慎重術師   作:コケ

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自分に厳しく、相手にも厳しく

 

 聖哉が来てから1ヶ月が経った。竜宮院って呼びづらいし、同級生だから聖哉、と下の名前で呼ぶことにした。それに私だけ下の名前で呼ぶのはってことで聖哉にも私の下の名前で呼んでもらってる。

 

 私は呪術師の先輩として呪術について教えてあげてあの態度を直させようとして頑張った。が、逆に教えられることになってしまった。あ、あいつ・・・・・・! めちゃくちゃ呪術について詳しかった。呪術師にスカウトされてから3週間で転校してきたのになんでそんな分かるのっていうレベルで・・・ どうしたらそんなにできるのか聞いたら、

 

『殉職率が高い呪術師になるためには少しでも知識が必要だ。命に関わるのに勉強しない理由があるか?』

 

 どのくらい勉強してるか問えば

 

『1日13時間くらいだ。もっと勉強したかったが、体を鍛える時間が必要だからな。それに睡眠不足は体に悪い。1日が100時間あればいいんだが』

 

 ってな感じで異常だけどかなり頑張っていた。努力してるのは好感度が高い。あの態度は鼻につくけど。

 

 だから、呪術の知識では勝てないなら座学くらいは・・・・・・と思ったが、聖哉は既に大学数学まで手をつけていた。英語は信じられないくらいペラペラで本当に日本人なのかと疑った程。なんでそんなに勉強ができるのかと聞いたら、

 

『いつか事故にあって手が使えなくなり、勉強効率が下がった場合。

 いつか病気で寝たきりになった時、目を覚まして他の奴に1年の遅れを取っていた場合。

 もし、自分が苦手な分野で1年つまずいてしまった場合。

 もし、習ってない範囲が抜き打ちテストで出てきて、不合格者は退学ということになった場合。

 もし、道端で不審者に『この問題が解けなければ殺す』と脅された場合。

 もし、デスゲームに参加させられた時に学力がなければ命を落とすことになってしまう場合。

 もし、自ーー』

 

 ってな感じで色んなことを想定しているらしい。

 

 ってか、『この問題が解けなければ殺す』って何!? 

 

 この1ヶ月で分かったことがある。それは聖哉がありえないくらい慎重であるということ。これを慎重という言葉で片付けていいのか分からないけど。

 

 でも、勉強を面倒臭そうな顔をするがちゃんと教えてくれるのは頼りになる。あとは、戦闘面。まだ、聖哉が戦ってるところを見てない。それに、まだ任務には行ってない。

 

 まあ、もう1ヶ月経ったし、そろそろ任務に行く頃かな。いや、遅くないか? 私は入学して2週間後くらいに任務に行った気がする。まあ、4級呪霊だったり、サポートしてもらったり、あまり重くない任務なんだけど。もしかして、あんまり強くないのかも。だから、頑張って知識を固めてたんだ。それなら賢い選択だ。人には向き不向きがあるから知識で補おうと頑張るのは偉い。

 

 あ、そう言えば明日2人で模擬戦をするって先生が言ってたな。やっと、自分の勝てる分野が来たようね。せっかくだから優しく教えてあげましょう。勉強を教えてくれたお礼として。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「くっ」

 

 右から殴られ

「う"っ」

 

 左から殴られ

 

「ぶへっ」

 

 また右から殴られ

 

「ぐっ」

 

 そして、また左から殴られる。

 

 私は今模擬戦をしている。いや、していた。いや、そもそも模擬戦なんかではなく、一方的蹂躙。

 

「おい! もういい! やめろ竜宮院! 庵の顔がパンパンに腫れてる!」

 

 私は今聖哉に馬乗りにされて顔を殴られてる。何発も。すっごく重い一撃が何発も。

 

 なんでこんなことに・・・

 呪術師の先輩として良いところを見せようと『全力でかかってきなさい! 遠慮はいらないわ!』なんてこと言ったのが間違いだったのだろうか。聖哉は私の言葉を聞いて『ほう・・・それは頼もしいな。では、遠慮なく』って言った瞬間殴りにかかってきた。それに対処できず、一方的に殴られるだけ。遠慮するな、とは言ったけどこれはあまりにも酷い!

 

「まだだ・・・!まだ足りない・・・・・・!」

 

「ああ!! もう授業はお終いだ! だから、やめろォ! やめてくれェ!!」

 

「なんだ、もう終わりか。まだ動き足りないな。おい、戸田。俺の修行を手伝え」

 

「先生をつけろ、先生を。とりあえず転がってる庵を運んでからならな」

 

 なんか先生と聖哉が喋ってる。全然聴こえないや。顔が痛い。

 

「おい、早く立て」

 

 ん? なんか言ってる?

 

「チッ、ウスノロ」

 

 あ、聖哉に抱っこされた。うわぁ、相変わらずカッコいい顔してるなぁ。こんな顔で抱っこされたら世の女性は惚れる。

 だが、こいつは違う。だって聖哉だから。

 

「おい、こっちは時間が無いんだ。急ぐぞ」

 

「ふぇ?・・・うわぁぁぁぁぁあああああ」

 

 こ、こいつ・・・!走りやがった!こっちは殴られて顔がいてぇんだよ!蝶よりも花よりも丁重に扱え・・・・・・!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 顔の腫れが引いてきた。やっとだ、やっと。治るのに2週間もかかった。いくら模擬戦だからって普通無防備な女の顔をあんなに殴るか? あいつはイカれてる。容赦がなさすぎる。

 

 私は戸田先生が前を歩いているのを見つけ、声をかける。

 

「先生、おはようございます」

 

 先生は私が声をかけると、ビクッと体を震わせた。

 

「な、なんだ。庵か、驚かすなよ」

 

「え? そんなにでしたか? それはすみません」

 

「あぁ、いいんだ。庵は悪くない。わ、悪いのはあの悪魔なんだ・・・あ、あいつは平気で・・・」

 

 先生は涙目で産まれたての子鹿のように震えている。

 

「先生?大丈夫ですか?」

 

「い、いや。な、なんでもない・・・んだ。今日も頑張ってくれ、じゃあな」

 

 先生はフラフラと逃げるようにこの場から去っていった。

 

「久しぶりにあったけど様子がおかしい・・・・・・それに、悪魔って何?」

 

 先生はあの模擬戦以来に会ったが、かなり様子がおかしい。何かに怯えてるように。気のせい・・・・・・なわけがない。あの怯えようは相当だ。何があったのかしら?

 

 それより聖哉にガツンと言ってやろう。そして、罰として何かおねだりでもしよう。女の顔をあんなに殴ってただで済むとは思わないでよ。

 

 私は聖哉を探しに外へ出た。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 あ! 聖哉の声がする。

 私は走って声のする方へ行く。何をさせようかしら。私の顔をあんなに殴ったんだから。

 

「3021、3022、3023、3024」

 

 聖哉が逆立ち腕立て伏せをしていた。頭から爪先まで1本の棒のように真っ直ぐ伸びている。

 

 私は頑張っている聖哉を待つことにした。

 

 長い、長すぎる・・・・・・てか、どんだけやってんの? 流石にやりすぎでしょ。それにペースが一定で凄く綺麗。どんだけやったらあんなにできるんだか。

 

 はぁ、早く終わらないかなぁ。なんでこんなに待たなきゃいけないのよ。ずっと同じ光景で飽きてきた。そう言えば私は何で聖哉を待ってるんだっけ・・・? あぁ、そうだ聖哉に文句の1つでも言ってやるんだった。

 

「4997、4998、4999、5000」

 

 終わったみたいだ。ま、まさか5000回もやるなんて・・・ 凄いんだけど、そんなにやって意味あんの? アンタは何を目指してんのよ。

 

 私は逆立ち腕立て伏せが終わり、立ち上がった聖哉に声をかける。

 

「ねぇ、聖哉ちょっといい?」

 

「ん・・・? あぁ、ちょうど良かった。歌姫に頼みたいことがあったんだ」

 

「いや、こっちが先に声かけたんだから聞きなさいよ。結構待ってたんだから」

 

「歌姫にしか頼めない。歌姫だから頼んでるんだ」

 

 やけにイケメンボイスで言ってくる。

 私にしか頼めないこと? 聖哉が私に近づいてくる。

 

「ちょ、ちょっと近いわよ」

 

「俺の頼みを聞いてくれるか?」

 

 ちょ、顔が良い。や、やばい・・・汗かいてるのに良い匂いがする・・・

 

「ダメか?」

 

「い、いいわよ。聞いてあげる」

 

「言ったな?じゃあ、これを」

 

 聖哉はポッケから3枚の紙とボールペンを取り出す。

 

「この契約書にサインをしろ」

 

「契約書? そこまでしなくていいでしょ。別に破りはしないわよ。それにこれ3枚とも同じじゃない」

 

「スペアとスペアを無くした時のスペアだ」

 

「いや、そんなにいらないでしょ」

 

「それが書き終わったら縛りを結ぶぞ」

 

「いや、やるならせめて契約書か縛りのどっちかでいいでしょ!?てか、アンタ契約書って準備が良すぎ!」

 

「万が一漏れがあった場合を考えてだ」

 

「てか、頼みごとって何よ。あんたもしかして・・・」

 

 聖哉、もしかして。ちゅ、ちゅーとか。私をそんな目で見てたなんて・・・・・・ は、早すぎるわよ、まだ私たち高校生よ!? で、でも聖哉がどうしてもって言うなら・・・・・・

 

「ちょうどいいサンドバックが欲しいんだ。あいつは何故かいなくなってしまったからな。確か任務は無かった筈なんだが……GPSでも付けとくか」

 

「は、はぁ!? そんなのやるわけないでしょ!」

 

 私は3枚の契約書をビリビリに破く。

 

「おい、待て。何故破いてる」

 

「何で私がサンドバックにならなきゃいけないのよ!?」

 

「おい、書け」

 

 聖哉はポッケから新たに3枚の紙を取り出し、渡してきた。

 

「これさっきのと同じやつじゃない!? あんたどんだけスペア持ってるのよ!?」

 

「はぁ、うるさい女だな。いつ何が起こっても対処できるようにしなければならない。今みたいに破られるかもしれないからな」

 

「いくら持ってても書かないわよ!?」

 

「チッ、使えないな女だ」

 

 聖哉は寮に戻ってしまった。

 

「な、なによ!? それに顔殴ったこと全く反省してないじゃない。ってかこっちの話聞いてもらってないじゃない!?」

 




聖哉の担任は戸田先生っていうオリキャラです。


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