忘れもしませぬ、あれは拙僧が「ゆーちゅーばー」なる職業をやっていた頃…… 作:匿名
とある日。
苺プロが所有するビルの一室で、二人の『自称アイドル』が話し合っていた。
星野ルビーと有馬かなだ。
苺プロの方は原作よりも大きいようだが、二人のスタート地点は自称アイドルから変わっていないようだった。どうやら社会はそんなに甘く無いようである。世知辛い。
「お兄ちゃんは収録で忙しい。かたや私は……先輩は仕事無いの慣れてるでしょ? 普段何して過ごしてたの?」
「顎にジャブ入れて脳揺らすぞコラ、暇なら勉強してなさいよ。アイドルなんて売れても食えない上に旬の短い仕事なんだから、いい大学入るために何かした方が人生にとってプラスよ」
「身も蓋もない……」
有馬が本を片手にルビーに返事を返す。
ちなみに読んでいる本の表紙には、「よくわかるエリマキトカゲ」と書いてあった。
多分それ読んでても良い大学には入れないぞ。
「なんか今できることは無いのかな?」
「新人アイドルの仕事ってライブハウスで歌って踊って、たまにメディアの仕事受けたりとかでしょ。持ち曲もなければユニット名もまだ未定、今の私らに何が出来るってのよ」
「ユニット名がまだなのは先輩がゴネるからじゃん!」
そう言って、ルビーはホワイトボードを叩く。
ホワイトボードには「ユニット名決める!」と書いてあった。
「だって名前付けたらもうマジでしょ……私まだアイドル名乗る踏ん切りついてないっていうか……」
「良いじゃん『アイドル有馬かな』って」
「恥ずかしい! 実績のない自称アイドルとか親になんて説明したら良いの!?」
有馬がそう言った時だった。
一人の妙齢の女性が入ってくる。ミヤコさんだ。*1
「実績があれば踏ん切りがつくのかしら? じゃあ実績を作りましょう」
そう言いながら、ミヤコさんはカメラを用意する。
「なんですこのちゃちいカメラ……」
「ちゃちくても性能は十分よ? 新人アイドルの下積みと言えば、一昔前はビラ配りとかアイドルの合同ライブに出演したりとか、そういうのが基本だったけど時代は変わってるのよ。今、アイドルカルチャーの中心はネット! 草の根するにもここが一番コスパが良い。あなた達はまずネットで名前を売るところから始めましょう」
「ユーチューバーって事!?」
「そう。ユーチューブで固定客を作ってライブに人を呼べば効率がいいでしょ?」
「ミヤコさん賢い!」
「はー……社長……ネットを甘く見過ぎじゃ無いですか? こんな顔だけの女ネットに晒しても登録者いいとこ数千とかですよ」
有馬はため息をつくと、ルビーを指し示しながらそう言う。
「なんだと?」
「私のファン入れても1万いくかどうか……リアルイベントに動員できるのそのうちの1%とかなんですから、結構厳しいと思いますけど」
「素人が仕掛けたらそうでしょうけど、これでも苺プロはティックトッカーやユーチューバーを多く抱えるネットにも強い事務所よ。ノウハウはあるわ」
「ちょうどさっき協力してくれる人捕まえた所だから、「彼」に色々教わると良いわ。じゃあとはお願い」
バン!!
その時、ドアが荒々しく開け放たれる。
「拙僧にお任せあれ!!」
「「チェンジで」」
「ンンンンンン!! 」
*
「まま、二人ともそうつれない事を言いなさるな。拙僧、こう見えても苺プロ1番の稼ぎ頭でありますれば」
「しれっと嘘つかないで。1番の稼ぎ頭はママでしょ。うちに被害請求きてるの、私知ってるんだからね」
「おや、バレてしまいましたか」
ルビー殿ならば誤魔化されてくれると思いましたが……無理だったようで。
あ、ちなみに被害額は拙僧の稼ぎで相殺しております故、苺プロに迷惑はかけておりませぬぞ。
ご安心召されよ。
「えぇ……コイツ蘆屋道満でしょ、炎上系ユーチューバーの。こんな奴とコラボして大丈夫なの?」
「おや、有馬殿は拙僧のことをお忘れのご様子」
「?」
どうやら有馬殿は、本当に覚えていないご様子。
でしたら拙僧が思い出させて差し上げましょう。
「ふむ……あれは十数年前のことでしたかなぁ……とある映画撮影の現場で、それはもう
「!」
「しかもその後、無名の子役に負けたの何だのと大騒ぎ。周りのスタッフも、大変困っておりましたなぁ」
「あばばばばばば」
「しかも話題性も皆無の『木端俳優』に負けたようで……なんと申しましたかなぁ? うーん……誰でしょうなぁ?」
「ぶくぶくぶくぶくぶくぶく」
「今では、すっかり立場も知名度も逆転してまいましたなぁ? 10秒で泣ける『元』天才子役さん?」
「舐めたクチ利いてスンマセンでした」
物分かりが良くてよろしい。
「まあこのように
「ウッソだぁ。だって道満の動画、いっつも炎上してるじゃん」
「おや、ルビー殿は拙僧の動画を見ないと仰っていたような……」
「はっ! いやそれは……ネットニュースで……話題になってるのを……見た? とか?」
「……まあそういう事にしておきましょう」
なぜに疑問形なのかを、突っ込んでみても良いのですが……まあ今日の所はこの辺で勘弁しておいて差し上げましょう。
「話を戻します。なぜ拙僧とコラボしても、問題ないのかでしたな。ここはお二人の後学のために、あえて聞きましょう。何故だと思います?」
「うーん……今回は健全な動画を撮るから?」
「道満を攻撃する動画を撮るから!」
「全然違いますな」
あとルビー殿は結構ひどい事を仰りますな。
「正解は……」
「正解は?」
「正解は──
炎上するのはいつも拙僧だけだからで御座います!!」
なんならコラボ先は同情されて、好感度が上がりますぞ。
*
「──というわけでやって参りました! なんか怪しげな廃病院!」
あれから数刻ほどが経ち、拙僧たちは都内某所のとある廃病院にやってきておりました。
ちなみに今は、冒頭のオープニングを撮っている所ですぞ。
「ちなみに今回はしがらみ案件──まあ要するにコラボですな! どうやら拙僧が所属する苺プロが、新しくアイドルユニットを作るとのこと。まあ知名度アップの一環として、拙僧のチャンネルで使えという事ですな……よって今回の企画は!」
ですぞ。
ま、
この程度で勘弁しておいて差し上げましょう。
「ではお二人とも、自己紹介をどうぞ!」
「苺プロ所属! 星野ルビー! 自称アイドルです!!」
「そちらの方も!」
「有馬かな! 自称アイドルですこんにちは!!」
では参りますぞ!!
「拙僧とコラボしても、大丈夫な事がわかって頂けたようで何より……ところで今回の企画はどう致しましょう? アイドル向けという事であれば、寝起きドッキリなどが定番ですが」
「ええっ! 道満がまともな事言ってる!!」
なかなか辛辣ですな。
「拙僧でも気を使う事ぐらいありますぞ」
「ほんとにぃ?」
「……………ありますぞ」
「ちょっと自信ない感じじゃん」
ルビー殿もすっかり強かになられて……拙僧は嬉しいですぞ。
芸能界でやっていくには、そういうものも必要ですからな。
「ちょっとはまともな提案するのね……まあ良いんじゃない」
「……ん? でも寝起きドッキリやるって
「……あんたマジで言ってる? 本当にアイドルの寝起き撮りに行って、男と寝てたらどうするの?」
「ああいったものは、前日に通達が行っていますぞ」
まあ拙僧ならそのまま使いますが。
「そうなの!? ……でも私達の初めての仕事だよ──」
おや、これは。
「嘘は」
ルビー殿も成長しましたな。拙僧、感動。
「いやだ」
ンンンンン!! この道満にお任せあれ!!
「それで心霊スポット連れて来てどうすんのよ。こんなのどうせ何も起こりゃしないのに……そのまま使ったらマジでクソつまんない動画になるわよ」
おやおや有馬殿は、拙僧の行動に疑問を持っているご様子。
まあそうですな。
普通は何も起こりません。テレビでよくやっている心霊番組も、大体がやらせでしょう。
しかも今回は、ルビー殿が
やらせも嫌、つまらない動画もダメ……困りますなぁ。
普通に心霊現象が起きる。
なんてことでも起きないと、大変な事になってしまいますなぁ!!
というわけで。
「ご安心召されよ。そうなると思ってこの道満、あらかじめ
「え? ちょっと待って。足したって………………何を?」
オオオオォォォ……
おや、そろそろですな。
「なななな何いまの音!!」
「なんか変な声した!」
「いやー良かった! 良かった! どうやら拙僧たちは随分
「嘘つけぇ!! 絶対やばいことしたでしょ!!」
許さない……
「あ! また聞こえた! すごーい! こういうのって実際あるんだ!!」
「おやおや、ルビー殿は随分と肝が据わっておりますなぁ」
「だって道満と心霊系の遊びやったら、大体やばい事になるじゃん。もう慣れたよ」
「あんた騙されちゃダメよ! 絶対またコイツがなんかしたに決まってるわ!!」
「先輩はビビリだなぁ……」
「普通ビビるわよ!!」
まあここらが潮時ですかな。
急急如律令!!
そして現在。
「し、死ぬかと思った……」
「あんなんで死なないよー」
「あんなんでは死にませぬぞ」
「あんたらは黙ってなさい!!」
拙僧たちは、苺プロの事務所に戻って来ておりました。
あの後も良い画を撮るため、廃病院を探索した拙僧たち。
次々と襲いくる悪霊たち。
祓う拙僧。
祓われる悪霊。
笑うルビー殿。
泡をふく有馬殿。
なかなかに愉快で御座いましたな。
「いやはやお見事。有馬殿もなんだかんだ言って、最後までついて来ましたからな。根性がありますな」
「うっさいわね……あんな所に置いていかれる方がやばいでしょ……」
「それもそうですな! ……ま、拙僧は気に入りましたぞ。アイドル活動の方も頑張ってくだされ」
最初の知名度稼ぎは拙僧にお任せあれ!!
あ。
「そういえば、大事な事を聞き忘れておりました。お二方のユニット名はどう致しましょう?」
「あー……もうルビーが好きに決めていいわよ」
「いいの? えっと……じゃあ私達の名前は……『B小町』!」
「えっ、それ大丈夫なの?」
おまけ
ぴえヨンとB小町のコラボ動画に出演する道満。
「ンンンンン!! これは地団駄では御座りませぬぞ!!」
あにまんにハマりました。誰かタツキ原作の推しの子書いて。