魔王討伐に貢献したオークの英雄、数百年後の世界で人間の女戦士を嫁にする   作:京谷ぜんきまる

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第68話 ハイオークとの遭遇

 

「ギデオン、起きてくれッ」

 

 メトーリアは何かと口うるさかったギデオンを夕食前に休眠状態にさせていたことを後悔しながら、器械精霊の名を呼んだ。

 

「休眠解除。周囲に敵性反応。所属不明のオークを複数確認――って、うおおおおぉぉぉ!?!? プローブ・アイからのアラートが無数に来とるッッッ」

 

 呼び出しに応じて姿を現したギデオンは最初は別人のような抑揚の無い声だったが、すぐさま元の口調に戻った。

 

「バルカ、目の前の連中は根の谷の大穴からやって来たオークデスッ」

 

    ×   ×   ×

 

「なんだぁ? あのちっこいのは」

「人間の女どころか妖精まで侍らせてやがるのか」

 

 フロストパームの下生えをかき分けながら現れたオーク達は、明らかにフィラルオークとは違った。

 数は二十名ほどか。男しかいないように見える。

 プレートで全身を覆う重装鎧に幅広の剣を帯び、槍を装備しているいかにも兵士といった装いで、統一感のある武装だ。

 いまだ彼らの一部はナキムに欲情の目を向けていたが、バルカを見て訝しむ者もいる。槍を構え、警戒の度合いを強めたようだ。

 

(いた! 地底界に呪いにかかっていない同族達がッ)

 

 バルカは喜びと安堵に思わず笑みがこぼれた。

 何やら剣呑な物言いと粗野な態度で、とてもじゃないが友好的とはいえない雰囲気だが、初対面のオークの群れとの接触(コンタクト)などは四百三十年前も大体このようなノリだったので、バルカは構えることなく地底界から来たオークの集団に向かって、両手を上げながら歩み出した。

 

「ここのフロストパームはお前達のものか? 俺たちは手はつけてない。武器を下ろしてくれないか」

 

 バルカが言葉を話したことに武装したオークのひとりが驚愕する。

 

「こ、こいつ喋ったぞ。地上にいるのに呪いにかかってねえのか?」

「あ~……それはだな――」

 

 バルカは「またこのパターンか」と少し苛立ちながらも、何を、どこから説明しようかと逡巡する。その間に、地底出身のオーク達は見当違いな結論に達してしまう。

 

「バカ、んなわけねえだろ。大方、呪い酒と下級オークを攫いに無許可で地上に出た盗っ人だ。おいコラ、おまえどこの氏族(モン)じゃ!」

「俺は――ふ、ふふ」

「あ? 何ヘラヘラしてやがる!」

「すまんすまんっ、こういうの、ちょっと懐かしくてな。俺の名はバルカ。オリジニー氏族のバルカーマナフだ。地上の……根の谷周辺の群れの長をやっている」

 

 これを聞いて、地底界からきたオーク達は一瞬きょとんとして、お互いの顔を見合わせ、ゲラゲラと笑い始めた。

 

「嘘をつくならもうちっとマシな嘘をつけッ。オリジニーはとっくの昔に滅んだ氏族じゃねえか! しかも伝説の英雄様の名前を騙るとはふてえ野郎だ!」

 

 一隊の中で一番背の高いリーダーとおぼしきオークの男がそう言って牙を剥き出しながらバルカを睨み付けた。

 バルカは内心、自分の氏族が滅んだと言われたことに激しく動揺していた。

 先ほどの嬉しさも期待感も急激にしぼんでいく。

 

「……俺は名乗ったんだから、そっちも名前を言えよ。そういう掟だろ。地底界じゃ違うのか?」

 

 それでも、バルカは努めて冷静に相手の名前を聞いた。

 

「俺様の名はザズ。グラント氏族の長ギルベーダ様の命令で隊を率いて呪い酒の採取にきたのだ。てめえもハイオークなら、本当の名前と所属を言えッ。誰の命令で地上に出た?」

「いや、だから俺は――(ハイオークって何だ?)」

 

 聞いたことの無い用語に戸惑いながらも、穏便に説明しようとしたバルカだが、怒気のみなぎる唸り声を聞いてハッとした。

 

     ×   ×   ×

 

 声を発したのはナキムだ。

 フィラルオークは複雑な会話ができない分、相手の動作や視線などで感情や意思を読み解こうとする。

 ナキムは、先ほどから自分を見るオークの男共の視線が大いに勘に障っていた。

 バルカやメトーリアにビオンとの性交を見られるのは恥ずかしいが、まだ我慢できる。

 だが、見ず知らずのオークの、獣欲に満ちた視線に晒されるのは許せなかった。

 ……付け加えて、バルカに対する連中の舐めた態度にも激怒していた。

 ビオンはというと、先ほどまでの雄々しさがなりを潜め、見知らぬ同族達に囲まれて縮こまっている。

 

「お、なんだ、この雌。一丁前に鼻息荒くしやがって。へへ、呪いがちと怖えがお前ら下級オークを俺らハイオークがヤレないってわけじゃないんだぜ」

 

 そう言いながら、ザズと名乗ったのとは別のハイオークが手に持っていた槍を地面に置いてナキムに近寄っていく。

 彼女の目は怒りに燃えていた。

 近寄ってきたハイオークの胸部を諸手で押し出すように突く。

 

「げふっ!?」

 

 軽い動作に見えた。

 それほど強く突いたようには見えなかったが、不用心に近づいたハイオークは咳き込むような苦鳴をあげて吹っ飛んだ。

 一気に他の兵士達が殺気立つ。

 

「おい、やめろナキム! ザズ、お前も止めるように部下に言ってくれ」

 

「かまわねえ! 手足を切り落としちまえ!」

 

 ザズの命令を受けて、槍や長めのブロードソード(幅広の剣)を持ったハイオーク兵がナキムに殺到する。

 

「オルッ!」

 

 天幕に武器を置いてきているため、今のナキムは今は素手だ。

 腰を落として身構えるナキム。

 するとやや濃いめの彼女の緑色の肌が金属のような光沢を放ち始めた。

    ×   ×   ×

 

 殺到する敵に対してナキムは構えたまま微動だにしない。

 剣がナキムの肘の裏に、槍が太腿に当たった。

 

「げ!?」

 

 ハイオーク達は驚愕した。 

 ナキムの皮膚が緑色から灰褐色に変化し、剣を、槍を、はね返したのだ。

 

    ×   ×   ×

 

(全身防御スキルかっ)

 

 助けに行こうとしていたメトーリアは立ち止まって瞠目していた。

 ナキムの灰褐色に変化した肌が放つ光沢は闘気によるものだ。

 全身防御スキル……クォーツ・スキンやスティール・スキンなどといわれる筋肉や皮膚の防御力を高めるスキルだ。

 クォーツ・スキンはその名の通り花崗岩のように硬く、並みの打撃を寄せ付けない。

 スティール・スキンならば、クォーツ・スキンを超える防御力を誇り、鋭い斬撃すら跳ね返すという。

 斬撃を無効にするナキムの肉体は少なくともスティール・スキン並みの強度を持っているということになる。

 

    ×   ×   ×

 

「バカな!? 下級オークごときが――」

 

 みなまで言わせずにナキムは跳躍し、ブロードソードを振りかざしていた相手の鳩尾に拳打を放った。

 

「グエエッ」

 

 鳩尾は鎧に守られていた部分だが、拳の形にプレートが凹み、ハイオーク兵は悶絶した。

 金属に握り拳を振るったのがさすがに痛かったのか、ナキムは顔をしかめて手を握ったり開いたりを繰り返してから、掌底や無造作な前蹴りを放ち、あっという間に三名を吹っ飛ばした。

 

 ナキムは以前から肉体を硬化させるスキルを備えていたが、アーガ砦でバルカが触手妖魔デフィーラーやその合体種ワームナイトと戦うのを目の当たりにすることで、飛躍的な成長を遂げていた。

 他のオークの肉体をいとも簡単に抉りとり、破壊する触手の攻撃が、バルカの皮膚には傷一つ付けられない様子や、ワームナイトの攻撃を弾き返す時のバルカの身体操作、霊力の使い方を見て、学び、自らのスキルを高めていたのである。

 

 突出したレベルに達している者の一挙手一投足を見るだけでも、高度なスキルや魔法、霊体の働き方を習得しレベルアップできる。

 フィラルオーク全体が、バルカの薫陶を受けて戦士としてのレベル、兵士としての練度を高めているのだ。

 特にナキムはフィラルオークの中でも急激なレベルアップを遂げた特異な個体だった。

 

    ×   ×   ×

 

「やめろ! そこまでだッ。ナキム! デ・ウェイ! ラース!」

 

 バルカはハイオーク達がナキムの強さにたじろいだ隙に、間に割って入った。

 死人が出たかとバルカは焦ったが、やられた奴らはみなうめき声をあげている。

 どうやら皆、死なずに骨折程度で済んだようである。

 

(いや、内臓損傷ぐらいはしてるかもな……)

 

 ナキムはバルカの命令にビクリとしてその場で跪いた。

 ザズは化け物じみた強さを発揮していたナキムがバルカに従っているのを見て恐怖の表情を浮かべた。

 

 どうやら地底界に住まうオークも強さが基本的な価値基準になることに変わりはないようだ。

 つまり、ナキムよりもさらにバルカが強いということに思い至って、さっきまでのザズの威圧的な態度が完全に消え去る。

 

「あ、あんた何者だ!? こ、この女も、下級オークじゃねえのか?」

 

 そう言いながらじりじりと後ろに下がるザズを見て、他のハイオーク兵達も負傷者を抱えながら後退する。

 バルカは頭上のフロストパームの枝に取りつけられた樹液を採取する仕掛けを指差す。

 

「ザズ、お前らの目的の呪い酒って……あのフロストパームの(サキ)のことだろ? お前らにとっては地上の水で汚染されてるパームワインは確かに知性を退化させる呪いの酒だもんな。そんなの採取してどうするつもりか知らんが、これ以上無駄な戦いはやめろ。とにかく落ち着いてくれ」

 

 バルカは冷静に言葉を投げかけたが、ザズの目には動揺が浮かんでいた。

 ナキムの硬化した肌にはね返された剣槍が地面に落ちているのが視界に入る。刃が欠けているのを見て、ザズは落ち着くどころか恐慌状態になった。

 

「くそっ、こんな化け物が地上にいるなんて聞いてねえ! 撤退だ、戻るぞ!」

 

 ザズが叫ぶと、ハイオークたちは引き返し始めた。

 地底界へ続く大穴がある方向だ。

 

「バルカ、このまま行かせていいのか?」

 

 メトーリアの問いにバルカは逡巡した。

 できれば、敵意が無いことを伝えて地底界の情報を聞きたいのだが……。

 

(力ずくで何人が拘束するか? いや、しかし)

 

「私の阻害スキルなら死傷させること無く、何人か捕らえることができるが」

「いやいい。ザズとかいう奴“グラント氏族の長の命令で――”とか何とか言ってた。地底界にオークの氏族制度が残っているのなら、これ以上は下手に揉めたくない」

「そうか……ん? おい、あれ」

 

 メトーリアに促される方向を見ると、少女がいた。

 背の低いハイオークの女の子が、身動きせずに佇んでいた。

 

「ゼフラ! お前何やってんだ、早く来い!」

 

 ザズが振り返って叫んだが、少女――ゼフラはじっとバルカを見つめたまま、動けないようだ……否、バルカには彼女が自分の意思で立ち止まっているように見えた。

 バルカが近づくと、彼女は小さな声を絞り出した。

 

「あの、あたし……」

 

 ザズ達他のハイオークたちはゼフラを見捨て、逃げ帰っていく。

 バルカは無言でゼフラに手を差し伸べた。

 





おまけ

【全身防御スキル】

レベルの高い戦士は素の状態でも防御力が高いが、霊力を消費することでさらに防御力を高めることができる。
MMORPG的にいうとMP消費し続けることで持続的に効果が発動する『トグルスキル』みたいな感じ。
武侠小説的にいうと『外功』

ナキムはこのスキルを発動すればまさに鉄壁の防御力。
バルカも使えるし、作中で使ってる。でも今のところ皮膚の色が変化するくらい気張らなくてもいいので肌の色は変わってない(((ふわっとしててごめんなさい)))
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