見渡す限りボロボロな柱や床、割れた窓に至る所に貼り付いた蜘蛛の巣。割れた窓から地面が見えないどころか、ビルの上の青空が見える。
そこそこ高層に居るらしい。
取りあえず、埃だらけの地面に倒れている訳にも行かない。だから取りあえず立った訳だが…。
ヴゥーーーン!!!
鳴り響くサイレン。続いて聞こえるふざけた声。
「あ〜…あ〜!マイクテス…マイクテ〜〜〜ス!聞こえてる〜?うん?うんうん!よぉ〜し!プレイヤー諸君っ!君のとなりに居る人がバディだよ☆一応言っておくとバディは全組これまでの経験者と新たな参加者で一組と言う形にしてるよっ!だから…あまり戦力差はないんじゃない?良かったね♪そして、このステージ『廃墟の街』には覚醒薬が散りばめられているっ!良いかい?経験者たちぃ〜っ!君達のバディは能力の『の』の字もない雑魚キャラだ!君達が能力を覚醒させっ!新たな芽を見事咲かせてあげるんだっ!分かったね?それじゃあ…伝えたい事は以上で…あぁ!それから1つ!プラスチックカードはいつも通り胸ポケットに入れてあるから!それじゃあ健闘を祈るよぉ〜!頑張れ♡頑張…」
ブチッ!
無理やり切られたな?
何やってんだ…アイツ。
それはそうと…。
「って事だから…よろしく。海瀬流水さん」
外から視線を戻し、振り向くと体に強い衝撃が生じた。
………っ!?
攻撃かっ!?何だ?何が起こった?流水さんはまだ無事か?
未だ感じる強い衝撃。目をやるとそこに居るのは海瀬流水。
「はぁ………!?」
驚きと共に漏れる声。
吹き飛ばされた方向は今さっきまで外を眺めていた窓の方。
運が悪くも硝子は綺麗に床に落ちている。
踏んばろうと足に力を入れるも下にあるガラス片が足を滑らせる。全てを察するにはあまりにもシンプル過ぎた。
勢いを増し、空へと押し出される体。
それでも尚、巻き付く流水。
最初は水平方向に移動していたが、重力がそれを許す筈もなく、2次関数のグラフの様に円を型取り、落ちていく。
「…何やってんだァァァ!!!」
「やっぱり貴方も参加者だったんですね!昨日の戦い見てました!ほんとかっこよくて!わたし!わたしぃ!」
「あぁ…?」
「貴方のファンになりましたぁ!!!」
「今言うなァァァ!ぬァァァアアア!落ちるぅぅぅ!!!」
速度を増す体。
振り落とされないように、より強く抱きつく流水の腕。
腕を動かそうにもごと抱き着かれ身動きが取れない。
と言うか、腕の力が半端なく強いっ!
確かに僕も幻実ゲイムのプレイヤーの中では筋力は少ない部類に入るが、それでも一応は鍛えている。その僕が全くどうしようもない。間違いなく外から見える以上に強い筋肉をしている。
って!そんなことを考えてる余裕はない。
落ちたら1面血の海だ。
勿論、僕らの血肉と骨でねっ!!!
「いぃぃぃぃやぁあああああああ!!!!!」
※
「まっ、よろしく頼むわ!」
「はっ…はい!」
廃病院の中か…。壁が壊れ倒れていたり、ベッドが2つに折れて壊れていたりと中々に酷いなぁ。
何よりも臭いがキツイ。
なんというか…薬品の臭いだけじゃなく、腐った酸っぱい匂いや腐乱臭もそこそこする。死体あるんじゃね?腐った死体とか見たくねぇんだが!
「あの…その…私的には…」
「おぅ!分かってるぜ!覚醒薬だよな!俺もまずそれを狙おうと思ってた!あっ!因みにこれが俺のデータな?よろしく!えっとぉ…」
覚醒薬。白飛 幸で言う所の『ポップコーン』。海瀬水波で言う所の『白鯨』。人ならざる力を人にもたらす芽を咲かせる為の水とでも呼ぶべきもの。
勿論、俺もそれを使って『ゴーレム』を手に入れた。
「あっ…
互いに交換されるプラスチックカード。
1つは…。
名前:
幻実ゲイムプレイヤー
ゲイム経歴
・初参戦
連絡番号:Future@Future−AfterBeyond
覚醒能力:Unknown
チームメイト:岩山 剛人
書かれているのはそれだけ…新人なのだから当然である。
これから増えていくことだろう。
それに反して岩山は…。
名前:
幻実ゲイム名誉プレイヤー
ゲイム経歴
・幻影コロッセオ参加者
・幻実ゲイム皆勤賞
・称号『視聴者人気ナンバー1』
・称号『
連絡番号:Rock@Rock−StoneHard
覚醒能力:ゴーレム
えらく濃密に書き込まれた内容だ。
流石エンマに嫌われているだけあると言う事だろうか。
その実力は疑いようのない本物なのだと言う事はプラスチックカードを見れば一目瞭然であった。
「取り敢えずは病院散策してみるか?」
「あっ…分かりました…!付いていきます!」
普段は物静かなのだろう。透き通った声が強い意志を持って答えた。さて…どうしたものか。
「おうっ!」
華やかな、屈託のない笑顔。
それを追って腐乱の病院を二人は歩き始めた。
※
それ等2チームを含め、全てのチームの映像が流れる『監視室』。
レトロな空間のそこに電子的な映像が空に縦横に2×4、計8つの配列で映し出されている。
派手な和柄の燕尾服を着た人物がそれを眺める。
行儀悪くも高級品の雰囲気を醸し出している机に足を乗っけて組んでいる。
不敵な笑みと整った顔立ち。
ポップコーン入りの箱を持ち、まるで映画を見ているかのように画面を見つめている。
それがエンマと言う人間だ。
「エンマ様。どんな感じです〜?今回の人達は〜?」
やけに気だるげな声が後ろからする。
首だけで振り向いたエンマは「上々♪」と答えた。
「今回の面接は結構厳しめに見たんで〜まぁ…そうそうつまらない事は起きないと思いますよぉ〜。はぁ〜。私もポップコーン貰っていいっすか?」
エンマ同様にかなりの整ったルックス。
鋭い目と背中に『獄』と書かれた軍服。
帽子はなく、代わりに長い髪が一本に纏められて、腰辺りまで垂れている。
気を使うこともなく、エンマの座るソファの横に座り、聞くと同時にポップコーンへと手を伸ばす。
多少ゴツゴツとしているが、白く美しい手。
その手はエンマにパシッ!と掴まれて、ポップコーンの箱への侵入を阻止される。
ため息を1つ吐いて、「ケチ…」と不満を漏らす。
その鋭い目が、更にシャープになってエンマを睨みつける。
「食べたいなら手を洗ってこい。まだ手洗いしてないだろ?」
「え?あぁ…そういう…」
「もう…なにやってんのよメズキ。手洗いを怠るなんて乙女失格じゃないの?」
二人の背後から更に声が聞こえる。
丈夫な軍服を破きかねないガタイのいい体。
ある種似合ってるオカマ口調。
赤と言うよりも真紅の口紅が付いた唇。
背中に『獄』を背負っている2人目の人物が現れる。
その手はハンカチで拭かれ、手を洗ったとわざとらしく証明しているようである。
「別にい〜のぉ〜。乙女なんてとっくの昔にドブに捨てたわぁ〜。ゴズキのば〜か。」
「んもう!可愛くないわねぇ!ポップコーン頂いてよろしいかしら?エンマちゃん?」
コクリと顔を縦に振り、箱をゴズキに寄せる。
ポップコーンを1つ摘み、口に入れ、美味しさに頬を蕩けさせるオカマ。
手を洗いに行くメズキを尻目にゴズキはわざとらしく「美味しいわぁ〜!」「美味いわぁ〜!」と声を上げる。
手を高速で洗い、戻ってきたメズキがゴズキの頭を肘で叩く。
ゴツン…!と良い音がなる。
騒がしい『監視室』の一幕である。