魔王討伐に貢献したオークの英雄、数百年後の世界で人間の女戦士を嫁にする 作:京谷ぜんきまる
バサルデ城地下の階段を降り、バルカ達は最下層に辿り着いた。
「今更だがバルカ、お前はモーベイのワールドノードを利用したことがあるのか?」
環状列石の中心に祭壇のように存在していたワールドノードをしげしげと眺めながらレバームスは尋ねた。
「いや、ない。だがモーベイの都城にあるとは聞いていた。多分そこへ出ると思う。そうだろ? ゼフラ」
「はい、バルカ様」
一行は早々にワールドノードの中に飛び込んだ。
根の谷から地底界へと転移した時は、ワールドノード同士を繋ぐ霊脈回廊で、はぐれないようにバルカ達はお互いをロープで繋いでいた。
だが今回は二度目の転移。
少人数ということもあり、まばたく星の海に架かる光の回廊をそのまま足早に通り過ぎた。
途中、幻影などに惑わされることもなく、バルカ達は、出口となる反対側のワールドノードを通過した。
ゼフラ、バルカ、メトーリア、レバームスの順でノードの光の渦から現れて降り立った足場は、入ったときとそっくりな環状列石内だった。
だが、周囲はバサルデのような建物の地下というよりは、坑道を思わせるような空間だった。
「この道を上がっていけばモーベイ都城の中庭に出ます」
地下通廊は根の谷の大穴ほどの深さはないようだ。外の光がここからでも見えた。
ゼフラの先導でバルカ達は通廊を通り、石門をくぐって外に出た。
冷たい空気が吹きすさぶなか、バルカ達は立ち止まって空を見上げた。
澄み切った青空が見えた。
「戻ってきたんだ……」
地底界から地上界に戻ったのだと、実感できた。
太陽は無く、星々が強い光を放っている不可思議な空ではない、地上の空を見てメトーリアは少しだけほっとした気分になって独りごちるが、すぐに周囲を警戒して見渡す。
ゼフラが言ったとおり、今バルカ達がいるのは城塔付きの城壁に囲まれた中庭だ。
壁面は火山岩をそのままくり抜いたような様相を呈している。
右手に一番高い主塔が見える。
熱く溶けた火山岩を途方もなく巨大な何者かが捏ねて造り上げたかのような偉容だ。
「モーベイの城は何も変わってないな」
そう言いながら、バルカは城の主塔を見上げた。
感慨深げな声を漏らした直後に、バルカは異臭を嗅ぎ取って顔を顰めた。
メトーリアとレバームスも鼻を手で覆った。
異臭の原因は死体だった。
二十ものオークの生首が、柱に突き刺さって晒されていた。
「ザズ……」
ゼフラは蠅のたかっている首を見上げてそう呟いた。
生首はザズとその部下達だった。
「マジか」と、レバームス。
「はい」
無理矢理とはいえゼブラにとってザズは婚約していた男ではある。
だが、レバームスの問いに答えるゼフラは冷淡なものだった。
中庭にいた警備兵が数人、槍を手にして地下通廊出口に立ちはだかった。
「止まれ! おのれら何モンや?」
ゼフラが前に出て、これまでとはうって変わった表情で警備兵を見据える。
「私を知らないのか? じゃあ、お前の上役を呼んでこい」
「な、なにを」
一悶着起きそうなところで、オークにしては細身の男が駆け寄ってきた。
「待て待て! 武器を下ろせ!」
男はそう言って、息をあえがせながらゼフラに一礼した。
「ゼフラ様。ご無事でしたか。下級オークにさらわれたと伺ったのですが……」
「お前はたしか……」
「ネスタンです。都城中央塔と中庭の管理を任されとります」
名乗りながらネスタンはゼフラと一緒にいる者達をチラチラと見た。
最初は青い肌のエルフや人間であるレバームスとメトーリアを注視していたが、だんだんと視線がバルカに集中していく。
「ネスタン、見ての通り私は無事だ。ラケーシ様に私の帰還を伝えて欲しい。それから、すぐにお会いしたいと」
「は、はい」
返事をしながらネスタンは、バルカの軽装鎧や背負っている戦斧をもっとよく見ようとしていた。
「……この方の名はバルカーマナフだ。その事もお伝えしろ。ゼフラが会わせたいお方だと」
「!? バ、バルカーマナフ?」
「はやく行け」
「は、はいっ。ではお前達、ゼフラ様とお連れの方々を主館の広間にご案内しろ」
「いや、いい。ここで待つ」
「分かりました。バルカ様」とゼフラ。
「……ではしばらくお待ちください」
ネスタンが去ってから、バルカは困惑の表情を浮かべる。
「なんで、ザズ達は首を晒されてる? そもそもなぜ殺されたんだ?」
「ギルベーダに処刑されたんでしょう」
「なんで?」
「正直言って、わかりません。地上のフロストパームを採取しなかったことか、地上のオークと戦って負けたことを咎められたのか、私を置いて逃げた責任を取らされたのか……」
「……処刑の理由はその全部です。ゼフラ様」
態度を改めた警備兵の内のひとりが答えた。
「ゼフラ、ザズはグラント氏族だったんだろう?」
「はい、メトーリア様。ギルベーダの側近の内のひとりでした」
「その側近をオークの都の城でさらし首にする理由は……」と、メトーリア。
レバームスは鼻を手で覆ったまま眉をしかめた。
「絵に描いたような暴君だな。身内に対してもこの所業だ。それ以外の者が逆らえば”どうなるか分かっているだろうな?”……と、モーベイにいるオーク達へ恐怖を与えているわけだ」
バルカは無言でさらし首に近づいた。
それを見て警備のオーク達は、互いの顔を見合わせた。
バルカは彼らに声をかける。
「なあ、塩で満たした桶を首の数だけ用意できるか?」
バルカが何をしようとしているのか察した警備兵達は一斉にゼフラの方を見た。
ゼフラは笑っているようだった。
「言うとおりにして差し上げろ」