TS少女は平安時代に失恋していた   作:トートロジー

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プロローグ

「なぁ羂索、二人で大陸に行かないか?」

 

 満月の下で、少女の姿をしたそれは誘いの言葉を口にする。

 その目は羂索の方を向いておらず、月を見上げていた。

 

「……何故私を誘うのかな?君程の力があれば一人でだって海を渡れると思ってたけど」

 

 額に大きな縫い目を持つ男は、訝しげな視線を少女に向ける。

 今まで大陸には興味の欠片も見せずに自由気ままに生きてきて少女が、どうして突然そんな事を言い出したのか気になったのだ。

 それに加えて『また何か突飛で面倒なことに巻き込むつもりなのか』と疑ってもいる。

 

「うーんそうだな、一人じゃ寂しいって理由じゃダメか?」

 

 ヘラリと笑う少女の顔が、いつもと比べて暗く見えた。

 それは同時に誤魔化すような少女の言葉が真実であることを示していた。

 今宵初めて羂索は驚きのは感情を覚えた、もうかれこれ100年近くの付き合いになるが少女がこのような顔をしたのは初めてだったからだ。

 常にヘラヘラしている少女が、己の弱さを見せたのは彼の前では初めてであった。

 

「寂しい、か。君の口からそんな言葉が出てくるとはね。宿儺が聞いたら大笑いするんじゃない?」

 

「そうか?アイツはむしろ『貴様も所詮人の子か、つまらんな』とか言っちゃうだろ」

 

 だからアイツ友達少ないんだよ、と宿儺に対する暴言を吐きながら少女は菓子を頬張る。

 古今東西探してみても宿儺にそんなこと言えるのは彼女くらいのものだろうと、羂索は感心していた。

 しかも彼女は面と向かって言えてしまうと言うのだから、その精神性は異常極まりないと言っていいだろう。

 

「ちなみに味はどうだい?朝廷で出された菓子なんだけど」

 

「どうりで美味いと思ったよ。あそこメシは微妙なのに菓子だけは旨いんだよな」

 

「砂糖を使ってるからね、貴重な輸入品の……まさか君が大陸に行くのは砂糖目当てかい?」

 

 砂糖は大陸との貿易によって運ばれてくる、しかし流通量は少なく貴重品。

 初めは彼女も砂糖を自作しようとしていたようだが、飽きっぽいのか早々に諦めていた。

 そんな砂糖も大陸にあれば多くある、確かに向こうでも貴重品ではあるが絶対数は間違いなく向こうの方が上。

 術師として実力がある彼女ならば、問題なく砂糖が存分に味わえる大陸での地位につけることだろう。

 

「それだけじゃねぇ。建築、政治、科学、メシ、この国にいたんじゃ到底味わえないモンがあっちにはゴロゴロしてる。こんな場所で停滞してる暇はねぇ、逆に行かない理由があれば教えてくれよ」

 

 停滞を嫌い発展を望む彼女の精神性を、羂索はとても気に入っていた。

 どこか仲間意識を覚えていたのかもしれない。

 

「なら何故今になってそんなことを?いつでも自由が君の信条だろうに」

 

 機会はあった筈だ。

 彼女の術式を使えば大陸までは1日もかからない、権力にだって彼女は縛れない。

 家族もなく、家もない、そんな彼女にここに留まる理由なんて何一つない筈なのに。

 

「みんなが居たからだよ。亨子も万も裏梅も宿儺もみんないたから、俺は寂しくなかった。そして何より、アンタがいた」

 

「……私が?」

 

「あぁ。アンタと戦うのは楽しかったし、政治とか呪術に対して議論を重ねるのも面白かった」

 

「それはそれは」

 

 お茶を飲みながら羂索は彼女の言葉を受け流していた。

 彼女が人を褒めるのはいつものことだ。

 昔は烏鷺亨子相手に『アンタの術式最高じゃん!それがあればひらりマント再現できるんだろ!』と褒めちぎっていた。

 ひらりマントが何かはわからないが、賞賛に慣れていない烏鷺が顔を赤らめていたのは覚えている。

 

「だからきっと、俺はアンタに心を開いてる。アンタになら、俺は秘密を洗いざらい話していいとも考えてしまっている」

 

「へぇ……あれほど隠し続けた秘密を?」

 

 彼女にはただならぬ大きな秘密がある、その正体を羂索は探っている。

 彼女が隠している事がもし公表されれば、呪術界はひっくり返ることになると彼女は語る。

 宿儺に殺されかけても口を割らず、天皇にすら明かさなかった秘密、それを開示すると言うのだ。

 これが狂言なのか本音なのか、長年彼女を見てきた羂索にもそれは分からなかった。

 

「あぁ、それ程俺はアンタが好きだ。恋愛的な意味じゃねぇけど」

 

「最優の術師にそう言われるとは至極光栄」

 

「茶化すな羂索。まぁでも、この感情は一方通行だ。アンタにとって俺は……まぁそこらの有象無象よりか上だと思うけど、言ってしまえばそれまで。特別にはなれない」

 

「よく分かってるじゃないか、私の事」

 

 本音だ、これは嘘偽りのない本音だと、羂索は感じ取っていた。

 酒の席でもないのによくもまぁそんな小っ恥ずかしい事をいうものだ、もしこの言葉が烏鷺に向けられていたものだったのならば、きっと烏鷺は泣いて喜ぶだろうに、そう思っている羂索。

 そして少女からの友愛は、羂索にとって拒絶すべきものではなかった。

 だが、受け入れられる物でも無かった。

 

「で、だ。それを踏まえて俺はもう一度十年間の大陸への旅行にアンタを誘う」

 

 今度は羂索の目を見て、彼女ははっきりと言った。

 

「……脈絡がわからないが一応聞いておこう。私の利点は?」

 

「もし10年の間にアンタを俺に惚れさせる……つまりは相棒と認めさせる事が出来れば俺の勝ち。出来なかったら俺の負け。そしたら俺は話すよ、呪術界をひっくり返し得る秘密を」

 

 その目には覚悟の火が灯っていた。

 暫し、羂索は考える。

 はっきり言ってこれは美味しい話だ。

 たかだか10年で知りたかった秘密を知れる、加えて世界の事も知れるのだ。

 そして私が彼女に絆される日など、未来永劫訪れない。

 乗らない理由がないのだ。

 

「いいよ、私も同行しよう」

 

 きっとこの日の言葉が、全ての呪いの元凶だった。

 1000年後、羂索は語る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「やぁやぁやぁ五条悟、少しばかり話をしようじゃないか」

 

 1000年の時を超え、失恋ガールの再起譚が幕を開ける。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




亨子ちゃんはオリ主が好きらしい
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