NTR系エロゲ世界を乙女ゲー世界に変えたTS転生者   作:ダイコンハム・レンコーン

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ぼーっとしてたら前回から1年近く経ってた。時間が、溶ける……。
待たせてしまいましたが最新話です。前回のお話など記憶の彼方に消えていると思うので軽く前回のあらすじ。

時間停止で動かない異村加々美(ことむらかがみ)を連れて帰宅したパンピーだったが、家の外の声を辿るとそこには、インキュバスの力を持った異能力者兼竿役、陰島円華(かげしままどか)が時間停止下で動く姿があった。

そこでパンピーはすかさずコンタクトをとり、あの手この手で彼女をたらし混む。結果、パンピーは円華の腰の炎の消火剤となった。ついでに彼女に在代刻(ありしろきざむ)の中に居るもう1人、ムクロキザムのこれ以上の蛮行を止める為、協力を依頼。

真夜中の決戦が今、始まる……かも。

あらすじ、完。


今日の他人と今日の友

「男の子には三つ手があるんだよ。一つは挨拶をする為に、一つは契りを結ぶ為に、もう一つは他者と繋がる為に」

 

 張り付いた夜空に、一人の声が木霊する。

 

「──誰」

 

 酷く冷めた声色で答えた少年……クロは声の出所を探し、それは直ぐに見つかった。隠れる気など毛頭ないと言わんばかりに、突っ立っている。

 

「ふ〜ん、殺されに来たんだ」

「少なくとも、その手の使い方は間違ってると思うよ、パンピーはさ」

「……それを決めるのは君じゃないよ」

 

 クロは拳を握り、瞬間立っていた屋根から姿を消す。班日も同時に全速力で前へ踏み出す。彼女の思考はとにかく前へ前へと進む事だけだった。

 

 背後から回り込むのなら前へ踏み込めば躱せる。前から来るのなら──と。だからこそ、次来る光景が見えていた。

 

「っ!」

「そう来ると思ってたよ!」

 

 フェイントで真正面からクロが振り抜いた拳は、それを予想していた班日の拳に合わされる。互いの拳と拳が激突し、静かな夜に2ラウンド目を告げるゴングは響く。

 

 挑発的な笑みを浮かべた彼女に、クロは何かしらの策があると考え至る。しかしまだ何も掴む事は出来ない。当然彼女がバラす筈もない──。

 

「ねぇ、クロ君。パンピーは君の事、まだ何も知らない。だから! 無理矢理にそれを暴くつもりでいるんだよね! 先に謝る、ごめんね!」

「急に何を!」

 

 だが、彼女は敢えて口に出す。それは義理か策か考え無しか。クロの思考に割って入るノイズ。そんな彼の様子を、彼女は真っ直ぐに見つめている。

 

「許してなんて思ってないけどさ。慰謝料の代わりにね!」

「お姉ちゃんはどこまで僕を苛立たせれば気が済むのかな」

 

 しかし、それで戦力の差が変わるわけではない。戦況は裏腹にクロに傾いている。やはり、純粋な速度による暴力に班日の身体がやや遅れていた。幾ら予測出来ていても、そのタイミングが僅かにでもズレてしまえば初見と同義。純粋な反射神経で勝る事の出来る相手ではない。

 

 ──彼女の意識の隙間を縫って、クロの蹴りが入る。

 

「っ、痛ぅ! けど、少しは慣れたかも!」

「──それ、寝言?」

「こんな夢なら覚めてくれないかな!」

 

 クロの攻撃を受けては住宅街の路地をゴム毬の様に、真紅の少女が転がり跳ねる。致命傷を避けてはいても、そう衝撃を何度も浴び続ければ長くは持たない。

 

「もうちょい、らしい(エロゲ)イベントが欲しいなあ。ちょっと熱苦しいよ、パンピー達」

「……お姉ちゃん、頭おかしくなっちゃった?」

 

 それでも尚、幽鬼の様に立ち上がる彼女。乱れた前髪をかき上げ、溜まった血反吐を道端に吐き捨てる。

 

「──ずっとそう思ってるよ」

 

 班日は敢えて真っ向からの戦いを選んだが、それは功を奏していた。まず、クロは先の戦いの際、班日の血が能力の行使を阻害した事に気付いていた。紙一重に躱し、カウンターを狙う班日を相手するにはその隙は致命的、故に今は打撃で戦っている。

 

 様々な要因が重なり、彼女はまだ、生きてこうして立っていた。

 

「そう言う君は、パンピーよりずっとマトモそう」

「そうかもね」

「だからこそ、知りたいんだよね。君がどうしてここまでするか」

 

 彼女をここまで突き動かすのは、目の前に立つ少年が、痛々しく見えたからだろう。後、少しの興味本位と怖いもの見たさか。

 

「教えて教えてって……誰も知ろうとしなかった」

「やっぱり、シロ君に関係してるんだね〜。少し分かった気がするよ」

「……今更ぁっ!」

 

 だが、それが少年の逆鱗に触れた。

 

「かはっッ?!」

 

 彼女の腹の底から乾いた音が漏れる。

 目を慣れさせた筈の班日が追い切れない速度で放たれた渾身の一発は防がれる事もなく直撃した。

 

 

 

 ──コンクリートに血の跡を残し地面を跳ねては転げて……路肩に停められた車のフロントに衝突し止まった。

 

 防犯装置が作動し、車からブザーは鳴りライトが繰り返し点滅する。班日が触れた事で、止まっていた車の時が動き出したのだ。

 

「……お姉ちゃん、死んじゃった」

「かってに……ころさないでよ」

 

 少年は、歯軋りする。殺せなかった事に、殺そうとした事に。

 だが、もう次は無い。クロも班日も分かっていた。

 

 見下ろし、見上げ、二人の目線は漸く噛み合った。

 

「ボクの、勝ちだよ」

 

 少年が拳を振り上げた時──班日は薄く笑った。

 

「ぱんぴーの……かちぃ」

 

 班日の言葉に生まれた思考の空白。少年は一瞬間を置き、もう一度拳を振り下ろそうとして、手が止まる。

 

「……なんで」

 

 しかし、次の瞬間には彼女の姿は消えていた。

 後に残るのは、静寂と、時が止まり沈黙した車だけ。

 

 

 


 

 

 

 端からそういう事だった。我が逃走経路、なんてカッコつけてみる。俺は、マドっちにはコトちゃんを持ってもらってあの近くに待機してもらってた。で、こう伝えてた。光が差す瞬間に、彼の後ろに居てくれたら良いと。

 

 最初は何とかクロ君の気を引いて、コトちゃんにその影を触らせるつもりだった。けど流石にあの高速戦闘の中、戦闘よりの力が無いマドっちじゃまず追いつけない。だから俺は発想をひっくり返した。

 

 影に触れられないのなら、影の方から触れて貰えば良いと。

 

 この停滞した世界の中では、俺が触れた物体の時は流れてくれるのはカップケーキを作ってた時点で分かってた。後は強い光があれば、いつでも好きな形でクロ君の影を作る事が出来る。

 

 後は強く当たって流れで……な感じだ。作動した防犯装置でライトが点灯し、クロ君の背後には長い長い影が生まれた。そこにコトちゃんで触れて貰ったら、ゲームセットだ。

 

 ははは、即興にしては我ながら良い線行ってたのでは──。

 

「馬鹿じゃないですか!?」

「いや〜ははは。ちょっと痛いよ、マドっち」

「あんな危ない事するなんて聞いてません!」

 

 で、今目の前にムカ着火ファイヤーなマドっちが居る訳。ここ最近怒鳴られてばかりじゃないか俺。と言うか停学中にまたボロボロになったらどう言い訳すりゃいいんだろう。

 

「徒花さんが居なくなったら、私はどうなるんですか! 性犯罪者待ったなしですからね!?」

「う、うん。それはマジごめんね」

 

 割と切実な内容に頭を下げるしかない俺。でも出会いがあれば別れもあるって言うし、そこはどうにか卒業出来ないか……無理? うん、そうだな。

 

「……で、君が可能性のクロ君かな?」

「うん、そうみたいだね」

「因みに、どうして膝枕を? いや、悪くないんだけどさ」

 

 ニコニコ顔のクロ君の……可能性がそこにあった。どうもここに居るクロ君は大人びた雰囲気がある。笑み一つとっても穏やかで、柔らかだ。多分、彼がさっき俺を助けてくれたんだろう。異能力が同じならあの程度はどうにか出来るだろうし。

 

「……だって君は、僕の彼女だから」

 

 クロ君は、面映(おもは)ゆい様子で、そう答えた。

 

 ──ああ、彼女。なるほどなるほど。

 

「うんうん、なるほど彼女か〜。彼女なら当たりまぇぇぇぇぇっ?!」

「ははっ、班日ちゃんはいつ見ても面白いね〜!」

「ぇぇぇぇぇ……」

「完全に放心してますね。確かに、さっきまであんな事になってた相手からそう言われれば、そうもなりますか」

 

 違う、違うのだマドっちよ。俺がびっくら仰天しているのは、俺がメインのキャラクターとお付き合いしていると言う事だ。その世界の俺は何を考えているんだ? 後継者を産む役割は? 向こうの俺はFREEDOMにロマンティクスしやがったのか? とんだ色ボケが居たもんだ。

 

「……はっ、ちょっと意識失ってたよ」

 

 どうしてそうなったかを聞くと頭が痛くなりそうだ。

 けど、聞かなきゃ話が進まない。

 

「お願い、聞かせてクロ君。クロ君に何があったのか」

 

 俺は、目の前の彼に何が起きたか聞く事に決めた。目の前の彼が、今戦ったクロ君と異なる道を歩んでいたとしても、分かる事はある筈だ。

 

 

 


 

 

 

 僕はどうやら、本来双子で産まれるはずが1人の身体で産まれてしまった存在で、生まれながらに能力を二つ持っていた。

 

 一つは、加速する力。一つは、巻き戻す力。二つの力が合わさる事で、プラスとマイナスが0になる世界、今みたいに時が停滞する世界を作り出せる。この力は本来使い分ける事は出来ない、常に両方が発動して見た目には時間停止能力に見えているだけ。普段はお兄ちゃん……在代刻(ありしろきざむ)が身体の主導権を握っている。

 

 ただ、度重なる能力の使用で、力の影響をお兄ちゃんは受ける様になっていた。力を使えば使う程自分の時間が巻き戻り……自分の存在が消滅しようとしていた。

 僕はそれを止めようと考えた。初めは加速の力で影響を打ち消そうとして、それでも駄目と分かれば、お兄ちゃんが助けるべき存在を全て消す、そんな地道で過激な手段を……。お兄ちゃんの力が弱っていたから、僕の加速する力が本来の能力を発揮していたし、今ならやれるって根拠のない自信があった。

 

 けどそれは叶わなかった。班日ちゃん一人の手で僕の浅はかな野望は砕かれた。

 そして、お兄ちゃんは僕を止める為に最後の力も使い果たして消えてしまった。他ならぬ僕自身が、お兄ちゃんにトドメを刺してしまったんだ。

 

『……ごめん。私の力が、足りなかった』

『──班日お姉ちゃん』

『お兄ちゃんを助けられなかったのは、私のせいだ』

『僕、間違ってたのかな』

『それは──』

 

 あの時、僕はお兄ちゃんを助ける事が出来なかった。

 取り残された僕は()()()()()も失い、お兄ちゃんの役割も果たせなくなった僕に居場所は無くなった。

 

『ねえ、キミが良いのなら、私の所で暮らさない?』

『いいの? 僕は班日お姉ちゃんを殺そうとしたんだよ』

『そんな事……なんて言ったらあれだけど。もう過ぎた事じゃない?』

 

 最初は、励ましてくれただけだったんだと思う。

 

『クロ君、今日は一緒に出かけようよ』

『ふふ、今日は私の手作り料理だよ!』

『君の膝枕、寝心地さいこーっ!』

 

 けどいつしか、僕は君に惹かれていた。こんな惚れっぽい性格だったなんて、自分でも知らなかったくらい、好きになっていた。

 

 やがて、僕達は結ばれた。

 

 ──ここからは、僕の話じゃなく、君の話だ。今伝える必要は無いかも知れないけど、一応、ね。

 

 僕達が付き合って、暫くした時。君は僕の前から姿を消した。『待っていてほしい』……たった一言、そんな書き置きを残して。

 

 でも僕は君を探し続けた。やがて僕は君のお姉さんと会うことが出来た。そこで聞かされたんだ。君が、他の男の元へ嫁がされた事に。お姉さんが知った時にはもう手遅れで、足跡すら掴めなかったらしい。

 

 ……これが、僕の身に起きた事。

 

 

 


 

 

 

 乙女ゲーかと思ったら唐突なNTRで脳がっ……って、この世界NTRモノのエロゲーの世界だったな。暫くバトり過ぎて異能力バトルの世界と勘違いしてたぞ。けどこの世界なら、俺は誰とも付き合う予定は無いし……まあ、寝てないからそうなってもNTRにはならん筈だ。多分。

 

 てか、いやそっちじゃない。大事なのは寧ろその前だ。多分、クロ君の動機がさっきの内容だとすると……俺がすべきは過労死の防止って訳だな。

 

 それにあくまで、目の前のクロ君はあくまでも可能性の存在だ。確定した未来ではない。幾らでも変えられるさ。

 

「ちょっと湿っぽい雰囲気禁止! パンピーの前で悲しい顔しちゃダメダメ!」

「……うん、そうだね」

「徒花さんが……他の人に……うぅ」

 

 なんか一人唸ってるけど、仲間が増えた事である程度対等に立ち回れる様になった筈だ。衝撃的なお話を聞かされつつも、光明は広がりつつあるのを感じる。さて、これからどうすべきか。話を聞いた限り、武力一辺倒では円満解決は難しいだろう。

 

 やはり、説得。それもこの世界のクロ君シロ君二人ともにする必要があると俺は思う。

 

 クロ君はともかくとして、シロ君に物を言える立場の人間はそう居ない。居るとすれば──変態体罰教師……朝霧無移(あさぎりむい)か。

 

「クロ君は他の人に掛けられた時間停止を解けるのかな? パンピーじゃ、物は良いけど人に掛けられたのは解けなくてねえ〜」

「大丈夫、行けるよ」

「じゃそれで行こ〜か」

「私も、付いていきます」

 

 4人──1人は相変わらず置物状態ではあるが──の思いは多分一つ。

 

 そろそろ夜明けが見たい気分だ。

 この悪夢みたいな時間を……長い春休みを終わらせよう。

 

 

 

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