NTR系エロゲ世界を乙女ゲー世界に変えたTS転生者 作:ダイコンハム・レンコーン
ふと、瞼を閉じればあの日の情景が思い浮かぶ。
僅かに光量を下げた部屋の中、覗き込むのは邪悪なピンク色の色欲世界。爛れに爛れた性生活を繰り広げるADVゲームで自分磨き(意味深)に勤しむ日々。
マルチバッドエンドNTRADVゲーム『みだれ髪〜散華〜』。
どう見てもあの文豪にごめんなさい案件のふざけたタイトルだが、中身は硬派なエロゲーだ。と言うのは嘘で軟派極まりない。
貴方は呪い(NTR)を受ける側と用意された主人公と言う名のメンタルサンドバッグはルートごとに全く違うキャラクターと恋愛してるわちょっとアダルトな日常系(邪悪)気取ったタイトルなのに異能力が普及してる世界観だとかなんじゃコレの連続だった。NTR描写の重みがカスほど薄いのも特徴だ。寧ろ竿役の方がドラマがあるのも特徴。
無駄にルートを増やした結果、フルプライスでありながら各ルートのCGが平均10(差分含む)、文字数5万にも満たないと言う驚異的な薄さを達成。ユーザーに中指をおっ立ててデッドボールからのレッドカードで業界から永久追放された会社が送り出したフリスビーだ。(なお即転生した)
CGはまあ使えるから半周回って許せるかと思ったがADV名乗ってこの体たらくはやっぱり許せない。ゲーマー寄りのエロゲーマーの俺にとっては呪物みたいなもんだった。NTRは嫌いじゃないんだが……。
まあ、俺はそのゲームをしている途中で激痛と共に意識を失った。
つまりは、死んだってコト。まあ死んだ人間はあの世へ行くのが常だとろうと考えてたんだが、俺の常識は世界には通じないらしい。
「……ねえ、徒花さん。何を考えていらしたの?」
「ん? ああ、エッチな事だよ。
「えっ、え? ま、また揶揄って居るんですのね! もう、徒花さんは……」
「割とマジで冗談になれば良いんだけどねえ〜」
目の前には今、あのカラスよけ(ゲーム)の中に居たヒロインの1人、黒髪ロングのデカパイお嬢様、
ここまで来たなら察しはつくだろう。俺は、よりにもよってそんなフリスビーの世界でクソ長いロスタイムを生きることになったのである。
……うそうそ、半分冗談だ。原作には影も形もないモブなのは事実だが、俺の名前は徒花
身の上について語る事は無い。平和主義で前世からオナ狂い。現実に則した世界では到底あり得ないだろう真紅の地毛でグルグルおめめとこれまた現実にはあり得ない誇張したサメみたいなギザ歯がチャームポイントの149cmの似非ロリ(JK)だ。
見た目は特徴的だが、このゲームのヒロインは大体一般的体型からナイスバディの女子校生な訳なんだが──まあ、俺みたいなチンチクリンが竿役の目に留まるはずもないのだ。だから俺は気楽に生きている。
違うな……生きていた、か。
生きていれば予想外の一つ二つは良くあるもので、一人暮らしを始めてからヒロインの1人と友好関係を持ったのが運の尽き、流石に友人が酷い目に遭うのも嫌なので、俺は主人公との恋路を応援しつつ、竿役のエントリーを阻止する役目を人知れず買って出ていたのだ。
とまあ、今の概況を整理した訳だが、基本的には平和の一言だ。寧ろ日常の方がよっぽど危険だ。何故かって?
「そう言えば徒花さん、今度の異能力審査試験、どうなされますの?」
早速カナちゃんの口から出て来た。これが俺の悩みの種。この世界には異能力って言うのが溢れていて、皆何かしらの異能力に目覚めてる。どっかで聞いた事あるよな、俺も既視感バリバリだ。まあ、手垢の付いた設定なのは言うまでもない。だがNTRエロゲはどんな設定もいかにNTRに繋げるかの道具でしかない。技術の粋を集めたフルダイブVRゲーだって低俗なエロゲーに早変わりする様な界隈だ。禁止にしろよそのゲームとか言っちゃいけない。
そんな世界の学校の殆どは生徒の持つ異能力を伸ばすって考えのもと、進路にも関わるテストとして異能力を使って選択した特定種目での能力を測る異能力審査試験ってのがある。ここだけ少年漫画の世界観だ。
因みにカナちゃんの能力は錬金。大概の物体を金属に変えられる上、操作出来る。シンプルに強い。だけど金銀プラチナは作れない。と言うか作ったら逮捕される。
「……いや、無理でしょ
何が問題かって言うと、俺はちょっと特殊過ぎて種目を選んでもマトモに点が出ない事にある。これは制度の穴的な所なんだが。
「ならば、団体かペアを組めば──」
「それこそもっと無理じゃん? だってパンピー足手纏いだし、他人に迷惑かけられるほど図太くもな〜いし?」
ちゃらけた喋りは素面で話して内面を悟られない為のキャラ作りだ。ちょっと若返ってちょっと癖はあるけど可愛い顔になったからって調子に乗ってるとかじゃない。これは純度100%の本音だ。……いや、ちょっとウソかも。ちょっと楽しいんだよなコレ。
レースみたいな模様の椅子の上で地面に届かない足をブラつかせながら、俺は迫る試験から逃れる言い訳を考える。
うん、ふん、ぬん。いや……やっぱり思い付かない。バックレよう。
「仮病などは使わないですよね徒花さんは」
美人の笑顔は怖い。何故かって? 笑顔がこれ以上なく綺麗に映るからだよ。そうなる様作られたものほど不気味に怖く思える。この世界みたいに。
「……いや、そんな事はない、よ」
「一学期に一回、今年最後の試験まで休めば進級に響くのではないですか?」
「ん、分かったよ〜。出るだけ出てみる。ま、期待はしないけど」
気分はノー勉で期末試験を挑む出来の悪い学生……そのまんまだが、それ以外にはない。引き笑いを愛想笑いに変え、カップが乾いた所で今日のティーパーティーもお開きになる。
こう言う席の最後にはホストの有り難いお言葉が常だ。
「いいえ、徒花さんなら、きっと良い所まで行けますわ」
ちょっとだけ期待してるのは、俺にまだモブ根性が染みついてないからか。それとも笑顔の圧に負けたからか。失礼極まりない事に、原作の淫美に歪む彼女の顔を映したCGが思い浮かぶ。確か彼女は催眠の異能力持ちにNTRされるんだっけか。竿役に名前なんて無いから、探すにもどうしたもんだか。
「んま、だから期待せず待っててよ」
どちらにせよ、他人に掛けるにしろ自分に掛けるにしろ期待は裏切られるし、裏切るんだろう。そう思わないと、いざと言う時に落胆してしまうだろうから。運命的な何かから必ずしも誰かを救えるなんて驕っちゃいけない。無理だったら無理で全て忘れて普通に暮らそう。
そして、ごく普通に試験の日はやって来た。あ〜終わったわ。
僕は、化け物だった。
生まれ持った力は『催眠』。この力は、余りにも強大だった。人1人の意思なんて簡単に歪めてしまえる。そんな力を持った奴に好き好んで寄ってくる奴なんて下心丸出しのカスみたいな奴だけだった。親ですら、僕を疎んでいた。人の心を操る力に長けた僕は、その力故に他人の心を読み取る力まで強化されていたんだ。忌々しい限りだけど。
僕の名前は、
でも、そんな扱いも妥当なんだろうと思ってしまう自分も居た。だってそうだろう。僕の
目を合わせるだけで、人を変えてしまう様な奴だ。化け物以外に何て呼ぶべきだろう。
僕はどうしようもない。眼鏡を掛け、これまで全くと言っていい程人の顔を見ずに、誰とも関わらず過ごして来た。いっそ狂えたら楽だろうに。きっかけさえあれば。でもそうなるのも怖くて、僕は何もかもから逃げていた。
そんな僕にとって憂鬱な日がまたやって来る。三学期を締め括る異能力審査試験。
僕の能力は対人特化。当然選択する科目も対人に特化したものになる。例を挙げるなら、組み手とか、そんな感じ。だけど僕はその能力故に、対戦相手どころか、ペアや団体の中でも嫌な顔をされる。だから力を使うのも嫌で、その目線も嫌で、相手の顔を見れない。だからみっともなく僕は負ける。
その度試験官は励ましてくれるが、その心にはどうしようもない程の安堵が見え隠れする。後始末が楽で助かったって。
変わらない、きっと。これまでも、これからも。
僕は指定された試験会場へ向かう道を、地面を見ながら歩いていた。
「……夜ふかしし過ぎた。はあ、何でカナちゃんはさ〜パンピーと一緒に来てるワケ」
「それは──」
「いてっ!」
突然、僕の腰に衝撃が走る。誰かの攻撃か、なんて発想は振り返ったらすぐ立ち消えた。
「あっ、ごめんねえ。よそ見しちゃってたよ」
「い、いえ、こちらこそ」
「いや、完全に玉突き事故だし」
僕のお腹くらいの背丈に頭がある小さな女の子、その螺旋を描く不思議な眼に、視線は自然と向いてしまっていた。
──誰なんだろう、この子。
「パンピーの名前は、徒花班日、ごめんアンドよろしくね?」
「私の方も申し訳ありませんでした。神長倉麗と申します、以後お見知り置きを」
……やってしまった! また力を無意識に使ってしまった。隣の神長倉さんって人は見てないから、多分偶然だけど、この子は──。
「おろ?
「えっ、あっ、コレは──」
ダメだ、何も考えるな。目を逸らせ。僕はこの子と話し合っちゃいけない。
「……もしかして、
「ごめん、僕、《催眠》の異能力持ちで……」
「《催眠》……マジでか」
神長倉さんは息を呑んでいたが、目の前の徒花さんは、驚いた様子を見せたものの、引きはしなかった。面食らったが、それは彼女がこの能力の恐ろしさを知らないからだろう。普通なら、神長倉さんみたいに、善人だってドン引きする筈だ。
「……そっか。君は」
そして彼女は、1人で何か納得していた。不思議な事に、その心と考えは読めない。徐に彼女は指を鳴らした。
「カナちゃん、パンピー、ペアの相手見つけたよ」
「え? それは私じゃ──」
「ないよ? 最初からソロのつもりだったし」
「え? はい? え?」
と思えば、僕のあずかり知らない所で話が進み始めた。やめろ、止めないと何か不味い気がする。こんな感覚久しぶりだった。
「君! パンピーとペアやろうよ!」
──彼女は、一体何を考えているんだ。
こうして竿役……と呼ぶのは実在した以上失礼か。名も知らぬ彼を見つけた俺は、人となりを探るために宣言した。
と言うのも、あのフリスビーに出て来る相手役は皆闇落ちした異能力者達であり、元はある程度葛藤したり苦悩したりする様子が描かれている。なんでそこ力入れたんすか? と聞きたいが今は置いておく。
今、目の前の彼が闇落ちする理由は、カナちゃんと出会った事が理由だ。
カナちゃんは基本的にノブレスオブリージュに善性を加えた様なNTRにぴったりなむっつりスケベなお清楚系キャラだ。
故に、彼にも手を差し伸べ、暫くは面倒を見るのだが──彼女が神長倉家から身代金を強請る為に誘拐されそうになった時、彼はその力で以ってやや暴力的(オブラートに包んだ表現)に彼女を助け、彼女は反射的に恐怖を抱き差し伸べられた彼の手を拒絶し、目を閉じてしまう。それが彼を絶望に突き落としたのだ。
物は低い所より高い所から落とした方が壊し易いって言う話である。で、絶望した彼は異能力で彼女に復讐する訳で──あれ、主人公要らなくない? となるのがプレイヤーの総意である。主人公は刺身のツマみたいなものだ。主人公とは一体。
場所や時期は分からなかったが、おおまかな流れは分かっていた。NTRを阻止する為には関係を断つ、つまり2人の間にインターセプトするだけで万事OKと言う事だ。
だから俺は彼とペアを組む事にした。精神系異能力は別に自分に使われる分には
「いや、普通に無理です」
「なんで!?」
断られたんだけど。やっぱりひんぬーだからか、偽ロリだからか。
「だって学年が──」
「ああそれ? 学年は一緒だよ〜ほら、襟の校章の色見なよ」
俺はブレザーの襟を摘んでちょちょいと指を指す。青色のラインで刺繍された梟と鷹が並び立つ意匠のエンブレムを見せる。
俺達の学校は名の知れた名門だ。一般人に見せれば『おお』と善い反応を貰える位には。ただそこには稀代のレイパーが集まってるんですけどね。……だから俺は毛程もこの学校を信頼してない。
「それは2年の青色、嘘……いや、ホントだ。でも僕はソロで──」
「手の内が割れてる状態でソロはキツいでしょ」
「それは、そうですけど」
歯切れ悪く受け答えする彼に、俺はしたり顔を隠せない。今だ。闇堕ち前の彼は意志が弱い。催眠を発動しない為に無意識にそうしているからだ。君には悪いが今はまだ童貞で居てもらう。前世の俺とお揃いだ。
腕を腰に当て、無い胸を張って少しでも大きく見せる。俺は息を吸い込み、声を吐き出した。
「──パンピーは、君と組みたいんだよね。他でもない君とさ!」
指差し良し、キメ顔良し、発声良し。完璧な
「なんで……僕なんか」
多分今彼は、『まさかこれも催眠のせい』とか思ってんだろう。見開いた眼に出てるぞ。無理もないがな。
……だが
それに、その濁りに濁った創生当初の宇宙みたいな目も嫌いじゃない、同類の匂いがするし。
「君の目が気に入ったからだよ」
「っ……」
「目を隠したって見た物は忘れない、それがパンピーだから。覚えてね?」
『目』それが彼にとってのキーワード。『オラっ、催眠!』ってのに限らず、催眠術の多くは目を通す物。だから彼は視線を向けるのも向けられるのにも慣れていない。目隠しみたいな毎日の中、面と向かってくれる友達が居ればどうか。俺なら同性だったとしても落ちる自信があるね。
「それに、催眠一つでどうにかなる程、便利な物でもないでしょってのがパンピーの意見だよ」
嘘である。作中ではクソ便利に使っていた。個人から集団まで支配も解除も思うまま、例え全裸でカナちゃんが散歩させられたとしてもバレないし、授業中に教卓の上で盛ろうが主人公含め誰も気付かない。世界への影響力を示す異能力強度で言えば最高クラスの持ち主だ。極めてヤバい。
「……分からないだろ」
おっ、タメ口。良いね、スタートラインには立てたみたいだ。催眠無しの心の距離感に戸惑うが良い少年、戸惑った時間の分、心は育つぞい。現在進行形で催眠と言うか刷り込みみたいな事してるのこっちなんですけど。
「分からないなら、分かるまで一緒に居ようか?」
「……ああ、もう」
眼鏡の縁の後ろに、やや赤らんだ白い肌が見える。いかにもインドアって感じだ。仲良くなれそうじゃん。あくまで俺は、だけど。
「って事でカナちゃんとはここでお別れだね!」
「ちょ、ちょっと待って下さいまし! なら3人で団体に──」
「いんや、カナちゃんの足引っ張るのも悪いからさ、ごめんね」
あっ、今俺なんかNTRモノのヒロインみたいなムーブしてるわ。……心なしかカナちゃんの顔もNTR主人公の顔色みたいになってる。
騙して悪いが──騙してねえや、勝手に思い込んでたろこの子。あんまり彼と彼女に接点は作りたくないから、ここは我慢してもらおう。俺は彼女をちょいちょいと手招きし、背伸びして彼女の細い首にこれまた細い自分の腕を引っ掛ける。
出来る限り無邪気に、それでいて甘い声で囁く。
「埋め合わせは、たっぷりしちゃうから。……君が望む分、好きなだけ言う事聞いちゃうよ?」
耳に吐息が当たるくらいの距離でこっそり囁くと、彼女は顔を真っ赤にして無言で頷いた。ふふ、お可愛い事よ。年頃の娘っ子だって、可愛くて自分よりも弱い女の子には逆らえない。何か後ろで『刺されそうだなコイツ』とか聞こえて来たけど、そんな事はないだろう。多分。きっと。
「って事でヨロシクゥ! 君の名前を教えて欲しいな!」
「はぁ……どうなっても知りませんからね」
「そりゃ
やっと聞ける。竿役じゃあ可哀想過ぎるからな彼の境遇は。……正直言って、主人公やヒロインより、俺は竿役の彼らにやや肩入れしてしまってるくらいだ。つくづく思うが、力の入れ所がおかしいんだあのゲーム。若干のジャンル詐欺感も漂ってたしな。
エロゲーは犯罪とPC破壊以外なら許される程の訓練された猛者が集まる世界だが、唯一絶対に許されないのが、ジャンル詐欺だ。NTRと言うよりはどこか女騎士とオークみたいな陵辱系ジャンルの感が強かったし、隠しルートではギャル系ヒロインと寧ろNTRヒロインみたいなビジュアルしたメカクレ女子(異能力:インキュバス)のイチャラブが始まって主人公の霊圧が共通ルート終わってから一瞬で消えたからな。目と開発陣の頭を疑ったわ。
そんな話は記憶の片隅に置いておいて、今は彼とのコミュの時間だ。
「僕の名前は
「コレっきりだから? さっきも言ったけど、パンピーは忘れないからね、
幹島だから、みっきー。安直だが、安直なくらいが呼びやすいし覚えやすい。親しみは後からついてくる。気安い関係で始めようって意思表示だ。彼は難しい顔をしていたんだが。
「初対面で失礼ですけど、ウザイってよく言われませんか」
「君はすごく真っ当な感性の持ち主だね」
「いやに斬新な肯定ですね」
そうして俺は彼の隣に立ち、共に試験の受付へ向かって行く。
ちなみに、先々歩む彼に小柄な俺は追い付くのがやっとだ。だけど彼はそれに気付いてスピードを落としてくれた。やっぱり、根は悪い奴じゃないよな。環境と異能力に捻じ曲げられただけで。
「……何で、今更こんな」
「ん、どうかした?」
二次元だから良いけど、今の俺にはここは現実。リアル脳破壊は趣味じゃないからな。彼だって原作じゃ拒絶で脳破壊された身だしな。出来るだけ、やれるだけ、寄り添おう。
「さあ、頑張ろうよ、みっきー!」
「……何でそんなに元気なんですか」
誰一人、脳破壊なんてさせないぞ。