慎重術師   作:コケ

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昨日と今日で急にお気に入りが増えて、たくさんの人の目に留まりました。なので少しでも読みやすくするために前に投稿した話を修正しました。と言っても『!』や『?』の後を空白にしただけで内容は変わってません。


被害者・2人目

 

 ここは東京都立呪術高等専門学校のグラウンド。そこには4人の黒い制服を着た男ーー2年生である五条悟と夏油傑、1年生である七海建人と灰原雄ーーがいる。

 

 この4人は先生がいないため自習として外で体を動かしている。

 

「もう時間だね、今日はここまでにしよう」

 

 夏油は腕につけている2つの腕時計で時間を確認して3人に声をかける。勿論、この腕時計の時間は1秒の狂いもない。

 

「そうだな、もういい時間だしな」

 

「そうですね、それでは先輩方ありがとうございました」

 

「ありがとうございました!」

 

 五条に続いて、七海と灰原は言う。

 

「俺これからスイーツバイキング行くんだけどオマエら行く?」

 

「私は行かないよ。スイーツを食べるなら自分で作るからね」

 

 夏油はよっぽどのことがない限り、外食はしない。何故なら誰が作ったか分からない物を食べるのは非常にリスクがあるからだ。

 

「私と灰原は2時間後に任務のためにここを出るので行けません」

 

「すみません」

 

「そっかー、残念だな。ま、今度行こうぜ」

 

「はい! 是非、行きましょう!!」

 

 五条の提案に灰原は元気よく答える。

 

「じゃ、また今度な!」

 

 五条は手をヒラヒラと振り、先に寮に戻った。

 

「あ!! 夏油さん!! ちょっと話したいことあるのでこの後少しいいですか?」

 

「話したいこと? 私の不利になるようなことじゃなければいいよ」

 

「ありがとうございます!!」

 

「灰原、お話があるなら先に戻りますね。任務には遅れないように」

 

「分かった!!」

 

 七海は任務の準備のため先に戻り、夏油と灰原の2人が残った。

 

「取り敢えず、安全に話せる場所に移動しようか」

 

 夏油は灰原に提案する。

 

「安全な場所? 別にここで大丈夫じゃないですか?」

 

「甘いよ、灰原。私に話したいことがあるんだろう? ここじゃ、誰に聞かれるか分からない。話す内容が聞かれても困る内容じゃないかもしれない。だが、つい話の流れで聞かれてはいけない大事な情報が漏れてしまうかもしれない。だから、誰にも聞かれないであろう場所に移動することが大事なんだよ」

 

 夏油は灰原が甘ったれたことを言ったため、丁寧に説明する。

 

「すごいですね、夏油さん!! そこまで考える必要があるんですね!! 流石です!!」

 

 灰原は高専に入学してから5ヶ月ほど経っていた。そして、夏油と何度も話す機会があった。最初は夏油の慎重さに何故そこまでするのか疑問に思っていた。だが、夏油が熱心に説明しているのを聞いているうちにそれは疑問から納得へと変わっていった。

 

「別に私は凄くないよ。師匠から教えてもらったことだから」

 

「師匠? 誰のことですか?」

 

「それも含めて話そう。場所は私の部屋でいいかな?」

 

 まあ、かつての師匠の部屋には敵わないけどね。と自嘲的に言う。

 

「分かりました!」

 

 

 

 

 2人は夏油の部屋の前に着いた。そして、夏油はポケットから3つの鍵を取り出し、ドアを開けようとした。そこで灰原はふと、疑問に思った。

 

「鍵、多くないですか?」

 

「あぁ、これはね業者に頼んで付けてもらったんだ。鍵1つだけじゃ、不安だからね」

 

「そうですよね、鍵が1つだけだと簡単に入られてしまいますね。その点、鍵を3つにすることでピッキングを遅らせることができるし、鍵が多いと手間がかかるので部屋に侵入しようとも思わないかもしれませんしね。僕も付けてもらおうかな」

 

「灰原も付けるのかい?なら、私がおすすめの業者を教えてあげるよ」

 

 夏油は笑顔で嬉しそうに言う。

 

「はい! お願いします!!」

 

 夏油は鍵でドアを開けて灰原を部屋に入れる。

 

「うわぁ、僕の部屋と全然違う! この壁、僕の部屋の壁と色が違う・・・・・・」

 

「この壁はね、防音シートを貼ってるから灰原のとは違うんだ」

 

「防音シート? 楽器とか使うんですか?」

 

「楽器は使わないよ。防音シートを付けないと私の部屋から声が外に漏れてしまうかもしれない。重要な情報が筒抜けになるのは大変だからね」

 

「抜かりないですね! その防音シートってどこに売ってるんですか?僕も防犯シート使いたくなりました!」

 

「ニ○リに売ってるよ。そうだ、私がスペアとして買った分が一部屋分残ってるから使うかい? こういうのはなるべく早く対処しないといけない」

 

「えっ!? いいんですか!?」

 

「大事な後輩だからね、危険な目に遭って欲しくない」

 

 夏油は大量の防音シートを棚から取り出し灰原に渡す。

 

「今すぐ付けに行こうか。私も手伝うよ」

 

「いいんですか?」

 

「うん、だから早く付けに行こう」

 

 2人は灰原の部屋へ行き、防音シートを取り付けた。作業が終わり再び夏油の部屋に戻る。

 

「麦茶でいいかな?」

 

「大丈夫です! ありがとうございます!」

 

 夏油はキッチンへ行き、コップを取り出す。コップをしっかりと水洗いし、水を綺麗に拭き取る。さらに、除菌シートできちんと拭き、しっかりと揮発させる。そして、お茶を注ぐ前に別の綺麗にしたコップにひと口分注ぐ。そのお茶が体に害を及ぼさないことを確認する。この工程が終わったところでようやく灰原に渡す分のコップにお茶を注ぐ。

 

「はい、灰原」

 

 夏油は灰原に先程入れた麦茶を渡す。

 

「いただきます!」

 

 灰原は美味しそうに麦茶を飲む。夏油はまるで犬に餌をやっているような気分になる。犬に餌をやったことはないが。

 

「それで灰原、話というのは?」

 

「僕も夏油さんみたいに強くなりたいんです」

 

「ハハッ」

 

 夏油は灰原の言葉を聞いて、何かを思い出したかのように笑う。

 

「何かおかしいですか?」

 

「いいや、おかしくなんてないよ。ただ、私も師匠にそのようなことを聞いたからね。懐かしく思ったんだ。といっても1年前だけどね」

 

「そう言えば、師匠って誰のことなんですか?」

 

「私が1年だったときにここにいた4年の竜宮院先輩だよ、とても信頼できるね」

 

「竜宮院さんって特級術師のですよね?」

 

「うん、そうだよ。私は師匠に戦闘での心構えを教えてもらったんだ。そして、今の私がいるんだ」

 

「特級術師に教えてもらったんですか!? 凄いですよ!!」

 

「師匠なら時々高専に来るからタイミングが合えば教えてもらえばいいよ。強くなりたい者の気持ちは無碍にしない人だからさ。私が教えるよりも師匠に教えてもらったほうがいい。私はまだ未熟者だからね」

 

「夏油さんが未熟者と思うほどなんですか?」

 

「会ってみれば分かるよ」

 

「是非会ってみたいです!」

 

 それから夏油は灰原に竜宮院から教えてもらった『フィールドでは常に呪霊、呪詛師に気をつけて歩け。右を見て左を見て上を見て下を見て後ろを見て、また右を見る。それを延々と繰り返しながら歩くのだ』と言うのを教えた。

 

 そして、灰原の願いは2週間後に叶うことになる。

 

 

 

▽▽▽▽▽

 

 灰原は七海が体調不良で寝込んでいるため、1人で高専のグラウンドを走っていた。

 

「ふぅー、今日はこれでお終い! 七海のお見舞いにでも行こう」

 

 灰原が寮に戻ろうとした時、見慣れない男の姿が目に入った。その男はキョロキョロと辺りを見ながらゆっくりと進んでいる。

 

「あのー、どちらに行きたいんですか? 僕、ここの生徒なので案内できますよ!」

 

 灰原はその人物が道に迷っていると思い、声をかける。しかし、その男は灰原を見るや否や腰にある刀を抜き、その刃を向ける。そして、その男が灰原に向ける眼差しはとても鋭く、まるで針で刺されているのではないかと思うほど痛いものであった。

 

「・・・何者だ?」

 

 灰原はとっさに両手をあげて説明する。

 

「えぇ!? ちょっと!? そんな警戒しなくて大丈夫ですよ! 先程も言った通り、僕ここの生徒の灰原雄です!」

 

「本当だな? 嘘だったら、切り刻むぞ」

 

「へっ?」

 

 その男は灰原を穴が空くんではないかと思うほどじっくりと観察する。

 

「口だけでは信用できない。学生証を見せろ」

 

「い、いいですよ!」

 

 灰原はポケットから学生証を取り出して目の前の人物に渡す。

 

「ふむ・・・・・・」

 

 刀を鞘にしまって学生証を受け取るとポケットからルーペを取り出し、隅々まで観察する。

 

「偽装ではないな」

 

「分かってもらって何よりです! それで案内しましょうか? 迷ってるんですよね?」

 

「迷っているわけではない。いつどこで敵に襲われるか分からん。だから常に警戒をしているのだ」

 

 その言葉を聞いてふと、灰原は思った。この雰囲気、夏油さんに似ている、と。

 

「もしかして、特級術師の竜宮院さんですか?」

 

「なんだ、俺を知っているのか」

 

「はい! 夏油さんが尊敬している人物だと言ってました!」

 

「夏油か・・・・・・今、任務か?」

 

「はい!」

 

「・・・そうか」

 

竜宮院は灰原の返答を聞いて少し肩を落とす。

 

「竜宮院さん、少しお話できますか? 夏油さんから話を聞いて話して見たいと思ったんです!」

 

「何を聞きたいんだ?」

 

「夏油さんが戦闘における心構えを教えてもらったと言ってたので、僕も知りたくて」

 

「そうか、別に構わないが学長に用があって来たから長くは話せない」

 

「ありがとうございます! 僕の部屋で大丈夫ですか?」

 

「別に構わないが、危害を加えないという縛りを結べ。そして、この紙にサインをしろ」

 

 竜宮院はポケットから3枚の紙を取り出した。

 

「何故3枚なんですか?」

 

「スペアとスペアが無くなった時のスペアだ」

 

「あぁ! そういうことですか! 分かりました!」

 

 灰原は縛りを結び、紙にサインをして、2人は部屋へ向かった。

 

 

 

 

 竜宮院は灰原の部屋で色々と戦闘に必要なことを教える。

 

「相手に勝つにはまず情報を手に入れろ」

 

「情報、ですか。相手の弱点ってことですよね?」

 

「そんなこと当たり前だ。呪詛師が相手だったら出身地、生年月日、血液型まで調べろ」

 

「そ、そんなことまで調べるんですか?」

 

「あぁ、どんな情報が鍵になるか分からない」

 

 それを聞いて灰原は疑問に感じた。

 

「でも、急に呪詛師に襲われた場合はどうするんですか?相手の情報なんて調べられませんよね?」

 

「その場合は仕方ないが、常に警戒していれば襲われることはない。万が一襲われた場合、まず逃げろ。そして態勢を整えてから勝てるという確信を持ってるなら戦え。ほんの少しでも負ける可能性があるなら逃げろ。迷わず逃げろ。ひたすら逃げろ」

 

「逃げた場合、被害が大きくなりますよ」

 

「負ける可能性がある戦いに挑んで敗れた場合、さらに被害が大きくなる。すぐに見切りをつけ、応援を呼べ」

 

「そうですか・・・」

 

 灰原はそれを聞いて少し考える。自分は少しでも勝てる可能性があるなら、戦いたいと。

 

「非術師の命も大事だが、呪霊を祓うことができる呪術師の命のほうがもっと大事だ」

 

「・・・」

 

「力が無い奴が焦って救いに行っても逆効果だ。呪霊を祓えるのは呪術師だけだ。だが、数少ない呪術師が1人でも死んだらその分祓えなかった呪霊によって被害がでる。呪術師より呪霊の数の方が多い。だから、呪術師は死ぬわけにはいかない。ひたすら強くなるために修行をしろ。中途半端な力じゃ無意味だ」

 

「無意味・・・」

 

「才能に限度があるかもしれないが、その才能を補うのが常に慎重であるということだ。慎重に行動することで今まで見えなかったものが見えてくる」

 

 竜宮院は一拍置き、口を開く。

 

「慎重は才能を凌駕する」 

 

「っ!」

 

 竜宮院がそう言い放った瞬間、時が止まったかのように雑音が一切聞こえなくなった。

 そして、灰原はそれを聞いた瞬間に雷に打たれたかのような衝撃が己の体を襲った。体が痺れ、言葉が出ない。自分の身に何が起こっているのかが理解できない。

 だが、分かることがある。それはこの目の前の男が神々しく、自分の身を全て捧げたいと思えるような何かを持っているという事実が。

 

 そして、やっと灰原は口を開く。

 

「し、慎重が才能を・・・」

 

 しかし、灰原の声は震えていた。さらに、今の灰原はまるでこの世の真理を目の当たりにしたような感覚が襲い、著しく語彙力が低下していた。

 

「そして、これが1番大事なことだ。目に入るもの全て疑え。親兄弟すら敵だと思え」

 

 灰原はその言葉を聞いて金縛りに遭ったかのように体を動かすことができなかった。

 

 それはここまで思考を巡らせている目の前の男に対する尊敬の念と自分と目の前の男を比べ、あまりにも自分が情けなく哀れで醜い存在なんだと自分に対しての失望の念がぶつかりあっていた。

 

「俺はこれから学長に会いに行く」

 

 竜宮院はそう言い、部屋を出る。

 

 残された灰原は竜宮院が出て行ったところでようやく動き出す。

 

「ーーハッ!ハァ、ハァ」

 

 灰原は自分が呼吸をしていなかったことに今気づいた。それ程であったのだ。特級術師、竜宮院聖哉の圧倒的な存在感、神々しさ、そして慎重さが。それに心が動かされない者がいるだろうか。いや、いないだろう。

 灰原は竜宮院聖哉という限りなく神に近い存在に会うためにこの世に産まれ落ちてきたのだと、確信した。

 なぜ、こんなにも大事なことを知らずに生きていたのかと自問する。しかし、今重要なことは慎重であろうとすること。

 

「慎重か・・・僕にもできるはずだ。いいや、できる!」

 

 灰原は特級慎重者になろうと己に誓った。

 

 

 

 

 






たくさんの感想、高評価、お気に入り登録ありがとうございます。そして、よろしくお願いします。
最初の頃よりは文章が上手くなってると思いますがまだまだ下手っぴなので上手く書けるように、皆さんに楽しんでもらえるよう頑張ります。









☆慎重レベル


灰原雄     レベル60

五条悟     レベル18

庵歌姫     レベル12

一般的な術師  レベル10

一般的な非術師 レベル3


   〜アッチ側〜

夏油傑     レベル75




灰原雄のレベルは凄まじく高いです。夏油傑は約1年の積み重ねがあり、このレベルです。まあ、灰原は純粋なんでこんな力説されたら"アッチ側"に立つのも時間の問題でしょう。つまり、期待の新星ってことです。


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