ポケットに煌めきを詰めて   作:NiwaNiwa

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第9話です。幕間と合わせれば10本目、大台のお話。
あんな事やそんな事が聞けるかも知れません。
例えば、これで書き溜めていたストックが切れたってお話とか。


第9話~素敵な朝とブルーな昼~

 ピピピ、とけたたましく鳴く目覚ましを止めてから、一つ伸びをする。ベッドから降りて窓を開ければ、朝の日差しが私を出迎えてくれる。昨日までより、ずっと気持ちいい朝。その理由は……

 

「ほら、そろそろ起きて。寝ぼすけさん達!」

 

 布団をめくると現われた、2人のパートナーがいるからだろう。まだ眠そうな目を擦って起き上がる、その光景の可愛さたるや、今すぐ抱きしめちゃいたい。

 

「ムニャムニャ…」

「ピ…チュ…」

「おはよう、2人とも」

「ピチュピ! ピッピチュ!」

「カノン! オハヨー!」

「ふふっ。ほら、学校の準備するよ」

 

 起き上がるや否や、私の頭の上を飛び回るペラップ。私の肩に飛び乗ってきたピチュー。2人がいるだけで、心の中がポカポカしてくる。制服に袖を通しながら、鞄に教科書を詰め込む。その工程すら楽しくなってきちゃう。

 

「カフェオレ♪ 焼き林檎~♪」

「ピッピチュ♪」

 

 こんな日は、自然と口から歌が零れ出てくるもの。私の歌うメロディに、ピチューも心地よいハーモニーを足してくれる。

 

「だ、い、す、き、さル~ル~ルル♪ マトマも食べたい~♪」

 

 2人を乗せて、階段を1段飛ばしで降りるのすら何のその。今の私に、怖いものなんて何もない。今の私は無敵、この地方のチャンピオンにだってなれちゃいそうだよ。

 

「ハンバーグもいい~♪ Foo!」

「フー!」

「おっはよー! 2人とも!」

 

 ペラップの合いの手と共にカフェの空間へと足を踏み入れた私は、既に朝食を食べていたお母さんとありあにご挨拶。挨拶は人としての基本。これあってこそ、気持ちの良い一日が始まるんだよね。朝の挨拶はテンションが高ければ高い程良いって、昔の偉い人が言ってた気がする。

 

「おはよう、かのん。朝から楽しそうね」

「うんっ! おっ、ありあ~! そう言えば、今日が始業式だったよね! 頑張るんだぞ!」

「う、うん……お姉ちゃん、ちょっと気持ち悪いよ」

「いっや~、そ・れ・ほ・ど・で・も! ねぇ~、ペラップ! ピチュー!」

「ソウダソウダ!」

「ピッチュー!」

「褒めてないし……」

 

 ありあが何か言った気がするけれど、きっと私を褒め称える言葉に違いない。きっとそうだ、今の私に当てはまる言葉なんてそれぐらいしかないだろう。ありあの言葉は置いておいて、目の前にあったトーストに思いっきりかぶりつく。トーストの香ばしさと共に、仄かな酸味と上品な甘味が私のお口の中いっぱいに広がった。

 

「お母さん、これ新作のジャム?」

「えぇ。モモンのみをベースに、少しだけクラボのみを加えて煮詰めたの」

「へぇ~。モモンのみはちぃちゃんが好きだったから、今度ちぃちゃんにも食べさせてあげたいな!」

「ふふっ。えぇ、いつでも呼んでらっしゃい」

 

 ムシャムシャと夢中で食べ進めていると、肩と頭から2つの視線を感じた。トーストを食べ進める手を止めて肩の方を見ると、何やら羨ましそうな視線をこちらに投げかけるピチューが。頭の上からも同じ気配を感じるし、きっとペラップも同じような目をしているだろう。

 

「はいっ、ピチュー。あーん」

「ピチュ! ピチュ、ピチュ…」

「カノン! カノン!」

「はいはい、ペラップも。順番だからね」

 

 勿論、私はちぎったトーストの切れ端を、2人に分け与えた。2人とも美味しそうな顔をしてトーストを頬張っている。

 

「もう、切れ端だけじゃ可哀想でしょ? すぐペラップちゃんとピチューちゃんの分も焼いてあげるからね」

「ピッチュー!」

「ヤッター!」

「ふふっ。よかったね、2人とも」

 

 トーストが焼けるのを待ちながら、私は残りのトーストを平らげる。おかしい。さっきまで手に合ったトーストが一瞬で消えてしまっている。何故かというと、そのトーストが美味しすぎたからだ。なんて、いい加減バカみたいにロマンチストな文を考えるのに飽きてきたんだけど……丁度、ペラップの事で少し気になっている事があるのを思いだした。

 

「ねぇ、ペラップ。私のお母さんは平気なの?」

「ゴハン! ゴハン!」

「私が平気って? どういう事?」

「この子、ちょっと人間不信みたいで」

 

 だけど、お母さんはご飯をくれる人だから大丈夫らしい。私のお母さんをご飯要員呼ばわりとは図太いヤツめ。あれ? じゃあ、隣でご飯を食べているこの人は……?

 

「ペラップ、昨日紹介し忘れてたよね。私の妹のありあだよ」

「イモート…?」

「私の大事な家族だよ」

「ど、どうも……」

 

 私はありあの方に首を向けて、頭の上に止まっているペラップもありあの事をよく見られるようにする。

 

「ジィーッ…」

「ね、ペラップ。昨日言ったよね。色んな人と友達になって欲しいって。私の妹がペラップの友達第1号だったら、とっても嬉しいんだけどな?」

「…オハヨ!」

 

 私の言葉が届いたのか、ペラップはバサッと羽を広げてありあにご挨拶。うんうん。挨拶は人としての基本。それ即ち、ポケモンも一緒だよね。

 

「お、おはよう」

「うんうん、上出来だよペラップ」

「……私が友達1号だったら、お姉ちゃんは何なのさ」

「それは勿論!」

「パートナー!」

「そう、ペラップは賢い! 偉い!」

 

 ワシャワシャと、頭の上に手を持って行ってペラップを撫でてやっている内に、新しく2枚のトーストが焼き上がった。再び、トーストの香ばしい香りがカフェいっぱいに広がる。

 

「ほら、ペラップちゃんとピチューちゃんの分。かのんは食べちゃダメだからね」

「わかってるって。2人とも、よく噛んで食べるんだよ」

「ピッチュ!」

「イタダキマス!」

 

 いただきますの挨拶をするや、あっという間にトーストが2人の口の中へと消えていく。この子達がお腹いっぱい食べている様子を見ると、なんだか安心できちゃうんだよね。2人ともいっぱい食べて大きくなるんだぞー、みたいな親目線になってしまうというか。なんて考えていると、2人の目の前には食べカスすらないスッカラカンのお皿が。

 

「チュッピ!」

「ゴチソーサマ!」

「はぁい、お粗末様」

「今更だけどこのペラップ、凄く喋るね」

「私に似て賢いからね!」

「カノン! カシコイ!」

「変な言葉覚えさせてないでしょうね?」

「なんでそこで私を疑うの!? って、もう学校行かなきゃ! マンマル、行ってくるね!」

「ホー」

 

 時計を見ると、既に学校へと出なきゃいけない時間になっていた。カバンをひっ掴んで、マンマルに挨拶をして玄関から飛び出す。ペラップとピチューと、初めての登校。う~、ワクワクしちゃうな!

 そっか……そっかぁ! 私も、もうポケモントレーナーなんだ! ポケモンと、一緒にいられるんだ!

 

「ペラップ、ピチュー!」

「ペラ?」

「ピチュ?」

「今日も頑張ろうね!」

「ペラ!」

「ピチュ!」

 

 今日も、この子達と一緒なら素敵な一日になる。そんな予感がして、堪らないんだ。

 

***

 

 誰でしょうか。素敵な一日になる予感がしたとか言ってた人は。登校してきて教室に入るや否や、私の机が占領されていた。それも、見覚えのあるグレージュのボブカットの女の子が。

 

「……可可ちゃん?」

「うぁあ~……」

 

 私が呼びかけても、項垂れたままの可可ちゃんはピクリとも起き上がろうとしない。

 

「か、かのんちゃん。大丈夫?」

「平気。お友達だから。可可ちゃん、どうしたの?」

「ダメだったんデス……ダメだったんデスよ~」

 

 そう言って可可ちゃんがこちらに差し出したのは、私と可可ちゃんの名前が書かれた部活動申請書。

 

「えっ、提出してきたの!? えっと……バトル、負けちゃったのに?」

「このような部活動はやはり相応しくないと、葉月サンが。バトルの事もあるし、強く言い返せませんデシタ……現状、部活動は葉月サンを中心にした生徒会が管理しているみたいで、そこに受理されないと……」

「そっか……他の人はどうなのかな」

 

 他の生徒会の人を説得できればワンチャンないかな? 私の考えは、すぐ横で話を聞いていたナナミちゃん達に潰される事になる。

 

「でも、新しく出来た学校で生徒会にすぐ所属している子って他にいるの?」

「言われてみれば……葉月さんは、学校の関係者らしいから。他にそういう人がいればの話だよね」

「うっ、確かに……じゃあ、あの葉月さんが生徒会を一人で運営しているって事になるよね」

「こうなったら……行くしかありマセン!」

「行くしか……そうだよね!」

 

 当たって砕けろ、何度でもチャレンジ! 可可ちゃんのガッツを信じて、私はいざ勇んで葉月さんの元へと行こうと思ったら、可可ちゃんに服の裾を掴まれた。え? 行くんだよね? 葉月さんのところへ?

 

「どこ行くのですか? かのんサン?」

「え、可可ちゃんこそどこ行くつもり?」

「そうデシタ。これ、かのんサンも書いてください」

「あ、うん」

 

 そうだよね、部活動を始めるにも色々書類が必要だよね。私は可可ちゃんが差し出した書類に名前を書いた。何やら丸文字で、お手製感のある書類だけど……えぇっと、退学届って書いてある。退学届!?

 

「退学届!?」

 

 思わず、心の声が外へと出てしまった。そんな単語を口に出しては、教室中の視線を独り占めにしてしまう。

 

「退学!?」

「かのんちゃん、学校やめちゃうの!? そんなのイヤだよ!!」

「いやいやいや、やめないよ! えっと、可可ちゃん?」

「あんなこん畜生がいるこの学校では部活動なんてできっこないデス。今からでも他の学校に編入して、そこで……!」

「待って待って可可ちゃん、折角この学校に入学しだんたよ!? それに、私は普通科だからまだいいけど……いやよくないけど! 可可ちゃんはコンテスト科でしょ!? コンテストがしたくてこの学校に来たんでしょ!?」

「それは、そうデスけど……」

 

 可可ちゃんが言いよどむ。そうだ、可可ちゃんはコンテストがしたくて日本に来たんだ。コンテストの文化はバトルに比べれば下火だし、コンテストの教育に力を入れている学校なんて数少ないだろう。もし本当に学校を変えてしまう事になったら、可可ちゃんが本当にやりたい事が出来なくなっちゃう。それは私も嫌だった。

 

「そもそも可可ちゃんは、なんでそこまで部活動にこだわるの? 別に、ポケモンが大好きな人と集まってお話したいんだったら放課後集まってお話するだけでもいいし、それだったら葉月さんだって咎める事なんて出来ない筈だし……」

「可可は……可可のチュウゴク地方では、部活動って文化がなかったんです。だから、トーキョー地方や他の地方での部活動に、凄く興味があったんデス。一つの目標に向かって、全員が一丸となって突き進む……可可はいたく感動しマシタ。可可もこの地方で、そんな部活動がしたいんデス。ポケモンが大好きな人と集まって……その輪を、この学校全体に広げたいんデス!」

 

 それが、初めて聞く可可ちゃんの、“ポケモンだいすきクラブ”の目標だった。ポケモンが大好きな人の輪を、この学校全体に広げる……それって、凄く素敵な事だと思う。

 

「凄いね、唐さん……そんな風に考えていたんだ」

「可可ちゃん、凄い……凄いよ! それって、本当に素敵な事だと思う!」

「かのんサン……!」

「もう一回、葉月さんを説得しに行こう! 私も一緒に行くよ、2人で頑張ろう!」

「ハイッ!」

 

 そうして私達はもう一度、葉月さんのところへと向かうのだった。

 




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