NTR系エロゲ世界を乙女ゲー世界に変えたTS転生者   作:ダイコンハム・レンコーン

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前回でラスト宣言したから、最後までなんとか纏めてみたら1万5千字になってました。見る際はご注意下さい。


裏と表

「ぎっ?!」

 

 人気(ひとけ)の無い公園。女が少年の襟元を掴み、放り捨てる様に投げた。

 

「重ねて問おう、お前が悪霊だな」

「な、何のこと……!」

 

 冷めた瞳が少年を貫く。開いた口から続きが紡がれる事は無い。狩られる者、狩る者。本来の道筋とは逆になった立ち位置に、違和を感じる者はここに居ない。

 

「……ヤツは言っていた。自分の中に悪霊が居ると」

「あく、りょう?」

「自分ではないナニカ。自分を突き動す存在に、在代刻(ありしろきざむ)は気付いていた。ヤツは、自らの力の危険性を知っていた。だからこそ、もしもの時を想定していた。最も、準備は間に合わなかったらしいな」

 

 手をパキパキと鳴らしながら、女が、在代刻の元相棒が、引導を渡す為に歩み寄る。

 

 徒花班日は、彼女が手違いか勘違いでムクロキザムを攫ったと推測していた。しかしそれは誤りである。彼女は紛れもなく、殺意と共に現れたのだ。

 

「ヤツはあの馬鹿に後始末を頼もうとしていた」

「……お姉ちゃんに?」

「察しが良いな、その通りだ。私は許さなかったがな」

 

 表情が荒んでいく。教師でありながら、今の彼女はかつて恐れられた『虚空の魔女』へと変わっていく。

 

「ヤツはいつもそうだった。初めてだった。私が追いつけないと思ったのは」

「……こ、来ないで」

「だから、私はヤツの隣から逃げて教師になった」

「来ないでよ!」

 

 力を使う事すら、今の彼にはままならない。怯え、顔を歪ませ、立たない足を動かしてじりじり退がる以外には、何も。

 

「それがヤツを追い込んでいたのなら、せめて最期の願いは聞き入れるのが私の義務だろう」

「……ヤダ、嫌だよ」

「最期に言い残す事は、それで良いのか」

 

 彼女の白く長い手が、彼の頭に触れようとした。

 

 ──が、その手は背後へ伸ばされた。

 

「嘘っ?!」

 

 そこには、片手を伸ばし今に彼女を触ろうとしていた青年、可能性のムクロキザムが居た。

 今、この状況で彼女を止める最善の策は、朝霧の停滞を解除した彼が異能力を解除する事だ。しかし、彼女もまたそれを理解していた。

 

(徒花班日、お前が居るならそうするだろうと思っていた)

 

 教師として、生徒を見て来たからこそ。今の徒花班日が目の前で震える少年の犠牲を許容しない事など、彼女には分かり切っていた。

 

「お前には少し旅に行ってもらうぞ」

 

 先に掴んだのは彼女だ、故に異能力を行使する間も無く青年は姿を消した。テレポートにより彼は遥か離れた場所へ飛ばされたのだ。ただ1人を除き、彼女に多対一に持ち込める者は居ない、そう示すに不足ない一瞬の出来事だった。

 

 だが、ここにはまだもう1人存在する。一房の黒髪を棚引かせ、気配を殺した1人の少女が。

 

「そしてお前は──」

 

 朝霧の背後から切りつける黒髪の少女。完璧に不意をついた筈の一撃は当然の様に外れた。代わりにカウンターとして朝霧が伸ばした腕を少女は打ち払う。

 

 互いの間合いに静寂が走る。

 

「流石に不意打ちは効かないか」

 

 テレポートの異能力を有する彼女は、その副産物として高い空間把握能力も有している。それを知る少女に驚きは無い。

 

 テレポートで距離を取った朝霧は面倒な奴が増えたと眉を顰める。

 

「……お姉ちゃん?」

「悪いな、アイツは後で来る」

 

 ムクロの前に立つ徒花。険しい表情で低く構えた身体は、黒豹の様に彼女の目には映る。楽勝には程遠く、辛勝にも指一本掛かるか否か。勝負を決める要因の殆どはあちら側にあると、彼女は判断していた。

 

(これじゃ、俺が最後の砦か。全く、俺自身だからって随分と便利使いしてくれるな)

 

 それが退く理由にならない事を少女は知っている。退いた所で意味は無く、ただ後味の悪さが残るだけ。無茶無謀を嫌いながらも無意味を許したくない。

 

(どうせ俺は影、沼男じみたコピーだ。俺がどうなろうと俺の世界の姉貴と俺に何が起こる訳じゃない。だがこの世界のアイツに何かあれば、アイツの姉貴が悲しむ。……アイツの髪色と目を見れば異能持ちってのは分かる。そんでもって、刀も持たず、家があって、普通に学生をやれてんのなら、どれだけ姉貴がアイツの為に動いているのか、想ってるのかは察しはつく)

 

 決して、この世界の徒花班日の為にではなく。

 

「話し合いじゃ、解決は出来ないか」

「子供に核より余程タチの悪いモノのスイッチを握らせる馬鹿は居ないだろう」

「言い分は良く分かるぞ。でも男は馬鹿な生き物だからな」

「男……?」

「おっと、この世界じゃ何も言ってないのか」

 

 黒髪の少女は、身の丈に合わない刀を構える。僅かな時間ながらも、赤毛の少女のどうしようもなさを知った黒毛の少女は、せめてこの世界で苦労を掛けられる姉の為に。

 

(姉貴が居る癖に、他の男のケツばかり追いかけるなんて。趣味が悪いぞ)

 

 赤毛の少女は、この少女をマトモな部類だと考えていたが、周りに向ける行動力をただ1人に向ける彼女もまた病的なまでのシスコンであったのだ。

 

「分かっている。だからその前に終わらせる」

 

 初手でムクロが始末されなかったのは、朝霧の僅かな葛藤によるもの。もはや次は無く、朝霧の手が彼に触れれば、火山や宇宙、人の生きていけない環境に飛ばされて死ぬ。

 

「……お兄ちゃんは、ボクが嫌いなんだ」

 

 眼前に迫る危機を一旦は免れ、冷静さを少し取り戻したムクロは考える。そこまでの死を用意されていたとなれば、当然、自身は拒絶されたのだと。

 

 兄を休ませる為にしようとした事は、全て無意味。どころか兄を追い詰める一因となっている。悟れば自ずと幼い精神は軋む。

 

 自分は必要無いと──

 

「──勘違いするなよ、ガキ」

「え?」

 

 背中を向けたまま、素っ気なく少女は言った。

 

「お前の兄貴がお前ごと自分を消そうとするのは、お前が何者かを知らないからだ。じゃなきゃあり得ないだろ、兄が弟を蔑ろにするなんてな」

 

 自身がそうであった様に。それは言わずとも、少年の心は困惑しつつもその言葉を受け入れた。

 

「……そうだ。お姉ちゃんが言ってた。ボクがここに居る事をお兄ちゃんに伝えよう、って」

 

 少年の目に残る鮮烈な赤と言葉は、風前の灯火となった気力の炎を甦らせる。

 

「ボクもたたか……」

「邪魔だ座ってろ!」

「……はい」

 

 辛辣なのは少年が男であるからか、前世の好感度故か。少なくとも今の少年は、赤毛の少女の到来を切に望んだ──あらゆる意味で。

 

 

 


 

 

 

 と、言ってもな。

 

 背中のコイツ(ムクロ)が下手に動いてもさっきのもう1人みたいにカウンターでぶっ飛ばされてザ・エンドって話だ。まあ朝霧の奴は性格的に無闇に殺す様な奴でもないだろうから、アイツに関しては死んでは無い筈。だがこの戦いの最中で救援が間に合うとも思えない。

 

 この世界の俺の血も効くかは怪しい所だ。他人の停滞はアイツじゃどうも解除出来なかったらしいしな。それに拭き取った血はとっくに乾いてカピカピ、この有様じゃ効果の有無を確かめるのはリスキーな上、仮にテレポートされる事を阻止出来ても、彼女自身のテレポートを妨害出来るかは未知数。どの道戦いは避けられない。

 

 稼ぐ時間は十数分でいい、どの道それ以上は保たない。集中力は有限、掛けたコストに見合う結果を残せ。

 

「お前も甘いな」

 

 そう言って目の前から姿を消した朝霧に対し、俺は脱力し目を閉じる。

 

 異能力には意識的に発動するタイプと、無意識に発動するタイプの二種類ある。今回で言えば加速とテレポート以外全員後者だ。つまり、朝霧に触れられたとしてもテレポートが行われるまでには僅かに猶予がある。人間の反射の早さ、0.2秒かそこらではあるが。

 

 だから、やる事はシンプルでいい。余計な信号をシャットアウトし、後は全てを身体に任せるだけだ。

 

 徒花家は、異能力を持たずして異能力者を討つ存在であり、その為に人間としての限界に立つ事がスタートラインになる。

 

 異能力の分劣るのならば、人間のまま化け物になるしかない。

 

 そうすれば、例え直接触れられようとも──。

 

「っ……!」

「やっぱり、姉貴程は上手くやれないな」

 

 0.2秒より早い反射でもって身体を手から引き剥がし、その際の急激な筋肉の収縮をバネに高速で打ち返す。技の名前は聞いた事が無い、恐らく、この世界の俺も知らない。ゲームでは『パッシブスキル②』とだけしか記載がなかった技だ。

 

 それでも峰打ちは成功した様で、相手は熱を冷ます様に片腕をブンブン振って患部に唾を吐き掛けていた。銀髪美人と見た目の儚さに対してワイルドな奴だ。入りは浅いが、効いただけマシだ。

 

「アイツより上品なやり方だな」

「俺は俺だ。あっちの俺とは違う」

 

 舌戦がこのまま続けばと返してみるが、次の瞬間にはまた消える。

 

 勿論技だけでどうにかなる相手じゃない事は分かっている。あの宇宙◯竜ばりのインチキテレポートを相手するなら、ある程度は思考を予測するべきだ。恐らく次は、俺じゃなく──。

 

「っ!」

「そりゃ、そっちを狙うだろうな」

 

 ガキの襟を掴み、こちらへ寄せる。虚空から現れ、手を空振った彼女に再び片手で刀を振るう、が流石に避けられた。

 

「……武器の有無だけではないんだろう。お前のその技量あってのものか」

「まだまだ半人前だがな」

 

 向こうからの賞賛も、今は薄寒い。雰囲気がより鋭さを増した様に見える。俺の身体に傷は無いが、油断すれば一発で終わる。そしてこの戦いに2ラウンド目は無い。とんでもないクソゲーだ。

 

 そして俺は手札は晒した。ここからは只管にジリ貧だ。頼むから、早く来てくれよ──この世界の俺。

 

 

 


 

 

 

 あの変態暴力教師の罪状を増やしてはいけない。ただでさえ法に裁かれてないだけの状態なのに、拉致まで積み重ねたらいよいよ明日は塀の中だ。

 

 新学期早々『諸事情により朝霧先生は退職されました』なんて生徒会長のスピーチを響かせてはならない。そんな事をすれば男子諸君が悲しみに包まれてしまう。俺も元男子として、これは阻止しなければ。

 

「……っふぅっ!」

 

 なんて余計な事でも考えてないと、意識が飛んでしまいそうだ。頭の中じゃ既に天使パンピーと悪魔パンピーが寝るな・寝ろと言い争っている。今の俺が向こうに辿り着いたとして、何が出来るか。

 

 何も出来ないのだとしても、行かなきゃならないと思うのはそうさせた責任があるからだ。思わせぶりな態度で裏切るなんてのは俺の嫌いな所業だ。見せたなら、張りぼてだってやり切るべきだろう。パッケージ詐欺はノーセンキュー、チェンジなんてさせないさ。

 

 鈍くなる足取りに喝を入れて、また走る。が、足がもつれて躓いた。

 

「っ、とととっ!?」

 

 しかし、倒れ掛けた身体は地面に辿り着かない。俺の身体は一本の手に支えられていた。顔を上げると、そこに居たのはマドっちだ。その背中には、蝙蝠みたいな羽が一対生えている。また異能力が進化したらしい。土壇場でどこまで突き抜けていくのだろうか、このおっぱい眼鏡ちゃんは。

 

「……やっぱり、最後まで付いて行きます」

「はは、マドっち。今ならどんな女の子でもオトせるんじゃない?」

「どういう意味ですか?」

「いや、何でもないよ。マドっち、ひとっ飛びお願い!」

 

 身体に浮遊感が与えられ、俺とマドっちは宙に舞う。胸の圧迫感でやや息苦しいが、これならば。と俺は眼下に広がる街並みに目を向ける。

 

 見つけた。豆粒程のサイズだが、こんな世界で動ける存在はそう居ない。

 

「……居た、あそこだよマドっち!」

「しっかり掴まって下さい!」

「りょーかい!」

 

 腰と背中を掴む力を強めると、マドっちは急降下し始める。風圧で息をするのもやっとだが、その甲斐あって彼我の距離は見る見る内に縮まっていく。乾きそうな目を見開き、俺はタイミングを測った。

 

 人影を十二分に視認できる距離に来た時、先に俺に気付いたのはパンツちゃんだった。僅かに顔を空に向けた後、また戻す。それだけだったが、何となく分かる。それは俺自身であるからか。

 

 テレポートを刀一本で捌き続ける彼女の動きは尚変わらず、凄まじい精度の防御だ。前に俺がムイちゃん先生と戦った時は、ほぼサンドバッグ状態だったというのに。

 

「よ〜し、マドっち。そろそろ降ろしてくれるかな?」

「ちゃんと、無事に戻って下さいね。じゃないと……」

「心配ご無用、パンピーちゃんを舐め舐めしないでよ」

「……分かりました!」

「じゃ、行ってきます!」

 

 最後に強く抱きしめると、マドっちは俺の身体から手を離した。

 

 空中に放り出された身体が放物線を描きながらムイちゃんの頭上に落ちていく。月に照らし出された影が彼女にかかった時、俺と向こうの目が合った。

 

 俺は音も無く口を開いては閉じる。ただ一言『よろしくね』と口パクで伝えた。受け身を取るつもりはさらさら無い。ただ先生を信頼して、任せたのだ。

 

「馬鹿め……っ!」

 

 やはり、ムイちゃん先生は落下点で構えていてくれた。俺の身体とムイちゃん先生の身体はくんずほぐれつし、ゴロゴロ砂の地面を転がっていく。

 

 天地がひっくり返り回る感覚が収まった時、俺の身体はムイちゃん先生の両手の中にあった。

 

「やっぱり、ムイちゃんは先生だよ」

 

 俺は目の前で苦い顔をした彼女に笑顔でそう伝えた。彼女は敵じゃない。勘違いか何が起きているにせよ、彼女が生徒を見捨てるとは思っちゃいない。

 

「……お前という奴は」

「ちょっと! それはパンピーの台詞だよ! 勝手に先走っちゃってさ! 少しは訳を聞かせてくれても良いよね?」

「お前には、関わりない事だ」

「あるよ、だってパンピーは、クロ君の友達第一号に立候補したばっかりなんだから!」

 

 問答無用でテレポートして逃げないのは、負い目の様なものがあるのか。しかし、俺は利用出来るならなんだって利用する。

 

「だったら諦めろ。お前には奴と縁が無かったのだと……」

 

 禁忌の呪文だ、それは彼女にとって闇の歴史。ウェディングドレスで未成年の主人公に婚姻を迫る、そんな変態の所業を。静かに唱えた。

 

「ウェディングドレス、婚姻届、従兄弟……」

「……っ!? まて、お前は何故それを!」

 

 彼女の白い肌が一瞬で紅く染まり、次の瞬間には真っ青になっていた。クールビューティーなムイちゃん先生も、流石にこの事は堪えるだろう。

 

「むっつりムイちゃん、どうする?」

「……分かった。話す、話すからそれは秘密にしてくれ」

 

 普段なら拳の一つでも貰っている所だが、流石にそうする訳にもいかないのか、俺の言葉にムイちゃんは渋々従ってくれた。気分は相手の弱みにつけ込み好き勝手する竿役だ。最も、そんな連中は相手が振り切れたら終わる奴らだ。調子には乗らない、乗ってはいけない。

 

 それはそれとして、先生と呼んだ事を撤回したい気持ちに襲われる。

 

 パンパンと、砂を叩きながら立ち上がる。一度弛緩した場の空気に、二人とも構えを解いた。結構結構、俺が来た時点で続けてもロクな事にならないし、させる気もないからな。

 

「パンピーが来るまで耐えてくれてありがとう、パンツちゃん」

「ったく、ふざけた呼び方しやがって」

 

 ふんと鼻を鳴らすパンツちゃんには、目立った傷は無い。徒花家の技をしっかり受け継いだパンツちゃんは、俺とはまた一味違う。あり得た未来としては、前提がかなり違うけれども。パラクロ君は、ここに居ないって事は多分飛ばされたな、時間が止まった世界なら流石に死ぬ様な目に遭ってはいないだろうけど、少し不安だ。

 

 俺がニコニコしていると、パンツちゃんは刀を立てて片膝を立てて座る。ガサツなフリして繊細なパンツがモロ見えである。多分、姉の趣味だ。

 

「クロ君も! さっきぶり、元気してたかな? 浮かない顔してるけど」

「……お姉ちゃん」

 

 クロ君も無事だ。けども目が上手く合わない、何かが起きた様ではあるが、一応は間に合ったらしい。まったく最近は忙しい事ばかりだ。この前も自転車で走り回って、今日だって。このままじゃほっそりとした華奢な足がゴリゴリのマッチョになってしまいそうだ。

 

「で、ムイちゃんは、何があってクロ君を?」

「始末を付けに来た、それだけだ」

 

 格好付けてムイちゃんはそう言ってるが、さっきの秘密の事を思うと途端に悲しく見えてくる。でも、分かってる、大人は見栄も大事だと。曖昧にはぐらかして、遠ざける事も。

 

「それだけ? 騙し通すなら、もっと和かじゃないと」

 

 流石に態度が露骨だ。何か良からぬ事をしたっていうのは言葉無くとも一目で分かる。

 

「兄が弟を殺そうとした。そんだけの事だ」

 

 黙り込むムイちゃんを見ていたら、耐えかねたのか後ろからパンツちゃんが答えてくれた。

 

 兄が弟を……そりゃ大変だ。確かに、俺の兄弟姉妹がNTRをリアルに実行する様なヤバい存在になってしまったなら、そんな事をほんの少しだけ考えるかも知れない。最も、この世界じゃそんな兆候はない。寧ろ一途に兄を思うちょっとヤンデレな可愛い弟君だ。

 

「えぇ?! クロ君をシロ君が!?」

「白々しいな、お前も何となく理由は察しはしているだろう」

「……だね。流石に石より鈍感なパンピーでも分かっちゃうよ」

 

 過ぎたる力。これまで色々な異能力を見て来た。催眠、金属操作、薬物生成、テレポート、挙句に可能性を呼び出したりインキュバスらしい事が出来る、なんて無茶苦茶なモノまで。出会った子たちの殆どは自分の力に苦しんでいた。満たされてない子に惹かれるタチだからなのかも知れない。

 

 そんな風に自分自身ですら恐れる様な力が他人の手に渡ったら? 恐ろしいに決まってる。無理もない話だ。それを防ぐ手段があるか無いかも分からないと来た。誰かに後始末を頼むのは、寧ろ理性的な判断と言っていいかも知れない。最後まで仕事熱心、社畜の鑑だ。

 

 ──けどな。

 

「それを言って、クロ君は納得する訳ないよ。していい筈もない」

「何故かも知らず殺されるのもまた理不尽だろう」

「理不尽って、未成年を人生の墓場に送ろうとしたムイちゃん先生が言っちゃう?」

 

 原作で、ムイちゃんは推定クロ君にボロカス言われながら犯されていたのを思い出す。『クールぶって中身はヘンタイ教師』とか、『暴力教師』とか、『臆病者』や『無能』とか……今のクロ君はきっとそんな事は言わないだろう。今の時点で、遥かにクロ君は良い方向へ進みつつあるのだ。

 

「今じゃ、ダメなのかな」

「今だからこそだ。ヤツの力を他者が振るうとなれば、私の古巣の連中も黙っていない」

 

 古巣とは『異能力犯罪対策課』の事を指しているのだろうか。あそこは原作でも設定にしか語られないフレーバーテキストな存在だった。どんな所かと言えば、徒花家の様に悪事を働く異能力者を取り締まる対異能力者集団の事だ。差異は構成員が無能力者か異能力者かくらいだろう。

 

 余談だが、俺の異能力に目を付けて地味に囲い込もうとしていた組織でもある。今は姉が牽制してくれているおかげで勧誘もされず過ごせている。

 

「……そっかぁ、なら仕方ない。なんて、ならないよ」

 

 確かに、時間停止出来る異能力なんて、エッチな目的以外だろうが幾らでも悪用出来る。しかしだ、散々都合良く働かせて、危うくなれば殺そうとする。そんな組織のどこに大義があるのか。終身雇用なんて夢は見てないが、せめてその労苦に見合うだけの扱いとやらはあるだろう。

 

「クロ君は、納得出来る? こんな終わり」

「ボクが、ボクが皆の事を傷つけたから……ボクが悪い事したから」

 

 声を掛けた彼は項垂れていた。今になり、何をして来たか冷静に考えてしまったのだろう。それがどこまでも自身を追い詰めている。叱られた子犬の様に居た堪れない雰囲気を帯びた彼に俺が出来る事はなんだろうか。

 

 今の俺はどうしたって彼の人生の部外者でしかない。だったら仕方ないと諦めたら、騒いで帰っただけの道化だ。

 それに、怒るだけ怒って、泣くだけ泣いて、そんで終わる人生なんてあんまりじゃないか。

 

 最初からそうだ、俺は程々に心配性で怖い癖にほっとけない奴の所へ首を突っ込む。悪癖だ、不治の病だ、どうしようもない。口が回り出した。

 

「じゃ、こうしよう」

 

 人は本当なら、簡単には独りにはなれない。それこそたった1人で暗い宇宙に飛び立つでもしなければ。けれど時を止められたのなら、電源をOFFする様に簡単に世界でただ独りになれてしまう。

 

 クロ君もシロ君も孤独になり過ぎてしまったから、幸せを、生きる為の執着を見失ってしまったのかも知れない。そんなショタに幸せを()()()()()

 

 

 

「──今からパンピーは、クロ君とシロ君の()()()()()になるから!」

 

 

 

 俺に出来る事は、そんなに無い。無いからこそ、選んだ選択肢一つに突き進む事が出来る。

 

「何を、いきなり」

「何って、お姉ちゃんだよ! パンピーが! お姉ちゃん!」

「……本気か?」

 

 パンと叩いた平たい胸の音がよく響く。手を差し出されようが、されまいが、強引に引き上げろ。ちょっとくらい傲慢でないと、相手の謙遜に押し負けてしまう。

 

「本気だよ。パンピーは」

「それはつまり、ヤツの監視役になるという事だ。もしもの責任を考えれば、到底負担に吊り合う仕事ではないぞ」

()()()()()()

 

 そう言ってのけると、ムイちゃんが目を見開き僅かに怯む。拳じゃマトモに怯ませた試しがないのに、珍しい事もあったものだ。

 

 そして俺は心中で姉に土下座する。学生の本分は勉学と言うが、今の俺は停学真っ最中、勉学すらままないこの状態、もはや姉のヒモである。ヒモの身で更に迷惑を上乗せしようとしているのだから、救い様の無い阿呆だ。

 

「なん、で」

 

 と、さっきから声が聞こえないと思っていたら、クロ君は絶句していた。……確かに、突然他人が自分のお姉ちゃんを名乗っていたらこうもなるか。もう少し配慮すべきだったか。配慮の仕方なんて俺の辞書にはほぼ載っていないが。

 

「今回の事で傷モノにされたのはパンピーだけ。つまり、パンピーが認めなければ事件も無いって事。でしょムイちゃん」

「お前と言う奴は、何に拘っている」

「そう言うムイちゃんこそ、窮屈で仕方ないって顔してるよ」

 

 エロゲの世界に倫理も道理もへったくれも無い事くらい、誰だって分かってる。けどもだ、毛程の慈悲まで無くした訳じゃない。エロゲにおけるロリキャラが成人している旨の記載程度の存在感はある。

 

「どうしてもムイちゃんが力尽くでそれを止めるって言うなら、退かないよ、パンピーは」

 

 大人なんだろ、それを信じさせてくれ。俺だけじゃない、この子達にも。

 

「……シロ君の事、ムイちゃんの方が知ってるよね」

「ヤツの事は、今関係無いだろう」

 

 苦虫を噛み潰した様な表情で彼女は言う。ムイちゃんの過去は知らない。それでもシロ君みたいな真面目人間との相性は悪くなかったんじゃないかと俺は思う。

 

「ムイちゃんは、シロ君の事は知っててもクロ君の事は知らないよね」

「何が言いたい」

「クロ君は、お兄ちゃんを、シロ君を助けたい一心で表に出てきたんだよ」

「兄? 奴は弟が居るなんて一言も──」

「クロ君は、シロ君の(ココ)に居るもう1人の存在。シロ君がオーバーワークで駄目になりそうだったから、どうにかする為に現れた。だよね、クロ君?」

「でもボクは」

 

 目を伏し、言い淀む彼に、俺は言う。

 

「そうだよ。パンピーじゃ無かったら『めっ』じゃ済まなかったかも。でもパンピーだからね。……それよりも、シロ君の事を大切にする人が居なかったが今回の原因だよね」

「──それは」

 

 俺はどちらかと言えば、事の終わり際に現れた存在だ。最初からシロ君の事を知っている人が彼に何をして来たか、そんな物は知らない。

 

「ムイちゃん先生。わがままばっかりごめんね」

 

 もしかしたら、シロ君の自分を顧みない性格をどうにかしようとした人も居たのかも知れない。けどこうなっている。だから棚に上げて俺は言っている。誰かがズルい真似をしなくちゃ、この事件の終わりは来ないからだ。

 

「なるんだよ。今からでも二人を大切にする人に。まとめて笑顔にして、ハッピーハッピーにね」

 

 頭がお花畑と思われているかも知れない。だが知った事か、頭の花畑からとっておきの一本をプレゼントするくらいに開き直ってやれ。

 

 帰ってくる言葉は無い。彼女の闘気はすっかり萎み、その目は焦点も合わず、ブラブラと揺らいでいた。

 

 白黒ついた。いや、赤白ついた。

 

 ついに言葉すら発さなくなった彼女に俺は、もう何も言う事はない。振り返り、黙って俺を見上げるクロ君へ手を伸ばす。

 

「取るか取らないか、それはクロ君と……シロ君に任せるよ」

「ありがとう、お姉ちゃん」

 

 クロ君の右手が伸ばされ、俺の手を掴む。

 けれど、俺はその手を引き上げない。いや、引き上げられない。

 

「お、お兄ちゃん、どうして……」

 

 彼の左手が、地面を掴んでいたからだ。

 それはつまり、もう1人はまだ納得していないって訳で。

 

「……え? わ、分かったよ、お兄ちゃんがそう言うなら」

 

 そして次の瞬間、彼の瞬きに合わせて表情が変わった。来たか、やっと。

 

「──居ましたよ。大切にしてくれた人は」

「シロ君」

 

 彼の表情が変わる。幼さが抜け、怜悧さを帯びた青年の様な表情に。

 

 どんなタイプの二重人格か分からなかったけど、ますます分からなくなってきた。でもそれは今いいか。ようやくクロ君じゃなく、シロ君からも話を聞ける機会を得たのだから。

 

 俺の手から、感触が抜け落ちる。彼の視線は既に俺の方には向いていない。

 1人で立ち上がったシロ君は、俺の隣をすり抜け、呆然と立ち尽くすムイちゃん先生に歩み寄る。

 

「お前は、在代か? ……すまない、私はお前に何も出来なかった。それどころか、お前から逃げてばかりで」

「確かに、朝霧先輩は僕に何もくれませんでしたけど。……想像出来ますか? 停滞した世界の孤独を。どこまでも自由なのに、息が詰まりそうな世界を」

「やめてくれ、私はもう先輩なんかじゃない」

 

 ……俺も経験したから、何となくシロ君の事は分かる。ただ時が止まっただけの世界、けれど何も感じないんだ、ビルの合間を吹き抜ける強い風も、虫のさえずりも、人の視線も。最初は全能感に支配されそうだが、あの世界で殆どの時間を過ごすとなれば、どこまでも気が滅入りそうだ。

 

「分からない。私にはお前の苦しみも、悲しみも分からなかった。私が気付いていればこんな事には」

「もう一つ、想像出来ますか? 停滞した世界でどれだけ遠くに旅立っても、時が流れ出したとき、必ず隣に貴女が居てくれる事を」

 

 何か良さげな雰囲気になって来たけど、血が抜けて少しぼ〜っとして来た。仕方ないからパンツちゃんの膝枕を借り……痛っ、えっ、そこは姉貴専用? めちゃくちゃシスコンじゃないの君。

 

「止まった世界でどれだけ先に進んだって(ズルしたって)、貴女は必ず僕に追い付いてくれる。それだけで、僕は独りじゃなかったんです」

「……やめろ、何も出来なかったんだぞ私は、下手な慰めなんて」

 

 どっちがヒロインか、ヒーローか。分かんないもんだ、ただ今だけは、彼にこそ会話の主導権があるってのは分かる。ここばっかりはKY極まる俺でも口出し出来ない空気が流れてる。

 

「だが私は逃げた。お前を独りにした」

 

「否定ばっかりだねムイちゃん先生」なんて小声で言ってると隣から(パンツちゃん)のビンタが飛んできた。「黙ってろ」って、めちゃくちゃに怖い目つきで。もう黙っちゃったね秒で、いや鯉口切るのは反則でしょ。

 

「……ですね。だから僕は、込み上げる孤独を消そうとしてより仕事に打ち込んだ。その上、矢崎さんの事もあり、余計に(りき)んでしまったんです」

「だから、もういい。私が悪い事は分かってる」

 

 まるで懺悔だ。罪を告白する咎人の様に、はたまた怒られた後の子供の様に、普段の様子からは想像も出来ない程しおらしいムイちゃん先生の姿に、俺も流石に言葉を失っていた。

 

「僕は貴女に悲しい顔をして貰う為に言ったんじゃないんです。この中に居る彼の正体に気付けなかった事も、解決を徒花さんや、朝霧先輩に押し付けようとしてしまった事も、僕のせいなんですから」

「それはっ」

「すいません、少し話が逸れましたが、何が言いたいかと言えば……」

 

 何となく、俺には続きが読めた。男が饒舌になる瞬間なんて限られてる。趣味の話をする時か、仕事の愚痴を言う時か、後は──

 

「大好きな貴女に、そんな顔をして欲しくないんです」

 

 だろうと思った、なんて無粋な言葉は口にしない。

 

「っな、何を言い出すんだお前は!」

「……っ、ま、間違えました。これは別にそんな下心で言った訳じゃ」

 

 俺は全くシロ君の事を知らない。あり得る可能性のひとつにはこんな結果だってあったんだろう。俺はあくまで、シロ君をダシにしてクロ君と友達になっただけ、そしてシロ君はこの一件をダシにしてムイちゃん先生に告白した。お互い様だ。

 

()と彼女には謝らないといけませんね。……謝って許されるか、それは分かりませんが」

 

 小声で何か彼が言っていたが、俺には聞こえなかった。それより、彼の言葉にどう答えるのか、それが気になっておちおち気絶してられない。これがこの事件のラストカットになる事は間違いないからだ。

 

 もしクロ君が誰かを手に掛けていたら。

 もし俺が死んでいたら。

 もしムイちゃん先生を動ける様にしていなかったら。

 もしムイちゃん先生がクロ君をどうにかしていたら。

 

 悲劇のたらればをぶっ飛ばした先の光景がこれであるのなら、俺が身体を張った甲斐もなくはない。

 まあ、よりによってお相手がアレな人なのは、ご愁傷様と言うかなんと言うか。

 

「シロ君! ここまで来たんだよ! 最後までいっちゃってもバチは当たんないって!」

 

 どれどれ、おじさんがお節介を焼いてやろうじゃないか。女の子が弱った時にこそ、男の子は魅せないと。

 

「あ、徒花さん!?」

「玉砕したって、パンピーが慰めたげるからさ! これ以上ないでしょ? 君の世界の中(停滞した時間)で、()()()()()()()()()()だからこそだよ!」

 

 さながらヤジを飛ばす観客だ。じれってぇなと背中を押す野暮なんて、普通はしないが今回は別だ。ケツを蹴られないと踏み出せない奴もいる。

 

「ええ、分かりました。……朝霧先輩」

 

 覚悟を決めた様子で、つま先を伸ばしながらシロ君はムイちゃん先生の首にぎゅっと抱きつく。

 

「やっぱり先輩、好きです」

 

 下がった彼女の耳元で、彼は言った。

 

 ……おいおい、恋のAくらいまでは行くと思ったんだがな。流石にそこまで行くにはピュアだったか。光る円盤(げんさく)の推定クロ君の方がもっと先まで行ったぞ。

 

 対してムイちゃん先生は黙ったまま。けれど怒ってる訳じゃないだろう。多分、あれは──

 

『ど、どうすればいい。徒花、教えてくれ』

 

 ──目でそんな合図を送ってくる彼女。拗らせている彼女は、更に拗らせている様だ。まるで童貞の様なリアクション、今まで攻めてるばかりで攻められた事がない彼女に、建前もへったくれもないショタの純粋な愛情表現は2倍弱点だったらしい。純粋な好意を向けられる人間でない自覚でもあったのだろうか。

 

『勿論、コレだね!』

 

 輪っかにした指に、人差し指をぬぽぬぽとする。言わずもがなアレのハンドサインだ。彼女は宇宙の果てを見た様なリアクションをしていた。案外初心なのだろうか。

 

 だが意味を理解したのか次の瞬間には

 

『無理だ無理だ無理だ私には!』

 

 と壊れた扇風機の様にガクンガクンと首を振っていた。日頃の恨みだ。この笑顔もついでに受け取ってくれ。

 

「……答えは、すぐでなくても構いませんから」

 

 そう言うと彼は手を放した。放心状態となった彼女を背に、シロ君はこちらに歩み寄って来る。

 

「久しぶりだね、シロ君?」

「……ご迷惑をお掛けしました。本当に、何から何まで」

「あれ、全部知ってたの?」

「いえ、さっき()が、ムクロが教えてくれたんです」

「一瞬で? ……ああ、加速の力を使ったの?」

「はい、ムクロから全て聞きました。僕の身に起きていた事、そして僕の為に起こしてしまった事を。良かれと思って、僕は皆を傷つけてしまった」

 

 こうして話せば、やはりクロ君とは違うとつくづく思う。クロ君の方がずっと素直で話しやすいだろう。だがこういう所はクロ君と同じだ。もしクロ君とシロ君が同時に表に出ていれば、庇い合いが始まっていたに違いない。

 

「面識が無くても、兄弟って似ちゃうんだね。パンピーとは大違いだよ」

「そう、見えますか?」

「うん、その下がりやすい頭なんて、すっごくよく似てる」

「うぅ、それは反省しています。この卑屈さが、今回の遠因でもありますから」

 

 彼はそう言っているが、今回の事件は、独りだったから起きてしまった事だ。クロ君もシロ君も、孤独故に独りで動くしかなかった。今回ばかりは俺もスタートラインは一緒だったが、幸運が味方してくれた。コトちゃんにマドっちが居なかったら逆転の目を掴むのは困難だったしな。

 

 そう考えれば、クロ君も運がなかった。いや、運があったからこそ、止まれたのか。

 

「ま、落ち込むのはいつだって出来るでしょ? まずは皆無事な事を喜ばないとさ」

 

 1名はまだ行方不明だが、多分足に困る事は無い筈。じきに帰って来る、来ないと困る、まだ別れの挨拶も済ませてないのに。

 

「それも、そうですね」

「……で、シロ君の問題はどうしようか」

 

 クロ君の暴走を止められた訳だが、シロ君の力が唯一無二である事から生じる過労死案件については、流石に俺だけではどうしようもない。パラクロ君の様に増やせたら良いのだが、そう都合の良い話は毎度起きる訳じゃない。シロ君が重宝されるのは、どんな離れた場所でも一瞬(シロ君以外にとって)で到着出来るから。

 

「それは、私がどうにかしよう」

「……あ、年下に告白されてフリーズした人だ」

「徒花、お前は後で補習だ」

「理不尽な!?」

 

 そこで、ムイちゃん先生が動いた。確かに、条件としてはこの上なくピッタリの人材だ。

 

「……在代、その、答えはまだ出せない。暫く考えさせてくれ」

「はい、僕はいつまでも待ってます」

「だがその代わりと言ってはなんだが、お前の仕事を私も熟そう」

「それでは、今の教職は?」

「辞めはしない、非常勤講師になるだけだ。その位は古巣に頷かせてみせる、力で言う事を聞かせるのには慣れているからな」

 

 なるほど、非常勤。おい待て、まだ教職を続けようとしているのはまさか、主人公(アレ)が狙いじゃないだろうな。

 

「あの、ムイちゃん先生、流石にキープは……」

「お前は私を何だと思ってるんだ? お前たちの事は1年生から見ていた。今更投げ出すのもどうかと思ったまでだ」

「……えっ、ムイちゃん先生にそんな責任感が?」

「徒花、お前は後で体罰だ」

「教師が体罰宣言なんて前代未聞だよ……」

 

 そして、俺の頭の上に手が伸ばされる。

 嘘だろ体罰即実行か。折角良い雰囲気だったのに。

 

「ちょ、まだパンピー悪い事してな……ん?」

「お前には」

 

 だが、痛みとかそんなものは感じない。寧ろ、撫でている様な。何だろう、凄く鳥肌が立つこの感覚。

 

「今回、お前には世話になった。お前が、私と在代と向き合う機会を与えてくれた」

「世話になったって思うなら、もっと甘やかしてくれて良いんだよ〜?」

「あぁ、何をすれば良い」

「うわ気持ち悪いっ!?」

「分かった、そんなに言うなら愛の鞭とやらを与えてやる」

 

 その拳に含まれている愛情は何パーセントだ。100%じゃないジュースの果汁程度にも入ってないだろそれ。

 なんて、ようやく元に戻って来た。だから早く手を離してくれたまえよムイちゃん先生。……先生? 

 

「……待て、まだだ」

「もしかして、ムイちゃん先生、照れてる?」

「照れてない」

「なら何で顔を上げさせてくれないのかなぁ?」

「……」

「あ〜っ、やっぱ照れてるんだ! あっ、痛い!」

 

 アイアンクロー辞めて、中身出ちゃうから。なんて風にわちゃわちゃしてる内に、顔の赤みが引いたのか、彼女は手を離してくれた。

 

「感謝している、お前には」

「うん、頑張ったからね。()もさ」

 

 気付けば、公園の入り口には3人の人影があった。マドっち、コトちゃん、それにパラクロ君も。

 俺と目が合ったマドっちとパラクロ君は笑顔を、コトちゃんはツンデレさんらしく、目を逸らして空を見ていた。

 

 はぁ、これで本当の本当に丸く収まりそうだ。

 

「ああ、本当に感謝している。皆にも」

 

 ムイちゃん先生は、たっぷり2秒、深々と頭を下げた。マドっちとコトちゃんは、見慣れない先生の姿に目を丸くしていた。良いリアクションだ。

 

「……それじゃ、明日は停学も明けることだし、パンピーは早寝早起きする良い子ちゃんだから、これで失礼するね。後、言うタイミング逃しちゃったからさ、クロ君には、良かったねって伝えておいてよ」

「ああ、在代から伝える様に言っておく。しかし、お前はどんな時もお前らしいな、ある意味では、見習うべきなのかも知れないが」

「ふっふ、パンピーに成れるのはパンピーだけ。パンツちゃんだって、このパンピーには程遠いし」

「近くて堪るか、俺は俺だ」

 

 そして、俺はパンツちゃんに一言。

 

「いきなり呼び出して、巻き込んで、でも手伝ってくれて、ほんっとうにありがとう。徒花班日ちゃん」

「別に、俺はやりたい様にやっただけだ。お前だってそうだろう?」

 

 最後までデレのない子だった。自分自身にデレられても微妙だけど。

 

「流石は自分自身だけあって、よく分かってるね。……じゃあ、これ以上言うのも無粋ってヤツだよね。おかげで助かったよ、さよなら」

「ああ、じゃあな」

 

 そうして、パンツちゃんは背後から近付いてきたコトちゃんの手に触れられると、黒い影になって俺の影に呑み込まれて行った。

 

「ムクロキザム君。君が居なかったら、パンピー達はきっと皆を助けられてなかった。こんな結末を迎える事も無かったよ。ありがとう」

「礼を言うのは、こっちだよ。別の君とはいえ、また逢えて、力になれた。嬉しかった。別れるのは少し寂しいけど……さようなら」

「うん、パンピーは君も忘れない。さようなら、ここじゃないパンピーの旦那さま」

 

 笑顔を浮かべ、パラクロ君もまた、影となってクロ君の元へ帰っていく。彼らが、本当にただの影なのか、それは俺には分からない。設定を作った製作者ですら、はっきりとは分かってない筈だ。けれど、俺たちと過ごした僅かな時間でも、悪くなかったと思ってくれたのなら、いいと思う。

 

 これで全てとは言わないが、カーテンコールの時間だろう。

 

「さっ、お若い二人のお邪魔にならない内に帰ろ、二人とも!」

「ちょっ、押さないでよ!」

「ま、待ってください徒花さ〜ん!」

 

 男は最初になりたがり、女は最後になりたがる。つまりTS転生者は男であり女である為、ある二人の間に挟まりたがる存在な訳だ。このままでは俺がシロ君とムイちゃんの間に挟まってしまう。そんな事、恋愛マスターパンピーにはあってはならんのだ。

 

 それに、さっさと帰らないと、()()()が来るからな。

 

 ──今宵は、良い夢が見られそうだ。




アリ(有) シロ(白) キザム
↓     ↓
ム(無)  クロ(黒) キザム

実はノリで付けたらなんか良い感じに裏っぽい名前になってました。

ここまで読んで下さりありがとうございます。1年近く掛かりましたが、次はようやくパンピーの推し竿役を出せそうです。

後、感想、ここすき、評価、色々お待ちしてます(小声)。

この作品が好きで読んでる人に聞いてみたい(興味本位)。何がこの作品で好きなポイント?

  • ストーリー
  • セリフ
  • 地の文
  • 設定
  • キャラ(パンピー)
  • キャラ(竿役)
  • キャラ(その他)
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