俺ガイル×シャニマス   作:rinta

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どうしたって比企谷八幡の人生は唐突にまちがえる。

光陰矢の如し、とは昔の偉い人が言った言葉だろうか。いやそうに違いない。

なぜなら今の化学文明が発展した時代において光の速さが1秒で地球7周半であることは周知の事実であり、現代の言葉で表すとするなら決して光の速さの表現に矢を使うことなどしないからだ。今の時代でもしこの言葉を倣うとするなら電磁砲とか大陸間弾道ミサイルとかサテライトキャノンとかそこらへんを使うところだろう。

 

そんなこんなで時代によって光陰の速さ、つまりは時間の流れる速さというのは違うことは、こんな言葉ひとつとっても分かりやすい。

考えてみればそうだろう。昔の人は娯楽という娯楽が手元にほとんど存在せず、日がな一日を労働に費やしていたのだ。毎日が同じ行動の繰り返しで続けば、時間の流れる速さもゆっくりに感じるに違いない。

しかし現代社会においてはどうだろう。

人々は娯楽に飢えるどころか世の中には掃いて捨てるほどの娯楽が塗れており、それらは吟味されることもなく簡単に取捨選択されていく。そんな現代においてなら時間なんてものは競馬の民のカードローンの如く極限に使い潰れていき、その速さたるや矢どころか拳銃ライフルなどもとっくに追い抜いてレーザー兵器と化していてもおかしくない。

 

そしてそんな現代に生きる俺、比企谷八幡は、今現在モロにその悲しくも追い抜いてゆく時間の速さに辟易としていたのだった。

 

「はぁ……やっぱり労働ってクソだわ……」

 

ここは都内某所の公園。そんな場所でベンチに座りながらひとり、俺はマッ缶を片手に悪態をこぼす。

もう片方の手にはディスプレイがまだ点いているスマホ。そしてそのスマホには俺が先ほどついた悪態の根源となる文面が記載されており、その文面が見間違いではないかどうか、俺はもう一度祈りながらスマホと向き合って確認してみた。しかし残念ながら祈ってみたところで、すでに祈られていた事実、いや現実が俺を襲うだけだった。

 

『このたびは、数ある企業の中から弊社へご応募頂き誠にありがとうございました。

社内にて慎重に検討した結果、今回は貴意に沿いかねる結果となりました。

あしからずご了承くださいますようお願いいたします。

比企谷様の今後のご健勝ならびにご活躍を心からお祈り申し上げます。』

 

いわゆるお祈りメールと呼ばれる伝説の不採用通知の文面、それが俺のメールアドレスに送られていた。

そのメールを見て、俺はもう一度悲嘆に暮れたため息を吐く。

比企谷八幡22歳大学生、絶賛就活中の現実がここにあった。

 

***

 

「あぁ、またダメだった。まぁ元々俺は専業主婦希望の身なわけだし、そんな焦る必要もないっていうか。むしろありがたい通知というか、むしろありがた迷惑なお祈りだわっていうか……いや強がってるわけじゃないんだが? なんなら普段から労働はクソって言ってるのにこうやって労働するために奔走している自分に疑念すら沸いてるまであるが? 大体お前みたいに在学中から親の会社で働いてる方がおかしいっていうか、なんで人生最後の社会放逐までの執行猶予期間である大学生活を投げ捨てるのか意味がわからん……いや高校の時のあれは違うだろ。あれは一色に押し付けられて仕方なくだし……他の女の名前を出すな? いやそっちが先に話題を……って切れてるし。はぁ」

 

耳から離したスマホの画面を見つつ、また一つため息を吐く。

俺の名は比企谷八幡。高校生探偵どころか高校生でもない。大学生だ。

高校生の時によく分からない部活に入っていたこと以外はいたって普通のぼっちな学生である。

 

はたしてぼっちな学生が普通なのかと疑問に思うものもいるかもしれないが、グローバルでユニバーサルな現代においては対人関係に難があることは別に何もおかしなことじゃなくなっている。

某有名動画サイトを観れば配信者たちがこぞって学生時代は引きこもりだったり友達がいなかったりぼっち飯をしていたことをひけらかし、それに触発された視聴者たちは同じようにぼっちを拗らせてることが明らかになっている。

そうして今までは陰のものゆえに明るみに出てこなかったぼっちたちの総数が公になったことで、ぼっちというものはおかしなものではないという事実が生まれ、それどころか今ではぼっちであることそれそのものがステータスになっていることすらある。

時代の変化とは恐ろしい…。というかぼっちがステータスってなんだよ、完全にデバフだろ。なんでバフ効果扱いされてるのん?

 

まぁ話は戻して、そんな俺だが、現在は大学4回生にして絶賛就活中の身である。状況については、まぁご覧の有り様であり見るも無惨にお祈りされまくってる身だ。もはや何度目か分からないお祈りメールにもはや自分が神か仏にでもなったのではないかと錯覚するほどである。八幡だけにな!

そうしてお祈りメールの確認を果たした俺は、憂鬱になりながらもその報告をある人物にするために電話を行なった。そしてそのある人物……俺のパートナーである雪ノ下雪乃はといえば、俺からの報告に開口一番電話口からも聞こえるぐらいのため息を吐いて俺に罵詈と雑言を浴びせたのだった。

その語彙力たるや、やはり奴の頭にはフリー多言語インターネット百科事典でも存在するんじゃなかろうかレベルであり、しかしその情報量に若干の偏りが見受けられることに異議を感じその是正を促すためにも寄付を募りたいところだ。そして俺はその寄付により夢の不労所得を得るという流れになる。うん、完璧だな。

 

そんな意味もない妄想に耽って現実逃避をしつつ、妄想が途切れたところで俺はマッ缶を煽った。

しかし缶に口をつけたところでふと缶の軽さに気付き、恐る恐る中を覗けば中身がすでに空であることに気づく。

ここは都内。俺の故郷千葉と違いどこかしこにもマッ缶が売っているわけではなく、手に持ったこれは自宅から持ってきた最後の一本だ。つまり俺の心の癒しはすでになくなってしまったことを意味しており、もう一度ため息を吐きながら、仕方なく空を見上げることにした。

 

見上げた空は雲ひとつない快晴だった。

不純物を感じさせないその青空は、見れば心を爽やかにしてくれるような力もあれば、あまりにも真っ青が過ぎて見ていると余計なことを感じさせてしまう力もあった。

ともすれば今の俺なんかがそんな風景を見てしまうと、具体的な展望のない自身の将来だったり、今後雪ノ下の尻にひかれていく未来だったり、それに伴って現れるその姉のんだったり母のんだったりの到来が頭をことごとく過っていき、どんどんと嫌な想像が膨らんでいった。

そんな想像に嫌気がさして気分を変えようとまたマッ缶に口を付けようとするも、すでに中身がないことを思い出し、言葉もなく項垂れた。

 

そうして俺は少し考えを巡らせると、胸ポケットに手をやり、周りを見渡して誰もいないことを確認する。

今は昼の時間帯。ここは高台に位置した公園で、この時間帯はあまり人がいないことは知っている。

それを思い出しながら、俺は意を決して胸ポケットからタバコの箱を取り出した。喫煙所でないところでの喫煙はマナー違反であるが、この心持ちのまま高台を降りて帰るには、あまりにも先ほどの通知から受けた精神へのダメージが大き過ぎた。

ただ一口だけ。それだけ吸えればいい、と箱から1本取り出して、ライターで火をつけようとした時。突然後ろから声がかかった。

 

「おい。ここは公共の場だぞ。タバコは慎むべきではないのか」

 

「うお!?」

 

背後から急にかかった、無駄にダンディでレアカードで拳銃に対抗しそうな威厳のある声に驚き、俺は思わず声を出して振り返った。

そしてそこには、無精髭をそこそこに生やした、声に似合う渋い顔立ちの壮年男性が立っていた。

壮年男性は俺の方を睨んで、手にあるタバコを指差す。完全にタバコを吸おうとしていたところを見られてしまっていたようで、それを注意してくれている。これは完全に俺が悪いとタバコを直しながら俺は苦笑いを浮かべながら男性へと謝った。

 

「す、すいません。誰もいなかったんで、思わず気が緩んで」

 

「気が緩むも何もない。人がいようといなかろうと、ルールを守れない人間を雇う会社はないぞ」

 

「はぁごめんなさい……って、え?」

 

いきなり現れた壮年男性に怒られる事実に羞恥を感じながら頭を下げるも、俺はふと彼が言った言葉に疑問を感じて、顔を上げる。そうすると男性は俺の疑問を感じ取ったようにため息を吐いた。

 

「シワの少ないリクルートスーツに、買ったばかりのビジネスバッグ。革靴は特にすり減った様子もないところを見れば、どこかの会社の新入社員か、就活に励む苦学生しかあり得ない。そしてこの時期、新入社員が1人でこのような場所にいるはずもなく、先ほどからの君の様子を見るに、就活に疲れて一時の癒しを求めて公園に寄った就活生と判断したが……間違っていたか?」

 

男性はそう言って、こちらに視線を送る。間違っているも何も、全てが全てその通りであるために何も言い返すことができず、俺はへりくだるように腰を下げながら男性の言葉を肯定した。

 

「い、いえ。何も……いや逆にその通り過ぎて怖いぐらいなんですけど」

 

「職業柄、人を観察しなければならないんだ。相手が信用に足るかどうか、確かめるためにな」

 

「は、はぁ。興信所の方か何かで?」

 

俺は冗談のつもりで言葉にするも、すぐにあ、と声を上げる。このパターンは以前にも犯してしまったやつだ。

あの時は確か高3になってすぐに雪ノ下の母親と姉に夕食に呼ばれた時、こちらを試すような行動に辟易して言ってしまったはず。

あの時は雪ノ下と小町のその後のフォローによりことなきを得たが、今は名も知らない親切で注意してくれた方に向けて完全な失言である。

これはまずいとすぐに訂正を挟もうと男性の顔を見ると、しかし向こうは機嫌を損ねたような雰囲気を出さず、逆に驚いたような顔をしながら、堪え切れなかったように失笑までし始める。

 

「興信所……ッフ。そこは警察や探偵と言うべきじゃないか?」

 

「す、すみません…身内に似たようなことをする人間……というか家系がありまして、ついうっかり……」

 

「構わん。しかし……そうだな。よければ近くの喫煙所を案内しよう。ついてこい」

 

「んえ……」

 

しまった。突然のお誘いについ変な声を出してしまった。案の定男性の方も先ほどと打って変わってすっげえ不機嫌そうな顔をしてしまっている。ダンディな雰囲気も相まって超怖い。勤務時間内で呪いとか祓ってそう。

 

「不服か? それとも君はこのまま公共の福祉に反してここで喫煙にふけ込もうとでも?」

 

「いえいえいえ滅相もないです。はいついて行かせていただきます。どこへなりとも」

 

「調子だけはいいな……」

 

怖。めっちゃ怖い。ドが付くほどのひっくい声で超脅されたんだけど。はるか宇宙から地球人類を絶滅させに来た侵略宇宙人も真っ青なんですけども。

そんな感じでベンチから無理やり立ち上がらされた俺は渋々と男性に着いていくと、ふと男性は思い出したように言葉をかけてくれたのだった。

 

「そういえば名前をまだ言ってなかったか。私の名は天井。天井努だ。後ほどちゃんとした名刺も渡そう。こうやって会ったのも何かの縁とも言えよう。そうだな、あまり言葉にしたくはないが、ティンときた、とでも言うべきだろうか」

 

こうして、俺と283プロのファーストコンタクトは始まった。




つづけ。

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