命あっての物種、なんて言葉がある。何事も死んでいては意味がない、というような意味だ。
巨万の富や尊敬されるべき名声、絶対なる力、自身に沢山の異性を侍らせたりするいわゆるハーレム————等々、例外はあるかもだが、大体は生きて得てこそ意味がある。
デザイアグランプリはその言葉が最も似合うと言っても過言ではないだろう。
叶えるにせよ、叶わないにせよ。生きていればチャンスはあるが、死んでいては二度とチャンスは来ない。
退場者には、死者には、何の権利もない。
「……………………」
なんてことを、菜月昴は帰宅した自室のベッドに座りデザイアドライバーとプロペラレイズバックルを手に持って考えていた。
昴はゲーム内でジャマトに首を絞められた。その時はヤバい、とは思っていたが、内心ではどうにかなると思っていた。
どんな願いも叶えたり、様々な人間から記憶を消したり、仮面ライダーという力を与えたりと、人外染みたことをしているのだから、多分大丈夫だと思っていた。
だが、どうにかはならない。
その後も説明は受けた。デザイアグランプリ————略してデザグラによって出てしまった一般人の犠牲者は世界がリセットされると蘇生されるのだが、ライダーの場合は蘇生はしないのだという。
ゲームはゲームでも、コンテニューは無しなのだ。
「……でも、引けねぇよな」
死ぬのは怖い。きっと痛いし苦しいだろうし、その後どうなるか分からないから怖い。
でも、引けない。人生をやり直すチャンスを恐怖に負けて、投げ出すわけにはいかないのだ。
とはいえもしものこともあるし、遺書でも書いておこうか、なんて冗談ながらに思う。
『GATHER AROUND』
すると、昴のポケットの中にあるスパイダーフォンから通知音声が鳴る。デザグラ運営からの呼び出し…の合図だ。
「…………行くか」
その目に決意を宿し、昴は立ち上がった。デザイア神殿は何処からでもアクセスは出来るが、家の中からだと母親を心配させかねないので外に行こうとする。
「昴? 何処か出かけるの?」
ちょうど昴は菜穂子と玄関の前で居合わせる。
「ああ……散歩でもしようかなーって」
嘘だ、これから命懸けの戦いに挑みに行くのだ。自分の願いという名の、エゴの為に。
「そっか。コンビニに行くならエクレア買ってきてね」
「……うん」
場合によっては買えないかもしれない。だが、エクレアの約束をする。
「……行ってくる」
昴は扉を開けて外へ出ようとした。
「昴」
菜穂子に呼ばれ、振り返った。
「いってらっしゃい」
そう言って菜穂子は微笑み手を振った。
「…………いってきます」
無理矢理だったかもしれない。
それでも昴は小さく微笑み、そう言って外に出た。
◇◇◇◇
デザイア神殿には参加者達が集っていた。
命懸けだったと分かっても、自分と同じように皆願いは叶えたいらしい。
「新たなジャマトが現れました。これより第二回戦を始めます」
案内をしたツムリの後ろにジャマーエリアと書かれたホログラムが映る。ある地区のマップに赤いサークルがあり、そこにジャマトが現れたという証拠だ。
「第二回戦、その名も『ナワバリゲーム』!」
ツムリがゲーム名を告げる。それと同時に、昴は青い光に包まれ何処かへ転送された。
『各ポイントに設置された旗をチームで足軽ジャマトから防衛してください。旗を取られた時点でチームごとプレイヤーは脱落となります』
「海賊ゲームみたいなもんか」
同じく転送された英寿が、近くにあるデザグラのロゴがプリントされてる白い旗印を見て言った。
『ちなみに、今回出現するジャマトの中にはボックスを持っている個体もいます。倒して手に入れたアイテムを有効活用してください。それではミッション開始します!』
ツムリのその一声と共に、戦国時代にいたであろう足軽の格好をしているジャマトが現れる。その手には槍を装備していた。
「ジャ〜!」「ジャ! ジャ!」
「菜月くん、笛李、協力して乗り切ろう」
「は、はい!」
「さーて、頑張っちゃおっと!」
優里と昴と笛李の3人はレイズバックルをその手に持ち、デザイアドライバーにセットする。
『『『SET!』』』
一方、別の場所にいた景和と晴人のところにもジャマトは出現していた。
「景和さん、行きましょう!」
「うん!」
『『SET!』』
更に別の場所には、英寿とナーゴの変身者である鞍馬祢音と或馬が。
「ナーゴ、レグラ、行くぞ」
「うん!」
「うーし」
『『『SET!』』』
バックルをそれぞれセットした後、各自変身ポーズを取る。ちなみに昴は左手を腰に当て、右手は天を指さすように伸ばしていた。
「「「「「「「「変身!」」」」」」」」
バックルを操作。音声が鳴る。
『ARMED ARROW!』
『ARMED PROPELLER!』
『ARMED SHIELD!』
『ARMED HAMMER!』
『NINJYA!』
『MAGNUM!』
『BEAT!』
『ARMED WATER!』
全員の身体が黒いスーツに包まれ、各自、装備が装着される。
『READY FIGHT!』
戦いの合図が鳴った。
◇◇◇◇
「はあっ!」
「でやっ!」
仮面ライダーアルデン・アームドプロペラと仮面ライダーデネク・アームドシールドはそれぞれレイズプロペラとレイズシールドを使い足軽ジャマトを殴打する。
「ジャアッ!」
「ッ! しまっ……」
視覚外からのジャマトの攻撃に気付くアルデン、しかしガードが間に合わない。
「ふっ!」
「ジャア〜!」
だが、ジャマトは緑のエネルギーの矢を喰らい吹っ飛んだ。
矢が飛んだ方を見ると、仮面ライダーアンセア・アームドアローがいた。彼がレイズアローで旗の地点から矢を撃ってくれたようだ。
「援護は任せてくれ! 君は目の前の相手に集中するんだ!」
「分かりました! ありがとうございます!」
礼を言って、ジャマトとの戦いに戻るアルデン。頼もしい仲間がいるのは嬉しいことである。
「やあっ!」
ニンジャデュアラー・ツインブレードでジャマトを切り裂くタイクーン・ニンジャフォーム。
「ふっ!」
レイズハンマーで叩きつける仮面ライダーフェリト・アームドハンマー。ジャマトの顎を下からハンマーで殴りつける。
「にゃー!」
「どりゃー!」
ビートアックスで斬りつける仮面ライダーナーゴ・ビートフォームとレイズウォーターで殴る仮面ライダーレグラ・レイズウォーター。
「はあっ!」
仮面ライダーギーツ・マグナムフォームがマグナムシューター40Xで足軽ジャマトを撃つ。
「ジャ〜!」
叫んで地面に転がり爆散するジャマト。その後、その場にマゼンタのミッションボックスが転がり落ちる。
ギーツはボックスを拾い上げ蓋を開く。そこには、金色の大型レイズバックルが。
「ほう」
箱の中に入っていたそれの名はフィーバースロットレイズバックル。
『PROPELLER STRIKE!』
「はあああああっ!」
高速で回転するプロペラによって前進し、その勢いでジャマトを纏めて片付けるアルデン。
『第一ウェーブ、終了でーす!』
ツムリのアナウンスが聞こえて、安堵したアルデンは息を吐いた。
◇◇◇◇
「ふぃ〜、疲れたぁ」
どかっと赤いソファーに座り込む昴。
一同はデザイア神殿の休憩所であるサロンに集っていた。
ルールとしてサロン内では一切の戦闘行為は禁止されており、違反者は即脱落となる。
サロン内を見渡した昴は、参加者の数が少なくなっていることに気付いた。まさか退場者が……なんてことを思う昴だったが。
「あの、ツムリさん。さっきの戦いで退場者は……」
「旗を取られたことによる脱落者がほとんどです。犠牲になった方々はいませんのでご安心を」
「そうですか……」
昴の横では、景和とツムリがそんな会話をしていた。ツムリの言葉を聞いて、安堵の顔を浮かべる景和。その会話を聞いた昴も、内心ほっとする。
「退場者の心配か? タイクーン」
「英寿」
英寿が景和に声をかける。
「そう神経質になるな。デザ神になれば、退場者を復活させることが出来るからな」
気休めのつもりか、そうでないのか分からない態度でそう言う英寿。
「確かにそうかもしれないけど……でも、助けられたかもしれないのにそれが出来なかったのは悔しいよ」
「今のお前が助けられる範囲にも限界はある。全てを救えるのは神だけだ。退場者を復活させたいなら、勝ってデザ神になるしかない。ま、今回も勝つのは俺だけどな」
「……いいや、今度は俺が勝つよ。勝って、犠牲になった人々を助ける」
「私のことも忘れないでよー? 私だって負けないんだから! ね、景和?」
「ふふ……そうだね、祢音ちゃん。一緒に頑張ろう」
「ふっ……仲が良いな。まるで彼氏彼女みたいだな?」
「かっ、彼女じゃないから!」「かっ、彼氏じゃないから!」
英寿にそう揶揄われた景和と祢音は慌てて否定する。
昴はそのやり取りよりも、有名人二人と景和が知り合いなことに軽く驚いていた。
有名人二人とは、スターである英寿は勿論、祢音もそうであった。彼女は『スーパーセレブ祢音TV』を配信している動画配信者であり、チャンネル登録者は1000万人を超えるかなりのインフルエンサーだ。昴も家で動画漁りをしてる時に見かけたことがある。
「菜月くん、先の戦いはお疲れ様。次もお互い頑張ろう」
そう言って声をかけたのは中村晴人だった。整った顔で尚且つ爽やかな笑みで言うものだから、自分が女性だったら軽く惚れてたかもしれない。
「ああ……はい、そうっすね。頑張りましょう」
「優里も笛李も、お互い頑張ろう」
「お互いネ〜。一応、フェリちゃんたちは蹴落とし合うライバルなんだけどネ」
「そう言うな笛李、ライバルだろうと気遣えるのは晴人の良いところだ」
笛李が皮肉を飛ばすが、すかさず優里は晴人をフォローする。
ぐぅ〜。
そんな会話をしてる時、誰かの腹の虫が鳴った。
「あー……すいません。戦ったせいでお腹減ったみたいっす」
音の元はどうやら昴のようだ。本人は照れたように頭を掻く。
「ここって何か食べ物とかないのかな?」
「ありますよ。今なら食べ放題フェアが開催中なので、色んな料理が食べれます」
「えっ、マジで……すか……」
昴は声がした方へと振り向いた。だがそこには、異様な雰囲気を纏う人物が居た。
服装はきっちりとした黒いスーツで固められていて異常はないが、顔部分に問題があった。
顔には、フード付きのショートケープを羽織り、更には骸骨を模したマスクを被っていたのだ。上部分は白く、下部分は青色になっている。
昴はその異様な容姿を見て、口をぽっかり開けて呆然とする。
「だ、誰…………?」
「お初にお目にかかります。私はこのデザイアグランプリのゲームマスターを務めるアワスという者です。以後、お見知りおきを」
しばらくして問いかけた昴に、アワスと名乗った男は手を後ろにやり丁寧に腰を曲げお辞儀をする。
「は、はあ……ご丁寧に、どうも」
昴は戸惑いながらも、会釈で返す。
その後、アワスは英寿達の元へ赴く。
「浮世英寿様、桜井景和様、鞍馬祢音様。この度は前ゲームマスターであるギロリがご迷惑をお掛けしました。彼に代わって、深くお詫び申し上げます」
アワスは英寿達に謝罪の言葉を告げた後、再びお辞儀をして頭を下げた。
「へぇ、これは御丁寧に。どうやら今回のゲームマスターはちゃんと筋を通してくれそうだな。不正が無いように頼むぞ」
「勿論でございます」
「それと、きつねうどんを一つ」
「じゃあ俺は、たぬきそば」
「私はサンドイッチで!」
「かしこまりました」
英寿がきつねうどんを注文した後に、景和と祢音も料理を注文する。他のメンツも、それを皮切りに料理を注文していくのであった。
その後しばらくして、料理がカートに乗せられて運び込まれた。
「ごゆっくりどうぞ」
そう言ってお辞儀をした後、アワスは扉から去った。
「マヨネーズを……っと。いただきまーす」
昴は注文したチキン南蛮丼にマヨネーズをかける。その後、箸を取って手を合わせて食事を始める。
晴人はおでん、優里は稲荷寿司、笛李はミートソースパスタ、或馬はチャーシュー麺をそれぞれ食べていた。
「……そういえば気になったんすけど、皆さんはどんな願いを書いたんですか?」
食事中、ふと気になったことを昴は晴人や景和達に聞いた。
「おおっ、気になっちまうかあ? そこまで言うならしょうがねえなあ。俺の願いは億万長者になって美人でボインなねーちゃん達と酒池肉林出来る世界だっ!」
「は……はあ……」
別にお前には聞いてねえよ。唐突に話に入ってきた或馬に向けてそう思った昴。
「あはは…………俺の願いは……デザイアグランプリの退場者達が蘇った世界。……今度こそ、絶対に叶えるんだ」
或馬に苦笑いしながら、景和が最初に己の願いを告げた。一応、先程の会話を聞いて景和の願いを昴は薄々察してはいた。しかし、最後の言葉を言った景和は穏やかな雰囲気の中に強い決意が表れていた。
「私は……本当の愛」
次に祢音が自身の願いを言った。先程までの活発そうな態度とは打って変わって神妙な面持ちでそう言った。
「……そうだね、僕の願いは……父と仲直りできた世界、かな」
「……お父さんと仲悪いんすか?」
晴人の願いを聞いて、失礼かもと思いながらも尋ねてみる昴。
「はは……実はそうなんだ。……お互いに少し、すれ違いがあってね。もしも優勝できたなら、前のように……」
何処か遠い所を見つめるような眼差しをしている晴人。
「……私の願いは、大切な人の記憶を取り戻すことだ」
「え……? その人、記憶喪失なんですか?」
優里が己の願いを言って、昴は率直な疑問をぶつける。
「ああ……。少し前に事故に遭ったんだ。その方の命に別条はなかったものの、自分の名前以外の記憶を一切忘れてしまった……」
「………………」
「私はあの方に記憶を取り戻してほしい。だから何としてでも……勝たなければならないんだ」
「優里さん……」
優里の目には決意が宿っていた。その目を見て昴も彼の強い意志を感じ取っていた。
「……ええっと、笛李さんの願いは?」
「え〜? フェリちゃんの願い、気になっちゃう〜?」
昴から問いかけられ、勿体ぶるようにそう言う笛李。
「教えてあげよっかな〜、どうしよっかな〜……。そだ、昴きゅんの願いを教えてくれたら考えたげる!」
「……俺の願い?」
笛李からの交換条件に思わずオウム返しで呟く昴。
「そそ。どんな願いなの?」
「…………俺の願いは……ええと……」
昴は答えにくそうに口籠る。だが、意を決したのか告げる。
「……人生をやり直すこと、ですかね」
「……何か重そうな感じだネ? ……理由聞いても良い感じ?」
口調は先程までと変わらないが、昴の願いに重いものを感じ取ったのか一歩引いて訪ねる笛李。
「実は俺……このデザイアグランプリに参加するまで、不登校だったんすよ。高校デビューに盛大に失敗しちまって、クラスから完全に仲間外れになって……。そんな日々に耐えかねて、寝坊したある日に学校を休んで。それでズルズルいって、完全に不登校児に転落、って訳です」
自嘲するように己の人生の失敗談を語る昴。
「それからはゲームしまくるだけで変わろうとしないクソみたいな生活続けて、親にまで迷惑かけて……何もかも嫌でした。クソみたいな生活も、変わろうともしない自分も。早くこんな自分なんか見切りつけて見捨ててくれって、何度両親に思ったことか。……そんな時に、デザイアグランプリにエントリーできる権利が与えられたんです」
あの日、ドライバーとIDコアを受け取った。昴にとってそれは正に転機であった。
「願いが叶えられるって分かった時は、胡散臭いって思ったけど、チャンスだって思った。もしかしたら、今の停滞してる人生を変えられるかもって。父さんと母さんに、もう迷惑かけずに済むかもって」
昴は最初にデザイアカードに願いを書いた時のことを回想する。そこには、こう書いてあったのだ。
『俺が菜月賢一のような人間になっている世界』
奇しくもその願いは、自分が小さい時に抱いた願いとほぼ同じであった。
昴は自分の人生を回想する。
小さい時は何でも出来ていた。それ故に、周りの大人も褒めてくれた。
やっぱり、あの人の子だな。と。
あの人とは父である賢一。昴にとって父は憧れの人間で、その人の息子だと褒められることは昴にとって嬉しいことだった。
でもいつからか、自分は何でも出来なくなり始めた。今まで勉強でも運動でも一番だったが、自分を抜かし始める者が現れ、一番になることはなくなっていった。
自分は父の子なのだ、こんなことあるはずが無い。幼さ故に、事実を認めることができなかった。
昴は今度は派手なことをやり始めるようになった。友人たちと夜の学校に忍び込む、白線を町中に引き回る、危険な野良犬を追っ払う。
そんなことをして、自分の居場所を守ろうとした。
だが派手なことを続けていくうちに、それに付き合いきれない友人が出始めた。最終的に、昴は一人になった。
今まで自分はすごい奴だと、特別な人間だと思い込んでいた。でも一人きりになって、それは全部まやかしなのだと気付かされた。
やっぱり、あの人の子だな。
それはいつしか呪いの言葉になっていた。菜月賢一の子である自分が凡庸な人間だと気づいてしまったからだ。
それからの昴は、小中学は目立たないようにして過ごした。
そして、高校に進学。進路のあれこれ故か、周りに同級生はほとんど居なかった。
そして……最初に昴が語った通り、高校生活に失敗して引きこもりになって今に至るのだ。
今になって、自分は全く空気の読めない奴だったと自覚している。テンションの高いキャラとして売り込んでいくにしても、節度を弁えるべきだ。それを分からずに昴は最初からバッドコミニュケーションをしてしまっていた。
「…………あはは、何かすいません。長ったらしい自分語りなんかしちゃって。…………別に、面白くもなんともないのに」
「そんなことないよ。その人の願いも、それを願う理由だってそれぞれだから。面白く無いなんてないよ」
「…………ありがとうございます」
景和からの励ましに礼を言う昴。その後、笛李の方を見た。
「それで、笛李さんの願いは結局何なんですか? 話したんですから教えてくださいよ」
「んー、フェリちゃんの願いはー……秘密でーす!」
「ええ!? 願い言ったら話すって……」
「考えたげるって言っただけで話すとは一言も言ってないからネ! ちゃーんと行間を読まなきゃ!」
「ぐぬぬ……」
「あはは……」
「全く笛李は……」
晴人は苦笑いし、優里は呆れた表情を浮かべていた。
「でも、これだけは言えるかな————叶えたい願いのためなら、フェリちゃんは命だって賭けられるよ」
笛李はそう言い切った。先程までのおちゃらけた態度から打って変わり、その表情からは決意が感じられた。
それだけで、笛李の願いは本人にとってそれほど価値のあるものだと分かった。
「そういえば、英寿の願いは?」
「“俺がデザイアグランプリのゲームマスターになっている世界“だ」
英寿は景和に聞かれそう答えていた。
「皆、色んな願いを持ってるんですね……」
昴は呟く。
「そうだ。そして、それを叶えられるかどうかもそいつ次第って訳だ」
声をかけてきたのは、英寿だった。
「諦めればそこで終わり。だが諦めなければ、いつか願いは叶う。そういうもんだ」
そういうものなのだろうか。諦めなければいつか叶う。言うのは簡単だが、成し遂げるのは困難なことだ。
今までの自分を変えれるチャンスではあるのだろう。それでも、何もやってこなかった自分にそう都合の良いことがあるものなのかと、そんな不安もあるにはある。
自分は願いを叶えられるのかと、勝ち抜けることができるのかと。生き残ることは、出来るのかと。
「だから、必ず勝ち抜けると信じろ」
そんな自分の思いを吹き飛ばすかのように、英寿の言葉が飛ぶ。
彼の言葉とその真剣な面持ちに皆も同じような表情となる。
「……そう、だよな。信じねえとな」
昴は自分に言い聞かせるように呟いた。
◇
第二ウェーブ、開始。
「はあああああっ!」
ジャマト達を相変わらずプロペラで殴りつけるアルデン。
デネクはシールドで殴りつけ、アンセアは旗の付近からアローで遠距離射撃による援護。
「ふっ! はっ!」
フェリトがアームドハンマーで次々と敵を殴打する。
「やあーっ!」
タイクーンがニンジャデュアラーで敵を切り裂く。
「そらよっ!」
「にゃーっ!」
レグラとナーゴはそれぞれの得物でジャマトと戦闘中。
「さて、運試しと行くか」
『REVOLVE ON』『SET FEVER』
ギーツはデザイアドライバーを回転させフィーバースロットレイズバックルを取り出しセット。
ゴールデンレバーを引いてスロットリール“レイズジャックポット“が高速回転。出てきた絵柄は————、
『MUGNUM』
『HIT! FEVER MUGNUM』
「フッ……当たりだな」
ギーツの装甲は上下ともマグナムとなり、マフラーは金色に変化。フィーバーマグナムフォームに変身した。
「さあ……ここからが、ハイライトだ」
シューターの銃口をジャマトに向け、引き金を引いた。
左から迫り来る敵に、もう一丁のマグナムシューター40Xを構え引き金を引く。二丁拳銃スタイルだ。
「はっ! はああっ!」
アルデンは、昴は、ジャマトを殴る中で思っていた。
(そうだ……俺は……勝ち抜くんだ!)
自分が勝利することを。
「ふんっ!」
回し蹴りをしながら足のアーマードカンで敵を撃ち抜くギーツ。
ギーツはレバーを引いた。
『GOLDEN FEVER VICTORY』
リールが高速回転した後に音声が。四肢のアーマードガンを全て展開し、構えるギーツ。
その後は高く飛び上がりガンで乱射する。発射された光弾は全てジャマトに命中し、あっという間に一掃した。
『2回戦、終了でーす!』
一掃したと同時に、ツムリからのアナウンスが聞こえた。
◇
「ただいま」
「お帰り、昴」
洗面所から出てきた菜穂子が昴を出迎えた。大方、洗濯を入れてたのかもしれない。
「ほい、エクレア」
帰りにコンビニで買ったエクレアが入った袋を菜穂子に渡す。
「あら、ありがと〜。でもさっき自分で買ってきちゃったのよね〜」
「じゃ、そのまま2個目と行っとこーぜ」
「うん、そうしようかしら。甘いものはいくら食べてもカロリー0だからね〜」
「いやんな訳ねーから。何処ぞのお笑い芸人のギャグかよ」
昴のツッコミをよそに機嫌よくエクレアを手にリビングに入る菜穂子。昴は階段を登り自分の部屋へ行った。
部屋に入った昴はベットにどすんと倒れ込み、横たわる。
「手に入れたの小さいやつかー……」
昴は戦いの中で新たに手にしていた小型バックルを見る。それはチェーンアレイバックル。鉄球に繋がった鎖を使って遠くの相手に攻撃したり、直接殴るといった攻撃ができる。
「不安だったけど……2回戦も突破出来てるんだ。どうにかなるよな」
先の戦いで残ったのは食事の時に居たメンバーで、他は脱落したらしい。現状、死傷者は1回目の監獄ゲームの時にしか出ていないという。
(……脱落者や退場者の人には悪いけど……俺にも叶えたい願いはあるんだ。気にしてやれる暇はない)
自分が蹴落とした……訳ではないものの、願いを道半ばで叶えられなかった人は沢山いる。
しかし、それは振り切らなければならない。彼らに負い目を持って願いを叶えられなかったら本末転倒だ。
「……これ以上、父さんと母さんに迷惑かけない為にも……俺の人生を変えるためにも……勝ちたいんだ」
自身のIDコアを手にし、決意を呟いた。
◇
「ふむ……仮初の自信で突き進むか」
白いソファーに座る女性がアルデンの活躍や菜月昴の映像を見ていた。
「それはそれでワタシとしては面白いけれど……果たして何処まで行けるかな?」
女はティーカップに淹れていた紅茶を飲む。
「君の可能性をワタシに見せてくれ、菜月昴」
女は妖しく微笑んだ。
> 何処ぞのお笑い芸人のギャグかよ
少なくともどっかの棒読みの真田幸村のことではないです
ネタバレすると昴くんは曇ります。