【Limbus_Company】自囚人と創作キャラの創作物まとめ   作:彩花@clover

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引用元:桜の森の満開の下【坂口安吾】
https://www.aozora.gr.jp/cards/001095/card42618.html



XX章【堕ちる道を堕ちきること】中編

私は薄桃色の花びらの舞っている土の上で目が覚める。周りを見ても誰もいない。

あるのは、薄桃色の花びらのもとになっている桜の木だ。

周りにある桜の木を見渡す。だけど目の前にひときわ大きな桜の木が見える。

美しいと思えるのに自分の手が震える。散っていく花びらがどこか虚しさを覚えさせる。

桜、桜、桜の花びらが散っていく。命が散っていく。何もいない、何も残らない。

最後には何もかもがなくなってしまいそうな喪失感がある。

 

<…!?>

 

あまりに何故か恐怖を抱いて急いでその場から離れた。

息をシているわけではないけれど、呼吸音が早くなったような感覚に陥る。

理由もわからないくらいの不安を持っていた。桜が、花びらが、目の前にずっとずっとずっと。

足がもつれて体に浮遊感を感じた。

 

<うわぁあああぁぁぁあ!?>

 

落ちる、落ちる。体が落ちていく。

背中に痛みを感じた。ぐえっと声を出していた。

 

「お前もここにこれたのか。」

「みたいだなぁ…。」

 

リチョウ…じゃない、敦が言った。ここにこれたとは。

壇もそれに同調したからこれは間違いではないのだろう。

周りは緑の葉の森だった。下にも草花の生えた土がある。ここはなんだろうかと思っているとファウストの声が聞こえた。

 

「おそらくこの場所の変異性のせいでしょう。」

「…でしょうね。」

 

その後マリアが答える。

少し離れたところに敦がいる。全員ここにいるわけではなさそうだった。

体を起こして見渡すとそこにいたのは、ファウスト、リチョウ…ではない敦だ。

マリア、壇と私だけの様子だ。他の面々は見当たらない。

一体どこに行ってしまったのだろうか。敦が事情を知っていそうな壇に答えを聞いた。

 

「ここは何だ。」

「……ここは、坂口安吾の【桜の森の満開の下】という本をほとんどそのまま再現した場所だ。」

「……桜の森の満開の下について知らない方もいると思うのであらすじだけお伝えしますね。」

 

マリアは【桜の森の満開の下】のあらすじを教えてくれた。

 

鈴鹿峠には美しい桜が咲き誇っておりました。それはもう本当に美しいものでした。

だけども人々はその桜を嫌いました。それは桜が、人の気を狂わせてしまうからです。

この鈴鹿峠に住む山賊は、旅人の身ぐるみを剥がし、気に入った女であれば女房にしていた。

山賊はこの山の全てを自分の物だと思っていた。

しかし桜の森だけは恐ろしく、満開のときに下を通れば気が狂うと信じてやまない様子だった。

ある日、山賊は都からの旅人を殺し、連れの美女を女房にした。

その女は威勢がよく、過去に捕まえた7人の女房のうち、6人を山賊に殺させていた。

そして女の言いなりで、山から都に移り住むことに。

 

山賊が狩ってくる生首で、女は人形遊びならぬ「首遊び」を楽しんでおり、

首遊びは簡単だ。首に役を与えてそう、人形遊びと何ら変わらない。

女は次々と新しい生首を狩るよう命じますが、

山賊はキリがない行為に嫌気がさしており、都暮らしにも馴染めず、とうとう山に帰ることに決める。

首遊びに執着していた女も、諦めて一緒に戻ることにした。

 

女を背負って山に戻ると、桜の森は満開であった。

女と山に戻れる幸福から、桜の森の恐怖を忘れていた山賊ですが、突然、女が鬼に変化していることに気がつく。

鬼は山賊を閉めようとするが、山賊は必死で鬼を振り払い締め殺す。

ところが我にかえると、元通りの女に戻っており、その時に【孤独】というものを理解する。

泣きながら死んだ女に触れようとすると、ただの花びらになり、山賊自身も消えてしまう。

という話だという。

 

そこには誰も残らずただただ空虚に桜だけが咲き誇っているだという。

ただただ悲しいだけのお話だ。

 

<でも、あらすじはわかった。なんで本の世界に?>

「知らん。」

「ダンテさんはなんて?」

「ダンテはなぜ本の世界が現実に?ということを疑問に思っています。」

 

敦が言った。いやまぁその通りなんだけどもね。

マリアと壇には聞こえないからだろうか、マリアがファウストに聞いた。

ファウストが通訳をすると、本当にわかるんだぁと不思議そうに壇が言っている。

ただ、この世界に関して詳しいのは壇だけだからそれを聞くことにした。

まぁ、ファウストとマリアはある程度把握しているのだろうが。答えないだろうし。

 

「そうだなぁ…。この世界は、坂口安吾の大(分、気が狂った)ファンがいてな。そいつが、ここにあった機械に【桜の森の満開の下】を食わせたんだ。」

<へ?>

「おそらく、その機械そのものが幻想体の正体なのでしょう。」

 

細かくは分からないが、壇が言った。なにか、副音声みたいなものが聞こえた気がしたが今はいいだろう。

私は困惑をして、敦は黙っていた。マリアがそれこそが幻想体の正体であると看破した。

ただ、なぜそこにいるのかは現地の人間も何も知らないからなにか言えることはないのだが。

そうなってしまったのだから仕方がないのだろう。

私はとりあえず他の囚人たちと合流することを提案する。妥当だということであたりを散策する。

ちらりと見渡すと簡単にあるものがわかる。

この世界はチグハグだ。ここに峠があるのにすぐ近くに都があって、その都の方には寺がある。

道中は深く細かく語られることがないからこれくらいが妥当な気はするが。チグハグだ。

移動自体はそこまで苦ではない。

 

「…どうする。」

「そうですね…今現在がどのあたりの話であるかを把握することが大切かと思いますね。もしも最初からならおそらく山賊の家に迎えば主人公とはあえるはずです。」

「ですね。」

「問題は、どこにその主人公の家があるか、ですけども。」

 

敦はマリアに聞いた。まぁ幻想体について詳しいのはマリアだからマリアに聞くのは正しいけれども。

山賊の家があるのは把握しているらしいが、やはり山となっている峠だけあってどこにあるのか予想がつきにくい。

すると、その場所を案内するように壇があるき出す。

壇が言うには、やり直しをシているのなら山賊は山にいてまだあの女ともあっていないはずだ。

遠目で山賊を見て物語を見守ろう。とそう提案してきた。少し気になった事があった。

今、壇は"やり直し"と言い放った。私はその言葉にどこか違和感を覚える。

彼はここの性質を知っているのだろうか。

そうだと私は一つ疑問に思っていたことを告げた。

 

<なぜ、炳吾はあのきれいな桜を恐怖に感じるのだろう。>

「……さぁな。当人にでも聞け。」

「ダンテさんはなんて?」

「なんで桜に恐怖を感じるのかと言ってますね。」

 

その答えはマリアがほんの少しだけわかった気がすると言う感じで言っていた。

昔は桜というのは死の象徴ともされていたのだという。すぐに散るから。

その点は椿という花も同じである。椿は花がぼとりと落ちることから首落ち花など呼ばれていたとか。

それを一人になるということを桜で表現し切った坂口安吾という作家はとんでもなく才能に満ち溢れていたと言えると、

マリアはそういった。壇は隣でうなずいている。

あと、もう一つ気になったのが、これだ。

 

<そういえば今日は敦が出ている時間が長いね。>

「……こことやつの相性が悪い。」

 

というのも、今敦からリチョウになってしまうと、すぐさまリチョウが連れて行かれる可能性があるという。

どこにというのはわからないが、連れて行かれる可能性が高いという。

そんな話をしていたら、少し広いところが見えてきた。そこには牛が何かを押しているように見える。

そして何人かの刀を持った人が斬り殺されている。それなりに身なりがいいのか遠目からでもいいものをきていると理解できる。

その牛車?(といってもいいのかわからないけれども)からとっても美しい黒髪のとても長い女性が出てきた。

 

まるで髪のインナーカラーに薄いピンクが入っている。着物もその髪色に合わせてある。あまりにも美しい女性だった。

その女性の目の前に、少しだけ布の質感の良さそうな服をきている男がそこにいた。

私達が彼を見間違えるとは思えない。髪は紺色で黒いに近く肌は健康的な色味。顔はスっとしている感じ整ってる。

瞳は細めであるが、瞳の色は紫で、いつもの色眼鏡はしていないが、その顔を私達は知っていた。

炳吾だ。彼が太刀を持ってやっていた。人を殺していた。普段なら自分からは決してやらないであろうそれを、だ。

袖の無い青い服をきていた。下も同じ色のものである。括袴(くくりはかま)と脛巾(はばき)。

腕には篭手がついている。いつもの靴ではなく、草履を履いておりのもまた印象が違うように見える。

 

しかし、なぜ炳吾がそんな格好をしているのだろうか。

そんな格好をして人を殺して、今は女性に"女房になれ"などと言っているのだろうか。

マリアは解説をするために色々言葉を発した。

 

「この幻想体は、先程、本を食らったと言われたとおりに食べるのでしょう。そして、その物語を具現化する。そんな力を持っているのでしょう。おそらくツール型の幻想体ですね。」

「ほう…そこまでわかるなんて…俺はまだ何も言ってないのに。」

「壇さんがある程度情報をくれておいたので、…物語のとおりに"桜から離れる"選択をすると問題なく行動ができるのだと思います。」

 

壇は良くもまぁ気がついたなと思った様子でマリアを多少褒めている。マリアは謙遜をしているのか素なのか、そのへんに関しては何も言わなかった。

そして今回正しい動きの答えをマリアは予測ではあるが、伝えた。

 

<桜から、離れる?>

「桜から離れるとは何だと聞いてるぞ。」

「えぇ、この物語の桜は長くいれば気が狂ってしまう。そういう設定でそれから逃げようとどんな人もそうしてしまう、はず。という設定がありますから。」

 

マリアはそのまま答えてくれた。今回の場合は桜から離れる。ことが正解である。

それはこの文面を考えた人がそうだと定めたから。

で、それができなかった面々はそのままこの物語の糧になるか、幻想体の糧になるかのどれかでしょうと告げた。

おそらく、今いない面々は桜を"美しいと足を止めてしまった"から何処かに消えてしまったのだろうと推測した。

一番可能性が高いのはあの桜の森の一番大きなあの桜の中にいる…あるいは、その下にいるという可能性だった。

そして、この現象はおそらく長く続いている。

 

「…そして被害もそれなりに出ている。一度はいったら出られない桜の幻影とM社は名付けて立入禁止にした。」

 

そう、壇は告げた。ここは基本的に巣の人間は立入禁止だという。

調査隊を送っても帰ってこないのだから。困ってしまうものだ。とM社は思ったのだろうか。

しかもここから出たのはいないに等しい。対策を講じるまではこのままにしようとでも思ったのだろうか。

まぁ解決手段がわからないなら正しい判断ではあるのかもしれないが。

 

<なるほど、私達はそんなところに入ってしまったのか。>

「…なぜあいつしか山賊の役になれない?」

「理由はわからない。だけど炳吾しかあの山賊の役になれないんだ。」

 

私は巣が入らないと決めたところに何も知らないで立ち入ってしまったのか。

敦は疑問に思った様子で更に聞く。

ただその主人公、山賊の役を持って物語を終わらせなければいけないという意味合いだろうか。

壇が言う。もちろんその理由も自分が知っている限り答える答える壇。

 

「作者だから、だとは思うな。それか…あれと近いからなのかもしれない。そして、山賊が主人公でこの物語を進めることになるからだ。…物語は主役がいないと巡らない。」

「だから、他の人間が入っても解決しかなったということですね。」

 

そうなるなと壇が言う。しかし、やけに詳しいな。

案内してたときから思っていたが、異様なほどに今回の事象に詳しい。

というか炳吾も色々と知っていて何も言わなかったのだろうか。

 

<色々詳しいね…。>

「はぁ…。一度入ったことがあるだけだろう。そして何らかの要因が重なって出ることができただけに過ぎない。」

「…よくわかったな…。あぁ、そのとおりなんだ。俺は炳吾と…織田作と津島とでこの世界に入ったんだ。」

 

どこか寂しそうな顔をする。その名前は聞き覚えがある。リチョウが言っていた本の作家の本名だ。

 

「炳吾は何もできなかった。俺も手を出すことができなかった。……最後の最後で炳吾を連れて逃げるのが精一杯だった。」

 

山賊の格好をした炳吾は女をおぶって山道を登った。大分わがままな女性であるという。

わざとこんなふうに書いたのは知っている。だけども、だ。

こっそりと後をつける。そこには小屋があった。おそらく山賊のための小屋だろう。

殺されていなかった女性陣が女の発言によって殺されていく。

炳吾はわかったとだけ行って女の首を跳ね飛ばしていく。コロコロと首が落ちるのが見える。

悲鳴をあげて女たちは逃げる。7人の女たちが逃げる。

一人も逃してはいけないよ?と新しくきた美しい女は告げる。それに山賊は答えるように切り込んでいく。

しっかりと命を刈り取ってきた。その首をしっかりと落としていった。

 

<これが、あの炳吾…?>

「…山賊の役なだけですよダンテ。」

「あぁ、山賊はこうやって女に狂っていくんだ。山賊の役としては正しいよ。」

 

壇はこれが正しいと言った。

あのあらすじの中にこんなのがあるのかと思ったが、嫌でも殺すとは言っていたな。

どんどん女性が殺されている。こちらにいたら殺されるのではないかと思ったけれどもこのあたりには来ないさと言ってこのあたりで待つ。

おそらく前回も見ているのだろう。

壇は平然としている。ただ、あまりにも凄惨な情景でそのあたりに血と首と体が飛び散っている。

マリアは気分が悪そうにしてる。見ないように目をそむけた。壇が背中を擦っている。

 

女性7人のうちの6人を殺した。炳吾はそれを無表情で行っている。

それを見てあぁ、今の炳吾は炳吾であって炳吾でないのかと、思ってしまう。

最後の一人はとてもびっこ(一番あの中ではぶさいく)の女を殺さないで一人だけ残してその家にすみ始めた。

だが、連れてきた女は山の食べ物を何も食べない。少しは食べるが、ほとんど食べないのだ。

思えばあの山の食事はそれなりに豪華だと思う。

 

「ここからは少し眺めてましょうか。そのうち都に行くはずです。」

<ほかの囚人はそっちにいるかも知れない、ってことかな?>

「おそらくはそうだろうな。そちらにいるだろう。」

「…いると、いいんですけどね。」

 

マリアは眼の前の物語を眺めていようと言った。私は他のみんなが桜に取り込まれてしまっていない可能性も一応は考えている。

同じ場所にいなかっただけでそれにちょっとした役でその辺にいるのかもしれないと思ったからだ。

その時どこかの映像が流れた。私達の眼前に現れたのはなにかの映像だった。物語ではない。なんだろうか。

 

私は、坂口安吾が最も好きな文豪だ。

あの情景描写もさることながら人の愚かしいところをしっかりと書き込んでいる。

私は【白痴】を読んだ。女性というものを見てしまったような気持ちになった。

だが人などそんなものだ。だけどもそれが美しいのだから。

私は【夜長姫と耳男】を読んだ。あれは人間の身勝手さを書いている。

私はあれが好きだ。あの姫の傲慢な部分も、あの耳男の臆病さも好きだ。

だが、私が最も好きなのは【桜の森の満開の下】だ。

あの桜に包まれて、私も何度も何度も気が狂いたいと思った。

そう、あの桜は私を狂わせてくれる孤独というものに狂わせてくれる。

このL社の支部というつまらない地獄からお前と同じものにしてくれる。桜は、最も美しくそして残酷であるはずなんだ。

 

今のは、誰だと思ったが、そうか。

前にもあった。黄金の枝が共鳴した人物の映像を見せてくる。

黄金の枝が個々にあるのはこの男のせいなのか。というか、彼は旧L社の人間だったのか。

 

「今のは…。」

「過去にあった現象、ですね。そして、おそらくあの男が今回のこの桜の元凶を持ってきた張本人。」

「あいつが…!」

「……おそらく、死んでいるとは、思いますが。」

 

壇が言う。うらめしそうに言った。おそらくこの事件で何かがあったのだろう。

怒れる何かが。ただ、マリアが生きているとは思えないという。

それはなぜか、ただ、そんな気がするとしかマリアは答えなかった。

 

女たちはいつの間にか都に向かった様子で私達も都へ向かいましょうとマリアが言った。

それでいいかを確認してこられて私は首を縦に振った。

 

都に行く。かなり人が歩いている。

私達の格好はそれなりに奇抜ではあるが、あまり目立っていない。

それはこの物語に重要なものじゃないからだと思うと、推測をマリアは立てた。

ファウストも同意しているからおそらくそうなのだろう。

この都という場所はお金ではなく物々交換で色々成り立たせている様子ではある。

 

都では今夜になると首をかられるという事件が発生しているらしいという声が聞こえた。

ここにいると確信できた私達は炳吾達のいそうな場所へと向かう。

 

「確か物語に出てくる屋敷はそれなりに広い場所のはずです。中にはかなりの遺体が存在するはず。」

「なら、腐敗臭がする場所に行けばいい、って感じかな。」

「前回の場所と変わってなければいいんだけどな…。」

 

壇の案内で行く。前の場所とは変わっておらず屋敷の門の上の屋根のような場所に私達は立って移動をした。

流石に登ったところはよく見えるすぎるということで移動をしたのだ。

ただ、その屋敷を見るととても広くていい場所に思えた。………所々に首がなければ。

庭に首。部屋に首。どこかしこにも首が見えて流石にマリアも知ってはいたが気分が悪い様子で、壇が再度背中を擦っていた。

確かに首だけがこんなふうにあるのは異様である。

どうやらマリアは、死体であればうっすらと顔が認識できてしまうみたいで気分の悪い事この上なさそうである。

正直私も気分が悪い。吐いたりとかはしないけれど。

それにしても女は、毎回炳吾…いいや山賊か。彼にこの首をもってこいと夜な夜な言っている。

あんな首がいい、こんな首がいい。そしてその首で物語を作って遊んでいる。

 

そして首でこんなふうに遊んでいるのだ。

とある人物の首は家来を連れて散歩に出ます。その人物の首の家族達に別の首の家族が遊びにきている。

とある人物の首が恋をする。女の首が恋の歌を送る。

だけど男の首がそれを断る。また男の首が女の首を捨てて別の女の首を泣かせることもあった。

大納言の首はこういった。"月のない夜、姫君の首の恋する人の首のふりをして忍んで行って契(ちぎ)りを結びます。"

契りの後に姫君の首が気がつきます。姫君の首は大納言の首に騙されたのだと。

だけども、姫君の首は大納言の首を憎むことができず我が身の運命(さだめ)の悲しさに泣いて、尼になるのであった。

尼になった姫君の首を大納言の首は犯す。そう、尼にとって最もしてはならぬこと。姫君の首は死のうとします。

だけども大納言の囁きに負けて寺から逃げて山科(やましな)の里へかくれて大納言の首の妾となって髪の毛を生やす。

姫君の首も大納言の首ももはや、毛がぬけ、肉が腐り、ウジ虫がわき、骨がのぞけていた。

二人の首は酒もりをして恋に戯れ、歯の骨と歯の骨と噛み合ってカチカチ鳴り、

くさった肉がペチャペチャくっつき合い鼻もつぶれ目の玉もくりぬけていた。

ペチャペチャとくっつき二人の顔の形がくずれるたびに例の女は大喜びで、けたたましく笑っていた。

 

「マリアさん、大丈夫か?」

「………えぇ、一応事前に読んできてはいたんですけど、きますね…。」

「……この女をこんなふうに書いたのはわざとか。」

「あぁ、そのとおりだ。」

 

見ているのが嫌になりそうと言わんばかりにマリアが顔を青ざめている。

敦はこの女はそう書かれているのはわざとだという。

そんなふうにかけるのかと思った様子だ。だけどふと思うと確かにそうだ。

炳吾がここまで狂った女がかけるなんてと。

 

「炳吾は昔な。薬物中毒になったことがあるんだ。その時に色々な幻覚を見たことがあるからその時にかけるようになったんじゃないか…?」

<え!?炳吾って元々薬物中毒者だったの!?>

「色々あって友人全員で病院に放り込んで治したんだ。」

 

そんな話を聞くとやはりこの壇という人物はそれなりに古い友人なのだろう。

炳吾のことをかなり知っている様子だ。

 

「……この話は、何をテーマにしてる。」

「…この話は、炳吾が孤独をテーマにしてるんだ。人との柵(しがらみ)を嫌になるように女を書かざるおえなかった。……一人になってそれで、はじめて孤独を知るんだ。」

 

孤独を、知る。どういうことだと私は思っていた。だが、その答えはすぐに帰ってきた。

山賊は何不自由なく生きていた。腹がすけば、狩りをすればいい。最悪人から奪えばいい。酒だってそうだ。

着るものだって、武器だってなんだって奪えばいい。あの峠を通る人間から全て。

だけどそこで女に出会った。自分のあった中で最も美しく、恋をした。

恋をしてしまえば人間は腑抜ける。弱くなる。その人と一緒にいたいという感情が先走る。

だから片割れがいなくなればおかしくなれば考え方が変わる。

そして女との生活に嫌気をさした男は一人になって女から逃げて孤独をしっかりと認識する。

だけどそのままではつまらない。文としては平坦だ。

だからこそ、この狂いと最後の部分が必要だった。

そう、この話は恋から目を覚まして男が一人になる話を残酷に、そして人の心に残るように美しく書いているだけだ。

 

俺は、お寺の本堂のような大きながらんどうに一枚の薄縁も見当らない、だととある詩人の友人に言われた。

その通りなのだろう。だけど、俺の本を知っているだけの人間は天才だと俺を褒める。

本当の文を書ける天才などこの世界には山程いる。それと一緒に比べられるようになるなんて不公平だ。

そう、文学には天才はつきものだ。努力の天才もいれば、真実の何もしてないけどかける天才もいる。

そこには天才がいて、それを崇める人がいて、俺は神様になんてなれはしない。

実際に小説の神様だと言われている存在だって人なのだ。

きれいな文学はつまらない。そうだ。おれはそう思ってる。

俺は、破天荒なものが書きたいんだ。アイツラと一緒に。

 

炳吾だ。炳吾はここにいないけれど、それが見えるということは、作用している。

黄金の枝が、いやまぁ少し前の男の時からわかっていたことではあるけれど。

機械…ツール型の幻想体に対して黄金の枝が作用している。

そしてここは終わらないと回収はできない。

 

「…?今のって。炳吾の…?2つ、見れるのか?」

「…そうですね。今回は2つ見れる様子です。」

「最初に見えたやつとも共鳴しているということ、ですか。」

「はい。」

 

壇はこの光景を初めて見るからか不思議な感覚らしい。

ファウストが答える。マリアはそれにしたいして疑問というか答えをぶつける。

マリアは瞳を閉じて物語を音として聞いている様子だ。

物語どおりに進めば本来はこのあたりで山賊は嫌気が指して山に帰ると言うのだ。

だが…。

 

「俺は、嫌だよ。」

「あらまぁ、臆病風に吹かれたのかい?弱虫だねぇ。」

「きりがないから嫌になったんだ。」

 

山賊…炳吾は嫌になったという。きりがない。確かにそのとおりだ。

何度も何度も切って切って遊んでいるのを見て、こんな凄惨なものを見てさっさと嫌になって逃げればいいのに。

逃げなかった。どれだけ首を刈っても女は満足しない。だとするならそうだ。

きりがない。という表現はしっかりとしている。

 

「あら、おかしなことを。なんでもきりが無いものよ。毎日ご飯を食べて毎日眠ってきりが無いじゃない。それと変わらないよ。」

「それとは、違うだろう。」

「…なら、あんたは本当に一人になっちゃうね。」

「!…っ…ひとりは、いや、だ。」

 

その言葉を聞いて動けなくなったように。勿忘草(わすれなぐさ)色の烏帽子のない直垂(ひたたれ)姿の炳吾はその場にしゃがみ込む。

その服に血がつくのも厭わない。震えてなにかに怯えてしゃがみ込む。

そして女は優しく撫でる。それは子供をあやすような母親のように。

 

「おかしい、前はこんなふうになってなかった。きちんと物語どおりに…。」

 

壇が少しうろたえる。

 

「…なるほど。」

「マリアさん。結論は一つだけかと。」

「ですね。」

<え…?一体何を?>

 

マリアとファウストはすでに思いついている様子で行動するために何かを二人で話していた。

 

「かなり強引ですけど、進めましょう。物語を。」

<…みんなはここにはいない、と?>

「おそらくは、全員桜に取り込まれているでしょう。」

「だろうな。周りを見たが目立ったそれななかった。」

 

ここにはみんなはいない。敦も同意見だそうだ。

正直他の面々はなんとなくそんな気はしていたという目をしている。私だけか…。

少し戦力が心もとないとは思うが、最低限はいるなんとかなるだろう。

作戦というか物語を進めるには、山賊が桜の森の満開の下に来なければいけない。

だから女をそこに連れていけばいいと言う話だ。

その実質誘拐をするのは男性陣。敦と壇だ。壇は女を運ぶ役。

敦はもしも山賊が戻ってきたら気絶させて運びやすくする役だ。

ほか面々は鈴鹿峠の桜の森の満開の下にて待つことに。近くなっているのを見るとやはりそうだ。

このあたりは整合性がしっかりとしていない。描写がない部分は省かれるということだろうか。

もう一度あの桜を見る。少し寂しさを感じる。最初に見たときは異様なほど怖いと思ったが、飲み込まれるほどの恐怖ではないし。

逃げ出したくなるような恐怖感はない。

おそらく一人ではないというのもあるからだろうが。

 

<この桜は美しいとは思うけど、どうしてなんだろうかな。>

「孤独の象徴にしたのか、ですか?」

<そうだよ。だってこんなにも美しく花が咲き誇っているのに、なんで私は…いいや、この世界の設定を書いた炳吾は何を思ったのかなって。>

「マリアさんは、どう思いますか?」

「何がですか?」

「桜は美しいのに、怖いと思ったのかだそうです。ダンテが。」

 

私は独り言のように呟いているとファウストがしっかりとそれを拾って、私と対話した。

その後マリアに話をふる。おそらくこの話をそれなりに把握しているのはマリアと壇と炳吾の当人だろう。

それを口に出していなかったので私は知り得ない。

マリアは少し考えて言葉を綴った。

 

「…それは、美しいからですよ。」

 

その言葉に疑問を浮かべる。

元来美しいものと言うのは愛でるものではあるのかもしれません。ですが、その存在の美しさというのは永遠ではありません。

美しさはそこにある限り有限です。いつかいなくなるものですから。

いなくなってしまえば死と何ら変わりません。だから恐怖を抱くのかもしれません。

それ以前に桜は大昔は恐ろしいものとして扱われていたそうです。

この世界がこうなってしまう以前は…よりももっと前。桜はすぐに散ってしまうからマイナスのイメージが合ったそうです。

とある創作物にもあるように桜の樹の下には死体が埋まっているという話もあるくらいだと。

マリアは更に続けた。

 

「桜に対する感情が美しいだけで終わってしまえばこの話は、終わり。なんですよ。何も広がらない。」

 

それは確かにそうなのかもしれない。

 




ダンテは本来知らないはずだけど、なんで知ってるんだろうな。
という部分に関してはですね。
ダンテにわかりやすいようにツール型の幻想体が教えてくれているらしいです。
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