NTR系エロゲ世界を乙女ゲー世界に変えたTS転生者 作:ダイコンハム・レンコーン
ちょっと整合性取る為に1話を微修正してます。あまり意味はありません。
「……ど、どうした
俺は今、目の前の彼女にどう弁明したものか頭を悩ませていた。今日の試験でボロ雑巾と化し、フラフラのミイラみたいな体でマンションの一室、我が家に帰って来たのだが、そこには普段居ない筈の姿があった。
鞘袋に納めた刀をソファーの脇に置く、真っ黒なポニーテールを震わせる彼女の名は
「まさか……誰かにやられたのか?! 言ってくれ、今すぐ叩き切る──」
「落ち着いて? じゃないと何も話せないし、話したくないから」
まず始めに、彼女は異能力を持たない
しかしながらその剣技は卓越しており、試験のミニゲームではあの暴力教師をメタれる貴重なキャラクターだった。
また彼女は昔からこの地に跋扈していた化け物、妖や妖怪とも言われる存在を退治する徒花家の当主である。元々異能力者のルーツは、世界各地に居た化け物達と人が交わり生まれた存在だ。今となっては、化け物達も人と交わり続けた事で緩やかに姿を消したのだが。
この世界の人間の髪がカラフルだったり、身体能力や治癒能力の基礎が違ったりするのは、そうした化け物の遺伝子が薄らと含まれているからだ。故に、それらと関わりを断ってきた徒花家の人間は全員黒髪な訳である。
……
「試験で? いや、私は知らないのだが、試験とはこちらの
「違うから、そんなウチみたいに殺伐とはしてないから。……そんな事より、疲れたから休ませて」
「っ、ああ! そうだな! 気付けずすまない」
普段なら、その黒髪ポニテ美乳少女は目の保養にもなるのだろうが、今はただ抜け切らない疲れが身を支配していた。俺は躓き、ソファーに座る彼女に倒れ込んでしまった。
「っ?! ままままだ、まだそう言うのは早いぞ班日! 私も心の準備が──」
ラッキースケベは、普段の時にしてくれよ。……ああ、一眠りしたのに、身体がバキバキなんだが。明日筋肉痛だろ、これ。久しぶりに身体動かしたし。
「ごめんお姉様、ちょっと私動けない」
「あ……そうか。分かった」
赤らんだ顔を覚ました彼女は俺の身体を軽く抱き上げ、ソファーに寝かせてくれた。彼女はそのまま、どこからか取り出した茶色のモコモコとしたエプロンに着替えて、キッチンへ向かう。
「卵粥を作ろう。食欲は……あるか?」
「うん、大丈夫」
もっと気兼ねなく接してくれても良いんだが、相変わらず不器用な姉だ。まあ、立場が立場だしな。本来彼女は実家から出奔してとっくに主人公と面識を持ってた筈だったんだ。俺が居なければ。
「お姉様、ありがとう」
「別に、家族だろう?」
「確かにね。でも、家族だからって何でもしてもらうのが当然じゃないよ」
「班日は、真面目だな」
……会話が止まる。が、気まずい感じはない。互いに喋るタイミングは無いと分かっているからだ。不思議と分かるのは、血縁だからか。
原作には居ない俺の存在で一番割を喰っているのはまあ、姉だろう。俺が居た事で姉は実家に残る選択をした。それによって竿役や主人公と出会う事はなくなった。それが幸か不幸かは、俺が判断出来る事じゃない。
それでも、かつては何の柵もない一般人だった俺からすると、立場に縛られている今の姉は酷く不自由に見える。俺と言う
だからせめて、後継者を産む役目くらいは肩替りしたいものだ。一応徒花家の血は半分流れてはいるし、半分の確率で黒髪の子は産まれてくる筈だからな。
姉には好きな人と添い遂げてもらう。それで良いだろう。
「小鉢は必要か?」
「佃煮食べた〜い」
「ふふ、班日は甘えん坊だな。分かった、用意しよう」
仕方ないなと笑う彼女の声には、決して呆れはない。寧ろ喜びが含まれているのが、犬の尻尾みたいにポニテを揺らし鼻歌を歌う後ろ姿から分かる。
多分、姉は息抜きでここに来たんだな。だったら遠慮なく甘えよう。それが彼女にとって一番の息抜きだ。ただの徒花班日の姉で居られる時間だから。
飯食って寝て、朝起きると一緒にベッドで寝ていた姉は居なかった。先に帰ったんだろう。
包帯を取り、歯を磨きながらぼんやりと考える。
何となくだが、原作のヒロイン達と俺は妙に遭遇率が高い。だが、主人公に関してはこれまで一度も会った事はない。ルートによってやや性格の変わる主人公だが、今の彼がどんな性格か、俺には予想がつかない。主人公に絶賛片思い中の神長倉さんの言によれば、やや熱血の鈍感難聴系主人公っぽいが……さて。
もし、主人公と出会えば俺も何かに目覚めたかの様に、惚れてしまうのだろうか。一目惚れは異能力じゃない、異能力じゃなければ防げない。
どうせなら惚れさせる位の気概を持てと言いたいが、そこん所が少し怖くて、主人公とは会わずに居た。同じ学校同じ学年だが、クラスは違うし。
顔を洗えば、迷いも薄らぐ。どう生きるかは俺の勝手。この世界がどうなろうと納得いく様に生きるだけだ。
そうして今日もやる気出して家を出た矢先──
「ん? 不良……じゃない。あれは」
「何だよ、なんかあんのか?」
近道しようと通った裏路地の中、彼は居た。
ガンを飛ばす金髪に紫のメッシュを入れた改造制服の浅黒い肌で目つきの悪い男。面影は薄いが、それは我が校の制服。で、一方的に見知っているその顔は疑い様もない。
彼は、
彼は紙タバコをぷかぷかと吸っている。
「あ〜ダル。私もちょっとフケたくってさ」
まるでその為に来たかの様に振る舞いながら、蹲踞の姿勢になった俺も紙タバコを取り出し、口に咥える。するとどうだ。彼は顔色を変えた。
「オイ、ガキがんなもん吸ってんじゃ……」
「……ぷふっ」
彼が慌てて俺の口から引き抜いた物を見て、目を丸くする。
それは、棒状に丸めたメモ帳の紙片だった。
「な〜んちゃって、単なる紙でした〜!」
「テメェ!」
「……タバコ、普通こんな
腹を立てる彼の横面をまじまじと眺めながら聞いてみる。格好つけるにしても、そんな様じゃ格好なんてつかないだろうに。
「探せばあんだろ、それくらい」
彼は不貞腐れた様子でそう言う。少し悪戯心が芽生えた俺は、ついつい意地悪を言ってみた。
「じゃあ見せてよ、どこの国のどこの銘柄?」
「小学生かテメェは! いや、マジのガキかテメェ?」
「マジな訳ないよね〜? 小学生がタバコの銘柄なんて聞かないよ普通」
「じゃあ何だよテメェは? どっか行けって!」
アイスブレイクはこのくらいにして、聞きたい事を聞いてみる。
と言っても、彼の身の上は知っている。下手すれば彼以上に。彼の身の上は作中メインキャラクターの殆どより辛い境遇だ。正直言ってライターは鬼か悪魔かと思ったくらいだ。
「辛い事があるからタバコ吸ってるんじゃな〜いの? ならさ、少しはマシな表情したらどうかな。辛気臭いよ?」
「うっせぇ」
「味気のないタバコを噛むくらいなら──」
俺は、ブレザーの内ポケットに入っていた棒付きの飴玉を差し出す。
「甘いモノ食べた方が、まだ気が紛れるでしょ?」
「関係ね……んぐっ!?」
彼が口を開いた瞬間、俺はすかさず飴玉を突っ込む。
「あ〜あ、口開いちゃったぁ。残念でした〜」
彼の口元と、懐から抜き取ったタバコのケースを両手で見せつける様に揺らせば、目を白黒させた彼が俺に掴みかかろうとして、
「……クソガキ」
「誰がクソ
「どう言う解釈してんだ頭腐ってんのか?」
「頭の中はお花畑だから」
「もういい。話してても埒があかねえ。とっとと消えろ」
そんな言葉に、俺はひらひらと手を振って答えた。学校に遅れる訳にもいかない。おっと、最後に一つ言い忘れてた。
「君、あんまり自分虐めちゃダメだよ〜?」
そう言って数歩歩くと、背後から声がした。
「……それ、吸ったら殺すからな」
つっけんどんで素直じゃない忠告に、俺は笑いを堪えるので必死だった。けど、今後の立ち回り次第で彼がどうなるか分からない以上、気は抜けない。
軽く彼のストーリーを思い出そう。
彼は、体表からかつて自身に投与された薬物を自在に精製出来る異能力を持った存在。この説明からして嫌な予感がするかもしれないが、実際はその上を行く。
彼は幼少期、孤児の身である異国の麻薬カルテルに拾われ、その異能力を悪用する為あらゆる薬物を投与された。異能力による体質からか、薬物の副作用で死ぬ事のない彼は、カルテルにとって都合の良い道具だった。
それから少しして、彼には
……言ってしまえば男娼だ。異能力によって薬物を分泌しながら行う性交渉は、控えめに言ってその筋の人間からすればかなりの儲け話だと。なまじ顔が整っていた事も不運だった。拒否権など無い彼は、それに強制的に従事させられたのだ。
並のエロゲヒロインより悲惨な人生を送った彼の心はとうに擦り切れていた。カルテルから救い出され、ここに来てからも色味の無い毎日を過ごしていた。だが、そんな日々から彼を救い出したのは
ここまで来ればなんとなく察しは付くだろう。
彼が闇堕ち、NTRに走る理由は──彼が主人公を屈折したまま愛してしまったからだ。ある意味、ヤンデレって奴だな。
そう、彼にとって一番の劇薬は愛でした。なんて救いのないオチでしょう。俺も軌裂ルートプレイした後は暫く微妙な顔してたんだよなあ。誰も幸せにならないのがこの軌裂ルート。だが姉とのフラグはそもそも根っこから折れている。が、彼が主人公を愛そうものなら、周囲のヒロインは大変な事になる。下手すれば男連中もヤバい目に遭わせる暴走機関車と化すだろう。
昨日今日で更なる地雷を掘り起こしてしまった事に内心頭を抱える。
更生、と言うのは胡散臭いが、せめて真っ当な人の愛し方ぐらいは彼を保護した時に教えていてくれよと。……最悪、みっきー君の力を借りなければならないかも知れない。
……でも、悪い奴じゃなさそうなんだよなあ。催眠を自分の為に使わせるのも悪いし──どうにでもなれ! の精神で居るしかないか。
「ああもう! 頑張ろう!」
俺は気持ちを切り替え、学校へ向かう。なんだかんだ言って、一つ山は超えたんだし──。
──この時の俺はすっかり忘れていた。
ブレザーの中に、彼から没収したドギツイ銘柄のタバコを入れたままであった事に。
「……私に勝って、随分と浮かれている様だな」
そして今日が持ち物検査の日であった事に。
担当は──ムイちゃん。俺死んでまうストーリー?
「ムイちゃん先生、これには事情が……。ダメだ逃げよ──うッ!?」
「今度は逃がさないぞ?」
テレポートで回り込んだムイちゃんにシャツの襟を掴まれた俺は、もう逃げられない。
「助けてぇぇぇぇぇ! 殺されるぅぅぅぅっ!」
俺は、昨日今日で二度死を覚悟するのであった。