ブゥーーーン!!!
サイレン…か。
となると…いよいよ面倒ごとが来るということか。
僕の耳に届いたそれは非常に煩い。
騒音の原因であるサイレンを見る。
ボロボロだが…よく機能するな…。
いや、このステージに合わせてデザインされただけなのはわかっているが。
「はぁ〜いっ!はぁいっ!皆さんっ!覚醒薬を見付けましたかぁ〜?おや…?おや?おやおやおや?皆さぁん…!まだまだ覚醒薬が見つかってないようですねぇ〜!そこで、私は優しいのでこんな物を用意しましたっ!でれれでってれ〜♪光の柱っ!」
エンマが言い終わるや否や、先程、僕が飛ばされたコンビニから強く天を突く柱が現れる。
ただそれは決して触ることができぬであろう光の柱であり、青い快晴に目立つ赤やオレンジの混ざった光である。
よく見れば、ステージのあちらこちらから1本、また1本と天を貫いている。
…あれが、光の柱か。
なるほど、目立つなぁ。
「みなさ〜ん?分かります〜?見えます〜?光の柱の元に覚醒薬入りの宝箱がありますからねぇ〜!よぉく探すんですよ〜!あぁ…w分かりきっていると思いますが…。光のある所に虫は寄り付きますからね?くくくwまぁ…せいぜいがんばっ…」
あっ。また途中で切られてる。
………よし。
「コンビニ…行くか?」
振り返り、そこにいる少女に話し掛ける。
「はい!取りに行きましょう!………。ところで何ですけど…覚醒薬ってなんですか?」
良かった。今度は突き飛ばされることは無いらしい。
まぁ…地面にいるわけだから突き落とされるもクソもないんだが。
…等と頭の中で皮肉めいたジョークを知る由もない流水さんは言葉を続ける。
「あれですか?飲めばすっごい力が手に入る!!!的な?」
「まぁ…。その認識でいい。ただ、一つ言っておくと。一度でも口にすれば最後、”普通”には戻ることは…」
「覚悟の上です!」
「…そうか」
強い獣の如き目が想いを伝えてくる。
彼女を何が動かすのか。少し気になったが、聞くのは無粋かも知れないと止めておいた。
※
「ん〜…よぉし。どうせこんな感じのミッション来ると思ってたぜぇ〜wひひひ…!おい…
やたらと粘り気を持つ声。
外からの日差しだけが光源となった暗い室内の奥で話す人物が一人。背丈は176cm程。
筋肉は少ない。というよりも付いていない。
首元まで伸びたウェーブの掛かった髪が左に傾いた顔の右半分を隠し、それでも尚分かるニタニタとした笑顔でバディに語りかける。
ゆったりと、しかし早速と、独特なリズムで立ち上がり、立つと首をゴキ…ゴキ…と鳴らす。
「…探しに行くのか?」
「あ〜ん?んなぁわけw“探しに”なんか行かねぇよw俺達は賢くやんの。やるのは探索でも宝探しでもなく“横取り”w分かった?」
半笑いのどんよりとした声の主は、光の柱が立つコンビニを指差す。ここからならば5分もあればいけるだろうという距離だ。
「クズが…!」
対するバディはきっちりと整えられた短髪。
しゃきっとしていて、睨んでいるようにすら思える鋭い目。
ニタニタと笑みを浮かべている男と気が合わないのか、口は上に釣り上げられ、眉間には僅かにシワが寄せられている。
ドスの効いた声でバディを叱責するが、当の本人は、気にすら止めていない。
「クズで結構…。オレはなぁ…今まで!こうやってなぁ!?生き残り続けてきたんだよwはは」
乾いた笑いが空を通して、華児の耳を刺激する。
言わずもがな、正真正銘。シーズン3予選タッグ最大に仲が悪い。最悪のタッグだ。
『コックローチ』の能力を持つ
華児はこれ程までに初対面の人を嫌った事はない。
華児はこれ程までに自身の運のなさを嘆いたことはない。
華児はこれ程までに人に殺意を抱いたことはなかった。
※
「廃墟感が他の建物より一層強いな…」
自身が壊し、押し倒した商品棚が内装をめちゃくちゃにしたコンビニを見て、ふと出た言葉がそれだった。
「ここに…吹き飛ばされたんですか?その…落とした時に…」
「ああ。こんなにぐちゃぐちゃにしたのは僕だ」
「それは…痛かった…です…よね…」
申し訳なさそうに顔を伏せる流水。
意識がなかったとしてもやってしまったことへの罪悪感があるんだろう。既にカサブタになりつつある傷を撫で、思う事は別に気にする必要はないのだが…ということであった。
「そんなに気落ちするな…。これから人を傷付けることなんてザラにあるんだぞ?」
論点が少しずれたかもしれない。
と思いながら僕は迷わず店内に割れたガラスを跨いで侵入した。流水はと言うと律儀にも迂回して、機能しなくなった自動ドアを手動で開け、中に入った。
「…真面目だな」
「えっ…何がですか?」
「………ふっw」
「………?」
キョトンと首を傾げる流水さん。
こんな時代にやけにピュアと言うのか、抜けてるというのか、少し心配に思うくらいだ。
まぁ、見てて面白いからいいか。
「光の柱の位置的にコンビニの奥側だったな」
「バックヤード…ですかね?」
「行ってみるか…」
そんな僕達の前に立ち塞がったのは、僕がそこへと追いやったであろう商品棚。扉を開けようにも邪魔で開けそうにない。普通なら無理だろうが…こちらは生憎、異常なんだ。
『ポップコーン』…使うか…。
流水をこちらへと呼び寄せて、トウモロコシの種を倒れた棚に投げつける。小さな種は扉と棚の間に入り、爆発する。
すると棚は凄まじい勢いで吹き飛んで、僕が壊していなかったガラスを突き破り、外へ転がり出た。
吹き飛んだのは棚だけではない。扉がゴォン!と激しい音を鳴らし凹み、奥へと飛んでいく。奥の壁にドン!と当たり、ドォン!と埃を巻き上げて床に倒れた。
…うるさい。それから煙い。
思わず咳き込む、僕と流水さん。
数分経ち、落ち着く頃には喉が痛くなっていた。
「あぁ…ひどい目にあったぁ…何でも吹き飛ばすって考え方は改めた方がいいなぁ…」
「あはは…wそうかもしれないですね。でも、その力、凄いですね?」
「ん?『ポップコーン』か?」
「はいっ!昨日も見ました!その力!もうすっごくて!かっこよくて!虜にされちゃいました!実は…怪我させた人に言う事じゃないと思うんですけど…ファンです!」
すごい熱の入りようだ。
目が輝いて、早口で、何と言うか…元気だな。
「それは有り難いけど…そんなにか?」
「はい!『ポップコーン』って言う独自性とかも面白くて!いいと思います!」
「そ…そうか。ありがとう…。因みに昨日って言うのは…テレビのこと?」
「いえ!お店で拳銃を打った人がいた方です!」
「え?あぁ…。見てたのか」
「ほんとに凄かったです!ノールックで小さなトウモロコシの種を正確に弾に当てて、吹き飛ばして!かっこよくて!」
ここまで褒められると逆に気恥ずかしいな。
正直まぁ…照れる…。
「能力ってどう決まるんですか?」
「あぁ…丁度いいしバックヤードに行く前に説明しとくか。丁度そこにジャンクフードもある事だしな」
僕は問答無用でカウンターに腰を掛け、流水さんは壁に体重をかけている。
僕はプラカをかざし、ロックの掛かったジャンクフードのケースを開き、中から『フレンドリーマート』の人気商品、『チキン野郎』を取り出す。
流水さんに何がいい?と聞くと…取っていいんでしょうか?豚さんになったりしませんか?と問われたので、適当に『チキチキ』を包みに取り出して渡した。