魔王討伐に貢献したオークの英雄、数百年後の世界で人間の女戦士を嫁にする   作:京谷ぜんきまる

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第89話 寝室での閨房術(チェンバー・アーツ)

 バルカ達はハイオークたちの視線に晒されながらも、ラケーシに導かれ、彼女の宮殿へと案内された。

 モーベイ都城の敷地内にある宮殿は、城の中庭からさほど離れていない処にあった。

 オークの建造物としては珍しく、壁面には沈み彫りでドラゴンや古代のオーク戦士等が描かれている。

 

「ここは、たしか後宮じゃなかったか?」

 

 建物の入り口を通り過ぎる時にバルカが呟いた。

 

「そうだよ。今はルサイド氏族長の居館でもある」

 

 後宮の中は炎のような明るく暖かい輝きを放つジオルミ結晶灯の光で満ちていて暖かかった。

 急遽宴が開かれることとなり、侍女や使用人が忙しく動き回る最中に、バルカ達は後宮の広間に迎えられ、そこでモーベイの内情をラケーシから聞きながら時間を過ごした。

 

「正直、ギルベーダには困っているんだ。あの男は他の氏族の長に戦いを挑んでは勝利を重ね、地底界のバサルデ・レルム(圏域)を平定してしまった。今は地上のオーク全てを支配しようとしている。もうゼフラから色々と聞いていると思うが……」

「ああ。あのさらし首を見れば分かる。あんた達は無理矢理、奴や奴の部下のつがいにされそうになっているらしいが、安心してくれ。俺が倒すよ」

「おおっ、何と頼もしい」

 

 ラケーシはそう言ってバルカに身を近づける。

 

「お、恩に着せるつもりはないから安心してくれ」

 

    ×   ×   ×

 

 バルカ達は昼から日が暮れるまでルサイドオーク達の歓待を受けた。

 夕方から絨毯が敷かれた床の上に置かれた料理を囲んで座る、床座形式の酒宴が始まった。

 

 給仕たちが運んでくるのはモーベイ周辺の寒冷地の食材を使った料理だ。

 麦などの穀物は育ちにくい寒冷地なので主食は豆や雑穀だ。野菜は根菜が多い。

 雑穀の粒をまめと一緒に煮込んだとろみのある粥はバルカにとってなじみ深いモノだった。

 温かさが長持ちするので冬などに重宝する一品だ。

 その隣には細かく刻んだ獣肉の刺身にハーブを混ぜたものやスライスされた燻製肉、魚の塩漬けもある。

 地底界産と思しき料理も混ざっていた。

 表面が香ばしく焦げ、内部から熱い汁が溢れ出している巨大キノコのグリルや、これまた巨大な動物の一枚肉のステーキが目の前で切り分けられて皿に載せて提供されていく。

 酒はもちろんフロストパームの酒だ。醸造酒もあれば、蒸留酒もあった。

 オークらしい野性味溢れる品々だった。

 

 明日の決闘を控えたバルカは酒を控えることにした。

 バサルデ城に潜入する前夜、大量の食糧を酒で流し込むようにして食いだめもしているため、食べ過ぎ注意なのだが、懐かしい料理についつい手が出てしまう。

 

(あの煮込み粥の粒はキヌアか? アマランサスか? ステーキはオオツノジカっぽいな……いかん、酒も飲みたくなってきた)

 

 バルカは気を紛らわそうと、隣で膝を崩して横座りしているメトーリアに酒杯を持ってきた。

 

「メトーリアは当然飲むだろ?」

「……なんだその“当然”というのは。なんで飲むことが当たり前な前提なんだ」

 

 そう言いながらも、広間に充ちる酒の香に誘われて、メトーリアは酒杯を受け取った。

 

「あ、それから、あのなんかの獣肉の刺身はお前は食べない方がいいと思うぞ」

「言われなくても、アレには手をださん」

 

 そう言いながらメトーリアはレバームスの方を見た。

 彼は何のこだわりも無く、酒のもてなしを受けている。

 

「へ~、俺は地底界の同族にはしばらく会ってないんだが、ちょくちょくおたくらと争ってんのね」

「え、ええ……」

「ギルベーダがバサルデ城のあるレルム(圏域)を支配してから何年経つ? それまでエルフのいるレルムへ行くワールドノードはずっと封鎖したままなのか?」

「え、えっと……」

 

 給仕するルサイドオークの娘はエルフの事を良く思っていなさそうだが、レバームスの青い肌が珍しくもあるようで、隣に座って彼の杯に酒を注ぎながら色々質問に答えていた。

 

(全く飲まないというのも、失礼にあたるか)

 

 後宮のオーク達はみな整然と規律が整い、統制が効いていた。

 メトーリアとレバームスを見て、一瞬、険のある表情をする者もいたが、ラケーシの態度を見てすぐにその表情を消し去るのだ。

 それだけラケーシの威令が行き届いているからだろう。

 

(飲み過ぎないようにしなければ)

 

 そう思いながら、メトーリアはバルカが満たしてくれた杯の酒をしずかに飲み干した。

 そのとき、ラケーシの視線に気づいて、むせになったのを辛うじてこらえた。

 

    ×   ×   ×

 

「ところでバルカ。一緒にいる人間の女性とはどのような?」

 

(ついにきたかッ)

 

 バルカは咳払いをしてから、つとめてさり気ない口調でラケーシの質問に答えようとした。

 

「こちらはかつてリザード族の土地だったレギウラの地より東の国、アクアルという土地を治める領主メトーリアだ。その、おれの、つがいの相手でもある」

 

 

 少々上ずった声音でそう言ったバルカの言葉に周囲が静まりかえった。

 共に料理を囲んでいたルサイド氏族の重鎮らしきオーク達は驚き、険しい目つきになった。

 

「人間をつがいの相手にッ!?」

「まさか……」

 

 と、色めき立つ。

 中には「奴隷のまちがいじゃないのか」という声も聞こえた。

 バルカは立ち上がった。

 何かを喋ろうと大きく息を吸った時……。

 

「静まらんか!」

 

 バルカが何かを言うよりも早く、ラケーシが一喝した。

 そして、メトーリアに歩み寄る。

 立ち上がろうか迷っている彼女にラケーシは手を添えて、かすかに頭を下げた。

 それを見て他のルサイドオークは凍りつき、それから互いの顔を見合わせる。

 ラケーシの態度に困惑しつつも氏族長である彼女の意に沿い、何事もなかったかのように酒宴のざわめきに戻った。

 

(いい出だしと思いたいが、同胞たちの人間への恨みは当然根深いか……)

 

 人間のメトーリアを見てどうなるかはバルカにも分からなかったが、ラケーシの柔軟な様子にとりあえずは一安心する。

 

 バルカは、酒杯に手を伸ばしたい気持を抑え、地底界で見たことのある肉厚な巨大キノコの焼き物に齧りついた。

 

    ×   ×   ×

 

 明日には決闘が控えているということもあり、夜になると早々に宴は終わり、バルカ達は宮殿で一泊することになった。

 

「んじゃ明日な」

「おう」

 

 ほろ酔い状態のレバームスは、さきほど会話をしていた娘に案内されていく。

 レバームスとは別室だが、つがいと宴の席で紹介したメトーリアとは一緒だ。

 レギウラ公国から根の谷へ向かう旅の半ばから、ずっと共寝しているはずなのだが、バルカはなぜか緊張した。

 

(こ、ここが後宮だからだろうか)

 

 バルカとメトーリアが宮女に案内された寝室は、後宮の奥まったところにある部屋だった。

 重い扉を開けて入ると、ドーム状の高い天井に、様々な色を放つジオルミ結晶が無数に埋め込まれて、まるで地底界の青白い星空のように輝いている。

 

 

 寝台は岩を削って作った巨大な台座に、厚い獣皮と絹のような布を重ねたものだった。

 敷重ねられた毛皮が枕になっており、その傍らには甘い花の香りが漂う小さな香炉があった。

 ……意外なほど優雅な寝室だった。

 

「……んっ」

 

 メトーリアは手で口と鼻をおさえた。

 

「どうした?」

「バルカ、気づかないか? この香炉の匂い」

「ああ、甘ったるい匂いだよな」

「……そうか、お前はあらゆる毒やデバフが効かないんだったな」

「毒!? この匂い、毒なのかッ?」

「い、いや毒ではなくてだな、この香――」

 

 

 その時、寝室の奥の扉が開いた。

 

 

「失礼します」

 

 そう言って姿を現したのはゼフラだった。

 彼女の他にも二人のルサイドオークの娘も入室した。

 

「ぶ!?」

「ッ!?」

 

 バルカは思わず仰け反った。

 メトーリアは硬直している。

 

 ゼフラ達は薄衣一枚しか身につけていなかった。

 まるで今から風呂に入るかのような格好だ。

 彼女たちはバルカにぴったりと寄り添い、寝台へといざなう。

 彼女たちの葡萄石(プレナイト)のような薄緑の肌は滑らかで、香炉の甘い香りにゼフラ達の体香が混ざる。

 

(ぬあ!? こ、この匂いは)

 

 明らかにゼフラ達から漂ってくるのは甘い官能の匂いだ。

 これにはデバフや毒に対する完全耐性も何も関係ない。

 

「な、何のつもりだ!?」

「なにって……決闘前夜の戦士の慰撫を……」

 

 バルカは慌てて両手を挙げ、制した。

 

「いや、いやいやいやいや! いらん! 結構だ! 出てってくれッ」

 

 自制心を総動員し、バルカはゼフラたちを自分たちが入ってきた方の扉から追い出した。

 それからハッとしてメトーリアの方を振り返った。

 

 

「……オークって、そうなのか?」

 

 メトーリアの声は硬い。その目は少し揺れていた。

 

 

「え、何がだ?」

「つまり、オークの男が決闘を控えた夜は、ああやって女を侍らせるものなのか? そういうの、知らないわけじゃないが……」

「む、昔の君主を決める決闘などはそういうこともあったのかもしれんが……いや、俺は知らない。今みたいなのは俺も初めての経験だ………………ちょっと待て。“そういうの知らないわけじゃない”ってどういうことだ?」

「えっ?」

「……えっ?」

 

 バルカとメトーリアはどちらも意外そうな声を発してから、お互い気まずくなって、次の言葉が出なくなった。

 

 そこへガチャリと重い扉の音がして、バルカはまた誰かが寝室に入ってきたことを知って苛立った。

 

「今度は誰――って、ラケーシ!?」

「彼女たちは気に入らなかったか?」

 

 彼女の声は甘く、なんとなく部屋の空気さえ変わったようにバルカは感じた。

 

「一体、何の真似だったんだ?」

 

 何と答えていいものやら分からず、バルカはとにかく素直な疑問を口にした。

 

「何って、儀式(リチュアル)系のスキル。チェンバー・アーツ(閨房術)の一環だよ」

「チェ、チェンバー・アーツ?」 

「強く優秀な雄ともなれば、妻を複数娶り、妾を何人も囲うものだ。ましてや、明日の決闘はそちらにとっても、我らルサイド氏族にとっても――いや、全オークにとっての重要な闘いだ。そんな闘いに望む雄は前夜に妻や若い女とまぐわわぬまま抱いて眠り、その身体の匂いと、発する精気を吸いながら、自らの霊気を練って心身を高める……その顔を見るに本当に、知らないようだね。不思議だ……」

「と、とにかくっ!」

 

 バルカはやっとの事で口をはさんだ。

 

「会ってまだ一日も経ってない女と寝るつもりはない」

「そうか。わかったよ。すまないね。いらぬ世話を焼いちまったようだ」

「い、いや、いいんだ……」

 

 ラケーシは引き下がって部屋を出て行った。

 

    ×   ×   ×

 

 バルカの寝室から出たラケーシは含み笑いを漏らしながら、軽やかな足取りで廊下を歩き、別の部屋に入った。

 

 そこには先程のゼフラ達三人のオーク娘が待機していた。

 

 バルカの寝室のものほどではないが、天蓋付き大きな寝台の上で、湯女姿の娘達を侍らせながらラケーシは微笑んだ。

 

 ゼフラが肩に回されたラケーシの手を握った。

 

「ラケーシ様、バルカ様はオークの女に興味がないのでしょうか」

 

 ゼフラ以外の娘二人が互いの顔を見合わせる。

 

「もしかして、女そのものに興味が無い……とか?」

「ま、まさかぁ」

 

 フッとラケーシは笑った。

 

「そんなはずはない。嫌いではない。絶対に」

「そうでしょうか……」

「フフフ、オークの男なら女に誘われれば、後先考えずにまず抱くものだがな……お前たちは匂いで分からなかったのか? バルカのすさまじい昂ぶりようを……だが、それを更に強い自制心で圧し殺したのだ。現世に舞い戻った伝説の英雄様は随分と奥ゆかしく、可愛い性格をしているようだ」

 

 そう言ってから、ラケーシは目を細める。

 

「それにしても、目が違う。お前達や私を見る時と、メトーリアを見る時の目が、な……ともかく、全ては明日の決闘次第だ。さて、どうしたものか」

 

 ラケーシはそう言うと、両腕でゼフラともうひとりを抱き寄せた。

 そして足元に跪く残りのひとりには、長くしなやかな脚を差し出し、静かに愛撫させ始めるのだった。

 

    ×   ×   ×

 

 ギルベーダはグラント氏族の宮殿の寝室で、仰向けになって寝ていた。

 テッサは全裸になってその巨体に寄り添っている。

 全裸での添い寝をギルベーダに命じられているのだ。

 ギルベーダは太い腕でテッサのこんもりと筋肉が盛り上がった肩を抱き、もう片方の手で鎖に繋がれた黄色い髪のエルフの裸身を抱え込んでいる。

 室内には男と女を発情させる催淫効果のある香が焚かれ、甘い匂いが立ちこめていた。

 

 ギルベーダは侍らせている女達を犯しはしなかった。

 大きく呼吸をして、テッサ達の発する瑞々しい精気を吸い、体香を嗅いでいる。

 明日の決闘に備えて徹夜の暴飲暴食の疲れを癒しながら、心身を整えているのだった。

 

「テッサ、おめーウルドログらしいな? 怨霊のことにも少しは詳しいんか?」

「……」

「お前は身を賭けた決闘で負けたんやぞ。正直に答えや。あんな大量の怨霊に取り憑かれたらどうなると思う?」

「知らんッ」

「ふーん、じゃあ教えたるわ。()()()()()したら普通は無事では済まん。肉体の精気、霊体の霊力を吸われて、即死するか、発狂して……結局、死ぬはずじゃ……正直信じられん。どうして平気でいられるのか。じゃが、どちらにしても絶好のチャンスじゃ。ヒヒヒ、一晩寝ようが、あのメトーリアとか女とチェンバー・スキルで回復を図ろうとしても、無駄無駄。確実に消耗し続けるはずやからのう。明日絶対にぶっ殺しちゃる」

 

 時折、ギルベーダはテッサの顔や胸に顔を押し付け、思いっきり鼻で息を吸い込む。

 テッサは屈辱に全身を震わせ、目をきつく閉じている。

 

「くっ……ッ」

「なんや? なんか文句あるんか?」

 

 そう言って、ギルベ―ダはテッサの肉体の手の届く範囲の色んな箇所をまさぐり始めた。

 

「や、やめろっ!」

「ならもっと発情してエロい気を出して儂にそれを吸わせてくれや。ほれ香炉の匂いをもっと吸い込めい」

「チ、チクショウ!」

「そうそう♪ ええでええで。それにしても、今朝はミスったのうテッサちゃん。儂の実力を完全に見誤ってしもうて♪ お前もオークが達することができる境地の限界(レベルキャップ)まで鍛えとるようじゃがのう、わしはこんなジジイ顔じゃが、その限界を突破しとるんよ」

「……」

「それに心は今でも十代の若モンや♪」

「……何歳なんだお前は」

「百歳から先は数えとらんよっ」

 

 ギルベーダの息が顔にかかる度にテッサは顔を背けようとするが、その度にギルベーダはすさまじい力でテッサの肩を、乳房を、腰を締め付けてくる。

 

「う~~~~ッ」

「ヒヒヒ、なぁ~テッサ、お前ラケーシに惚れとるんやろ?」

「な!?」

「ルサイドの女は業が深いのう♪  強い男と番う掟の裏で女同士で乳繰り合うことも多いと聞く。なーに大丈夫じゃ、不満の無いようにしちゃるよテッサ。ラケーシと番って本妻にしたら、お前も嫁のひとりに加えちゃる」

「誰も頼んでない——ア!?」

 

 ギルベーダは性交に及ばない。

 だがテッサとエルフの娘をまさぐる手がさらに激しさを増した。

 

「あっ、あうっ!」

「……」

 

 テッサは嫌悪感を態度に表しつつも、時折、艶めかしい喘ぎ声を発する。

 エルフの娘はというと、ずっと死んだ魚のような眼をして、一言も発さぬまま、ギルベーダのなすがままになっていた。

 

「スゥゥゥゥゥゥ…………」

 

 ギルベーダは大きく息を吸う。

 女達から発する精気を我が身に取り込み、決闘に備えるのだった。

 





※カットしたサイドストーリーを以下に記載します。
 もしよかったら読んでみてください。

【バルカ達がモーベイに着た頃、ネイルやニーナ、ウォルシュ達は……】

 巨大なシダ植物で入り口を隠された洞窟。
 地底界でレバームスが寝泊まりしていた隠れ家だ。

 そこへ疲れ切った一行が戻ってきた。
 ジオルミ結晶の薄青い光が彼らを照らす。

 アクアル家臣の治癒士ニーナ。補給士ハント。魔法士ウォルシュ。
 フィラルオークの副官ネイルと若いオークのつがい、ナキムとビオンだ。

 蔦で編まれた敷物の上にニーナがドサッと座り込んだ。

「ああああ~~~………………ようやく着いたぁ」

 みな疲労困憊していた。その中でもニーナは今にも卒倒しそうなほど疲れ切っていた。
 バルカがいるときは常に彼の強化(バフ)魔法で身体能力が強化されていた。
 その加護が無い状態での地底界の移動は移動は想像以上に過酷であった。
 結果、ニーナが連続して持久力回復(エンデュランス・リカバリー)などの癒やしの魔法を連発することになり、激しく消耗したのだった。
 それでもできるだけ迅速な移動を心がけ、予定よりかなり早く一行は隠れ家に辿り着いた。
 
「メトーリア様とバルカさん――と、レバームス卿は、もうモーベイの都に着いてるかなぁ……」

 ぐったりしながらそう呟くニーナ。
 ハントが担いでいたアイテムボックスを降ろしながら、額の汗を拭って言った。

「どうっすかね……冷静に考えると、なんだかとんでもないことになってますよね。ギルド同盟圏外には、バルカさんみたいな普通に喋るオークがわんさかいるのが分かって、湖の呪染源を破壊して……ってことはオーク達が自由にギルド同盟圏まで――アクアルやレギウラに簡単に来れるようになったって事っすもんね……本当によかったのかな、って……」

 ウォルシュは壁に寄りかかり、闊達な笑みを浮かべた。

「バルカ殿がいるかぎり、大丈夫じゃわい。それにメトーリア様が決めた事じゃ」
「バルカは、クソデカ怪獣殺して、呪いを消した……俺たち待つだけ」

 ネイルがゆっくりと、しかしはっきりとした言葉でしゃべった。
 まだ完全には呪いの影響から脱していないが、かなり流暢に話せるようになっていた。
 ネイルはあぐらをかいて、黙々と自分の斧槍の手入れを始めた。
 以前は汚れを雑に拭くだけだったが、今はハントからもらった防錆用のオイルを塗り込んだりしている。

 フィラルオークたちはまだ言葉が拙いが、バルカへの忠誠と信頼は揺るぎない。
 道中、獰猛な地底界にしか生息していない猛獣やモンスターに出くわすこともあった。

 その都度フィラルオーク達は“ウォルシュ達を頼む”というバルカの命令を忠実に守り、素晴らしい仕事をした。
 ネイルとビオンがニーナ達を守り、攻撃役(アタッカー)は殆どナキムが担当した。
 特にナキムの活躍は目覚ましかった。
 ハイオークとの一戦以降、地底界に来てからの彼女のレベルアップは目覚ましく、ナキムは手にしたメイスで、襲いかかってきた自分たちよりも大きい肉食のトカゲやネコ科や熊のような猛獣を追い払い、時には食用に頭を叩き割って仕留めた。

「オルッ」
「バルカ、デ・ロカっ」
 
 “バルカ”という名をネイルが口にしたのを聞いてナキムは低い唸り声をあげる。
 妻であるナキムの肩をマッサージしていたビオンも拳で胸を叩き、バルカの強さを讃える古語を発した。
 
「バルカさんは、モーベイのハイオークたちと同盟を結ぶんでしょうか? それとも根の谷辺りの領土権を主張するんすかね?」

 ハントの問いにウォルシュは首を横に振る。

「そうじゃのう……ハイオークたちは、地上の人間を敵視している。そこが問題じゃ。とにかく我らはここで待機し、呼び出しに備えるまでよ」
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