【完結】さよならシュガーバレット・ガール   作:守次 奏

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Act.4 夏祭り

 季節は次々と死んでいく。

 そんな風に誰かが歌った通り、冬が終わって、春が終わって、気づけば夏も終わりを迎えようとしている。

 そんな、高校生にとって貴重な夏休みに私が果たしてなにをしていたのかといえばバイトとFPS、そしてチセとの通話だけだ。

 

 生産性だとか夏らしさだとか、そんな情緒をどこかに置き忘れてきたような夏休みは、誰かが見たら虚しいといわれそうではある。

 だけど、別に私はそう感じない。

 あっちも夏休みだからか、チセと存分に夜更かしをして会話することもできたし、バイトのとき以外はFPSをやる時間も増えたから、むしろ全力で謳歌していたといってもいいだろう。

 

 今日も、例に漏れずに私は、チセと一緒にFPSに潜っていたのだから。

 

『やー、プロが混ざってくると結構しんどいもんだね』

「それでお金をもらってるんだから、当然でしょう」

『飯の種のためにはアマチュアには負けらんない、って感じなんだろうねー、フルパで来られるといくらわたしでも荷が重いや』

 

 チセが、お手上げとばかりに溜息をつく。

 グランド帯への昇格を果たしていた私たちのFPS生活は順風満帆……とはいかないのが人生だ。

 このゲームは五人で組んだチームで戦うのがルールであって、五人固定メンバーを揃えた相手──いわゆるフルパと、私とチセの二人に野良の三人を交えた構成で戦うのは、基本的にフルパ相手だと開幕から不利を背負っているようなものだ。

 

 いくら味方の質がよかったとしても、リアルタイムで意思疎通が図れない以上、対応としては明らかにフルパに後れをとってしまう。

 そして、その差は上の階級帯に行けば行くほど顕著になっていく。

 マスター帯最上位なら、なんとかチセの立ち回りだけでどうにかなったけど、プロやセミプロが跳梁跋扈するグランド帯では、本人が言う通り中々厳しい。

 

 チセでさえ厳しいと言っているんだから、私なんかもう言わずもがなだろう。

 

「フルパじゃなければやれるんですね」

『三人くらいまでなら、まーなんとか?』

「……チセは規格外ですね、本当に」

 

 プロ三人を相手にラインを死守できる時点でもうチセのスペックは並のプロゲーマーを軽く凌駕しているといってもいいだろう。

 私も一応、タイマンならなんとかできなくもないけど、一対一でのキルデス比では明らかにデスの方が上回っている。

 その分別なことで活躍したいところではあったけど、プロがガチガチに固めてきた戦術を破るのは容易なことじゃない以上、それも厳しかった。

 

『いやいや、ユキの指示ありきだってば』

「……そうでしょうか」

『この前ユキがバイトだったときさ、試しにソロで潜ってみたけどフツーにボッコボコにされたからね』

 

 やれやれ、とばかりに苦笑しながらチセは語る。

 それでも、キルレートを見れば圧倒的にデスよりもキルの方が上回っているんだから、謙遜する必要なんてどこにもないのに、チセはどこか少し変な子だ。

 それに、ソロでグランド帯に潜る時点で自殺行為というか、どれだけいい味方を引けたとしてもプロのフルパに当たって爆散するのなんて、目に見えたことだろう。

 

「なんでそんな苦行に走ったんですか……」

『いやー、たまには自分単体での実力確かめてみたくなってさ』

「はあ」

『んで、まあ案の定というか。タイマンならなんとかなるけど、数の暴力は無理』

 

 身も蓋もないことをいってしまえば、他のFPSがどうだかは知らないけど、このゲームは基本的に枚数有利で殴るのがセオリーだ。

 これについては、基本私からの指示があれば枚数不利を覆せるチセのプレイヤースキルが異常なだけ、という話に尽きる。

 だから、グランド帯の野良がいくらハイレベルなプレイヤーだったとしても、通話による意思疎通ができないというのは致命的だ。

 

 ソロで潜って普通に勝ってるプレイヤーはもう人外にカウントしても構わないとさえ、私は思っている。

 一人だけなら、ガチガチに戦術を固めてきたプロでもキルできる、と公言するチセも大概人外だけれども。

 今日の試合で負けが込んでいたのも、全てはその連携不足という課題が浮き彫りになったからだった。

 

『結論! 囲んで撃たれたら人は死ぬ!』

「それはそうですが」

『だから考えたってしゃーないって、そんなわけで反省会はここでおしまい!』

 

 どれだけ最良の立ち回りをしても勝てない日はある。

 逆に、どれほど調子が悪かったとしてもなぜか勝ててしまう日もある。

 ゲームなんてそんなものだとばかりにチセは今の話題を放り投げて、そう言い放った。

 

 なんとなく、チセらしいなと、そう思う。

 私は負けたときには割と凹む方だし、敗因がどこにあるのかを考えたりもする。そうでもしないと、自分が許せないから。

 例え相手が完璧であったとしても、こちらが不利を背負っていたとしても、だ。

 

 そういうところは、あまりよくないのかもしれないけど。

 かといって、それをすぐに変えられるかどうかと訊かれればそれもまた無理なわけで。

 枚数不利を背負えば大体が相手のキルスコアになるように、それは至極当然なことなんだと、言い訳のようなことを薄らぼんやりと考えていた、そのときだった。

 

『そういや夏休みももう終わりだろうけどさ、ユキは夏祭りとか行かないの?』

 

 藪から棒に、チセがそんなことを問いかけてくる。

 夏祭り。確か私が住んでいる付近では明日だったか明後日だったかは覚えていないけど、開催されるはずだ。

 とはいっても、私の中では開催日時を覚えてないくらいどうでもいいことに分類されている程度の話なんだけれど。

 

「行きません、面倒なのと人混みが嫌いなので」

『えぇー? 行こうよ、せっかくの夏休みなんだしさー』

 

 いつもなら、「そっかー」の一言で流しそうなものだったけど、チセは残念そうに私へ参加を促してくる。

 なにか、こだわる理由でもあるんだろうか。

 夏祭りの人混みと気温を想像してげんなりしながらも、私は問い返す。

 

「なんでそんなに食い気味なんですか、チセ。こだわりでもあるんですか?」

『んー、あるっていうかないっていうか……単にわたしがユキの浴衣姿を見てみたいってだけかな』

 

 思ったよりもしょうもない理由だった。

 溜息をつきたくなるくらい、あっけらかんとチセはそんなことを言ってのける。

 別に、私の浴衣姿になんて価値もなにもないだろうに。

 

「そんなことなら、別に夏祭りに行かなくたって自撮りの一つも渡せば済む話じゃないですか」

 

 浴衣なら確か、クローゼットに眠っていたはずだ。絶対に着ることはないと確信しているのに、親が買ってきたものが。

 どうしてチセが私の浴衣姿を見たいのかは知らないし、そこに深入りするつもりもない。

 だけど、着た姿が見たいというだけなら、それが一番スマートなはずだ。

 

『わかってないなー、それだと風情がないんだよ、風情が』

「なんですか、風情って」

『お祭りの夜にりんご飴とか綿飴齧って花火を見上げる……それが風情ってもんでしょうよユキさんや』

 

 それのどこに風情があるのかはわからないけど、チセの中ではそうなっているらしい。

 よくよく考えたら、顔も知らない誰かから自撮りを要求されているという時点でそもそも怪しい案件だけど。

 それでも、なんとなく。チセが言うのならそうなんだろうと、チセが頼んでくれたなら、引き受けるのも悪くないと、そう思ってしまう自分がいるのは確かなことだった。

 

「それで……結局、私は夏祭りに浴衣を着て行けばいいんですか」

『そうそう、綿飴食べててもなんでもいいけど、なんか夏っぽい自撮りくれるとわたしが助かる』

「わかりました。なぜ助かるかは訊かないでおきますけど」

『うひひ、ありがとね、ユキ!』

 

 回線の向こうで、きっとチセは子供みたいに笑っているのだろう。

 無邪気で、屈託なく。

 私はチセの顔を知らないけど、そんな確信が持てるような、笑い声が聞こえていた。

 

 夏祭りに行くのなんて、いつ以来かわからない。

 浴衣を着るのだって同じだ。

 そして、誰か私を待ってくれている人がいるわけじゃなく、一人寂しく露店を回ったり、花火を見たりするんだろうけど。

 

 それを、虚しいとは思わなかった。

 画面の向こう、回線の彼岸。

 どこに住んでいるかも、どんな顔をしているのかもわからない、だけど私の人生で誰よりも通じ合っていると確信できるような、そんな友達が待っていると考えれば、一人で夏祭りを回ることぐらい、なんということはなかった。

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