undead syndrome   作:ぽわぽわもっちー

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black mirror on the wall(後編)

◇ブラン(午後三時)

 

 

 ブランという名前を貰ったその日から、ブランはこゆき達と一緒に暮らすことになった。暗くて埃が舞っている部屋から出たブラン達を待っていたのは明るい廊下。その向こうからは一人の大きな女の人がやってきた。でも、何故だかこゆき達とは格好が違う。頭には黒いヴェールを被り、ある筈の髪は殆ど出ていない。黒い長袖のワンピースを着て、首からは金色にキラキラ光る十字架をネックレスのようにかけている。彼女はこゆきの頭二つ分かそれ以上に大きく、顔はシワが目立っていたが、柔らかな笑みを浮かべていた。聞こえてきた話によると、サユリ先生というらしい。驚くこゆきを置いて、彼女は話が終わると何処かへ行ってしまった。

 

 

 

 

 柱時計の針が三時を差し、重々しくも温かみのある鐘の音が響いてくる。大きな音と一緒に足音がぞろぞろとこちらへ向かってきた。近づくにつれ音は大きくなり、増えてくる。

「怖がらなくていいよ、ブラン。この園の小さい子達だから。おやつの時間だからみんな帰って来たの」

「クリュ〜?」

そう言うと、こゆきも玲子も駆けていく。二人とも他の子達よりも大きく見えたが、おやつという言葉が持つ魅力には抗えないのだろう。きっと甘くて美味しいモノが出るに違いないと、ブランは思った。『あっち』にいた時はもう、何を食べていて、何が好きだったのかは覚えていない。それでもおやつという言葉はどこか懐かしくて、自然と甘いものが思い浮かんでくる。一つ思い出したが、自分は甘いものが好き。それだけだった。

 

 

 

 

 ツヤツヤしていて木目が目立つ扉の向こうには、人数分の椅子と机が既に用意されていて、こゆきより小さな子達は既に座って思い思いにお菓子を食べていた。プラスチックの、色とりどりのコップが一人ずつに渡されていて、その中にはオレンジジュースが入っている。こゆきは一番端の、陽の光が当たりにくい席に座り、その向かいにはにっこりと笑う玲子がいた。目の前にある、つるりとした木の菓子鉢の中には、一口サイズのチョコレートや形が少し歪な、焦茶色のクッキーが入っていた。こゆきはまるで飴玉のような包み紙に入った四角いチョコレートを手に取ると、そのまま口の中に放り込んだ。玲子はクッキーを黙々と食べている。よく見ると、ソレにはチョコチップも何もついていない。二人とも甘いものが好きなのか、にこにこと嬉しそうな笑顔を浮かべていた。ブランが菓子鉢の中のチョコレートをそっと手に取ると、こゆきが食べているものとはどうも違うようだった。試しに一口噛んでみると、口の中にナッツの味が広がる。こゆきが食べているのはプリンのような形だが、白いものがところどころ見えていた。だが、違いがあってもチョコレートはチョコレート。すぐにこゆき達と同じような笑顔になり、ジュースの味も相まって天に昇ってしまいそうだ。

「美味しい?ブラン」

「クリュ‼︎」

三人だけでなく、他にも小さな子がお菓子を食べたがるせいか、いつの間にか菓子鉢の中は空になっている。後に残ったのは色とりどりの包み紙と、ごく小さな欠片だけだった。皿もコップも片付けることなく、こゆきはブランを抱えたまま立ち、そのまま部屋を出て行った。

 

 

 

 

 

◇????(午後八時)

 

 見た目は雅、中身は独特で、我々の常識では推し量れない程の食事を食べ終えた後、我々二人は大浴場へとやってきた。先端が妙に丸っこいフォントで『大浴場』と刻まれた白いプレートの案内に沿って、『男湯』と書かれた藍色の暖簾のれんの向こうに進むと脱衣所に着いた。だが、今の時間帯は私達以外誰もおらず、実質貸し切りといっても過言ではない。引き戸を開けると、それこそ大宴会でも開けそうなホールと同じくらいの広さを誇る浴場には、草臥れた様子の中年男性が一人。彼以外は誰もいない。彼自身は、墨のように黒くしっかりした髪を、私のように肩の辺りまで伸ばすということをしておらず、それよりも短く切っていた。平均的だが、肉付きがいいとも言い切れず、少したるみが見える身体。小麦色の肌に平たい顔は何処か野蛮な、未開の部族を思わせる。彼の足元にある白いプラスチックの桶には、手拭いや長方形の牛乳石鹸といったものが入っているが、恐らくシャンプーの類は入っていない。この国ではこれが『常識』であり、『普通のこと』なのだろうか。隣にいる部下の腕の中を覗き見ると、殆ど同じモノが揃っている。違いは粉のシャンプーがあるか否か。

「ソレ、全て忘れてきてしまったんだ。ここにいる間だけ貸してくれないか?」

「畏まりました」

彼は眉一つ動かさずにそう答えた。

 

 

 

 

 改めてよく見ると、シャワーは固定式のようでホースという親切なモノはないようだった。しかも座りながら洗わねばならないこともあり、いつもの三倍は苦労を強いられる。所詮は下町の銭湯に毛が生えたようなものだからか、床も壁もタイル張りなのはいいとして、ここには足りないモノが些か多い気がする。『ケロリン』と書かれた桶に目を遣ることもなく、さっと身体を洗い、大きな石枠で囲まれた、小さなプール程もある湯船に浸かると、火傷しそうなくらいのお湯が襲いかかってくる。最初こそすぐにのぼせてしまいそうだと思ったが、体が慣れるにつれ、徐々に心地よくなっていった。澄んだ湯はどうも温泉という訳ではないようで、特別な成分が含まれていることは無さそうだ。その証拠に、湯船の右端に洗い場のものよりも一回り大きな蛇口があった。コイツをひねったらどうなるのだろう。子どもじみた好奇心から、意を決してひねってみた。

「うわっ、冷たっ⁈」

蛇口から勢いよく出てきたものに触れてみると、それは冷たいただの水だった。プールのように塩素(カルキ)が入っている訳ではない。逆方向に蛇口をひねり、閉めてから温かな湯船を楽しむことにした。

 

 

 

 

 身体の髪を洗い終えた後、私はゆっくりと中に腰掛ける。程なくして部下が私の隣にやってきて、

「お湯加減はいかがですか?」

と微笑みかける。相変わらず細められた眼だ。食えない奴の笑みを見るのは快いものではない。いつも貼りついたような笑みをたたえつつ、腹の底では何を考えているのか分からないからだ。私は少し考えてから、

「まずまず、といったところかな」

とだけ答えた。勿論、穏やかな笑みを崩すことはない。もう既にあのおじさんは出てしまったのか、もはや二人だけで貸し切っているような状態だ。湯煙が鏡を曇らせていき、遂には私の顔さえぼやけていった。

 

 

 

 

 

◇柏木玲子(午後八時半)

 

 

 時計が鐘を九回鳴らし、午後九時を知らせた。私とこゆきは自分達の部屋のベッドに入る。ブランは銀の少女の腕に、まるでぬいぐるみのように抱かれ、心配そうに彼女を見つめていた。無理もない。昔から彼女はこの時間になると毎日涙を流すのだから。もっと小さい頃は大きな声で泣くこともしばしばだった。物心ついた時から彼女には親がいないし、みんなと違う見た目のせいで同い年の子や、年上の子達からはいじめられてきた。五歳の時は特に酷かったことをよく覚えている。こゆきが大事にしていたぬいぐるみを年長の子達が、目の前で壊してしまったのだ。私は泣き叫ぶこゆきをよそに、彼から鋏を取り上げ、一発頬にビンタを喰らわせた。その年のクリスマスに、こゆきの髪と同じような色のうさぎのぬいぐるみが贈られ、彼女は漸く笑顔を取り戻した。私は二歳の頃、母に連れられてこの孤児院に来たが、その時に見た彼女の泣きそうな顔が忘れられない。私がこゆきの手を引いて、庭にあるブランコや砂場で遊んだのが最初だった。二人で遊ぶ時間はとても楽しかったし、何よりこゆきを放っておくことが出来なかったのだ。

 

 

 

 

 暗い部屋の二段ベッドの下、ブランは、

「大丈夫でクリュ!こゆきにはブランがいるでーすよ」

「うん、ありがとう」

こゆきは嬉しそうに礼を述べた。明日の夕方からは近くの神社で縁日があるし、その日はいつもより多くの小遣いが貰える。もう今はいない子のお下がりとはいえ、二人分の浴衣もあるので何も問題はないだろう。今年はブランもいるから良い思い出が沢山作れる筈だ。私は明日が良い日になりますように、と祈りながら目を閉じた。もうじき金持ちのところに養子に行くこゆきを思うと、少し涙が出てくるが泣いてなどいられない。

 

 

 

 

 朝になり、私は目を覚ました。ブランはこゆきの腕をいつの間にか抜け出し、窓辺に立っている。カーテンの隙間から漏れ出す陽の光を見るなり、仕舞っていた耳を伸ばし、器用に曲げた。まるで眩しがっているようだ。どう見てもこの世の生き物にはない特徴だ。長い鼻を器用に動かせる以上に凄いのではないだろうか。

「クリュ………」

そのうち、こゆきが眠そうな目をこすりながらベッドから起き上がり、

「おはよ……、玲子ちゃん、ブラン……」

まだ充分眠い、と訴える目をこちらに向けてきた。大きなあくびも混じっているせいだろうか、瞼からは小粒の涙が流れ出ていた。いつもこんな感じで、彼女はよく寝坊をする。今日はまだ早い方だ。いつものように箪笥の中から服を引っ張り出し、着替えてから食堂へと向かう。やはり、こゆきは端の陽の当たらない席へ行く。変わらず人数分のコップと、子供向けのデザインが施された、持ちやすいフォークとスプーンが並べられていた。

 

 

 

 

◇サントス(午前八時五十五分)

 

 陽の光程厄介なモノはない。如何にヒトの皮を被って生きていようが、我々にとって夜くらい楽で心地良い時間以外は幻であって欲しいとさえ思ってしまう。小鳥の囀りや、蝉の鳴き声が耳に入っても、身を起こすことが出来ない。時計の針が九時を回ろうと、私と主が眠っている部屋に光が入ることはない筈だった。そんな私の身を誰かが揺さぶっている。この部屋には私の他に主以外はいない。薄目を開けると、顰めっ面の主が私を覗き込んでいた。

「おはよう、サントス……。今日の夕方から麻佳(あさか)神社で例祭が催されるからな、行くぞ」

「お、おはようございます……。主、随分と子供じみてますね。いつもならワインを嗜む貴方が何故……?」

「例の子供がその中に紛れ込んでいるかもしれん。その子を見つけ出す為だ」

「回りくどいというか、七面倒臭いというか……」

「構わん。その子供はあの日の孤児院に必ずいる筈だ。ついでに焼きそばや綿飴を楽しむぞ!」

「は、はあ……」

私は呆れながら相槌を打つしかなかった。

 

 

 

 

 麻佳神社から程近いところには、簡素な木の塀で囲われた空き地があった。そこの真ん中を陣取るようにして土管が置かれている。一本、二本、三本。小さな子供であれば幾らでも遊び方を思いつけてしまうであろうそれの上には、確かに子供が二、三人いた。だが、その中に件の子はいない。黒や焦茶色の子供ばかりで、銀の髪をした子は一人も見当たらないのだ。空は赤みがかっていき、神社の境内には屋台が増え始めてきた。同時に提灯が一つ二つと灯るが、主は未だに来ない。雲の隙間を縫うようにしてゆっくりと鴉が塒(ねぐら)へ向かっていき、鳴き声が耳に入ってくる。もうじき我々の時間が始まるというのに。

「遅い……」

懐中時計を見ると、既に本来なら日が沈んでいても可笑しくないような時間に差し掛かっていた。

 

 

 

 

 

 

◇柏木玲子(午後六時半)

 

 黒い漆塗りの下駄の軽やかな、だがどこか寂しそうな音が耳に入る。沢山の屋台が立ち並び、夜の闇の中に温かな光が舞っていた。その中では沢山の人々が楽しそうな笑顔を振りまきながら通り過ぎていく。屋台には綿飴やチョコバナナ、きゅうりやかき氷、くじ引きや水風船、更にはお面やカラーひよこ、金魚すくいもあった。反対側にはりんご飴や焼きそばの屋台もある。こゆきの腕の中にいるブランは目を眩しいくらいに輝かせていた。周りの人は浴衣を着ていることが殆どで、半袖の洋服を着ている人は精々が屋台のおじさんくらいだ。勿論、私とこゆきも浴衣。こゆきは薄い若草色の浴衣で、私は水色の浴衣。どちらも振袖に近く、控えめなデザインのものだ。黒塗りの下駄を履いているのはこゆきで、鼻緒の色は抹茶を薄くしたような色だった。彼女は右手にがま口の入った藤色の巾着を持ち、左手にブランを抱いている。銀の髪は、リボンやバレッタの代わりに、縮緬(ちりめん)で出来た猫の顔で飾られている。心なしか、前髪から覗く右眼も何処となく嬉しそうだ。

 

 

 

 

 

 りんご飴屋さんの前でこゆきが足を止めた。ブランは初めて見るであろうりんご飴を見て、興味津々といった風に目を輝かせている。

「見て、玲子ちゃん!りんご飴だよ」

「こゆき、りんご飴大好きだったもんね。ブランも食べる?」

「クリュ‼︎」

私達はおじさんに頼んでりんご飴を三つ作ってもらった。意外と高い買い物だったが、二人とも嬉しそうだ。その後はジュースや綿飴も買った。ブランはりんご飴をガリガリと噛みながら飛んでいる。

「ブラン、美味しい?」

「クル!」

口の周りに飴の欠片をくっつけながら、こちらにひまわりのような笑みを見せた。

 

 

 

 

 神社のはずれでジュースを飲みながら、私達は向かってくる足音に耳を向けていた。二人くらいだろうか。大きな下駄の音だ。若い男の声で、重々しい言葉が聞こえてくる。『こゆき』という名前こそ聞こえないものの、隣にいる親友を探しているのは明白だ。

「玲子ちゃん、どうしたの?」

「ううん、何でもない‼︎」

そうは言っても私の身体は震えている。このままこゆきの身に何かあったら、と思うと前に進めないのだ。その時、

「いたぞ‼︎」

若い男の声が耳の中に飛び込んできた。

「君たちは……」

そこにいたのは糸のように細い目をした男だった。

 

 

 

 

 甚平を着ているのはまだ分かる。だが、髪の色も髪型もこの世のものには見えない。肌の色もこゆき以上に白く、生きたヒトなのかどうかすら分からない。

彼はこゆきを見るなり、

「君だ。君を探している人がいるんだ」

「私を……?」

「騙されないで!こゆき、この人あなたを攫うつもりよ⁈何されるか分かんない……」

「考え過ぎだよ……」

「クリュ」

どうにかして私はこゆきを守ろうと、怪しげな男と引き離そうとした。彼の笑みはどこか不気味で、まるで舐め回すようにして親友を見ていたのだ。仮にそう見えずとも、こんな何処の馬の骨とも知れない男の許に寄越したくはない。困惑する彼と私達のところに、もう一人やってきた。

「どうしたんだ?」

彼もまた浴衣を着込み、男にしては珍しく後ろで濃い金髪を結えている。眼は宵闇のように冷たく、底が見えない。恐らくはアメリカ人なのだろうが、上手く着崩して煙管(キセル)を咥えれば絵になりそうだ。

「君は誰だ?この子の何なんだ?」

彼は私に向かって少し厳しめに尋ねる。私は、

「私は玲子!この子の、こゆきの親友です‼︎」

「ほう、君はその子の友達なのか。私はその子の父親の元上司でね。彼に頼まれて引き取りに来たんだ」

目の前の彼は優しくも、変わらず重々しい口調だ。それでも刺々しさだけは鳴りを潜めている。私は一瞬警戒を解きそうになるが、

「こゆきと私はずっと一緒に育って来たんです‼︎あなたなんかに渡してたまるもんですか‼︎」

「残念だが、彼女は私が引き取ることになったのでね。明日の夕刻、また迎えに来る」

そう言って二人は去って行った。

 

 

 

 

 その日の夜は中々眠れなかった。布団を握りしめながら啜り泣いていたのだ。こゆきもブランももう眠っている。隙間風が吹いていき、私は強く目を瞑った。余りに眠れなくて、私は夢の中にさえ逃げられない。やがて泣き疲れたからだろうか。私はいつの間にか眠ってしまった。

 

 

 

 

 約束の日がやってきた。こゆきはパフスリーブの、薄い若草色のワンピースに麦わら帽子を被っている。この日の為にと、園長先生がプレゼントしてくれたのだ。裾には茶色のリボンが縫い付けられ、白いフリルで彩られている。豪華なよそ行きだからだろうか、年少の子達は眼をキラキラと輝かせ、

「いいなー、おしゃれ!」

「新しいお家でも頑張ってね」

「こゆきちゃん、向こうの人達によろしくね」

そう言って園の人や子供達はこゆきを見送った。荷物が入っているであろうナップザックの中に、ブランが隠れていることは誰一人として疑っていない。入っているのを知っているのは私だけだ。開いた門の前には、まるで血のように鮮やかな紅で塗られた自動車が停まっている。園長先生が昨日の男と何か話をしているが、その内容は分からなかった。

「それではこゆきちゃんをよろしくお願いしますね」

「この子に不自由はさせません。我々が愛を以ってお育て致します」

彼がそう言い終わると、先生はぺこりと頭を下げた。物陰からソレを見ていた私は、

「待って‼︎」

と叫んだ。二人はきょとんとした顔でこちらを向いている。

「どうしたの?」

「私を!置いていかないで‼︎」

もう少しで喉が嗄れそうな声。だが、力の限り訴えても、男は訴えを遮るように、

「この子はもう我々の子になった。もうお前達と関わることはないだろう」

冷たい声で返してきた。

「ごめんね?玲子ちゃん、みんな、さよなら……」

こゆきは苦笑いでこちらを見ている。何故だか彼女は悲しくなさそうだ。ナップザックの中からブランが顔を出し、不安そうにきょろきょろと見回している。耳を畳んだまま、悲しそうな目でこちらを見ていた。

 

 

 

 

 車のドアが開けられ、こゆきは後ろの席に、男は前の助手席に座った。エンジンの音がして、ゆっくりとソレが動き出す。

「待って!」

私は進み始めた車を追いかけた。どんどん速くなる車に、私が追いつく筈もない。だが、それでも私は追いかける。歯を食い縛り、全速力を出しても車が止まることはない。そのうち、私は石に躓いてしまい、転んでしまった。手をついて起き上がると、もう車は去ってしまい、姿が見えなくなっていた。

「どうして……」

私は頽れ、その場で泣き叫ぶしかなかった。言葉にさえならないことを呟きながら。私の肌を冷たい風が撫でるが、何の慰めにもならない。日が沈み切るまで、私は道の真ん中で泣いていた。

 

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