、すぐに治療を受けた。幸い、大きなケガではなかったので薬を塗ってから手をぐるぐる包帯巻きにするだけで済んだんだけどね。まぁ、それなりにズキズキと痛むのでトボトボと歩いていると、部活動募集の掲示板が目に入ってきた。部活かぁ、そういえば何も考えてなかったかも。

 

「えぇっと……吹奏楽部にテニス部、ポケモンバッカー部、うぅ~ん……」

 

 コレと言ってビビッと来るモノがない。ギターはちょっと覚えがあるけど吹奏楽では役に立たないだろうし、テニスだって運動神経皆無な私には無縁の話。まして、最後のポケモンバッカーなんてポケモンを持っている事前提の部活動だ。

 

「ま、帰宅部でもいいよね」

 

 帰りにナナミちゃん達とタケシタストリートにでもよって、何か買い食いして帰ろうか。そう思ってた時。

 

「……きクラブに興味ありマセンかー?」

 

 遠くの方から、そう声が聞こえてきた。何かの勧誘だろうか? チラッ、とそちらに目をやると。

 

「皆さんは、ポケモンだいすきクラブに興味ありマセンかー!?」

 

 お手製の看板を掲げた1人の生徒が、そう周りに呼びかけていた。ポケモンだいすきクラブ……? 一体何をする部活なんだ? というか、“ポケモン”なんて名前が入っているこの学校に通ってる人なんて少なからずポケモンが好きだろうし、そんなのわざわざ部活動でやらなくてもいいんじゃないかな? まぁ、私には関係無い事だろうな、と素通りしようとすると。

 

「……あ! スバラシイカオノヒト!」

 

 バッチリその人と目があった。素晴らしい顔の人……って、えっ!? 周りをキョロキョロ見回しても、周りに生徒は見当たらない。わ、私が!? そう言って自分の顔を指さすと、その子はコクコクとうなずきながら……ジリジリとにじり寄っている気がする。

 

「スバラシイカオノヒトー!!」

「わ゙ーっ!?」

 

 次の瞬間。その子が猛ダッシュでこっちに駆けてきた。その剣幕の凄い事凄い事。私は堪らず逃げ出した。

 

「怖い怖い怖いーっ!」

「待ってクダサァ~イ!」

「あぁ、澁谷さん! 廊下は走っちゃダメですよー!」

 

 途中、中川先生の声が過ぎった気もするけどそんな事はお構いなしに私は結ヶ丘の敷地を駆けていく。

 

「ま、待ってェ~」

 

 中庭の木をグルグルと回ってるウチに、大分その子はへばってくる。でも……春休みの間、引き籠もりとして惰性を謳歌してた私もそれは同じ。

 お互いゼェハァと息を切らしながら、その場に並んでへたり込む。だがしかし、相手は体力は尽きても気力はまだ残っていたみたいで、こっちの手を取り何やら外国語でこちらにまくし立てる。

 

「――――!! ―――――!?」

「な、なにチュウゴク語!? 何言ってるか全然わかんないよぉ~!」

 

 こういう時は……! 取り敢えず、わかる単語を並べ立てておけばヨシ!

 

「ニ、ニーハオ! シェーシェーショーロンポー! サイツェ~ン!!」

「あ! サイツェンダメ!!」

「ぐほっ!」

 

 寸でのところで腕を掴まれ、脱出失敗。

 

「――――――――!!!」

「か、顔が近い! せめて、日本語で喋って~!」

「ア……! 失礼しマシタ、つい感きまわってしまっていつもの言葉が」

 

 それを言うなら感極まって、ね……私の腕を放してくれたその子に、改めて向き直る。グレージュに、ところどころ薄紫色に染まったボブカット。くりんとしたお目々に色白な肌。なんと言うか、小型ポケモンじみた印象を受ける子だった。制服は、普通科ともバトル科とも違う、深緑のジャケットを羽織っていた。

 

「改めまして、私はクゥクゥ。(タン)可可(クゥクゥ)と言いマス!」

「澁谷、かのんです……えっと、コンテスト科の子だよね?」

「ハイッ! ポケモンコンテストがやりたくて、シャンハイ地方からトーキョーまで来マシタ!」

 

 ふぅん……凄い行動力だな。だって、コンテストの為に海外から留学してきたってコトでしょ?

 

「でも、どうしてポケモンだいすきクラブなんて作ろうとしたの? そもそも、それって何をする部活動なのかな」

「それはデスねぇ」

 

 と、可可ちゃんが説明を始めようとした時。

 

「このチラシを配っているのは貴女方ですか?」

 

 私達の会話に割って入る、冷酷な声が聞こえてきた。

 




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