NTR系エロゲ世界を乙女ゲー世界に変えたTS転生者   作:ダイコンハム・レンコーン

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GWに1話しか更新出来ないダメ作者ですまない。


クロ君とパンピーちゃん

 時を止める。フリスビー(げんさく)では、無敵の異能力だった。だってそうだろう。時を止めれば誰も抵抗はできなかった。少なくとも、そのルートでは誰も。

 

 どれだけの距離を瞬き一つの合間に動けたとしても。

 

 ──だが、今は違う。俺()()が居る。少なくとも、悪い話じゃない。

 

「って、呼び出されて早々!」

「ごめんね。後で好きなの奢るから!」

 

 彼の()()()()()()()()()()()は空中で停止し、振り抜かれたパンピーⅡことパンツちゃんの刀の峰を止める。飛び散った火花も照明の様にその場で明かりを放っている。つくづく現実的じゃない光景だ。

 

 その光に照らされながら拳銃──よく出来た()()()を構えるクロ君──に向かい、俺は飛び込んだ。水飛沫の壁は、俺に触れてあっさりと解ける。クロ君は構えを解いて退いた。

 

「チッ!」

「ねぇ、握手しようよクロ君!」

「さっきから何だその口調、気持ち悪くねえか?」

「酷いなぁ、これもパンピー、君もパンピーなら分かるよね?」

 

 頭を横に振られた。心外だな。

 

 ──俺ともう1人の俺は今、銭湯の男湯で戦闘していた。いや、この世界(ゲーム)はいつからストリー◯ファ◯ターになったんだ。まあ幸いにも客は居なかった。番頭もどっか行ってたみたいで、少なくともここに俺たち以外の人の気配はない。

 

 そもそも……この世界に来てマトモにエロゲーらしい場面に遭遇した試しがない。行間だけで出来てる様なこんな世界で、悲劇だけは一丁前と来た。許せるか、こんな不条理。もうちょっと気楽に過ごしていければ良いのに。

 

「……信じがたいが本当にあの竿役、加速の異能力もあるらしいな」

「こらこら、ちゃんと名前を言ってあげなきゃ」

 

 パンツちゃんの目が鋭く見開かれた。俺より目が良いのかも知れない、徒花家をほぼ出奔した様な俺とは違って、ある程度姉に鍛えられる余地があったか。今の俺は残念ながら姉の庇護対象でしかない。

 

「どこまで、邪魔する気」

 

 彼は彼でそこまで拒否する事も無いだろうに。なんて余裕がある側の台詞か。追い詰められたら人間、何するか分かったもんじゃない。でもそれは本性じゃない、追い詰められた時の姿なだけ。アレの中で描かれたクロ君は、発狂状態だった訳だ。設定だけ用意するなんて、作者は余程彼らを虐めたいらしい。

 

「どこまでも、だね」

 

 わからせ、なんて生まれてこの方やった事もないけど。少なくともアレをやってた時の俺はきっと君をわからせたかったんだろう。でも今は、君の事を知ってしまった。それにここはあの世界であってもゲームじゃない事位は分かってる。俺の知る全てがあの狂気の世界と同じであろうとも。

 

「相変わらずのクソガキぶりだ。でもお前、あの子を殺そうって訳じゃないんだろ? こっちの俺は随分とお人好しだな」

 

 ゴムを咥えながら、髪を纏め始めるパンツちゃんに頷くと、呆れながら笑ってくれた。様になってる、流石俺、黒髪でも美少女だ。

 

「因みに……君の世界で、物語の通りの事は起きたのかな」

「ああ、起きたな。でも俺は、姉貴だけ居れば良かった。竿役は全部切り捨てた」

「……思ったより強いね、君」

「全部知ってたからだよ。全部不意打ちだ。現に初見のアイツには後手後手だ」

 

 パラクロ君の俺は交際、パンツちゃんとしての俺は殺害、少なくとも今の俺には出来ない手段で状況を打開して来た。

 

 俺は? 俺はどうするべきか。他の俺と違うのは、この段階でクロ君の事を一番知ってるのはこの俺だってこと。本人の知らない内に、本人の事を知り尽くすなんてさ、まるで催眠ものの竿役だ。

 

 アブノーマルの竿役なんて煙草と同じで快楽以外には百害しかない存在だって思うけど、吹っ切れた時の行動力は見習うべきかも知れない。あの打開力が、今欲しい。ああ、どうすべきか。

 

 迷いに気を引かれて瞬きすれば、四方を静止した水の弾丸が囲んでいる。隣のパンツちゃんは迷わずその隙間をすり抜けていく。俺もと続こうとした。

 

「──?!」

 

 俺の身体が水の弾丸を掠めた瞬間、尋常でない速度で水が肉を抉り始めた。圧迫感に反射的に身体を仰け反らせる。

 

「っ、ぃたぁ。はぁ……そんな事も出来ちゃうんだ」

 

 銭湯の白いタイルに滲んだ紅一点、脇腹閉じたら血で汚れそうだな、これ。

 

 俺が触れれば時は動き出す。放たれ動きを止めていた水の弾丸は動いた、その上、水の弾丸には常識的ではない速度が加えられていた。

 ウォーターカッター、みたいなものか。それを考えて水鉄砲なんて可愛らしいものを用意したのなら、その殺意は計り知れないな。

 

 ──でも殺意から始まる友情なんてのもある、四捨五入でベストコミニュケーションじゃないか、今の俺とクロ君は。

 

 いつ放ったのか、無数に空中に散らばる弾丸の柵の向こう、銃と刀で踊る二人を見て笑みが頬を開いた。やってやろうじゃないか。

 

 

 


 

 

 

「っ! 何で、ボクより遅い筈なのに……っ!」

 

 幾ら速くても、ある程度先が読めるのなら、そこを防御すれば良い。単純だが、ある程度場数を踏まなければ無理な技だ。姉貴の方が練度は高いし、今の俺みたいに防御一辺倒じゃなく、攻勢にも出られただろう。それでも今の拮抗が続くのは、相手の傲慢につけ込むからだ。

 

 ……竿役。少なくとも俺の世界で出会った連中は、皆そうだった。

 

 誰もが思い通りに動くと思い込んでいた奴。

 誰もが自分の所へ堕ちると思い込んでいた奴。

 誰もが辿り着けない場所に自分だけが居ると思い込んでいた奴。

 誰もがなれない存在を自分こそが作り出せると思い込んでいた奴。

 

 歪んだ設定の成れの果て。俺はその嫌悪に従った。

 

 俺を呼び出した『俺』も、そんな連中と同じ目をしていた。方向性は違ったとしても、道を踏み外せば……今はどうでもいいか。

 

 今は、やるべき事をやるだけだ。

 

 幸い、相手が異能力を使い始めて間もないからか動きは単調だ。だが相手の得物が水鉄砲とは言え飛び道具という点が厄介だ。一度放たれた水の弾丸は、バレルを抜けた時、動きを止める。一度動きを止めたそれは俺からすればどうやっても動かす事は出来ない。しかも、奴が異能力を行使すれば停滞を任意に解除出来るときた。

 

「前後前後と単調な奴だな」

「そう言って……っ、防ぐだけしか出来てないよね!」

 

 尋常でない速度の水の弾丸が挟み込む様に飛んでくる。しかし攻め込もうとすれば周囲で止まっていた水の弾丸が動き出し、背中を襲ってくる。

 

「ちょっと、いいかなぁ」

 

 どうにも攻めあぐねていたその時、俺の隣にもう一人の俺が立っていた。来ていた服は刃物で切り刻まれた様にボロボロになってはいたが、どうにか致命傷は避けている様だ。

 

「……お前、無理矢理抜けてきたのか?」

 

 全く、無茶をする。どう過ごしたら俺がこんな無謀な奴になるのか知りたい所だ。

 

「まぁね。じゃ取り敢えず」

 

 そしたら突然コイツは血塗れの手で構えていた刀を掴み、(はばき)から(きっさき)まで血塗れにしてきた。

 

「何を一体……!」

「パンピーの血も、異能力を帯びてるみたいでさ」

「……っ! そうか!」

 

 俺が刀を振るうと、水の弾丸はあっさりと砕ける。これなら──

 

 

 


 

 

 

 飛び道具には飛び道具を、水には水を、って事で俺はこの身体に流れる血を武器にする事にした。十分な血を流す為にある程度ダメージは受けたけど、やれる事はやらないとさ、時間も稼げないし。

 

 今、パンツちゃんには、水の弾丸を捌いて貰ってる。これでようやく五分五分か。なんて思ってたら。水鉄砲を構えたクロ君が、少し困惑した様子で立っていた。

 

「なんで……どうして、そこまでするの」

「どうやら、お前に聞いてるらしいぞ」

「パンピーに?」

 

 俺が、こうしている理由。……巻き込まれたから、元通りにしたいから、人助けしたいから、色々混じり合ってるけど、結局はどうだったか。やろうと思えば今より余程悪辣な手を使えたかも知れない。

 

「それは、ほっとけない子ばかりで、その子の事を知りたいから」

「それだけで、そこまで傷つけられても()()()の?」

「知らなければ傷つかなかっただろうけど……後悔? うん、やっぱりないね。だってパンピーは、パンピーだから」

 

 ドン引きしてるパンツちゃんは、一言「……お前、筋金入りだな」と言っていた。自分自身にすら言われたらいよいよヤバいかも知れない。

 

「知ったからには、もう他人じゃ居られない。この世界そんな事ばっかだし。ならいっその事、首を突っ込んじゃえって」

「何も無くても? そうするの?」

 

 どうだろうか。少なくとも何も得なかった事は無いからか、断言するにも気後れがする。俺はシロ君の様に、ただ救いたいで動ける人間だろうか。

 

 うん、まったく違うな。

 

「勿論、なんて格好つけれないよねパンピーは。だってやったらやっただけ良い事はあったから」

「良い事?」

「……友達が出来た」

「それだけ?」

「これ以上は、ないでしょ?」

 

 人の縁だけはどれだけ金があっても思い通りにならない。例え洗脳、薬物、時間停止etc、異能力で人をモノに出来る世界でも、1人居ただけでこんな破茶滅茶じゃやってられないだろう。

 

「多分、シロ君も同じだったんじゃないかな」

「……お兄ちゃんが?」

「どんな人でも、生まれてから死ぬまで独りじゃ生きてけないし、いくら何でも寂しいよ」

 

 刀を構え詰め寄ろうとするパンツちゃんを手で制しながら、俺は何とか考えついた言葉をなるたけ丁寧に並べていく。

 

「そりゃそうだよ。何の見返りもなく、誰かを救い続けるなんてさ。神や天使じゃないんだから」

「……ひとりで納得しないでよ」

「あ、ごめんね。でもさ、シロ君は独りじゃなかったよね」

「お姉ちゃん、それ、どういう事?」

 

 だってそうだろう。形はどうあれだ、シロ君にはいるじゃないか。

 

「だって、クロ君みたいに、兄想いの弟君が居るから!」

「……」

「大切だよね。パンピーにもお姉様と……兄貴が居るけど、どっちも大切だって思ってる。そこは、パンピーとクロ君も同じ、だよね?」

「……お姉ちゃん、もしかして」

「うん、知っちゃった。君がお兄ちゃんを助けたいって思ってる事」

 

 行ったり来たりだったけど、ようやく光明が見えて来た。俺だけが出来る事をやる、これが答えだ。

 

「だから、優しくするの?」

「あれれ、もしかしてずっとパンピー、オニみたいに見えてた?」

「……ううん、ずっと、そうだった」

 

 構えた水鉄砲を、彼は下ろした。

 

「お姉ちゃんは、お兄ちゃんのコト、虐めてなんかなかったのに……みんな敵に見えて……」

 

 膝をついた彼の元へ、俺は向かう。その背後で、刀の血をどこからか取り出した紙で拭うパンツちゃんは一言。

 

「──思ったより早く落ち着いたな。お前、洗脳の異能力でもあるのか?」

「無いよ?! 失礼しちゃうなぁ、もう」

 

 ……ったく、自分だからって遠慮無しだなもう1人の俺よ。

 

 さて。時間稼ぎどころか、説得出来てしまった。同じ奴が何度もボロボロになりながら口説き落としてようやくって訳だから、簡単な話ではなかったろうけど。

 

 俺は、目の前の彼の肩を叩く。僅かに震えている。彼は泣いていた。

 

「大丈夫、まだやり直せるって!」

「……お姉ちゃん。ごめんなさい、ごめんなさい」

「あぁもう、そんな泣かないで、ほらハンカチ……って血塗れだぁっ?!」

 

 春は出会いの季節と言うけれど、とんだ出会いになってしまった。けど、最終的に丸く収まればそれでヨシ。

 

「色々あったけどさ。まずは伝えようか! お兄ちゃんを大大大好きな弟君がここにいる事をさ! アイ・ラブ・ユー! って感じで!」

「……うん」

「じゃあまずは、この世界を元に──」

 

 

 

 俺は完全に油断していた。全部終わった、と。

 

 あくまで、終わった事を知っているのはここにいる者だけである事を失念していた。俺は気付けていなかったのだ。側から見ればこの状況がどう映るか。

 

 

 

「──お前が『悪霊』か」

 

 肩に預けていた手が冷たいと思ったら、床のタイルに触れていた。

 

「え?」

「……アイツは?!」

 

 さっき一瞬だけ聞こえた声は間違いなく、ムイちゃん先生のものだった。きっと、パラクロ君達がムイちゃん先生を見つけてくれたのだろう。つまり、クロ君を彼女がテレポートさせたと言う事で……え、何でそんな事を。まさか、クロ君が俺を傷付けていると思って? いや事実ではあるがたった今解決した問題で──。

 

「まずいまずいって! 早くクロ君を探さないと!」

「だがどうする? アレのテレポートはほぼ制限無しだぞ、アテもなく探せば探してる間に話が終わる気がするんだが」

「ああもう! 取り敢えず、パラクロ君達と合流しないと!」

 

 急いで銭湯を飛び出す。血みどろだったが、気にしてもいられない。下手すればクロ君が不味い事になる。血が抜けたせいで足がやや重たい。それでも意識はまだ明瞭だ。

 

「班日ちゃん!」

「パラクロ君!」

 

 そして、飛び出した瞬間、ナイスタイミングに二人を抱えたパラクロ君と遭遇した。彼は俺の姿を見て青褪めていたが、大丈夫だと身振りで示せば渋々な様子でさっき起きた話を聞いてくれた。

 

「あの人が、この世界の僕を攫った?」

「……うん、パンピーが完全にやらかしちゃった。あのままじゃクロ君がムイちゃん先生に〆られちゃうよ!」

「と言うか、その二人は何で黙って口を抑えてるんだ?」

「聞かないであげて、その、彼女達の尊厳に関わるから」

「とにかく! 二人を探さないと!」

 

 だが、どう探せば良いのか見当はつかない。例え街中だとしても、五人でローラー作戦じゃ間に合うビジョンが浮かばない。何か手はないか、そう考えていると、一つ疑問が浮かんだ。

 

「……ねぇ、何でムイちゃん先生はパンピーがここに居るって分かったの? 完全に室内で外からはほぼ見れなかったのに」

 

 すると、ヨタヨタと寄ってきたマドっちが、ゆっくり手を上げる。まさか異能力で? そう聞くと、彼女は頷いた。

 

「っうぷ。ぅう、私が、朝霧先生を探そうと頑張ってたら、何となくその方向が分かったんです……こう下の、アレが惹かれるような……」

 

 インキュバスっぽい事が出来る異能力、って寧ろその力が先にあるもんだと思ってたが、あまり女子に関わろうとしなかったからその力も目覚めていなかった、って感じか。

 

「また新しい力が目覚めたんだ。うん、マドっち、これはもう主人公顔負けの成長速度だよ」

「嬉しくないですぅ……っぷ」

 

 どうやら、パラクロ君は中々荒い運転をしていた様だ。慣れない身で、かなり飛ばされたらそれはもう大変だったろう。車だって似た様なものだ。

 

 労りを込めて二人の背中をさすり、俺はマドっちに問いかける。

 

「ごめんね。気分悪いだろうけど」

「っ……大丈夫です。ここまで来たからには」

 

 そう言った彼女の瞳に迷いはなかった。彼女は1人で立ち上がると、彼方へ向けて指を指す。

 

「あっちに、感あり、です」

「りょーかい! パラクロ君と──」

「うん分かった!」

「先に行ってるぞ!」

 

 そう言いかけると、パンツちゃんをパラクロ君が背負い、姿を消していた。さすが俺と俺の彼氏、察しが良過ぎる。

 

「マドっちもコトちゃんも、ありがとう。帰ったらパンピーちゃんを妹にする権利を贈呈しちゃうから!」

 

 俺も、疲れた身体を起こして彼女の指差した方へ走り出す。

 

「そんなの、要らないっての!」

「えっ、要らないんですか?」

「アンタ……マジで言ってんの、それ」

「えぇっ?!」

 

 背後で何か聞こえたが、よく分からない。

 よく分からないが、2人とも仲良くなったのではないだろうか。

 そんな2人に水を差さない為にも、俺も最後にひと頑張りしないとな。




多分次回! クロ君編ラスト!

NTRエロゲーの世界なのに対峙するのがほぼ女とはどう言う事なのか……。

今更ですが、この作品の五割以上占めてる可能性すらある異能力バトル描写、上手く書けてるか自信が無いのは内緒です。
アンケートに異能力バトルの項目が無いのは0だったらショック死するからだったり。

追記
そう言えばこれ架空原作モノでもあるので、タグ増やしました。
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