魔王討伐に貢献したオークの英雄、数百年後の世界で人間の女戦士を嫁にする   作:京谷ぜんきまる

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第58話 一夜明けて

 

 酒はこの世界でも太古の昔から様々な種族が飲んできた飲料だ。

 飲めば脳に軽い麻痺を引き起こし、様々な効用をもたらす。

 同じ種族でも個体によってその反応は様々で、ストレスの解消など“いい気分”を味わえる者もいれば、軽い混乱状態になったりする者もいる。

 陽気になったり、怒りっぽくなったり。涙もろくなったり、愚痴っぽくなったり。

 一滴も飲めず、飲んだら卒倒する体質の者もいる。

 

 そして、飲み過ぎれば、翌日に二日酔いになってひどい頭痛や吐き気に苦しむことになる。

 「もう二度と酒なんて飲むか」と、その時は心に誓っても、酒好きであるなら、二日酔いの苦しみをさっぱり忘れてまた飲む。

 

 酒とはそういうものだ。

 また、酔っている最中の記憶がおぼろげだったり、中にはほとんど覚えていなかったりする者もいる。

 

 アーガ砦は何年も廃墟になっていた建造物だ。

 壁などは修復されたが、それは応急処置的なもので、やはりどこからかすきま風が入り込んでくる。

 メトーリアの寝ている天幕の中にも冬間近の朝の冷気が入り込んできて、彼女を目覚めさせた。

 

 寒い。続いて起き抜けに感じたのは疲労感と喉の渇き。

 そして、頭痛だった。

 

「くぁ……うっ」

 

 メトーリアは口を開けてから、顔をしかめた。

 

 手で口を隠しながら、隣を見る。

 バルカの姿はなかった。

 天幕の中で一緒に寝たことは覚えている。

 たしか、ニーナの寝場所をそのまま使ったはずだ。

 毛布が乱れているので、おそらく先に起きて身支度をしに外へ出たのだろうか。

 

 二度寝の誘惑に打ち勝って、メトーリアは立ち上がった。

 天幕の柱に掛けられていた籠の中をまさぐり、小瓶を取り出す。

 それから、昨日使った杯で、備え付けの水瓶の水をすくった。

 小瓶を開け、中にあった丸薬を五、六個を杯に入れて指でかき混ぜた。

 丸薬を溶かし込んだ水を使って、まずはうがいをしてから、口の中をすすいだ。

 

 丸薬は浄水作用のある薬だった。

 メトーリアが使ったものは魔法で強化されたもので、一個でも虫が湧いているような濁った水を飲み水にすることができる。

 数個入れた水なら念入りな歯磨きをしたのと同じ効果があるのだ。

 ハーブの成分も含有されているので、気持ちの悪かった口の中が一気にリフレッシュされ、メトーリアはホッと一息ついた。

 

 次に水を飲もうとして、再び水瓶に杯を浸すが、ふとその手が止まる。

 

「…………」

 

“熱い"

 

 バルカに群がるオークの女衆が気に入らなくて隠密服のみの姿を皆に晒したこと。

 

「う……」

 

“私に魅力を、感じなかったのか?"

 

 と、バルカに面と向かって問うたこと。

 

「……くっ」

 

“お前といると、自分が変になる(中略)私は、なぜかお前と亡きお父様を重ね合わせてしまった"

 

 酒にのぼせて、自ら発した数々の発言。

 メトーリアは深酒をした翌日に、自分が言ったことしたことの記憶が欠落したり、完全に忘却していたりするタイプではなく、一言一句しっかりと覚えているタイプであった。

 

「あ、あああああああ~~~~~~~~~っっっ」

 

 さらに、なぜか抱っこをせがむという謎の展開になったことを思い出して、メトーリアの心はあまりの恥ずかしさに、のたうち回るのだった。

 

 

    ×   ×   ×

 

 

 メトーリアが身支度を済ませてから少しして、バルカがネイルとメリルを連れて天幕に戻ってきた。

 すんっとした表情で冷静を装っていたメトーリアだったが、

 

「メトーリアの姐さん。オハヨウゴザイマス」

 

 と、ネイルが共通語で話しかけてきたので呆気にとられ、すぐに真剣な表情になってバルカの方を向く。

 

「バルカ、どういうことだ? 何世代にもわたって呪いにかかっているフィラルオークは例え呪いが完全に解呪されても、話せるようになるのは新しく生まれるオークからだと、以前言っていたじゃないか?」

「ああ、俺もメリルもレバームスからそう聞いていた。今はレバームスが不在なのでギデオンにこの状況を分析させてみたんだが……ギデオン。出てきてもう一度お前の考えを説明してくれ」

 

 バルカが呼びかけると、器械精霊ギデオンは中空に姿を現した。

 

「了解デス。ええっとですね。単純な話ですヨ。ネイル氏は呪いの抑制薬を投与したら、言葉を話し始めました。でも、抑制薬は何人か他のフィラルオークにも投与してるんですけど、彼らにはそこまで劇的な変化は現れてないんです。共通語(ベーシック)も話せません。

 ということはです。フィラルオークには二つのタイプがあるってことになります。

 一つは何代も前から水による呪いで知能が低下し、この周辺に棲んでいた者。

 そして、二つ目。元々水質が汚染されていないところにに棲んでいて、その時は呪いにかかっていなくて正常だったケド、根の谷から北へ流れる水系の地域にやって来て、初めてその身に呪いを受けた者。

 ネイル氏は後者であり、大人になってから呪いを受けたために、元々教育を受け学習していた様々な知識や言語能力が抑制薬のおかげで復活した……と、いうことが考えられます」

 

「俺、ここに来る前。地の底にいた」

 

 ネイルのしゃべり方はまだまだぎこちない。

 

「地の底って……地下世界のことか?」

 

 大陸の地下深くには別の世界が広がっている。

 メトーリア自身は行ったことはないが、冒険者の間では有名な話だ。

 しかも、その世界への入り口はかなり近くにある。

 湿原にやってくる前に通った根の谷の奥にあるという大穴だ。

 

「確かに、地下世界の水系は地表のものとは全く異なりますから。ありえますネ~」

「な、なあギデオン。オークの都『モーベイ』はここから更に北の、かなり山奥の高原にあった。もしかしたらまだ健在なんじゃないか?」

「それは、わかりませんが~、汚染された水系はかなり限定的なのかもしれません。だとしたありえますね。モーベイにも地下世界への出入り口が確かありましたよね」

 

 さっきから思案顔で沈黙していたメリルが手を挙げた。

 

「あの~、レバームス卿はこのことを予想できなかったんでしょうか?」

「……確信がないと考えを明かさないところがあるからな、あいつ。それにしても、今あいつはツテを頼るとか行ってその地下世界に行ってるんだが……」

 

 バルカはレバームスを庇うような発言をするが、内心ではメリルと同じ疑問を抱いていた。

 

「ネイル、お前はどうして地下世界から出てきたんだ? 根の谷周辺に来ると呪いにかかるって知らなかったのか?」

「知ってた」

「!? じゃあなんで――」

「群れの争いに俺の群れ、負けた。地の底、縄張り争い、いつも、ずっと起こってる」

 

 戦いに敗れ、追放されたということか?

 バルカとメトーリアは顔を見合わせる。

 

「バルカ、どうするつもりだ?」

「いずれは行ってみるしかないだろう……地下世界に」

 

 

     ×   ×   ×

 

 

 レギウラの都メルバに在る王城にて。

 アルパイスはギルドクリスタルを使って通信していた。

 通信相手はオークの縄張りに出現した絶滅したと思われていた高位の魔物『ワームナイト』の存在を報告していた。

 そして、バルカが今や伝説となっているその魔物を、ほぼ一人で壊滅させたこと。

 フィラルオークの里が復興し始めたことや、オークの知能が復活するかもしれないことなど、全てを報告していた。

 

『――メトーリア様は偽装ではなく……いえ、偽装だとしても、明らかに本心からバルカーマナフに特別な感情を抱いています……』

 

「……ならば、メトーリアには引き続きバルカとともに行動するように伝えよ。アクアル隊もだ」

『なぜです? もうオークの脅威は去ったはずです』

「いや、より大きな脅威となった。だからこそ、メトーリアにはバルカーマナフへの()()()となって貰わなければならん。()()()()()()()()()のだからな」

『……承知いたしました』

 

    ×   ×   ×

 

 サンピーナ峠。

 霧深い北の湿原を背に、フードを被った人影が水晶玉を手にしている。

 水晶玉に移るアルパイスの幻像が消えると、人影はフードを脱いだ。

 

「…………」

 

 朝陽に輝く水晶玉を見つめているのは、アクアルの治療士ニーナだった。

 

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