NTR系エロゲ世界を乙女ゲー世界に変えたTS転生者   作:ダイコンハム・レンコーン

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乙女ゲーじゃねえ!? 何だこの熱血バトル小説!?



独りと二人

「……っはあ!」

 

 流石にチャリで街の外まで走るのはしんどいな……深夜で電車も無いの辛すぎるぞ。子供からチャリ盗むJKになってまで来たんだ。間に合っててくれよ。

 

 街並みは見る見る内に藍色に染まる木々へ変わる。こんな場所あったんだな。あんまり遠出する事も無かったから知らなんだ。

 

「バイクのエンジン音も聞こえないとか、っ周回遅れって感じかな!」

 

 滝の様な汗を拭う時間すら勿体ない。気を抜けばバイシクルなスポ根の世界か、この世界ジャンル変わり過ぎだろマジなんなのギャル口調になっちゃうぞって! 

 

「……こんな下らない事でも考えてないと、脚が勝手に休みそうなんだよね! はっ! ふぅ……っ!」

 

 ペダルを押し込む力が足りず、サドルから腰を浮かして更に押し込む。

 

「……っ! アレは──」

 

 そうして遠くに見えたのは放棄された工事現場の中にある、乗り捨てられたヤッ君のバイクだった。

 

 

 


 

 

 

「ここに、ヤツが──」

 

 オレは工事中の地下空間に足を踏み入れる。薄暗い通路を照らすのはこの手に握る懐中電灯だけ。捨て置かれたライトはあっても発電機はない。

 こんな場所があったんだな。オレは外の人間だからここには余り詳しくはないが、それでも知る人ぞ知るって感じの場所に見える。

 

 誰の気配もない、まだ奥だ。

 

 暫く進むと広い空間に出る。

 幾つかの路線に接続するつもりだったのか、縦長の空間に細い足場が渡されていた。落ちたら怪我じゃ済まねえな。

 

 そんな足場を渡り切った時。

 

 ──ダァン! 爆裂音が背中に響く。

 

「一丁前に退路を断った気かよ」

 

 振り返り懐中電灯で照らせば、土煙が立ち込めている。それが晴れた先には、何も無かった。予め足場を崩すつもりだったのか。

 

 けど、その暗闇の向こうから声が響く。さっきまで喧しく騒いでいた、あの声が。

 

「道がなぁぁぁぁぁいっ!?」

「嘘だろ……!?」

 

 高速で駆け降りてきた影は、足場もない空中へ飛び出していた。

 

「お前は──!」

 

 

 


 

 

 

 俺は勢いそのまま自転車で地下に飛び込んだ。真っ黒な闇の中でも自転車のライトのおかげで迷わず進めたのは良いが、真っ直ぐ進んでいたらヤッ君の姿が見えたからスピードを上げたら急に道がなくなったので、俺は今絶賛E.○.中。……なんて呑気してる場合じゃないのよね。

 

 俺は対岸に目を向けて、飛び出すタイミングを図る。ゆっくり前に倒れる車体、完全に横に向く直前。

 

 ──距離は……? 行ける! 

 

 俺は自転車のサドルを両足で蹴って2段跳びを敢行した。緑色の恐竜を乗り捨てるイメージで。

 

「届い……たっ!」

 

 対岸に手を掛け、俺は身体をぶるんと振って足場の上に登る。あれだけ急いで事故ったんじゃ笑い話にもならん。

 

「……どうしたの?」

「どうしたの、じゃねえよ。お前、寝てたんじゃ……」

「フリだよ。どうせ行くって思ってたし」

 

 彼は苦い顔だ。が、こっちからすれば勝手に居なくなられた方がそうしたいのだよ。

 

「お前は来んな。ここで待ってろ」

「こうなってもま〜だ言っちゃうそれ?」

「……」

 

 マジな顔してもダメだぞ。君は行くし、俺も行く。こうすれば良かった、ああすれば良かったなんて後悔がNTRを生むんだ。え? 関係ない、この世界が関係大有りなんだよ。

 

 本当の事言うと、ここでヤッ君の身に何かあったら悲しいだろ。俺はそれなりに仲良いヤツに何かあったらすぐ泣くぞ。

 

「パンピーは薄情だからさ、君に何かあったとしても、悲しんで悲しみ終わったらすぐに明日へ気持ちを切り替える」

「なら気にする必要ないだろ」

「分かってないなあ。パンピーを薄情なヤツにさせないでよってコト」

「まどろっこしいな」

 

 俺は並の女よりはまだ平易な性格してると思うぞ。……こんなんじゃ将来の彼のパートナーは苦労しそうだな。

 

「どっちみちこんな場所で待っても仕方ないし、パンピーは行くよ」

「……バカが、好きにしろ」

「バカ以外こんな場所来ないでしょ。同じ穴の狢で〜す!」

 

 そんなこんなで、俺とヤッ君は更に奥へと進んでいく。自転車は、後で持って帰れたら良いな……無理かな。

 

「けど、こんな場所があったなんて初めて知ったよ。何で街から離れた場所にこんな大きな地下鉄を用意しようとしたんだろ」

「知らねえよそんな事」

「もしかして、誰かさんが開発を推し進めてたけど何かの理由で失脚したから、とかかな」

 

 あんまりそう言う学はないから、胡乱な推察だが。もし合っていても今関係する事じゃないだろう。

 

 

 

「──扉だ」

「他に道は無さそうだな」

 

 それから20分程歩き通した後くらいだろうか。広い通路は徐々に狭くなり、鍵のかかった扉をスルーして進んだ先には、物々しい雰囲気を醸し出す錆びた扉が一つ。

 

 この扉の向こうに彼の探し人は居るのか。ただ、居たとしてもマトモにお出迎えしてくれる保証は無い。寧ろ罠を警戒すべきだ。

 

「……どっちが開ける?」

「オレが開ける」

「じゃあ、任せるね」

 

 建て付けの悪くなった扉を押し開けると、右を見ても左を見ても見通せない暗闇の中、向こう岸へ一本掛かる橋の上に出た。

 

 何これ、設計ミスで出来た謎空間? 無駄スペースじゃないか。

 

 そんな他愛もない事を考えていると、どこからか声が聞こえてくる。

 

「よく来てくれたわね、余計なのも1匹連れて来ているようだけど」

 

 スピーカーの類を探すが、見当たらない。って事はいよいよボスのお出ましか。

 

 向こう岸からカツン、カツンと音を立てて歩いてくる誰か。彼の握る懐中電灯で暗闇のベールが剥がれ落ちると、そこに立っていたのは、やや赤みを帯びた茶髪の女。そばかすが目立ち若干芋っぽいが……こんなのがヤッ君に原作の仕打ちを? 

 

 ──彼女を照らすライトの光が、フルフルと揺れている。

 

 そう思い彼の方を見ると、まるでこの世の終わりみたいな顔をした彼の姿があった。

 

「何でアイツがここに」

 

 その一言で、お相手がロクでもない事をして来たんだろうなと察する事が出来た。だから俺はヤッ君に警告する。

 

「落ち着いて」

「……っああ」

 

 思ったより地雷だったのか、彼から動揺の色は消えない。まだ俺の知らない事実があるとは。キャラ設定が細かいにも程がある。

 

「私はね、意識を失った相手の身体を自由に乗っ取る事が出来るの。襲撃から逃げ果せるのにこの身体は役立ったわよ」

「死んだってのは嘘だったのかよ」

「なんで本当の事を言う必要があるのかしら」

 

 そう言っている彼女には、まるで反省の色は無い。当然だろう、反省してたらこんな事しない。と言うかまたエゲツない異能力があったもんだ。

 

「……ねえ、貴方と取引したいのよ」

 

 彼女は突然銃を取り出し、自身の頭に突き付けた。

 

「貴方が戻って来てくれるなら、私は彼女を解放する。戻って来ないのなら私は──この子を殺す」

「テメェ……っ!」

 

 やばいヤツとは交渉しないのが絶対のマナーだが、一応話は聞いておくだけ聞いてみよう。

 

「オッケー、じゃあお話聞かせてよ」

「お前、何を──」

「あの子、死なせたくないんでしょ」

「──そうね。ならまず、その子に彼の生成した媚薬を飲み干して貰おうかしら。貴方なら分かるでしょう? 彼女を幸せにしてあげれば良いのよ」

 

 媚薬。まあ、エロゲの世界ではあるからな。ちょっと気が抜けるが、問題は無い。

 

「分かった。やるよ」

「っ! お前何言ってるか分かってんのか! アイツは媚薬っつったが、あれは劇毒だ! お前なんかが飲めば──」

 

 問題はない。絶対に。彼を泣かせる事も、彼女を死なせるつもりもない。だってハッピーエンドは全員揃ってが条件なんだからな。

 

「信じてよ。パンピーをさ」

「……っ、恨んでくれ」

「もう、急にしおらしくなっちゃってさ」

 

 彼の捲り上げた袖の下の褐色肌に、透明な薬液が滲み出す。それは徐々に腕を滴り落ち、指先に垂れた。

 

 だが、彼は一向に手をこちらへ向けようとはしない。はっきり言って、自分の頭をぶち抜ける様な奴には見えないが、万が一を考えれば動けない。

 

「はぁ、随分と面倒な女に目をつけられてるね、ヤッ君は」

 

 さて、どう動こうか。

 

 ──原作の描写、思い出さないとな。

 

 

 


 

 

 

「……オレは、また」

 

 またこの力で誰かの人生を狂わせる。そうさせない為に、ここまで来たってのに。何も変わってねえじゃねえか。

 

 そうだ……もう、アイツは死んだんだ。そう思えば──。

 

「煮え切らない男は嫌われるよ」

 

 右腕の薬指が、何か生温かいものに包まれた感触がした。

 

「お前……なんで」

「味はしないんだねぇ」

 

 指先を口に咥えたコイツはそのまま滴る薬液を飲み込んだ。

 心臓が冷え切った様な心地がした。

 

「何やってんのか分かんねえのか!? 吐け! 今すぐに──」

「さっき君に言ったよね。二度は言わないよ?」

「っ……バカ野郎!」

 

 何も起きないでくれと、オレは信じもしない神に祈ってしまった。

 もうこれ以上付き合わせたらダメだと分かっていた筈なのに、コイツをどっかでは許していた。

 

 ……だが、現実は残酷だった。

 

「……っ! ぁぁああっ!」

 

 突然、コイツは自分の身体を抱いて倒れ込む。

 

「っぐ、ぃぃっ!」

 

 何かを噛み締める様なくぐもった音を吐き出して、小さな身体はのたうち回る。握りしめた拳には、血が滲んでいる。

 

「ぁっああっ?! ああああっ!」

 

 何度も何度も、身体を転落防止用の柵に打ち付ける。自我があるのかすら……きっと、あるのは苦痛だけだ。

 

 ……オレが、オレがやったんだ。また。

 

 コイツの悲鳴の後ろから、ヤツの笑い声が響く。

 

「ああ、貴方も私と同じ。自らの意思で人を幸せに出来る様になったのよ」

「テメェ……!」

「最後に、その子を柵から落としなさい」

 

 ──な、に。何を言ってるんだコイツは。

 

「中々の腕利きの様ね、その子は。だから念には念をって事よ」

「何でコイツを殺す必要があんだよ!? 話が違うじゃねえか!」

「……その子を生かすとは言った覚えは無いのだけれど?」

 

 ……はは、馬鹿ってあれだけ言っておいて、オレが一番馬鹿だったって事か。

 

「早くしないと、折角その子が犠牲になって繋いだ彼女の命が消えてしまうわね。どうしたものかしら」

「オレは……」

 

 どうしたら良いか、分かんねえ。もうどうすれば良いのか。

 

「ぁぁあっ! ぐっ!」

「……」

 

 オレは、暴れるコイツを抱いて柵へ近付く。下を見れば、暗闇の中を乾いた風が泳いでいる。何もかも飲み込みそうな奈落だった。

 

 このまま、コイツと一緒に落ちれば。……それはそれで。

 

「……────」

「っ!?」

 

 そんな事すら頭を過った時。コイツの口は密かに意味を並べた。

 

 ……正気なんて保てない筈だ。そんな馬鹿な事があるのか。

 

 いや、コイツなら、何かをするんじゃないのか。今まで期待しても何もダメだった。けどオレはまた性懲りも無く賭けようとしている。

 

 ──コイツになら、裏切られても良い。そう思えた時、答えは決まっていた。

 

 

 

「──ふふ、ちゃんと言う事を聞いてくれて良かった」

 

 オレは、信じた。信じて奈落へ投げ捨てた。

 

「……次は何しろって言うんだ」

「何もしなくて良いの」

 

 そう言うと奴は、オレの脚へ銃を向けた。

 

 ──炸裂音。その後に膝を突く。

 

 オレの足首からは、真っ赤な血が溢れ出していた。

 

「これで私は返り咲ける。あの【時の番人】と【虚空の魔女】に組織を潰されてから、長い雌伏の時を過ごした事が、ようやく報われるの!」

「浸ってんじゃねえよ、クソババァ」

「私には時間があるの、体を替えれば幾らでもね。時間が有限だなんて可哀想な貴方達に、幸せな時間を与える代わりに、私は廃人になった人々の残りの時間を貰う。随分と良い取引だとは思わない?」

 

 オレはヤツを睨み据えるが、どこ吹く風ってヤツだ。調子に乗るだけ乗ってれば良い。

 

「私は貴方をパートナーとして手足を奪って、一生使ってあげる」

「……その顔で、そんな事言ってんじゃねえ。全部他人任せの寄生虫が!」

 

 すると、ヤツの顔色が変わる。さっきまで得意げに語ってた口は閉じ、目は怒気に歪んでいた。どうやらヤツにもプライドはあったらしいな。

 

「だってそうだろ。自分の体も、力も、人生も、何もかも借りモノじゃねえか」

「……少し痛い目を見ないと、分からないみたいね」

 

 そう言ってヤツは銃を構えてこっちに近付いてくる。もう完全にオレ以外眼中にねえって感じだ。

 

 そんなんだから、潰されたんだろうが。

 

 痛い目を見るのは──

 

()がね!」

 

 ──テメェだ。

 

「っな!?」

 

 背後から飛び掛かって来たのは、さっき落とした班日(アイツ)だ。オレは気を逸らす為に挑発して、その背後に隙を作った。

 

「危ないから、それボッシュートっ!」

「銃が!」

 

 ヤツの上で肩車みてえな姿勢のアイツは、そのまま銃を奈落へはたき落とし、そのまま両手を拘束して地面に倒れ込む。

 

 あの時オレを助けた様な身軽さがあるなら、可能性はあるだろって思ってたが……まさか落ちるフリして橋の裏に張り付くなんてな。コイツ、カエルか何かか? 

 

「何故……!」

「君に説明する必要もないでしょ? 後でヤッ君としっぽり語り合うから!」

 

 これまでと一緒の胡散臭い態度に戻ったなコイツ。……何でオレも安心してんだか。

 

 だが余裕を無くしていたヤツは、これ以上何もしないオレ達を見て調子に乗って言い放った。

 

「でも……貴方達は私を攻撃なんて出来ないでしょう? このままだと彼女は一生私の依代よ! 私から手を離せば彼女は解放するわ!」

「……追い詰められたのにまだ身体に残ってるって事は、その乗り移りも自由は利かないんじゃないのかなあ? さっき得意げに廃人になった人の時間を貰うって言ってたし?」

「っ……! だからって状況は変わらないでしょう!」

 

 ああ、なるほどな。ヤツはもう打つ手無しって訳か。じゃあ、()()()()()()()

 

「そうだな。ちょっくらテメェを()()にしてやるよ」

「急にプロポーズ?」

「違げえよ」

 

 そう言うと、ヤツは目を丸くしていた。何されるか分かんねえとか、よっぽど考え無しなんだな。

 

「うわ、めっちゃ悪人顔じゃん」

「うっせえ」

「ま、待ちなさい、何をする気なの」

 

 オレは、痛む脚を引き摺ってヤツの前まで進んでいく。腕からは、透明な薬液が滴り落ち始めた。

 

「まさか」

 

 そうするとヤツの顔は青褪めていく。アイツの顔でやられるのは不愉快だが、あの頃のヤツの顔で想像すれば、少し気分は上向いた。

 

「なぁに、今まで散々幸せにして来た分のお返しだろ?」

「幸せはお裾分けって事? 気が利いてるね〜ヤッ君も!」

はへえ(やめて)! はへえ(やめて)!」

 

 コイツも意地の悪い笑顔を見せながらヤツの口を片手で押し開いた。

 

 その上に、オレは手を翳した。

 

「ま、ちょっと()()()()()くらいだが、平気だろ?」

 

 そして、雫が一滴、ヤツの口へ吸い込まれる様に落ちていった。

 

 結果、ヤツはどうしたかって。言うまでもねえ。

 

 

 

「──他人も自分も、信じられないから寄生虫止まりなんだよテメェは」

 

 

 


 

 

 

『はぁ……! はぁ……! まさかあんな子供に出し抜かれるなんて──』

『でも不味いわ。このままだと、この場から離れる前に私が消えてしまう……』

 

 宙に浮いた体。そこに色も形もない。私は今、魂となって彷徨っていた。

 

 あの薬を飲まされるくらいなら、体を捨てた方がマシと思ったけれど……一度抜け出した体には暫く入れない。

 

 けど、幸運の女神は私に微笑んだ。

 

 忌々しいあの子(ルヴィン)が、痛みで気を失った。

 

 今なら行ける。今度はあの子の身体を人質に取ればまだ私は──。

 

『今行くわ、私の大事な──』

 

 

 

「──そこだね」

『っ、弾かれた!?』

 

 けれど、私の体はそれ以上前に進めなかった。目の前に立ち塞がったもう一人の子供によって。

 

「ここは風が無かった……でも風が吹いた。居るんでしょ。そこに」

 

 そして、またあり得ない事が起きる。

 

『身体が、消えていく──!?』

「『自らへ向けられた異能力の無力化』それがパンピーの異能力」

『無力化……嘘でしょう』

「もし、君が異能力で構成された存在なら、パンピーに触れたその時点で消えていくんだよ」

『嫌っ! そんな、嫌よ! こんな所で!』

 

 全てが消えていく。これまでの何もかもが。

 

「風が騒がしい……一度言ってみたかったんだよね」

 

 こんな子供に、こんな──。

 

「じゃあね」

 

 嫌、嫌──よ。

 

 

 


 

 

 

 先程までの騒がしさはどこへやら。一人は消えて、二人は意識が無い。

 

「さて、意識の無い二人を運ばないと──」

 

 ──……ドォン。

 

「……うぇ? 何、この音」

 

 ──……ドォン! 

 

 何か、音が近付いてる。……頭の中にオールひろゆきとかノイズが浮かんで来たが、まさかそんな事は無いだろう。

 

 爆発オチなんて──無いよな? 

 

 ──ドォン! 

 

「いやある!?」

 

 爆炎が、来た方とは逆の扉から噴き出した。

 

「まっずい!」

 

 まさか何か証拠隠滅でもしようって魂胆だったか。それとも何か別の要因……考えるのは後だ。急げ、二人を連れてかないと。持ち上がるけど、運び辛いのなんの。

 

 頭の中ではありとあらゆる脱出用BGMが流れてくる。

 

「だからこの世界ジャンル可笑しいって!」

 

 半ば引きずる様な形で二人を運ぶ。さっきまで暗闇と薄気味悪い静寂が支配していた地下は賑やかな爆炎と音にかき乱されている。後ろでは何かが砕け散り、落ちて行くのが分かるが、振り返ってる暇は無い。

 

「まだ、大丈夫──」

 

 地下が丈夫だったおかげで、揺れの激しさに比べれば、崩壊は緩やかだ。焦らず、来た道を辿れば問題は無い。

 

 そう、落ち着けば何も障害は──。

 

 

 

 

 

「忘れてたぁ……」

 

 入り口へと続く巨大な縦穴を渡る為の足場は、無い。入って来たばかりの時に吹き飛んでいたからだ。まさか爆薬がこれだけじゃ無かったとか、無駄に手の込んだ事してくれちゃったねえ。終いにはキレるぞ。

 

 縦穴に飛び込んでも、二人が無事で居られるか怪しいし、底から二人を上に運ぶ時間が無い。投げ渡すにも距離がある。近くに何かあるか。いや放置されたライトだけ。

 

 ──これ、詰んだか? 

 

 せめて何か、二人を守れる物が有れば。

 

「ここまで来て、諦められない。最後はハッピーエンドじゃなくちゃヤダって!」

 

 工事用のライトから伸びるコードを捻じ切り、二人と俺の身体を結ぶ……ネタのデカ過ぎる寿司みたいなバランスの俺は、残りのコードを結びつけ、対岸に残った足場の一部へ引っ掛ける様に投げ渡した。

 

 大道芸なんて見る側で十分だって言うのに。俺は近くにコードを結びつけ、ピンと張ったコードをゆっくりと渡っていく。

 

「よ、し。思ったより行ける」

 

 ゆらゆらと上下左右に揺れる足場を、慎重に、かつ急いで渡る。

 

 ……少し。

 

 ……後少し。

 

 集中で狭まっていく視界の中、もう目と鼻の先に思えた。

 

 対岸が、近付いて来た。

 

 

 

 

 

 ──ドォン! 

 

 しかし、コードが急に張りを失った。

 

 身体が完全に空中に投げ出される。ひっくり返った視界の中には、爆風で吹き飛ばされたコードが見えた。

 

「──ふざけんな……っ」

 

 重量に引かれる身体。崩れる天井。二人を対岸に投げる時間も無い。

 

 紅蓮と土色に染まる光。視界を埋め尽くすそれら。

 

 

 

 その中に一点の『白』が見える。

 天使の羽。いいや違う。今の俺達にとっては同じようなモノだが。

 

「──全く、心配をさせるな」

「ムイちゃん。ナイスタイミング! 二人は任せたよ!」

「ああ、後はあれに任せる。あの子供が……随分と大きくなったものだな」

 

 背中に背負っていた重みは消える。ムイちゃんが運んでくれたんだ。後は俺がどうにかするだけ。……っても、ムイちゃんはまだサプライズを用意してるみたいだけど。

 

 落ちる身体を翻し、底へ降り立った次の瞬間──

 

「初めまして」

 

 

 

 ──俺以外の()()()()()()()()()()()()()

 

「……無事でしたか?」

 

 いや、訂正しよう。

 

 俺と目の前で()()()()()()()()()()()()()()()以外のモノが動きを止めた、と。

 

「無事だよ。ありがとう」

「そうですか! はぁ、良かった」

「あ、うん」

「本来なら、これは私達が対処すべき仕事でした。まずそれについて私達は謝罪しなければなりません」

「……ちょっと、落ち着ける場所に行かない? 動かないって分かってても、爆炎の近くでお話は嫌だよ?」

「そうですね。場所を移しましょう」

 

 ……けど、何か俺の()()()()()()と雰囲気が全く違うんだが。

 

 

 


 

 

 

「って事があったんだよ? 君が気持ちよ〜く眠ってる間にさ」

「……そうか」

 

 そんな事があった二日後。色々とやらかした俺はめでたく1週間の停学となった。暇を潰しにやって来たヤッ君の病室ではすっかり気の抜けた顔の彼と、未だに眠り続けるそばかすの彼女がいた。

 

「聞いたよ。君の頑張り次第では、彼女を目覚めさせる薬を作れるかもって? まるで眠り姫と王子様じゃん。ヒューって感じ?」

「……そんなんじゃねえよ」

「じゃあなぁに?」

「ただのダチだ。それ以下でも、それ以上でもない」

 

 ……なぁんか、張り合いがない。この前みたいなヤンチャさを感じない。まるで老後の余暇に浸る人みたいな。

 

「学校には行く?」

「怪我が治ったらな」

「随分と素直じゃん。何か思うところでもあった?」

 

 うっわ、燃え尽き症候群ってやつかこれ。目標を達成した後に何も無くなったって? 友達は生きてたんだし、何も無いって事はないだろうに。

 

「そうだな、多分、あったんだろうな」

「多分って……えぇ? 案外テキトーだね、ヤッ君も」

「そう言うお前は、案外周りに気を遣って生きてんだな」

「そう見える? やっぱ見えちゃうか〜、パンピー気遣いの鬼だし?」

 

 あ、ため息吐かれた。なんだその態度、俺凹むぞ? 引き篭もって天岩戸ごっこしてやるからな。

 

「好きに出来る時間が増えて迷ってんのは分かるよ。あ、今の気持ちを歌なり小説にしたらそこそこ売れるかもしれないね?」

「お前オレに何させたいんだよ……」

 

 好きにしろって言われてもまるで好きに出来ない事、あるでしょう。俺も自由過ぎるゲームに触れたら何して良いか分からないし、仮に女の子に『好きにして』って言われても何も手を出せない。だから童貞で一生を終えた。そんな事で後悔するなら、気分で生きた方がマシ。

 

「これからなんて、その場の気分で決めれば良いんだって。パンピーは常にフィーリングで生きてる。気まぐれサイコーっ!」

「病室では静かにして下さい」

 

 病室の戸を開いて顔を覗かせた看護師さんにそう言われ、俺は肩を落とす。クソ恥ずかしい……。

 

「あっ、すいません……ごめんなさい」

「ほんっと気分で生きてんな」

 

 いやヤッ君も、本当なら友達と馬鹿やって笑ってる頃だろ。未来の事なんか悩まず……いや、流石にこの時期になれば考えた方が良いか。気分混じりで好きに選べる時期だった。それが丸々無くなったんじゃ、こうもなるか。

 

 彼の引き攣った笑みらしきものに、俺は彼から失われたモノを嫌でも実感する。

 

「あ、無理に笑わなくても良いよ。パンピーが笑わせるから」

「……? オレ、笑ってたか?」

「ちょっとだけ?」

「ちょっと?」

「いや、もしかしたら笑ってなかったかも」

「何だそれ……ははっ」

 

 良くも悪くも、異能力が異能力だから普通には生きられない。でも俺の異能力があれば大抵の奴と普通に接する事が出来る。使えるもんは使って損はない、筈。

 

「うん、やっぱり目付きは悪いけど、顔は良いんだからさ。笑った方が良いよ」

「……少しずつでも良いか?」

「勿体ぶるねぇ〜、別に良いよ。待つから。でも待った分だけ良い笑顔、見せてよね?」

「ああ、今はまだ忘れてるからな、笑い方も、何もかも」

「きっと、全部取り戻せる。だから()()()()()()

「分かってるよ」

 

 ほんの少し、彼の姿に意思の火が灯る。まだヤッ君はスタートライン。これから、彼はまた再生していく。

 

 恋愛だとか言う劇薬なんて要らない。だって今の彼には、原作とは違って主人公だけしか居ない訳じゃない。隣のベッドで眠る彼女が居て、俺がいる。それに、カナちゃんやみっきー君も友達になるだろうし。

 

「おっと時間だ。来週、学校でまた会おうね」

 

 俺はもう安心だと、病室を後にする。

 

 その背に、一つ声が掛けられる。

 

「……ありがとな。パンピー」

 

 俺は、片手をひらひらと振ってその場を去る。

 

 

 

 ──うん、めちゃくちゃ疲れた。

 心地良い疲労感と微熱に浮かされながら。




ヤッ君編、完。
見てくれてありがとうね!
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