慎重術師 作:コケ
呪術高等専門学校。
東京と京都の2校しかない存在しない呪術師の育成機関。多くの呪術師が卒業後もここを拠点に活動しており、教育だけでなく任務の斡旋・サポートも行なっている呪術界の要。実質呪術師の総本山。
そして、ここ東京校のある教室には3人? の生徒と1人の白い包帯を目の当たりに巻いた白髪の男ーー五条がいた。
「はーい! 皆、今日は僕のセンパイを紹介するよー!!」
五条は教室に入るとすぐにハイテンションで喋る。
「げっ、悟の先輩なんてロクでもない奴だろ」
男勝りな口調で言うのは禪院真希。御三家の一角を担う禪院家出身。御三家は基本的に呪術高専には通わないが、彼女は訳あって高専に通っている。
「でも、悟の同級生の硝子は割とまともだろ?」
真希にそう返すのはパンダ。
「しゃけ!」
訳の分からない返事をするのは狗巻棘。呪言師の末裔であり、術式の関係上無闇矢鱈に喋れないため、おにぎりの具でしか会話ができない。
「でも、硝子さんの他に1人いたろ。なんか慎重教だっけ? 危ない臭いがする宗教団体」
「おっ! 真希知ってるんだね〜」
五条は真希の発言を聞いて上機嫌になる。
「悟、なんでそんなに機嫌がいいんだ? 気持ち悪いぞ」
「しゃけしゃけ」
「慎重教はね、今から紹介するセンパイの影響を受けて親友の傑が創ったんだよ。凄いよね〜」
五条の口から信じられない発言が飛び出る。
「おい! それってヤバい奴じゃねぇか!! そんな奴連れて来んな!!」
ゲテモノが来るのを必死に反対する真希。
「そんなこと言わないでよ〜 実力は確かだからさ。日本に4人しかいない特級術師なんだから。滅多に会えるもんじゃないよ〜」
「まあ、そうだけど。九十九さんがいるだろ」
「いやー、あの人色んな所出掛けてるから捕まえられないもん」
ってことでよろしくー、と五条は先にグラウンドへ向かった。
グラウンドにはボロ雑巾3枚ーー真希、狗巻、パンダとそれを見下ろす竜宮院とケラケラ笑う五条がいた。
「いやー、かなりやっちゃったね。懐かしいなぁ」
五条はかつて竜宮院に意識を失うまでボコボコにされたのを思い出す。
「こんなものか。ただ、この怪力女はギャンブルゴリラと比べると劣るが、中々良い耐久性だ」
「ちょっとー、ウチの可愛い生徒をサンドバッグにしないでよ?」
「約束はできんな。ギャンブルゴリラが死んだら次はコイツだな」
そろそろ時間だ、と竜宮院は荷物をまとめ始める。
「オイ、待て」
真希はボロボロの体に鞭を打って立ち上がり、竜宮院に声をかける。
「サンドバッグでも何でもいいから、私に稽古つけてくれ」
そう言った真希を見て竜宮院は顎に手を当て、考える。
「私を強くしてくれ。そのためだったらどんなにキツくても乗り切ってみせる。ただ、体術だけだ。戦略とかはいらない」
竜宮院は真希の覚悟を聞き、
「そうか。時間があるとき付き合ってやる。五条から報酬を受け取ればいいんだろう」
「それで頼む」
2人で勝手に話が進んでいく。
「ちょっと〜、何勝手に僕に報酬払わせようとしてんの」
「別にいいだろう。可愛い生徒のためなんだ」
「そうだぜ、悟」
「ま、別にいいんだけどね」
五条はニヤニヤしながらオッケー、と大きく丸を作る。
「じゃ、僕も用事があるから先にあがるね。おつかれ〜」
竜宮院と五条は用事があるため帰った。
グラウンドに残された2人と1匹はボロボロの体に鞭を打って歩き出す。
「かなり容赦なかったな、アレ。恐怖を覚えたのはコレが初めてだ」
パンダは肩の辺りを撫でながら言う。その肩は竜宮院によって殴られて穴が空き、綿が溢れ出していた。
「強かったな。悟でも分かってたけど、やっぱ特級ってすげぇな」
稽古の約束をこぎつけた真希は先程までの蹂躙を思い出しながら言う。
「ツナマヨ〜」
「てか、慎重教のことが頭にあったからヤバい奴だと思ってたけどそこまでだったな。授業始まる前に契約書5枚書かされてビデオで『どんな怪我を負っても、それが死だとしても竜宮院聖哉は一切の責任を負わない』という主旨の発言を撮らされて、縛りを結ばされたとこ以外は」
パンダは青い空を見上げながら抑揚のない言葉で言う。
「そこ抜かすなよ。十分ヤバいだろ」
2人と1匹は雑談しながら寮へ戻っていった。
そして、竜宮院の話題が上がるたびに1人の少年の目がキラキラと輝いていた。
竜宮院との邂逅から2週間経った。
神社仏閣のような建物が並ぶ高専の敷地内を歩く2人と1匹。
「聞いたか? 今日くる転校生、同級生4人をロッカーに詰めたんだと」
パンダが話題を振る。
「殺したの?」
「ツナマヨ」
「いや重傷らしい」
真希と狗巻の疑問にパンダが答える。
「ふぅん。ま、生意気ならシメるまでよ」
「おかか、ツナマヨ、高菜!!」
狗巻は真希の物騒な発言を必死に諌める。
「転校生を紹介しやす!!!テンション上げてみんな!!」
五条が謎のテンションで盛り上げようとするも席に着いた2人と1匹は無反応。いや、1人はチラチラと辺りを見てほんの少し耳を傾けている。
五条は上げてよ、と弱々しく呟く。
「随分尖った奴らしいじゃん。そんな奴のために空気作りなんてごめんだね」
脚を組みながら拒絶する真希。
「しゃけ」
「・・・」
パンダは真っ直ぐ五条を見て無言でいる。
五条は各々の反応を見てフーと溜息を吐き、
「ま、いっか」
扉の向こうにいる転校生に声をかける。
「入っといでー!!」
(シカトこいてやろ)
真希はそんなことを内心思いながら、目線を下に向ける。
五条に呼ばれた転校生は緊張しながらも扉を開け、教室に入る。
その瞬間、ぞぞぞと五条、乙骨以外の教室にいる者全てに悪寒がする。
気弱そうな転校生の少年の背後から今までに感じたことのない強力な呪いを感じた。
『あ゛?』
すぐさま席から飛び出し、臨戦態勢に入る。
「乙骨憂太です。よろしくお願いしまーー」
真希は薙刀を取り出し、乙骨という少年の顔スレスレを走らせ、黒板に深く突き刺す。狗巻はネックウォーマーに手をかけ、術式を発動させる準備をする。パンダは可愛いメリケンサックをはめて構える。
「これ、なんかの試験? おい、オマエ。呪われてるぞ」
真希は乙骨に言い放つ。乙骨はいきなりのご挨拶に顔が青ざめ、冷や汗が止まらない。
「ここは呪いを学ぶ場所だ。呪われてる奴がくる所じゃねーよ」
日本国内での怪死者・行方不明者は、年平均1万人を越える。
「そのほとんどが、人の肉体から抜け出した負の感情、“呪い”の被害者だ。中には、呪詛師による悪質な事案のものもある。呪いに対抗できるのは同じ呪いだけ。ここは呪いを祓うために呪いを学ぶ、都立呪術高等専門学校だ」
そう、五条に言われるものの乙骨は始めて聞いたようで、五条は軽く謝る。
「あっ、棘は大丈夫だけど早く離れた方がいいよ」
五条に急に言われた真希とパンダはどう言う意味か理解するのが遅れる。
すると、乙骨の背後の黒板から白い不気味な腕が生え、黒板に突き刺さっていた真希の薙刀をへし折る。
『ゆう゛だを゛ぉをををををを』
「待って!! 里香ちゃん!!」
乙骨が慌てて止めようとするものの巨大な腕は動きを止めない。
『虐めるな!!』
この巨大な腕に真希とパンダはボコボコにされた。因みに狗巻は乙骨を警戒しながらもそれ以外の敵の襲撃があるかもしれないと警戒をしていた。そのため、すぐに異変を察知してヘルメットを被り、教室の隅っこに蹲るような形でいたため被害に遭わなくて済んだ。
五条は一通り、乙骨憂太と祈本里香ーー特級被呪者と特級過呪怨霊の関係を説明した。
「憂太に攻撃すると里香ちゃんの呪いが発動したりしなかったり・・・なんにせよ、皆気をつけてねー!!」
五条は1人だけ場違いな程にハイテンションで話す。
「それから君のクラスメイトだけど、コイツら反抗期だから僕がちゃちゃっと紹介するね」
「呪具使い、禪院真希。呪いを祓える特別な呪具を使うよ」
「・・・」
「呪言師、狗巻棘。おにぎりの具しか語彙がないから会話頑張って」
「こんぶ」
狗巻はよろしく、と軽く手を挙げる。
「パンダ」
「パンダだ。よろしく頼む」
「とまぁ、こんな感じ」
(1番欲しい説明がなかった・・・)
乙骨は内心でツッコミを入れる。
「さあ、これで1年も4人になったね」
(3人と1匹・・・)
乙骨はまたツッコミを入れる。
そんな乙骨を常に警戒する狗巻は先程被ったヘルメットをそのままに、いつでも逃げれるように逃走経路を確認する。
こうして、新しい仲間が加わった呪術高専の1年生達。呪術師として力を上げるため日々精進していく。
しかし、これから予期せぬ襲撃を受けることをまだ誰も知らない。
慎重濃度薄め