NTR系エロゲ世界を乙女ゲー世界に変えたTS転生者   作:ダイコンハム・レンコーン

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いつもの半分くらいの文量の繋ぎ回です。


世界一長い春休みとショタ(?)

「……停学って暇だなあ」

 

 俺はふと呟いていた。今の俺はムイちゃんの言い付けで自宅に待機していた。幸い姉が居るから買い出しには問題ないが。

 ムイちゃんにはなんか、闇討ちされないようにとか言われたが、多分組織的にはワンマンっぽい感じだったからそんな余力は無いと思うんだけど。

 

 ソファーに寝転び、皿に広げた菓子を箸で摘んで口へ運ぶ。

 

「もぐもぐ……まあ、二日続けてあんな事が起きたんだし、休んだってバチは当たんないよ〜だ」

 

 余りある気楽な時間に、俺の気もダルダルに緩んでいた。そんな風に気を抜いていると、端から菓子もすっぽ抜ける。

 

「あ」

 

 しかし、地面に落ちかけた菓子は──空中で静止していた。

 

「……()()()()()()()()()()

 

 時計の電池切れ? 

 いいや違う。世界の時間が止まっているのだ。一度こうなれば力を込めなければ動かない。重石を退ける様な力で菓子を拾って、口に含む。

 

 最近は台風が近付いた時ばりの停電が如く時間が止まるようになっていた。そのせいでこの停学で休んでいる1週間があり得ない位引き伸ばされているのだ。

 

 その期間、体感にして1ヶ月と少し。

 

 一度止まれば、短くて2日間、長くて4〜5日は時が止まったままになる。普通にお腹が空くし疲れもするのが難点だ。

 

「……何であんなに性格が違ってたのか。分かんないなあ」

 

 俺の知ってる()は、もっと挑発的で見下してる感じだったんだが。

 

 ……彼のストーリーをちょっと思い出して──としたい所なんだが、彼のバックボーンって殆ど明かされてなかったんだよなあ。ムイちゃんの同僚って事は描写されてたんだけど。

 

 原作での彼はひたすら煽り散らかしてムイちゃんを屈服させてたんだが。そんな奴には到底見えない。ただの生意気なオスガキじゃないって事か。

 

 もし何か理由があるなら、知っておきたい。どこで何が変わっているのか、変わっていないのか、知る必要がある。

 

「時止まってるんだし、外にでも行ってみようかな」

 

 

 


 

 

 

「……思ったより早く見つけちゃった」

 

 俺よりもやや背丈の低い見た目少年の彼は、大きな荷物を背負って静止した街を歩いていた。

 

「──あれ? 貴女は徒花さん、ですよね」

「ああうん。ちょっと時止まっちゃったからさ、何かあったのかなあって」

「それについては申し訳ありません。徒花さんが解決した矢崎さんの事件で、組織が残した顧客リストを朝霧先輩が手に入れまして、僕はそのリストを元に仕事をしていたんです。時間停止中の生活費は僕に連絡を頂ければ負担しますよ?」

「ああ良いよ良いよ、別にお金に困ってる訳じゃないしさ」

 

 彼は実に礼儀正しい。原作に出たのは声と異能力が似てるだけの別人だったんじゃないかと思いたくなったが、そんな時間停止の異能力者がポンポコ現れても困る。

 

「……所でさ」

「はい?」

「目のクマ、凄いね」

「え? ああ、そう言えば()()()寝ていませんでしたね、はは」

「ひと月ィっ?!」

 

 っ、思わず叫んでしまった。そう、めちゃくちゃ気になるのは嫌に儚い笑みと、その目のクマ。明らかな疲労のサインが出ていると言うのに、彼は事もなげに仕事とやらに励んでいる。

 

「えっと、その荷物は?」

「これは、そうですね、ちょっと海を渡るために必要な物資です」

「う、海を渡る? 1人で?」

「はい、風が無いので()()()ですけど」

 

 頭が追いつかない。まさかこの人、最近までずっとこんな事ばっかやってたのか。休みはどうしてるんだ、少なくともひと月は寝ずに動いているんだろ? オールウェイズ働き詰め? マジかよ。……幾らこの世界の人間の基礎ステータスが高くたって無茶にも程がある。

 

「……ああ、うん。ごめんね、仕事中に呼び止めて」

「大丈夫です。寧ろ、久しぶりに人と話せて嬉しかった位ですから」

 

 また、儚い笑みを浮かべた彼は、淀まぬ足取りで止まった人混みの中へ消えて行った。

 

 ……あんな仕事人間だったとは、また原作に無い描写だったな。

 

「う〜ん、身体壊さないと良いけど」

 

 アレはどう見ても仕事に忙殺された人間の姿だ。そこに生命の尊厳は無い。彼とムイちゃんの所属している組織は、異能力による犯罪行為全てを取り締まる組織なのだが──ここまで酷使されてるとは。

 

 ……確かに、時間停止の異能力は便利だが。ワンマンで動かすのは問題だろう。

 

 いや、もしかしたら今が忙しいだけかも知れない、今だけが。これまで時間なんて止まった事無かったし。

 

 ──暇つぶしのプラモでも買って帰ろ。

 

 

 


 

 

 

「終わらなぁ〜い」

 

 ──更に3日後。俺の停学はまだ終わっていなかった。

 

 そろそろ部屋一つを埋める買い込んだ山の様なプラモも消化しつつある。が、まだ終わらない。終わってくれない。いい加減休み過ぎて、頭の中がスライムみたいにぐてぐでになってしまった様な気すらする。

 

 そして今日もまた、時計の針は止まった。

 

「……また止まったぁ? 嘘でしょ、スパン1時間も無かったんだけど?」

 

 何度目か数えるのも飽きて来た頃だ。流石にここまで来れば何かおかしい事なんて嫌でも分かる。……これを見過ごすと、ヤバい気がする。

 

 俺はまた家を抜け出した。

 

 そうして街中を探し回ると、やはり大荷物を背負った彼が足を引き摺る様に歩いていた。

 

「──ねえ、大丈夫? 顔色土気色なんだけど」

「え、ええ。大丈夫です」

 

 もはや人の肌の色をしていない彼に、俺は絶句する。

 

「……何かあったら、言ってよ? パンピーじゃそこまで力になれないかも知れないけどさ」

「いいえ、これは、僕だけにしか出来ない仕事ですから」

 

 話しても、内容はこの前の会話とさして変わらない。平行線もいい所だ。……今まで出会ったどんな人よりも頑固な気がする。

 

「……休もうよ、時間止まってるんだしさ」

 

 俺はそう言う。正直今ここで気絶させた方が良いんじゃないかとすら思ったが、彼は首を横に振った。

 

「寝ると時間停止は解除されてしまいます。大丈夫です、()()()()()()()()()()ので」

 

 そう言い切る彼に、嘘の気配は無い。だが本当の事を言ってもいない。

 

 彼はエロゲー特有の都合の良い時間停止ができる筈だ。例えば時間停止していても動かしたいものはある程度動かせるし、時間停止中に誰かに刺激を与えれば、時間停止を解除した後にそれがフィードバックされる。原作はそうなっていた。しかし。

 

 もし……それが自分自身にも影響するのなら? 

 

 それは控えめに言って、死んでもおかしくないんじゃないのか。

 

「そっ、か。でもちゃんと休まないと、身体にガタが来ちゃうよ?」

 

 それはもう来ていてもおかしくない。が、本人は仕事を優先するだろう。止める言葉が見つからない。力尽くで止めるにも、彼の思いの強さを測り切れていない。余計な遺恨は残したくはないしなあ。

 

「……大丈夫ですから。大丈夫……大丈夫」

 

 どう見てもヤバい。今にぶっ倒れてもおかしくは──いや、時間停止を解除した瞬間ぶっ倒れてる可能性もあるな。

 

「そもそも、何で君だけが──シロ君だけが働いてるの?」

 

 在代(ありしろ)(きざむ)

 

 彼の言葉が本当なら時間停止中は寝ていないと言う事になる。少なくとも3週間時間が止まったままの時もあった、3週間働き詰めなんて、まともな人間ならとっくに死んでるだろう。

 

 だが、シロ君を止めるには些か頑固が過ぎる。恐らく、そのリストに載っている奴ら全員とっ捕まえるまで休む気も無いんだろう。

 

「心配してくれてありがとうございます。でも……僕が、僕が誇れるものは、これくらいしかありませんから」

 

 シロ君が何を背負っているのか。少なくとも背中の荷物よりは遥かに重いんだろうなと、俺は思う。

 

 ──困った。

 

 俺はこれまで原作を知っているからこそ、ある程度確信めいたアプローチが出来たんだ。だが目の前のシロ君の事は何も知らない。何で生意気オスガキみたいな性格じゃなくて、抱え込みタイプの苦労人ショタになってんのかもさっぱり分からん。

 

「あ〜ちょっと待ってて」

「ええ、はい?」

 

 何もしない気にはなれず、俺は近くのコンビニから菓子を取って来た。金はメモと一緒にレジに置いている。

 

「……はいこれ!」

「ガム、ですか」

「腹に何か入れたら眠気が来ちゃうだろうから、せめて気を紛らわす為にも、ほら!」

 

 そう言ってシロ君の手を取り、ガムを置いて握らせる。すると彼の目尻に涙が溜まり出す。

 

「……ありがとうございます。貰い物なんて生まれて初めてで……一生の宝物にします」

「……え、うん」

 

 涙目で喜びを露わにするシロ君に何を言えば良いのか、どんな言葉なら届くのか。そんな事を迷っている内に、彼は会釈してどこかへと去っていってしまった。

 

 消えた背中を追おうとしたが、無策で飛び込む訳にもいかず、脚が止まる。こんな美少女捉まえといて、あんな疲労困憊の顔されちゃたまんねえよ。

 

「シロ君の事、調べないと」

 

 別に俺はトラウマ解決係じゃないんだが、ああ言う顔の奴を見るとなんとかしてやりたくなっちまう性だ。

 

「……このまま放っても置けないからねえ」

 

 もしも、彼が時間停止中に死んだりしたら、一生この世界が停止する可能性も無くはないしな。でも手札は無い。まず彼の人となりを知らないと話にならないだろう。

 

「う〜ん、これしか無いよねえ」

 

 俺の知ってるシロ君の関係者なんて1人しか居ない。

 

「……停学中だけど、行くしかないかぁ」

 

 シロ君の先輩、ムイちゃんに話を聞きに行こう。時が動く僅かな時間の間に、聞ける事全部聞かせてもらう。

 

 ──この長過ぎる春休みを無事に終わらせる為に、シロ君の頑張り癖をどうにかしないとね。

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