けたたましいサイレンとあちこちに広がる爆炎。乾いた空気はまるで触れた肌が焼けるような熱さを持ち、息を切らしながら走る少年の肺を焼く様に苛む。
「どうしてこんなことになってしまったのか」崩れ落ちる焼け焦げた壁を背に過去を巡る。暖かな陽、薬の匂いの染みた真っ白の壁、優しかった兄弟達、実験動物を扱うかのような大人たち、苦しい実験を励まし合って乗り越えた日々。何も分からない、何も知らない、誰もいない、何も無い。かつて少年を形作っていた全てをその日に失ってしまった。
少年は走り続けた。逃げるように、縋るように、何も見ないように。何処に行く当てがあるわけでもなく、唯々走る。そうしなければアレを認めてしまうから。そんなことは無い、何かの見間違いだとどれだけ自分に言い聞かせても、「見間違いではない」「全てが本当の事だ」脳裏に響くその声と破裂しそうなほどに鳴り響く心臓の音が少年の望みを全て砕き理解させる、その光景を……
信用していた、信頼していた、尊敬していた、愛していた兄が、血の繋がらない兄弟達を纏めていた長男と皆が認めた兄が……兄弟達の心臓を食らっていた悍ましい光景を。
「お前のせいだ」
20XX年 日本の山奥の某所に設けられた孤児院が原因不明の爆発により倒壊。施設に滞在していた職員数十名と日本各地から保護された孤児数十名が巻き込まれ生存者は0。遺体は激しい火災によりその殆どが身元不明のものとして処理されたが、大きな謎を残したものもある。それは孤児と思われる5人の遺体の全てから心臓部を抉り取られた跡が残っていたこととその5人の遺体だけがその心臓部のものを除けば傷一つ無かったことだった。
月日は流れ、少年はある男に保護された。どうやらその男は超常災害を相手に人命を守るのを使命とした政府の秘密組織の人間だとか。保護されたのは半分偶然で必然だったようだが、少年にとっては最早関係無い事だった。その後は流されるまま、保護責任者となった男に様々な手続きや検査をされた後に学校に放り込まれ、無気力に生きていた。幼い心の刻まれた傷はそう簡単に癒える事は無いのだろう。
そんな日々の中、周囲の同年代の子供が気味悪がり遠ざかり、大人達や少年を気に掛ける歌姫達もいよいよ頭を抱えるようになってきた頃、少年の世界に光が降りてきた。
「危ないよ響」
「大丈夫大丈夫!もう……ちょい!……へ?」
「そんなことある?」
概念とか、逆光が見えたとかではなく物理的に折れた木の枝と共に猫を抱えた少女が少年の直上から落ちてきたのだった。
それが太陽と陽だまりとの出会い。色を失った少年が彩を得た新しい日々の始まりだった。
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