シティの波止場から出航する大型クルーズ船、フォーチュン号。
船が目指すのはサテライト、最古島。
サテライト北西に位置するその島は古の決闘の痕跡が数多く残っており、それ故に本来は上陸することさえ困難な島だが、世界一の決闘疾走者たる統一皇帝を決めるにはこれ以上にふさわしい舞台はない。
その広間にはD1GPを生き延びた決闘疾走者たちが嵐の前の静けさを楽しんでいた。
セカンドステージ開始の前夜となるこの時間に敵も味方もない。
誰もがここで豪華な食事を楽しむのだ。
「…」
ヒイロがいるのはそこではなく、甲板であり、目を向けているのは決戦の地だ。
「ヒイロ、お前は食べないのか?」
扉が開く音のすぐ後で聞こえた遊星の言葉にヒイロは振り返るそぶりを見せない。
遊星はヒイロの隣へ行くと、一緒に同じ景色を見る。
「気取った食事は苦手だからな。お前はそんな余裕もないというところか」
「ああ…。あそこに、セクトもいるんだろうな」
「おそらくは、だがな…」
そこから、しばらく沈黙が続いていく。
しばしの静寂の後で口を開いたのが遊星だった。
「二人は、いなかったぞ…。やはり、昨晩の決闘疾走に影響だろう」
「だろうな…」
「未だに、信じられないな…。お前が、この世界の人間じゃないということが」
「当り前だ。そんな話をまともに信じる方がどうかしている」
決闘疾走がヒイロの勝利で終わり、敗北した龍亜と龍可のDホイールが停まる。
ストライクチェイサーを止めたヒイロはそこから降りるが、決闘疾走で受けた傷と疲労からか、片膝をつく。
「ヒイロ!」
「おい、大丈夫かよ!?」
遊星とクロウがヒイロの元へ駆け寄る中、龍亜がフラフラとDホイールを降り、ヒイロに近づく。
警戒する遊星とクロウがヒイロをかばうように立つ中、龍亜が口を開く。
「…けて、助けて…ヒイロ」
「龍亜…」
「龍可を、助けて…このままじゃ、龍可が…」
(龍亜の様子がおかしい…まさか、《マリンフォース》によって…)
「つまらない…つまらない男、あんな奴が、ヒイロなわけないでしょ」
Dホイールを降りずに口を開く龍可の体から闇の瘴気が発生し、それがヒイロに近づこうとした龍亜を襲う。
「うわあああ!!や、やめて、やめてよ…龍可!!」
「龍亜!!」
クロウを押しのけ、龍亜に近づこうとするヒイロ。
「ダメ、来ちゃ…ダメだ!!ヒイロ、まで…取り込まれる!!それじゃ、だめだ…!」
「龍亜…」
「お願い…ヒイロ、龍可を…!」
その言葉を最後に龍亜の目から光が消える。
そして、ただ突っ立っているだけの人形のような状態になってしまった。
「悪魔…ヒイロの体を奪って、私たちを傷つける…悪魔…次は、許さない…」
龍亜をはるかに上回るプレッシャーを闇の瘴気から感じ、誰も今の龍可に近づくことができない。
「行きましょう…龍亜…」
龍可がヒイロ達に背を向け、歩いていくと、龍亜もそれに追随していく。
やがて、スタジアムの陰に入るとそれに溶け込むように姿を消し、闇の瘴気のプレッシャーも最初からなかったかのように感じられなくなった。
「龍亜…龍可…」
「ヒイロ…俺はあいつらの決闘疾走を一瞬だけ見たけどよぉ、その時は…2体の決闘竜を使っていた。次は本気モードで来るかもしれねえぞ」
ヒイロが二人とどういう関係なのか、まだクロウには分からない。
だが、次も戦う機会があるというなら、どうしても伝えたいと思った。
「そうか…」
「んだよ、驚くと思ったのによぉ」
「2人とも、闇の瘴気を発していたんだ…。不思議じゃない」
「ヒイロ、お前は何者なんだ?あの二人がいっているヒイロと名前も顔もそっくりだが、別人だと言っていたが…」
世界には同じ顔を持つ人間が3人存在する、などという話があるが、顔だけでなく、名前も同じだというのは珍しいどころの話ではない。
名前を偽り、顔を変えただけというならそこまでだが、そんな単純な話とは遊星には思えなかった。
「…そうだな、話しておく。俺は…あの二人の言うヒイロ・リオニスと同一人物。最も、別の平行世界の…だがな」
「別の…」
「平行世界だとぉ?何を言って…」
「俺は、別の平行世界の人間。俺は、そこで別世界のお前たちとも仲間になっている男だ。そして、その世界の龍可は…俺の愛する人だ」
「だが…少し、納得した。お前の決闘疾走を見ると、いつも以上に力が入っていたように見えた」
遊星には経験はないが、もし別世界にやってきて、別世界の同一人物とはいえ、セクトや仲間たちが危機に陥っていたら、もしかしたら同じように必死に動いていたかもしれない。
不愛想なように見える彼の人間らしい姿にどこか親近感を感じずにはいられない。
「《異海龍マリンフォース》…。骸骨騎士が押し付けた決闘竜。だが、決闘竜であれば、闇の瘴気から龍亜と龍可を救える。毒を以て毒を制す、ということか…」
「決闘竜…」
「予想外でした…。まさか、決闘竜を従える決闘疾走者の中にあなたも入っていたとは」
背後から聞こえる男の声に驚いて振り返る遊星に対して、ヒイロは顔を見ようともしない。
「レクス・ゴドウィン…」
「大会主催者がヒイロに何の用だ?」
「ヒイロ・リオニスだけではありません。不動遊星、あなたにもです。お二人にしか、頼めないことがあります。もうお気づきかもしれませんが、このD1GPは統一皇帝を決めること以外にも、もう一つの目的が存在します。…骸骨騎士」
「骸骨騎士だと!?知っているのか!?」
「はい、骸骨騎士の野望を阻止するために、あなたたちの力が必要なのです」
(どこか…似たような話だな)
ヒイロの脳裏によみがえるのは、前の世界でゴドウィンに呼び出され、シグナーとしての戦いの運命についた言われた時の彼の様子だ。
顔を見ていないが、おそらく今のゴドウィンの態度はその時と同じ。
一番深い真実を語ることなく、わずかな偽りを含めた真実を丁寧に語る。
並行世界の同一人物というだけあって、性根は同じだということだろう。
「骸骨騎士…奴は闇の決闘疾走者と闇のカードを使い、世界を憎悪の心が支配する恐怖の世界に貶めようとしているのです」
「憎悪の心…」
ジャックとの決闘疾走をしていたセクトがむき出しにしていたのがそれで、それと《魔王龍ベエルゼ》が共鳴していたかのように感じた。
「この大会にもう一つの目的、それは闇の力に対抗できる決闘疾走者を探すことです。その一人がヒイロ・リオニス。そして、もう一人があなたです。不動遊星」
「…先に言っておくが、俺の《マリンフォース》はその骸骨騎士から手にしたカードだ。俺を…お前の言う闇の決闘疾走者だとは思わないのか?」
「昨晩の決闘疾走…見ていましたよ。あなたは闇の瘴気に飲まれず、その力を完ぺきに制御していた。そんなあなたなら、闇の力に対抗できると確信しています」
「…あいつらを差し向けた目的がそれか」
「そうです。決闘竜には世界を救う力があるのですから。最も、本来であればあなたではなく、不動遊星と決闘疾走をするはずだったのですが、ね」
「嘘をつくな、ゴドウィン!決闘竜が放つ禍々しいあの闇の瘴気、知らないはずがないだろう!?それに飲まれて、セクトは…!!」
そのせいでセクトは暴走し、今は骸骨騎士の手に落ちている。
それに、龍亜の龍可を救ってほしいという言葉。
結局、何を言おうとゴドウィンのやっていることは骸骨騎士と同じにしか遊星には思えない。
彼のその言葉を聞いたゴドウィンの口元が緩む。
「そう…それに気づいているというなら、やはりあの決闘疾走には意味があった。不動遊星、あなたはまさに私の求める決闘疾走者。古来、決闘疾走は闇の対抗し、封じ込めるための儀式でした。そして、決闘竜とはその儀式において、神官たちが操った竜の力を閉じ込めたカードなのです。その力を支配するか、支配されるか…それは、決闘者の心の強さによって決まる」
おそらく、その心の強さがあれば、セクトたちは闇の瘴気に飲み込まれることはなかっただろう。
そして、ヒイロのように決闘竜を使いこなすことができた。
「不動遊星…あなたが決闘竜を操ることができるかはわかりません。もしかしたら、あなたの仲間と同じようになるかもしれない。理不尽なお願いであることはわかっています。しかし、あなたが闇の瘴気に飲まれることになったとしても、決闘竜が骸骨騎士の手に落ちるよりははるかにマシなのです!それが、私の本音です。奴とのパワーゲームに負けないためにも…」
「逃げ道をはじめからふさいで、人の進む道を自分の都合のいいように選ばせる。思った通りだな」
「ヒイロ…」
急に振り返り、ゴドウィンを睨むヒイロ。
彼の顔を見たゴドウィンは表情を固める。
「俺たちはお前の人形じゃない。俺たちが正しいと思う道を進む。そして、その道を進むために必要なら、決闘竜でもなんでも使いこなす。そして、邪魔をする存在がいるなら排除する。たとえ、お前でもだ」
「ヒイロ…」
「いいでしょう、楽しみにしていますよ…。不動遊星。セカンドステージの舞台である最古島の第四決闘星宿、そこには主のいない決闘竜が眠っています。もし、あなたに仲間を救う意思があるというなら、従えるといいでしょう」
一瞬、ヒイロを睨んだ後で元の表情となったゴドウィンが立ち去っていく。
屋内に消えていくゴドウィンをじっと見ていたヒイロは懐から青いマフラーを出した。
「ヒイロ、俺も奴の言葉のすべてを信じたわけじゃない。だが…」
「お前が必要だと思うなら、その決闘竜はお前に任せる。俺も、俺が正しいと思ったこと、必要だと思ったことをやる」
ヒイロは自分の首に手にしているマフラーを首に巻く。
マフラーは海風で静かになびく。
「この世界の龍可と龍亜を救う。それが、俺の今やるべきことだ」
日が昇り、最古島の一角に決闘疾走者たちがそれぞれのDホイールに乗り、開始の時を待つ。
そこには前夜祭の時の余韻はなく、ただ闘争心だけが静かに燃え上がっていた。
セカンドステージ参加者
・サテライト最強決闘疾走者 不動遊星
・無手札の鬼神 鬼柳京介
・黒き旋風 クロウ・ホーガン
・トライ・ユニコーン主将 ジャン
・トライ・ユニコーンエース アンドレ
・決闘刑事 牛尾哲
・双子の決闘疾走者 龍亜&龍可
・スピードホルダー アドマイヤ・ダービー
・サイキック・プロファイラー 来宮虎堂
・炎と氷の反律師 神楽 羅門
・仮面貴公子 アドルフ・ミューラー
・無冠の黒馬 ヒイロ・リオニス
そんな彼らをセカンドステージの担当を務めるイェーガーがステージの上から見下ろす。
「決闘疾走者の皆さま、ファーストステージ突破、誠におめでとうございます。このセカンドステージでは、星札をレベル合計12となるように競っていただきます」
イェーガーが上着の襟から飛び出した小型の端末を視線を変えないまま手にし、それを操作する。
同時にヒイロ達のDホイールに最古島の地図が転送され、そこには12か所存在する決闘星宿と現在位置である島の中央に印がついていた。
そして、決闘星宿にはそれぞれ1-11、そして?の番号が振られている。
「星札は各地の決闘星宿に1枚ずつ存在し、それぞれ番号と同じレベルが刻まれています」
「んじゃあ、この?というのは何なんだよ?」
もしレベルの概念が決闘と同じなら、本来?となっている場所についてはレベル12であるはず。
それを気にするクロウの質問にイェーガーは素直に答えた。
「?はそこにたどり着ければ…という話にはなりますが、お望みの数のレベルになります。それは、手にした後でも自由に変更できますのでご安心を」
「そんなの余裕だぜ!どこだろうと、俺のブラックバードですっ飛んで手に入れてやるよ!」
「楽しみにしておりますよ。星札が余るのは構いませんが、必ずレベルの合計が12にならなければなりません。皆様、後ろをご覧ください」
イェーガーの言葉に従うように彼らが後ろを見る。
そこには巨大なビル一つと同じかと思われる巨大な門が存在した。
イェーガーのいるステージと思われた場所はその門の左右に存在する壁の上だった。
「この決闘門は星札のレベル合計がちょうど12となった時にのみ、開かれ…ファイナルステージへと向かうことができるのです。ここがセカンドステージのスタート地点でありゴール地点なのです!!」
「でも、待てよ…?このセカンドステージって…何人突破できるんだ?1+11でも、2+4+6でも12だろ…?」
「最大6人、最小0人だな」
最も、その最小が1人もしくは2人だが、トライ・ユニコーンの主将であるジャンに先に脱落したブレオの姿が浮かぶ。
ファーストステージでまさかの脱落となった彼から、自分を鍛えなおすためにしばらく武者修行をするという連絡が来て、それから姿を消している。
冷静なブレオにしては珍しい姿にアンドレと共に驚いたが、それだけあの決闘疾走が与えた衝撃が大きいのかと思えた。
そして、それをもたらしたヒイロを警戒する。
「最低でも半分はここで脱落か…」
「はっ!そんなんよりもっとシンプルな答えがあるぜ?要はここで全員をぶっ倒して全部の星札を手に入れれば、セカンドステージ進出は一人だけ!つまり、ファイナルステージを待たずに統一皇帝になれるってわけだ!」
クロウの答えもまた、このセカンドステージの道の一つ。
その答えにイェーガーは笑みをうかべる。
「このステージにおいては一度の敗北がそのまま脱落を意味しません!Dホイールが走行不能となった者、星札を合計レベル12にすることが不可能となった者が脱落となります!なお、決闘疾走の挑戦を受けた際には拒否権はなく、勝者は敗者の持つ星札を手に入れることができる。準備はよろしいですか!?決闘疾走者の皆さま」
全員のDホイールのエンジンが鳴り、静かに開始の時を待つ。
モーメントは輝きを増し、やがて島の静寂が消えていく。
「D1GPセカンドステージ、Ready GO!!」
開始のゴングと共に各々のDホイールが各地に散っていく。
遊星が第四決闘星宿へ向かっていくだろうと考えたヒイロはDホイールを自動小銃に切り替えると、懐から古いノートを出す。
(今送られた地図…これと同じだ。だということは…)
龍亜との決闘疾走からクルーズ船に乗るまでの間に、ヒイロは再びかつての龍亜達が過ごしていた家にやってきた。
そして、改めてこの世界のヒイロの部屋を夕方まで捜索する中で見つけたのがこのノートだ。
そこには決闘竜とこの島のことが書かれていた。
おそらく、この世界のヒイロが新しいカードのデザインの着想を得るためにこの島と決闘竜のことを調べていたのかもしれない。
なお、このノートのことは誰にも言っていない。
(12体の決闘竜…12に決闘星宿に眠っている…か)
12体のうちの7体はヒイロにとっては見覚えのあるドラゴンであり、《魔王龍ベエルゼ》と《冥界龍ドラゴネクロ》、《煉獄龍オーガ・ドラグーン》を含めた残り5体については、少なくともヒイロがいた世界では見覚えがない。
そして、決闘竜の名前についてはノートには書かれておらず、それぞれの決闘竜が眠る決闘星宿が描かされいた。
(《異界龍マリンフォース》は7、《エンシェント・フェアリー・ドラゴン》に似た決闘竜が5、《スターダスト・ドラゴン》に似た奴が4、《魔王龍ベエルゼ》が8、《琰魔竜レッド・デーモン》が1、《機械竜パワー・ツール》が2、《冥界龍ドラゴネクロ》が10、《ブラック・ローズ・ドラゴン》に似た奴が3、《ブラックフェザー・ドラゴン》に似た奴が?で、《煉獄龍オーガ・ドラグーン》が6か…」
ヒイロが目指しているのは9番目の決闘星宿。
この世界で見覚えがなく、なおかつまだ骸骨騎士やゴドウィンの手に落ちていないであろう決闘竜がある場所。
(決闘竜を操れるのは1体だけと決まったわけではないなら…)
もしクロウの言う通り、2体の決闘竜と同時に戦う事態になるというなら、こちらも2体の決闘竜で対抗すればいい。
(十六夜…脱落したか)
ふと、ヒイロの脳裏にアキの姿が浮かぶ。
彼女が鬼柳に敗れ、脱落したことは既に知っているものの、こうしてセカンドステージ出場者が集まる瞬間まで信じきれないという思いもあった。
自分が知るアキとは別人物だと認識はしているが、それでも彼女は遊星と互角に戦えるだけの実力を持つ決闘疾走者。
きっと、遊星やジャックと決闘疾走するのを楽しみにしていただろう。
そのことを考える中、ストライクチェイサーが第9星宿に到達する。
まだそこには他の出場者は到着しておらず、星札も置いたままだ。
「星札…そして、決闘竜のカードがここに…」
「やはり、ここに来たな。決闘竜を手に入れるために」
柱の影からDホイールの起動音が聞こえるとともに、そこからヒイロにとっては見知ったDホイールと決闘疾走者が現れる。
「へえ、驚かないか。サプライズになると思ったがな」
「ここにいるということは、ゴドウィンの差し金か?ブレオ」