ポケットに煌めきを詰めて   作:NiwaNiwa

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毎日連載6話目です。いくらストックがあるとはいえ毎日連載って随分ロックですよね。


第6話~その煌めきが私の真実~

 入学式の次の日。私は、可可ちゃんと約束した通りにポケモンだいすきクラブに入ってくれそうな子を探すべく、クラスの皆へと声をかけて回っていた。

 

「ポケモンだいすきクラブ?」

「うん。ナナミちゃん、そういうの興味ない?」

「う~ん、ポケモンは好きだけど。そもそもそれどういう部活なの?」

「私もよくわからない……」

「元々部活とかには興味ないから。ごめんね?」

「ううん、気にしないで」

 

 私は、メモ帳に記された“ナナミちゃん”の横にバツを記す。次はヤエちゃんだ。

 

「ごめんね。私、ヤトウモリとは仲良しだけれど、他のポケモンの事はよく知らないから。ね~?」

「ヤト」

「そっかぁ」

「グルルル…」

「こら、ヤトウモリ。かのんちゃんを“いかく”しないの。貴女の特性は“ふしょく”でしょう?」

「腐らされても困るけどね……」

 

 トラウマが再発しながらも、“ヤエちゃん”の横にバツ。最後にココノちゃん。

 

「ごめんね~。私、ブリーダーの勉強に専念したいから。あ! かのんちゃんも一緒にどう?」

「だ、大丈夫」

「そう? 部活でもやってるらしいから、よかったら一緒にと思ったんだけど……」

 

 そう言えばそうだった。いつか、私が嘘言っちゃってる事、ちゃんと謝らなきゃな。そそくさと退散しながら、“ココノちゃん”の横にバツ。これで私の当ては全滅です。はぁ……と思わず溜息も出てしまう。取り敢えず、可可ちゃんに私の結果を報告しに行かなきゃ。

 

「そうデスか……」

 

 私のメモ帳に整列してるバツ印を見て、可可ちゃんも残念そうな顔を浮かべる。

 

「ごめんね、可可ちゃん。折角頼ってくれたのに」

「気にしないでクダサイ。可可も、ダメだったので」

 

 コンテスト科にもそういう子はいないかぁ。ポケモンを魅力的に見せるのがコンテストだから、普通科やバトル科より興味のありそうな子はいると思ってたんだけれど。

 

「まぁ、私もまだ他のクラスの子には聞けてないし。私の友達にも、バトル科で興味がある子がいないか聞いてもらってるから」

「それって、玛力露(マリル)のトレーナーの人デスか?」

「うんっ。また今度紹介するね」

「ハイ……デスが、可可は……」

「ん?」

 

 可可ちゃんの方に向き直ると、ジッと、私の方を見てくる。あれ、私の顔に何かついてるかな?

 

「……いえ、なんでもないデス」

 

 付いてなかったのか。じゃあ、今のは一体?

 

「ねぇ、可可ちゃん、今何か私に……」

「あ、あの人。まだ可可が声をかけてないクラスメイトの人です」

 

 私が可可ちゃんに質問をする前に、可可ちゃんは前方を指で差す。可可ちゃんの指の先に視線を送ると、星を髪に溶かしたような、綺麗な金髪の女の子が歩いていた。可可ちゃんと同じクラスと言う事で、成る程。コンテスト科の印の深緑のジャケットを羽織っていた。

 

「私、聞いてくるよ」

「あっ、かのんサン」

「あのっ、すみません!」

 

 私が声をかけると、その人は立ち止まってくれた。よかった、話は聞いてくれるみたい。

 

「なんでしょう?」

「そ、その~……私、普通科の澁谷かのんって言います。ポケモンだいすきクラブ、なんて興味があったり……もしよかったら……?」

「何かと思えば。興味ないわ」

 

 私達の方を見向きもせず、その人はさっさと行ってしまった。

 

「……高飛車な人だったね」

「スミマセン……」

「全然、気にしないで? ほら、次々! 次を探しに」

「かのんサン!隠れてっ!」

 

 私が意気込んでいると、急に可可ちゃんに手を引っぱられ、腰を低くするように言われた。

 

「く、可可ちゃん!? どうしたの、急に」

「アレ、見てクダサイ。見張っていマス」

 

 チラッ、と可可ちゃんの指を差した方向を見ると、さっきの金髪の女の子とすれ違う形で、葉月さんがこちらに歩いてきていた。成る程、昨日の今日で勧誘なんてしている事がバレたら今度こそマズい。

 私達と葉月さんの間には丁度、渡り廊下の塀みたいな板があって葉月さんの視線からは私達が隠れる形になっている。私達は彼女が向こうの方で見えなくなるまで、その場でジッと隠れていた。

 

「ふぅ……もう行ったかな?」

「全然上手くいかないデス……」

 

 葉月さんが去ってからも、可可ちゃんはその場で項垂れていた。ポケモンが専門の学校だけれど、ポケモンが心から大好きな人はほんの一握りなのかな。可可ちゃんの言葉通り、上手くいっていない現状に、私も想わず溜息を吐いてしまった。

 

***

 

 あの後、夕方まで色々な人に声をかけて回ったけれど、結局成果はゼロ。山積みのチラシを腕に抱えて、可可ちゃんも溜息をついている。

 

「中々いないんデスね。ポケモンが大好きな人。ポケモンの学校なのに……」

「明日は他のクラスも回ってみようよ。今日がたまたま見つからなかっただけで、きっと興味を持ってくれる人はいるよ」

「かのんサン……」

「途中まで道一緒だったよね? 帰ろっ」

 

 大丈夫。明日になれば見つかるかもしれないし、もしかしたら今日声をかけた人の中にもやっぱり……って人が来てくれるかもしれない。そう考えて、帰路へと一歩踏み出したその時。

 

「かのんサンっ!」

 

 私を呼び止める一つの声。それを発したのは、勿論可可ちゃんだった。

 

「やっぱり……やっぱり、可可は! ワガママかも知れマセンが……かのんさんに、可可の部活に入って欲しいデス! ポケモンと一緒に、かのんさんとも、同じ時間を過ごしたいんデス!」

「っ……昨日、言ったでしょう? 私はポケモンに嫌われちゃうの。ポケモンと一緒に、いる事はできないの……いるだけ迷惑だよ……」

 

 私の言い訳にかまわず、可可ちゃんの話は続く。やめてよ。

 

「かのんさんはポケモンが好きです。ポケモンが好きな可可の事も、心から応援してくれマシタ。可可にとって、かのんさんとの出会いは運命なんデス。可可はそんな人と一緒に、ポケモンが大好きって気持ちを分け合いたいんデス。だから……!」

 

 可可ちゃんが距離を詰めてきた。やめてよ。ダメなんだよ。

 

「無理だよっ……」

「お願いしマス!」

 

 やめて。

 

「ダメ……」

「そんな事ありマセン!」

「もうやめてよっ!!」

 

 気がついた時には、叫んでいた。可可ちゃんの腕を払って、可可ちゃんお手製のチラシがその場に散らばってしまう。

 

「ア……」

「ごめんっ……でも、仕方がないんだよ! ポケモンにずっと嫌われ続けて、ポケモンと一緒にいると、ポケモンの事だって嫌いになりそうだし……何より! そんな自分が、1番嫌いになっちゃうの! そんな思いは……もうたくさんなんだよっ!」

 

 涙と一緒に、ずっと心の中に押しとどめていた感情が溢れ出てくる。そう。これが、私の本当の気持ち。それで、いいんだ……

 

「……応援しマス」

 

 でも。私の言葉を聞いても、可可ちゃんは。可可ちゃんの口からは、まだそんな言葉が出てきた。

 

「かのんサンがポケモンと一緒になれるまで。今度は可可がかのんサンを応援しマス。だから、その時は可可と、一緒に……」

 

 あぁ、優しいな。可可ちゃんは。でも、そんなの無理に決まっている。こんな私と一緒じゃ、可可ちゃんに迷惑をかけてしまうだけだ。

 私は、可可ちゃんに背を向けてその場から立ち去った。

 

(……また逃げちゃうの?)

 

 逃げるんじゃない。私から、逃げていくんだ。ポケモン達が。

 

(いいの? 私と一緒にいたい。私がポケモンと一緒にいてほしいって願ってくれる子がいるのに? 本当にこのままでいいの?)

 

 いいんだ。これで、いいんだよ。可可ちゃんは意欲的な子だ。きっとすぐに私の代わりが見つかる。ポケモンが大好きで、バトルも強くて……代わりだなんて言うのも烏滸がましいぐらいに。

 

(でも、それは……私がなりたかった、ポケモントレーナーなんじゃないの?)

 

 ……ああ、そうだよ。そうなんだよ。それが、私の。私の中の、“真実”なんだ。私は、振り返って駆け出していた。急に走り出したせいで脇腹が痛い。走るのだって久しぶりだから息だって絶え絶えだ。でも、そんなの気にしていられない。私を待ってくれている人がいるんだから。

 

「はぁっ……はぁっ……」

 

 私は目的の人……可可ちゃんの目の前で止まって、再度彼女に向き直った。

 

「かのん、サン……?」

 

 ―――小さな頃から、ずっと思っていた。

私はポケモンが好き。バトルが好き、ずっと、ポケモンと一緒にいたい。ポケモンと一緒なら、遠い空をどこまでも飛んでいける気がする。暗い悩みも、荒んだ気持ちも、全部、力に変えて、前向きになれる。いつだって、ポケモンと一緒にいたい。

 

「ごめん、可可ちゃん。さっきの話は嘘。私、本当は……やっぱり、ポケモンが大好きなんだ!」

「……!」

 

 大好きなキモチにもう、嘘はつけない。

 

「ポケモンがどれだけ、私を嫌ったって、拒んだって……私は、あの子達の事を嫌いになんてなれない! だって、ポケモンを見てるだけで、一緒にいるだけで……胸の奥にキラキラした気持ちが湧いてくるの。それがきっと、私の大好きって気持ちなんだと思う」

「かのんサン……! デハ!」

「うん。こんな私でよければ……私も、“ポケモンだいすきクラブ”に入ってもいいですか?」

「勿論デスッ!」

 

 可可ちゃんが、満面の笑みで頷く。私も吊られて、笑みが零れてきちゃう。

 

「あとね、もう一つ理由があるんだけど……」

「ほぇ、なんデスか?」

「ん~……恥ずかしいから言わないっ」

「なんデスか、それぇ。言ってクダサイよぉ」

「だぁ~め」

 

 だって……私を信じてくれた人の隣にいるのは私がいいって言うのは、ちょっと照れくさいじゃん? 可可ちゃんも問いただすのは観念してくれたのか、話題を変えて天に拳を突き出す。

 

「よぉ~し、ともあれ早速部員1人ゲットデス! この調子で、どんどんポケモンだいすきの輪を広めて行きマショウ!」

「ふふっ、おー!」

 

 私と可可ちゃんの声が重なって、天に飛んでいく。

 

「……よかったです。澁谷さん。あなたの“大好き”が聞けて」

 

 私達を影で見守る声には、気づかぬままに。

 




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