慎重術師   作:コケ

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誰だ!?お前!?

 

 凖1級術師になった私、庵歌姫は京都の高専で教師をやっている。

 そんな私は今日1級呪霊討伐の任務があるため、準備をしていた。過去に1級呪霊の任務は数回あった。1級呪霊は数少ない特級呪霊の次に高い等級。実質1番強い。でも、1級呪霊の強さはピンキリで私が討伐した呪霊は多少手こずったが何とか祓えた。

 しかし、今日は妙な胸騒ぎがする。

 

『今から1級呪霊の任務に行ってくる』

 

 聖哉にメールを送る。

 

 別に助けてに来てほしいって訳じゃなくて少しでも気持ちを落ち着かせるために送った。

 

 よし、今日も頑張ろう!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はぁ、はぁ、まずいわね」

 

 胸騒ぎの正体はコレだったのか。なんとなくそんな気がしてたけど・・・

 

 それにしても困った。相手の術式は『分身』

 目の前にいるのはヒト型の呪霊。分身して呪霊の数は2体。強さは分身する前と変わらない。かれこれ20分くらい経っただろうか。目の前の呪霊の数が増えないってことは分身体を作れるのは1体のみ。分析しようとしたけど、動きが速くて暇がない。本体を潰せばどうにかなると思ったけど、本体が分からないんじゃ2体をまともに相手しなければならない。それとも、呪力ギレを狙うか・・・

 

 と、私は背後を取られないように動きながら考える。

 

「わっ!」

 

 私は足を踏み外してしまい転んだ。

 その隙に2体いるうちの1体の呪霊が私の背後に回ってきて挟まれる。

 

 仕方ない!前の呪霊からやるしかない!

 

 私は地を蹴って呪霊に向かい、呪力の篭った拳を握り締めて胸辺りにぶつける。

 しかし、呪霊は数歩後ろに下がるだけだった。

 そして、その呪霊が拳に呪力を集め、私の腹部に向かって呪力の塊を飛ばしてくる。私は咄嗟に腹部に呪力を集中させ、威力を軽減させて思いっきり目を瞑りって耐える。なんとか耐えたがもう1体の呪霊に背部を殴られる。その影響で顔が前に出る形で押し出される。目を開けた時には目の前にいる呪霊の爪が顔の方に伸びていた。私は反射的に目を瞑り、相手の、攻撃を待つのみとなってしまった。すると、右から大きな衝撃が来て体が左へ吹っ飛ぶ。

 私は目を開けると目の前には1人の男が岩に頭を乗せた状態で倒れていた。

 

「っ! 聖哉!」

 

 私は目の前に倒れていた男ーー聖哉の元へ急いで駆けつける。

 

「嘘・・・」

 

 聖哉の頭が載っている大きな岩は真っ赤に染め上がっていた。

 

「聖哉!?・・・・・・・私のせいで・・・・・・」

 

 涙が自分の頬を伝う。

 

 私のせいで聖哉が死んで・・・・・・

 

「うう・・・・・・」

 

 頭に手を当て、唸りつつも、聖哉は上半身を起こした。

 

「せ、聖哉・・・・・?」

 

「大丈夫だ・・・・・・そんなことより目の前の呪霊だ」

 

 聖哉は呪霊に向き合い、手を伸ばす。その手は炎を纏い、聖哉は声に出し、放つ。

 

ヘルズ・ファイア(地獄の業火)・・・・・!』

 

 目の前にいる2体の呪霊は激しく燃え上がる。

 

 そして、目の前にいた呪霊は跡形もなく消え去った。

 

「多分、大丈夫だな」

 

 凄い・・・聖哉が強いのは知ってた。何度も見てきた。でも、こうもあっさりと祓えるのは流石。

 ん? 1発でお終い? いつもは祓い終わっても何発も撃つのに。

 

 ってそれよりも・・・・・・

 

「聖哉!! 大丈夫なの!? 頭の怪我!!」

 

 私は急いで聖哉の元へ駆け寄る。

 

「反転術式で治したから問題ない。そんなことよりもその綺麗な顔に傷がつかなくて良かった」

 

「・・・・・・へ? き、綺麗・・・・・・? それって私のこと?」

 

 え、え? 聞き間違いじゃない、よね?

 

「何を不思議そうな顔をしている? 貴女しかいないだろう」

 

「ちょ、ちょっと聖哉どうしちゃったの!?」

 

 せ、聖哉・・・・・・ まさか、私のこと・・・・・・ってなるわけねぇーよ! そんなこと言わないだろ、アンタは!!

 

「どうもこうもしてないが」

 

「い、いや! いつもだったらマヌケ! とか、役立たず! とか、爆音機! とか、散々罵倒してきたじゃない!?」

 

「貴方にそんなことを言う奴がいるのか・・・許せないな」

 

 聖哉の顔は怒りに満ちている。

 

「いや、アンタのことなんだけど」

 

「俺が貴方みたいな麗しい女性にそんなこと言うはずないんだが・・・しかし、俺が気づかないうちに貴方を傷つけているのかもしれない。悪かった、この通りだ」

 

 そう言って聖哉は頭を深く下げる。

 

「いやいやいや! アンタが頭下げるなんて気持ち悪すぎるわよ!?」

 

「すまない、不快な気持ちにさせてしまって・・・・・・」

 

「え、マジか」

 

 あろうことか目の前の慎重バカは両膝を地面につけて腰を折り曲げ、両手を地面につける。

 

「本当に申し訳ない」

 

 頭を地面につけ、謝ってきた。それはそれは綺麗な土下座だった。

 

「ちょっと頭上げなさいよ!」

 

 聖哉はゆっくりと頭を上げ、私の目を見る。

 

「許してくれるのか?」

 

「いや、別に怒ってないから」

 

「何て、優しいんだ。困ったことがあったら言ってくれ。何でも言うことを聞いてやる」

 

 な、何でも・・・・・・? 聖哉が『何でも』なんて言う? いつもの聖哉なら何を要求されるか分からないから絶対にそんな約束しないはずなんだけど。

 

 もしかして、頭打った衝撃でおかしくなった・・・・・・? なら、早く治さないと!!

 ・・・・・・いや、ちょっと待てよ? 治す必要あるか? 優しくなってるんだからこのままでいいんじゃない?

 

「悪い。家まで送ってやりたいが、いち早く呪霊を祓わなければならない」

 

「もしかして任務? なら悪いことしたわね、忙しいのに」

 

「いや、任務ではない」

 

「え? 任務じゃないの? じゃあ、何で?」

 

「すぐに呪霊を祓わねば。こうしている間にも貴い人命が失われているのだ」

 

「えっ?」

 

 やっぱりおかしい! いつもの聖哉なら任務じゃない限り進んで呪霊を祓いに行かないのに。なんなら任務を拒否して修行してるのに。しかも、あの聖哉が『貴い人命』とか言ってるし!

 

「では、行ってくる」

 

 聖哉は自分の右の拳を握り締め、拳を見つめる。

 

ガナビー・オーケー(何とかなる)

 

「あっ! ちょっと!?」

 

 聖哉は私の声を無視して走り去ってしまった。

 

 

 あっ、転んだ・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 聖哉の様子がおかしくなってから約1ヶ月が経った。今も尚、変わらずだ。『慎重』の『し』の字もない。いや、『s』の字すらない。最初は優しくなって暴言も吐かなくなったから良かった。聖哉はイケメンだし、強いから頼り甲斐がある。だから、ずっとこのままでいいや、なんて思ってた。

 でも、それは最初のうちだけだった。

 聖哉が変わってから少しだけ心配だったからちょこちょこ様子を見に行っていた。私が見る限り修行ばっかしているあの慎重バカが、修行そっちのけで自分から進んで任務を請け負って呪霊を祓いにいっている。

 ご飯に誘えば喜んで誘いに乗ってくる。一緒にご飯に行くなんて別におかしいことじゃない・・・・・・普通の人だったら。聖哉は普通じゃない。人が作ったご飯は基本食べない。当然、外食なんてしない。何度も誘ったことがあるけど、『知らない奴が作った飯なんて食べるわけがない。毒が入っていたらどうする。睡眠薬が盛られていて眠ったところを襲ってくるかもしれん』なんて馬鹿げたことを言う。

 そんな慎重すぎる男がこんなにも今までと極端に違った行動を取っているのを見ると気持ち悪くなる。

 

 この前は呪霊に襲われていた女性を助けたと言っていた。しかし、顔は歪んでいて嬉しそうではなかった。理由を問えば『額に傷ができていたんだ。俺がもっと早く助けに行けていれば、こんなことにならなかったんだ・・・・・・』なんて顔を俯きながら言っていた。そして、『後悔ばっかしていても仕方ない。1体でも多く呪霊を祓いに行かなければ。今、こうしている間にも!』と言ってすぐに出かけてしまった。

 

 うん、もう聖哉じゃない。

 

 そして、問題は何よりも目の前のコイツだ。

 

「し、師匠が・・・そんなぁ・・・」

 

 この袈裟を着た男、夏油が会う度に涙を流しながら師匠、師匠、とうるさい。

 そして、こいつは何やら慎重教というイカれた宗教を立ち上げて日本全国を飛び回っているらしい。

 ・・・・・・いや、何だよ慎重教って。そんなの誰が得すんだよ!? って思ってた。思ってたんだよなぁ。最近、楽巌寺学長が辺りをキョロキョロ見回したり、何回もスケジュール聞いてきたり、バッグの中身何回も確認したり・・・・・・ 最初は老いかと思ってたけど、それとは逆に元気になっていく。終いには『I LOVE 慎重』なんてプリントされた服着て『慎重シール』を貼ったギターを全力で弾いていた・・・・・・ てか、何だよ『慎重シール』って!?

 

「大丈夫だって、傑。歌姫が頭を打っておかしくなったって言ってたんだから、また頭を打てば治るって。まあ、俺・・・じゃなくて僕は面白いから別に治んなくてもいいけどね」

 

 夏油とは真逆で楽観的に捉えているのが五条。高専生の時の荒々しい口調が異なり、高専を卒業してから軽薄な口調になっていた。本人曰く、教師になりたいらしい。そのためにはまず口調からだと。

 

 てか、先輩つけろよ!

 

「私は戻ってほしいかな。あんな竜宮院先輩は竜宮院先輩って感じがしない」

 

 硝子は聖哉が元に戻ってほしいみたい。私も慎重じゃない聖哉は違和感があって嫌だ。向こう見ずって感じ。最初からそうだったら何も違和感はないんだけどね。

 

「竜宮院さんには僕達の前を歩いていてほしいです! あの大きな背中を見て僕は頑張ろうって思えるんです! なのにあれじゃ・・・」

 

 元気に言う灰原。この子は夏油と同じく、聖哉の『慎重』という呪いがかけられた哀れな男の子。助けてあげられなくてごめんね。

 

「というか、集まって話し合う程の問題ですか? コレ。夏油さんは毎回泣いてるだけですし。それに私、2回しか会ったことないんですけど」

 

 そんな疑問をこぼす七海。

 

 今、私達は『第3回〜聖哉を慎重な男に戻そう!〜』を開いて話し合いをしている。

 

「そ、そんなこと言ったら私なんて1回も会ったことないですよ」

 

 そう言うのは灰原、七海の1学年下の伊知地。 

 

「伊知地ー、文句言ったね? 後でマジビンタ」

 

「ひっ!?」

 

「七海、何を言っているんだい? 私が泣いてるだけ? 私がどれだけ心配しているのか知っているのかい? もし、このまま治らなかったら師匠は大変な目に遭ってしまう。いつどこで敵が襲ってくるか分からない中、何も警戒していないんだ。

 それに、向こう見ずな性格になってしまったせいで会う度に師匠がボロボロになってる姿をよく見るんだ。ズボンの膝辺りには転んだあとの様な穴が空いている。携帯も持っていかずに出掛けるせいで連絡が取れないし」

 

「そうだよ! 七海! あんな傷だらけの竜宮院さんなんて見たくない! 竜宮院さんは僕達を導いてくれる慎重な男なんだよ!」

 

「2人とも熱くなりすぎ、ウケる」

 

 ウケねぇーよ!

 

「はぁ、なんでこんなことに」

 

 ため息を吐き、頭を抱える七海。

 

 分かるよ、その気持ち。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 あの会議から2週間が経った。まだ聖哉の慎重さは取り戻せてない。

 

 そして、今日聖哉が東京の高専に行くと聞いた。今日、明日は私が担当している生徒が皆、任務のため時間がある。だから、聖哉に会いに行くことにした。

 

 

 

 

 私は高専に着き、グラウンドへと足を運んだ。

 すると、1人の男ーー聖哉の姿が目に入った。

 私は聖哉の元へ走って駆け寄る。

 

「聖哉、おにぎり作ってきたから食べる?」

 

 私は聖哉が向こう見ずな性格になってからよく差し入れを渡している。慎重な聖哉の時は、いらん、と言われて返されたり、渡しても毒味させてから食べたり、と割とショックを受けてた。でも、今はそんなことされずに食べてもらえるから会う時は毎回渡している。それに、美味しいと言ってくれるから凄く嬉しい。

 だから、今回も張り切って作ったから早速食べてもらーー

 

「いらん」

 

「・・・え? 今何て言った?」

 

「だから、いらんと言ったんだ」

 

「な、何でよ!? この前、また作ってくれって言ってくれたじゃない!!」

 

「あの時の俺はどうかしていた。俺は今・・・・・・猛烈に反省している」

 

「反省なんかいいから食べてよ!!」

 

「うるさい」

 

「いや、うるさいじゃなくて!!」

 

「うるさい奴にはげんこつだ」

 

 聖哉は拳を高く上げーー

 

 ゴスーン!!

 

 私の頭に聖哉の拳がめり込む。

 

「ぐぎゃっ!?」

 

 こ、こいつ・・・!? もしかして戻りやがったな!?

 

「な、何で殴るのよ!? 痛いじゃない!!」

 

「せっかく修行でもしようとグラウンドを借りたのに邪魔をされて腹が立ったんだ。つまり、お前のせいだ。俺は悪くない」

 

 なんで戻ってんのよ!? これなら、ずっと優しい聖哉のままでよかったわよ!? ・・・・・・そ、そうだ!

 

「聖哉! 私のことを助けてくれたあの日のこと覚えてる? 『何でも言うことを聞いてやる』って言ったわよね? なら、このおにぎり食べなさい」

 

「何でも言うことを聞いてやるか。全くバカな奴だ。一時の感情や勢いで、そんな誓いをするから、こういうことになる。誓いには慎重に練り上げ、計画性を持ってするものだ」

 

「そ、それアンタが言ったことだから・・・・・・!!」

 

「そして、その誓いは所詮口だけのものだ。証明するものがなければ何の効力も持たない。よってその誓いは無効だ」

 

「は、はぁ!?」

 

「お前は教師なのだろう? なら、少しは頭を働かせるんだな、マヌケ」

 

 何で元に戻ってんだよ・・・・・・!? これなら、優しい聖哉のままで良かった!!

 

 

 

 

 





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