NTR系エロゲ世界を乙女ゲー世界に変えたTS転生者   作:ダイコンハム・レンコーン

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バトルとヒロイン

 さて、試験について軽く思い出そう。

 

 異能力調査試験とは、文字通り異能力の調査と試験を兼ねたもので、これは特別な事情がない限りは必ず受けなければならない。それも学校に籍を置いていなくても規定の年齢になれば受ける事になる。まるでエロ同人に於ける盗撮画像レベルで相手への強制力を備えている訳だ。

 それもその筈、変に強力な異能力者が見過ごされて事件を起こしたら問題になる。見過ごされたと言うなら当然個人の問題には収まらないだろう。だからこその強制力……なのだが。

 

「この試験考えた人ってアホだよ! 絶対!」

「……」

 

 少なくとも俺が居なければ幹島ことみっきー君は誰からか認知される前に闇落ちしてたろうし、俺は何だかんだ言って試験をスルーしてしまっている。家柄の問題もあるんだろうが、ガバガバだ。

 

 何より、一番ガバガバだと思うのが試験自体だ。それは説明するより実際にやる方が早い。

 

「みっきー君、行こうよ受付!」

「……ああ、はい」

「目を合わせなよ〜? それとも、パンピーの顔、怖かった?」

「そんな事はない……けど。僕の好きにさせて欲しい」

 

 隣のみっきー君は乗り気じゃない。無理矢理誘ったのは間違いじゃないと思ってるが……少し目線を合わせ過ぎたか。彼自身、そんな経験も無かったろうしな。

 

 信頼は少しづつ積み上げるしかない、か。しゃーなし、ちょっと彼を一人にしよう。

 

「じゃ、パンピーが受付してくるね。学生手帳か〜して?」

「……失くさないでください」

「子供じゃないよパンピーは」

 

 さて、俺の身体的特徴はご存知だろう。俺は背丈が低い、当然ながら、高校生くらいの平均身長をベースとして存在する会場のあらゆる設備は、俺が使用するには困難を極めるのだ。

 

 受付のカウンターはさながら反り立つ壁。だがこれを越えなければ少年との友情は築けない。Myみかん箱でも欲しいところだ。

 

 身体をピンと伸ばし、爪先立ちでカウンターの角の陰から辛うじて顔を覗かせながら、受付の向こうに居る職員に声を掛ける。

 

「すいませ〜ん!」

「本日試験を受験される方でしょうか」

「そうで〜す!」

 

 カウンターの上に座りてえ。が、周りの生温かい視線のせいでそうもいかない。俺ははじめてのおつかいの子供じゃないんだぞ。

 

「……すいません、こちらの受付に椅子を──はい、ありがとうございます」

「ん、お気遣いありがとうございます」

「いえ、仕事ですから」

 

 それを見かねた受付の人は俺に椅子を用意してくれた。ありがたい。

 

「本日の試験は『対人』『対物』『特殊』の3科目の内いずれかとなりますが、どれをご希望でしょうか」

「対人でお願いします。部門は『組み手・ペア』で! はい学生手帳!」

 

 学生手帳、と言うのは生徒のデータが保存された電子端末の事だ。ここには過去の異能力調査試験で得られたデータを元にランク付けがされている。俺のランクは最低のDマイナス、彼はDプラスだった。曲がりなりにもマトモに試験を受けていれば最終的にC帯には入れるからな。基本この試験には合格不合格はない訳だし。

 

「承知致しました。本日の試験官のリストになります」

 

 あのフリスビーの中では、この試験についても一要素として含まれていた。あるヒロインのルートを見る為にはこの試験でそのヒロインを試験官として選ぶ必要があったり、試験で高得点を叩き出すのは隠しルートの条件の1つだったりする。試験官にもランクはあり、ランクはこの時、勝てそうな試験官を選ぶ為の指標だった。ランク差によって選べる試験官に制限があるとかは無い。

 

 ただ、こんな細々とした内容ではなかった。異能力については、まあ千差万別で、それに応じた試験が無ければ不平等だと理解出来るが、逆に配慮が行き過ぎて試験にはつきものの『対策』が難しい傾向にある。そりゃテンプレートが無いのだから。

 

 例えば、炎を出す異能力者が地面に潜る異能力者にアドバイスを残せるだろうか。無理な話である。強いて言えば、試験内容を共有する位だろう。先生は『ここ試験で出るぞ』なんて言わないし、教えてと頼もうが異能力の系統が噛み合わないと満足な回答は貰えない。

 

 だから、強力で数の少ない系統の異能力を持った奴の未来は大きく二分される。見事に力を示し活躍する繁栄の道か、力に振り回され堕ちる衰退の道の二つに。そこそこに成功とか、普通の人生を歩む、なんてのは全くの稀だ。

 

 そんな事を考えながらカタログをパラパラめくっていると、見覚えのある顔が居たので、俺は()()()()彼女を指名する事にした。……なんかデリ○ル嬢呼ぶみたいで興奮するなこのやり方。部屋汚な過ぎて呼んだことないけど。

 

「あっ、この試験官の人にします!」

 

 そして、俺は選んだ。今日のお相手を。

 

 この試験、受験者が自由にレベルを選べてしまう。ゲームでも現実でもこう言うのには上限ってのがあるだろうに。最高難易度クリアで解放とか、下位の資格を持ってないと受験資格が無いとか。こんなんだから俺みたいなアホが取り敢えず()()()()()()でとか言い出すんだぞ。

 

 

 

 

 

「……何で、よりにもよってAプラスの試験官を選んだんですか」

 

 帰って来て試験内容を説明したらみっきー君の顔が見事に強張ってた。目線はまだ頑なに合わせちゃくれないが、文句を言ってくれるならそれはそれで進歩だ。

 

「こんな時でもないと戦えないしねえ、ちょっと最近鈍って来たし」

「僕より低いランクでよくそんな事言えましたね」

「ランクはあくまで()()()()としてのランクじゃん?」

「……?」

 

 軽くストレッチにウォームアップ。彼は冷ややかな態度だが、一度言った事は曲げないのだろう。試験は受けるつもりらしい。

 

「この試験の結果で将来を棒に振ったらごめんね? お詫びにお嫁さんになったげるからさ」

「遠慮します」

「……パンピー以上の美少女をお嫁さんにしようって事かぁ、ハードル高いねえ! パンピー、無謀な夢持つ人は嫌いじゃないよ」

 

「この人、何でこんな自分に自信満々なんだろう……」とかぼそっと言ってたの聞こえてっかんな。自分の才能の一部が異能力、なんてクソ分かりやすい形で出ちゃう世の中だからこそ、そこ以外でアイデンティティを確立出来る自信が大事なのなの。原作(カラス除け)での竿役は基本的に異能力に人生振り回されてる奴ばっかだし。そのくせ自分の能力に酔ってしまったから闇堕ちした後が凄まじかったのに。

 

 そんなこんなで受験予定時刻は迫りつつある。作戦立てないと自分はともかくみっきー君が即落ち2コマ晒しちゃうよな。じゃ、考えるか。

 

「よし、作戦を共有しちゃうよ!」

「作戦? 此方は2、相手は1、普通に前衛後衛で──」

「ダメだね、ダメなのそれ」

 

 今回の相手の試験官は『虚空の魔女』って異名を持った異能力者。彼女もヒロインで、俺達の学校の教師の1人でもある。名を朝霧無移(あさぎりむい)。クールビューティーな銀髪のお姉さん。異能力はテレポート、自由自在に自他含め触れた物を瞬間移動させられる。凄いっしょ? でも時間停止する似非ショタに堕とされるんだよなあ。因みに主人公とは従兄弟らしい。

 

「あの人に距離の概念は無いって思った方が良いよねえ。彼女の意識の届くところ全部1インチ距離なんだよ」

「……何で、そんな化け物を相手にしようと?」

「だって、やるなら歯応えがある方が良いでしょ」

「もう、何て言えば良いのか」

 

 勝ち目は薄い、と言うか無いに等しい。でも折角やると決めたなら……ね。ふふふ、不敵な笑みを浮かべてみれば、視線の合わない彼が首を少し此方に向けてくる。

 

「ただ、コッチにも勝負を一瞬で決められる人がいるでしょ? ──違うパンピーじゃなくて、君だよ、君」

 

 作戦はある。ちょっと個人へのメタが入り過ぎていて褒められたもんじゃないけど。あの人の地雷は知ってるし。

 

「瞬間移動する相手に……目線なんて」

「じゃあ、瞬間移動していない時を狙えば良いんだよ。簡単だね」

 

 原作にあるRPG仕立ての異能力調査試験ミニゲームでは無条件かつ85%の確率で攻撃を回避するパッシブスキルもちのクソオブカスみたいな性能で、主人公の回避率低下させるデバフ技無しじゃ無理ゲーな相手だった。スパ◯ボなら当たる? そりゃ自軍ユニットだけだろう。

 

 けど、そんな相手に蜘蛛の糸みたいな貧弱な策一本で戦うなんて興奮する。苦行は嫌いじゃない。

 

 仮にアクションゲームなら、瞬間移動の前後に露骨な隙があったりするんだろうが──現実はそう都合の良いもんじゃない。どこぞのZで始まりンで終わる宇宙恐竜バリにポンポコやってくるのは目に見えている。

 

「……馬鹿じゃないですか」

「さ、時間が来たよ〜。ボコボコにされても良い思い出ってコトで! はいよろしくぅ!」

「ちょっ作戦は?! 腕を掴まないで……力強いな!」

()()()()()()()会場では壁を背にして、パンピーの側から離れないようにね? みっきー君が最後の仕上げをするんだから」

「ぼ、僕が──?」

 

 それに対して俺は、力任せ。彼がトドメ。それだけの作戦。荒療治だけど、彼に自信を持たせるにはこれが手っ取り早い。困難を共にすれば友情も育めるかもしれない。

 

「受付番号072番、徒花班日(あだばなはんぴ)幹島誘理(みきしまさそり)ペア、行きます」

『受験対象者を確認、ロックを解除します』

 

 試験区間へ通じる扉のロックが開かれる。長い通路に枝葉の様に伸びる左右の部屋、振られている番号を確認しつつ、俺は彼の手を引いて進む。

 

「クソっ、虚空の魔女強過ぎんだろ……」

「6人掛がりでボロ負けとか恥ずいんですけど、マジ」

「あんなのどう対処すれば良いんだよ」

「5年間無敗なんだってさ」

「……試験官やって良い人間じゃないだろ」

「そもそも人間なのか、ロボットだろアレ」

 

 丁度終わった所なのか、ぞろぞろと部屋を出て来た集団とすれ違えば、早速虚空の魔女の噂が聴こえて来た。やっぱり強いよなあ、あの人。女の子も青痣まみれで容赦もない。まあ、後で治癒の異能力者に治療して貰えるから、問題無いだろうけど。

 

「ほ、本当にやるんですか?」

「君が嫌ならいいよ、パンピー1人でやるから」

 

 俺は卑怯だから、ここで彼が逃げられない様な言葉で釘を刺す。『君は逃げてもいい、この子を犠牲にしてな』って感じだ。

 

 男なら、ここまで言われて逃げらんねえよな? 

 

「分かったよ、やるよ。……これで負けたら、全部終わりに出来るんだ」

 

 後ろのネガティブ発言は聞かなかった事にして、彼に笑みを送る。目線はやっぱり合わない。けど、そう言ってくれるなら。

 

「ありがとう。じゃあパンピー、本当の作戦教えちゃうね?」

「え?」

「君にも、覚悟してもらうから」

 

 ちょっと()()()()()()くらいだから、平気だって。

 

 

 


 

 

 

「……」

 

 扉を抜ければ、そこには長身の女が一本の警棒を持って立っていた。

 

 無風の部屋であるにも関わらず揺れる髪は、闘気にでも当てられたのだろうか。処女雪みたいな髪も相まって白い獅子みたいに、清廉さと力強さを感じさせる佇まいだ。

 

「……目、閉じてる」

「よろしくね、試験官!」

「来たか。一応だが、改めてルールを説明する」

 

 凛とした声でスラスラと述べられたルールは、まるで機械音声の情緒だ。こんなんでも主人公と竿役の前では女になるんだから、不思議なものだ。

 

 ルールは組み手・殲滅戦。時間制限は無し、どちらか一方が戦闘不能、もしくは負けを認めれば試合は終了。採点基準については伏せられているが、異能力を積極的に使用する事が推奨されている。

 

 今回の作戦の要は、言わずもがなみっきー君の異能力。目と目が合うだけでどんな強者も即落ち2コマからの奴隷宣言レベルの凄まじい能力だ。原作では主人公とヒロインでしかあのミニゲームをプレイ出来なかったが、今回は謂わば1ルートのラスボスが仲間な訳だ。ちょっとワクワクしている。

 

 ただ、相手は目を瞑ったまま戦うつもりらしい。試験官にも此方の異能力の情報が共有されているのは知っているから当然だろう。それが出来てしまうと言う圧倒的な力量の証左でもある。

 

「開始の宣言は其方に任せる」

 

 兵は拙速を尊ぶ、と言う言葉がある。作戦が稚拙だろうと、先手を打てる事が戦では大事だと。先行は何だかんだで有利なものだ。戦いの流れを作る主導権を握っている様なものだから。後攻はどうやっても相手の能動的な動きに受動的に立ち回る事になる。エロ同人でも先にイった方の負けになるオフィシャルルールが自然に適応される場合が殆どだ。

 

「じゃあ始めちゃおっか、レディー! ゴー」

 

 だから、敢えて言おう、彼女の異能力はテレポートなんて生易しいモノじゃない。

 

「──かっ……」

()()()1()()

 

 彼女の足に腹を打ち抜かれ、倒れ行く背後の彼に届かずとも俺は自然に謝っていた。

 

「──ごめんね、みっきー」

 

()()()()()()()()()()、それこそ、彼女の本質だ。

 

 100%の確率で先手を取り、確実に後衛を潰す。これは原作と全く同じ。

 

「……すぐ終わりそうだな」

「そうはならないってさ!」

 

()()()()()()()()()()()彼女が、俺の首元に脚を振り抜こうとするが、俺はそれを()()()()腕を盾に止めると即座にテレポートで距離を取る。じいんと震える骨身が、彼女の容赦の無さを言外に伝えた。

 

 目を開いた彼女と、俺の視線がぶつかる。

 

 ……多くの場合、主人公が後衛の()()()()の復活まで彼女の猛攻を凌ぐ事になる。ここまでは、同じ。

 

 ただ違うのは──

 

「そのやる気を普段の授業でも見せろ」

「だってパンピー、まともに使える異能力じゃないもん」

「そうだな。今のお前は()()()()()()()()も一緒だ。彼すら倒れた後ではな」

 

 ──彼女相手には全く俺の異能力が通用しないってコト。

 

「その化けの皮、剥がしてやろう」

「やだな〜、怖いよ、ムイちゃん先生は」

 

 だから俺は──ただの徒手空拳で挑む。

 

「青あざ何個出来るかなあ。──顔はやめてね?」

「分かった、ムラなくやってやる」

 

 まあ、それなりの訓練は受けて来た。

 

「暴力教師! 体罰反対!」

「これは──教育だ」

 

 彼女の色素の薄い眉毛が、やや吊り上がる。完全にやる気じゃん。

 

 だから、俺が耐えられる内にさっさと目覚めてくれよ、ヒロイン(みっきー)君。

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