TS少女は平安時代に失恋していた   作:トートロジー

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恋バナ

「なんだ……この呪力量は⁉︎」

 

 夏油傑がそれに気づいたのは教科書を整理している時だった。

 紙の擦れる音しか響かない静寂を切り裂く莫大な呪力と轟音、反射的に彼は教室の外へ飛び出した。

 求めるのは今何が起こっているのかという情報、そして頭の中の疑問の解消。

 

「警報音は鳴っていない、なら誰が……」

 

 高専未登録の呪力が高専結界の中で観測された時、とてつもない大きさのアラートが鳴り響く。

 既知ではない呪力、一級術師を遥かに超えた呪力、高専に登録してある呪力、ならば導きされる現実と答えは一つ。

 

「特級術師、九十九由基か!」

 

 それは的外れな回答、されど現状の情報だけではそこに辿り着くのはなんとも合理的で理屈的。

 自分の知らない未知の特級呪詛師、一瞬頭に浮かんだ最優の術師、そして特級術師九十九由基。

 いくつかの可能性を脳裏に映し出し、最も可能性が高い選択肢をとりあえずの仮定に当てはめる。

 それと並行しながら彼の足は五条の場所へと向かっていた、大きな教室を包み込む結界を目視しながら。

 

「領域展開?悟に戦いを挑んだのか?……九十九由基はここまで破天荒なのか?それとも───」

 

 一抹の疑問を抱きつつも彼が辿り着く頃にはその戦いは終了していた、窓は割れ机は破壊され校舎はズタボロの状態だ。

 領域が霧散し、中から何かを持った五条悟が現れる。

 

「さっすが無下限プラス六眼、()()()()領域じゃ歯が立たないか」

 

「なんで生首だけで喋れんだよ。物理法則知ってるか?」

 

 彼の手には生首が握られていた、しかも喋る、喋るのだ。

 B級ホラーさながらの絵面と突飛な状況に頭を痛めながらも、夏油の脳みそは生首の正体を突き止めていた。

 

「その髪色、領域、呪力量、まさか」

 

 夏油傑は一般家庭出身である。

 一般出の術師は術師の家系の人間より一般常識が身についていることが多く、価値観も非術師の普通寄りだ。

 そのため彼にとって最優の術師フィルは天元と同じ、強いて言えば現代の術師に恩恵を与えてない分それ以上に現実味のない存在だった。

 呪術がこの世にあると知れれど、千年生き続ける存在などそう簡単には呑み込めない。

 「成る程、そういったのもいるのか」程度の認識だ。

 いや、認識だったというべきか。

 御伽噺は真実へ、噂は現実へ。

 今、彼女は呪術高専に現れた。

 

「ん俺のこと知ってんの?いやぁこれだけ時間が経てば忘れられてるモンだと思ってたが、意外と知名度あるんだな俺。それとも君が多くの知識を持つ優秀な生徒だからか?夏油傑」

 

「オッエー、生首が喋んなよ気色悪い」

 

「お前の目に比べたら幾分かマシだろ、澄み通り過ぎて逆にキモいんだよ」

 

 軽口を叩きながら此方へ近づいてくるのは夏油傑の親友である五条悟、その手には最優の術師フィル。

 普段は冷静な状況判断を可能とする夏油の脳みそが、理解困難な状況が目の前で展開されている今回に限っては処理速度が落ちていた。

 だがまあ、それも少しだけ。

 盤上に落とされたのは外からの異物、それにより夏油傑は再び思考を開始する。

 

「何をしている!」

 

 現れたのは次期学長である夜蛾正道、額には青筋を浮かべている。

 その怒りも当然の事、校舎の一角がズタボロになっていて怒らぬ教師はあんまりいない。

 怒る夜蛾、ヘラヘラ笑う五条、生首のフィル、混乱の夏油、そしてそれらを上空から見定めるカラス。

 状況は混沌を極めていた。

 

 

 

 

────────────────────

 

 

 

 

「あー、悪い。久々で正直テンションが上がってたとはいえやり過ぎた。校舎の修繕費用は俺が払うとして……いやでも壊したの五条なんだよな」

 

「キッカケ作ったのはオマエだろ」

 

「ま、それはそう。後で現金で持ってくるよ」

 夜蛾正道は額に汗を浮かべていた。

 彼自身伝承や記録としてフィルの存在を知ってはいたものの、実際に目の前に現れるとは思ってもいなかった。

 それに加えてイメージと実態の乖離が激しいというのも夜蛾正道の感想だった。

 弱きを助け強きを助け、正に冒険譚の英雄のような活躍を繰り広げてたという術師にしてはあまりにも自由気まま過ぎる。

 気まぐれで五条悟に領域を用いた勝負を挑むなど、正気の沙汰ではない。

 

 それに、これは夜蛾正道個人の勝手な感想ではあるのだが『千年生きる術師が俺より若者言葉に精通しているのが少しショックだった』と彼はのちに語る。

 

「その、なんだ、フィル様は何故高専に?」

 

 目の前で駄弁っている二人をどういった目で見ればいいのかわからぬままに話を切り出した夜蛾、そして何故か突然フィルは笑い出した。

 

「ハハッ!フィル様か!懐かしいなぁ様呼びなんて、最近は研究所に引きこもってたから人の上に立ってないんだ」

 

「オマエが人の上に立てるような器かよ」

 

「五月蝿いぞ五条、こう見えて昔中将だった事もあるんだぜ?戦時中の話だけどな」

 

「想像がつかねぇよ」

 

「悟、すまないが一回部屋から出てって貰えるか、この人と二人きりで話がしたい」

 

 埒があかない、そう判断した夜蛾は五条を一旦退出させるとフィルと向かい合った。

 目の前には特級相当の呪術師、しかし先程の行動を見る限り完全に人類の味方であるかどうか判断がつかない。

 見極める必要があったのだ。

 

「フィル様、少し話をしたいんだが良いか?」

 

「良いけどさ、その様呼びは辞めてくれよ。昔ならともかく今の俺は日本呪術界になんら恩恵を与えていない。結界術の底上げをしてる天元とは違うんだ、実のない尊敬は気持ち悪いだけさ」

 

「ではフィル、何故貴方は今この時期に高専へ?」

 

 とは言うものの、夜蛾にはある程度の察しはついていた、機嫌が迫った天元と星漿体の同化関連、またはそれに準ずる物だろうと予測していた。

 だが返ってきたのは全く別の答え。

 

「告白さ、この恋にケリをつけたい」

 

「は?告……白?恋……?」

 

 一瞬、夜蛾の頭はショートした。

 相手は最優の術師、呪術界で歴代で最も尊敬を集めるとも言われる術師。

 そんな相手から色恋沙汰の話が出てくるとは、思ってもいなかったのだ。

 この時点で夜蛾のフィルに対するイメージは崩れ切っていた。

 

「そう、俺には千年片想いしている相手がいてな。まぁでもいつまでもうじうじしてないで次の恋に進まないとアレだと思ったんだ。とは言っても、逆に俺を好いてくれるような奴に心当たりはないが」

 

「……成る程」

 

 もはや空返事だった。

 

「だけど、最後にもう一度告白をしたい。万全の準備を持って、最大限に好感度を上げて、それでダメなら諦めるさ。だから最後に、一回だけ」

 

 そう語るフィルは気づかない、部屋の外から五条悟が聞き耳を立てていることを、夏油傑が呪霊を使って盗聴している事を。

 恋バナを聞かれた事に気づいたフィルがキレて五条と夏油と戦い出すまで、あと五十八秒。

 




オリ主が最優の術師と言われる理由、それと五条に挑んだ理由くらいは次回書きたい。
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