NTR系エロゲ世界を乙女ゲー世界に変えたTS転生者 作:ダイコンハム・レンコーン
ある日の事。
『たすkて』
スマホに飛び込んで来た物騒な文言に、俺は慌ててジャケットを掴み飛び出す。差出人は……マドっちか。
『マドっち? いまどこ?』
『ここです』
貼られたマップのスクリーンショットを頼りに、俺は彼女の場所へ向かう。俺の中で彼女の立ち位置は微妙な所ではあるが、ヒロインと竿役の中間くらいに位置している。考えとしては、竿役に狙われないとも限らないと俺は思ってる。
そんな事を考えている内に、目的地へ辿り着いた。人通りの多い、高層ビル街。流行りの服を着込んだ人々が色んな顔をして歩いてる。その中に彼女の姿はない。何が起きたか分からない以上、騒ぎ立てるのはマズい。マップはビル街をやや外れた裏通りだ。急ごう。
……考えてみるか。彼女に起き得る事を。
1つはNTR。いや誰とも寝てないだろうがな。
あんな文学少女めいた雰囲気の女の子、エロゲならNTRか図書室でのアブノーマルなプレイをされるイメージしかない。都市部だから後者は無しとして、NTRモノであんなストレートに助けを呼ぶかってのもある。マドっちの体質の事もあるし、正直言って可能性は低いな。一応ゲームの世界だからってこんな事を考えなくちゃならんのは虚しいぜ。
2つは普通に事件に巻き込まれる。普通に、って何だって話だが、普通に考えれば異能力者によるNTRの被害より異能力者による各種犯罪被害に遭遇する方が可能性としては高い。
3つは彼女の異能力によるものだ。正直言って、これが本命だ。
彼女の異能力・インキュバスは、インキュバスっぽい事が出来るってかなりフワッとした内容だが、性能は正に女殺しとでも言うべき力を持つ。元々の状態、ACT-1……いや辞めておこう。
初期状態では、本人の意思に関わらずHなトラブルが起きるラッキースケベと股間のイチモツだけだが、前者は女の子であれば絶対にどこかで隙を生み出す事が出来るし、
……まあ、予想は何となく出来てるし。出来てるからこそ色気もクソも無い着の身着のままの格好で飛び出した訳だが。
路地裏を探し歩くこと少し。俺は暗がりでしゃがみ込むロングスカートの女の子を見つけた。
「……良かった」
口をついて出た言葉に、彼女は反射的にこちらを見る。そして、目が合った。まるで昔のメロドラマのワンシーンだ。打ちひしがれる彼女を探す彼氏さん、彼女を見つけた彼氏は安堵して、彼女を抱きしめる。そんなどこかで見た様なデジャビュ。俺もマドっちも、そんな大人の恋はしてないだろうに。
「あ、あだばなしゃん……」
「あ〜、女の子がそんな顔しちゃダメだよ」
酷い顔だった。涙と鼻水でドロドロの顔だ。花粉症かってくらい。とりあ持って来たポケットティッシュで鼻をかんで貰って、ハンカチで涙を拭いておく。
その最中で、俺は彼女のロングスカートの腰の辺りを見た。別にこんな時に性欲を持て余した訳じゃない。膨らみがあるか無いか……それを確認したかった。結果、それは
出来るだけ遠慮した様子で、俯く彼女に尋ねてみる。
「マドっち、話したくなかったら良いんだけど……」
「ぅっ、徒花さんになら」
……そうして彼女は語ってくれた。
俺の顔を見ればある程度インキュバスの力に由来する興奮を押さえられる事に気付いた彼女は、ずっと諦めていた都市部でのショッピングに出掛けた。けれども、女性が多過ぎて、俺の事を考えるにも限界が来てしまったのだ。ロングスカートですら誤魔化せない程にそそり立ってしまったイチモツが大人しくなるまで、彼女は路地裏に居た訳だ。けれども一向に収まる気配はなく……今に至る、と。
俺は美少女にTSして割と楽しんでる節があるんだが、逆だったら正直言ってどうなのか、分からない。俺みたいに楽しめる奴もいれば、ただただ困惑する奴もいるのだろう、程度だ。もっとも今起きているのはTSとは別ベクトルの話だろう。
「そっか」
「ごめんなさい、徒花さんにまた迷惑を」
「確かに、休日に呼び出されるのはアレだけどね」
休日、出勤、行方知らずの代休……うっ、頭が。それに比べたらマドっちみたいな可愛い子の顔を見られる休日ならお釣りが来るくらいだ。なんて言ってもお世辞にしか聞いてくれないだろうから、あえて言わない。
「……ごめんなさい、私、ダメなままで」
「おっと、それは聞き捨てならないよ」
俺は、また泣き出しそうなマドっちの手を取った。
分からない、けれども俺が現状への特効薬と言うのなら、付き合うのが吉だろう。
「えっ……?」
「行きたいんでしょ、ショッピング? パンピーも付いてくからさ、一緒に行こうよ。丁度欲しい物もあったし」
今の俺は考えて着た服じゃない、だから女の子らしさに欠ける灰色と黒のモノトーンな格好だったが、こうなれば逆に丁度いいかもしれない。髪も邪魔にならない様に小さくまとめてるし、今日は久々に男の子らしく、彼女をエスコートしてみようか。
「その、良いんですか?」
「どうぞ、何なりとお申し付け下さいませ、お姫様?」
ふざけた態度と口調は、罪悪感を忘れさせるのに丁度いい。水鉄砲の様に勢いよく押し流して、なあなあのまま楽しませたら、それで良い。
「何なんですか、その口調……」
「大した事じゃないよ。だってパンピーは今からマドっちの1日彼氏になったんだから」
俺は意地が非常に悪い。男の子を揶揄うのと同じくらい女の子を揶揄うのも楽しくて仕方ないのだから。前世はこんなんじゃなかったんだが、どこで捻くれたんだか。
「いっ、1日彼氏……」
「今のパンピーは、マドっちの彼氏だからね。何だって言ってよ」
「徒花さんに、何でもなんて無理です! 普通にしてくれたら良いですから!」
「ははっ、分かったよ。マドっちが言うなら、ね」
マドっちの下半身は、すっかり収まっていた。まるで、心配事が吹っ切れたみたいに。
「でも、手は離さないよ。マドっちみたいに押しに弱くて可愛い子が1人で居たら、危ない人が寄りついちゃうからね」
元々、この世界で起きた一連の流れに突っ込んでいく事になったのは、友達、カナちゃんの事が心配だったからだ。俺はどうも、ものぐさの癖して他人事は他人事に出来ない難儀な性格をしているらしい。
NTRとか女の子だからとか、そんなの抜きにしてただ友達が心配な俺が居る。若いなあ、と自分自身思いつつも決して悪い気持ちじゃない。青臭くていいじゃないか。
「あ、ありがとう、ございます」
「礼なんか良いよ。パンピーだって可愛い
「……私をそんな風に言ってくれるのは、徒花さんくらいですよ」
そうか? いや、メグっちゃんとかなら……いやあの子、原作では最後ほぼオスみたいな感じに扱ってたな。平時ならそんな事ないだろうけど。う〜む、エロゲ世界は理不尽と無慈悲に溢れてんな。優しさが無いって訳じゃないけど。
「じゃ、パンピーはマドっちの特別ってコトかな?」
「とっ特別なんてそんな!?」
「パンピーだから良いけど、そんな勘違いさせちゃう様な事言ってばかりだと……食べられちゃうよ?」
インキュバスは言うまでもなく食う側だ。けれども、その力が内気な少女にあると言うのなら話は別だ。ある意味、原作のメグっちゃんルートは捉え方次第ではハッピーエンドだ。
二人は幸せなキスをして終了、マドっちは1人のオスとして、彼女と共に歩む事を選びました。
でも、事の始まりは事故でしかなかった。なし崩し的に、ただ衝動のままに流れ着いた先がそこだ。異能力なんて別格の個性がある以上、人と人のお付き合いなんて寛容にならざるを得ないが、それでも彼女にあった筈の女の子の部分……それが無視されたまま終わるのだから、主人公は勿論、マドっちにとっても完全無欠のハッピーエンドとは言えない。
あのゲームの事だし、話が薄くて単純に描写不足って可能性はある。だからこれは、俺の一方的な感想だな。
「ま、一緒に行こうよ。その方が楽しいよきっと」
俺は、マドっちの手を引いて街を歩き出した。
それからは、普通に買い物を楽しんだ。
『こ、これは派手過ぎませんか?』
『えぇ? 似合ってるよ。すっごく可愛い!』
『……恥ずかしいです』
『可愛いよ! そんなマドっちも可愛いよ〜!』
『こ、殺される、徒花さんに褒め殺される……っ』
一緒に服を見て回ったり。
『やっぱり女の子はスイーツだよ! バリバリ偏見だけど!』
『凄い量。食べられるんですか、これ』
『二人なら食べ切れるよ。だってカップルサイズって書いてあったし』
『かっ……?!』
『どったのマドっち? 鳩がレールガン喰らったみたいな顔して』
一緒に甘いものを食べたり。
『屋上に遊園地があるデパートって……どんな時代背景なの』
『どうしたんですか、徒花さん?』
『いや、何でもないよ。思ったより充実してたからさ』
『なら早く行きましょう! 今日はここで魔法少女ゆめ⭐︎ぴり子のショーがあるんです!』
『ちょっ、待って! さっきと全然テンション違──』
一緒にショーを見たり。勿論、ずっと手は繋いで。
──そんな風に楽しんでいると、あっという間に夕暮れが近付いてきた。
「徒花さんが居てくれて、良かった」
「そう言われたら、パンピーも1日彼氏冥利に尽きるね」
最後はもうマドっちのペースだったけど、俺も楽しめなかった訳じゃないから良しとしよう。いやしかし、遊園地のショーも嘗められないな。まさか空中戦まであるなんて、戦闘員もまるで本物みたいな迫力があったりで中々楽しめた。
「それ、まだ続いてたんですか?」
「どうだった? パンピーちゃんのイケ女っぷりは?」
「……何だか、いつもの徒花さんと変わりなかった様な」
「嘘でしょ?!」
なるほど、これが精神が身体に引っ張られると言う奴か。……いや、何か違わないかこれは。
そんな困惑している俺を置いて、一歩前に踏み出したマドっちが俺に振り向く。夕日を背負って立つ彼女の姿は、眩しくて。でもそれは太陽が赤いからだけじゃない。
「その……私を探しに来てくれた徒花さん、凄く、
「っ、マドっち」
挑戦すら億劫になった大人にとって、踏み出す勇気は途方もなく眩しいものだ。どれだけ若ぶっても、心の老いばっかりは隠せない。
「その、徒花さんが良ければ、また今度も」
控えめながらも、自分を自分の意思で主張した彼女に、口が緩む。
「うん、良いよ」
「次は、次はもっと楽しいお出かけにします。私からじゃなくて、徒花さんが……ぱ、ぱぱぱ、パンピーちゃんが行きたくなるくらいに!」
思わず、目を見開いてしまった。若いってのは良い、幾らでも変わっていけるんだから。俺には中々出来ない芸当だ。
「ふ、ふふっ! 期待してるよ! マドっち!」
「はいっ!」
気付いてるか。今日一番の良い顔してるんだぞ、マドっち。
だからどうか、誰かに歩み寄るその気持ち忘れないでくれよ。俺が居なくなったとしても。
──ある日の一幕《参》・完
追記、新アンケート用意しました。パンピーちゃんの深掘りアンケートです。気楽にご投票下さい。この前のアンケート結果は16話『裏と表』に置いておきます。
感想を書くのもちょっと恥ずかしいと言う方々の為にも、ちょくちょくキャラクターのここすきアンケートは用意してこうかと思ってます。
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