慎重術師 作:コケ
今日、私は自分が教鞭を取っている京都府立呪術高等専門学校へ聖哉を呼んだ。正直言うとあまり呼びたくなかったが、生徒達に強くなってもらうには彼を呼ぶしかなかった。いや、もっと適任はいるんだけど、特級術師なんて滅多に会えるわけでもないから頻繁に連絡を取れる、・・・・・・いや、結構無視されるけど聖哉に来てもらって鍛えてもらおうと思った。特に東堂みたいな実力がある生徒は強者に見てもらった方が良い。東堂は自分より実力が遥か上の九十九さんが師匠らしいけど。・・・・・・って師匠って言うとどうしてもあの前髪がチラつくのをどうにかしたい。
色々なタイプの術師に見てもらうに越したことはない。聖哉って体術や呪具の扱い、立ち回りが上手いし。
そして、今は聖哉のことを広いグラウンドで待っている。
「なんで東堂がいるのよ」
グラウンドに来てからすぐにパイナップル頭の東堂を目にして刺々しい口調でそう言う真依。
「俺に聞くな。元々俺らの授業だ」
「歌姫先生、今日は何するんですか?」
水色の髪色が特徴的な三輪が私に聞いてくる。
「今日は皆に紹介したい人がいるのよ。特に東堂や加茂辺りにはね」
本当は私が受け持っている2年生の東堂、加茂、西宮だけの予定だったけど、学長に聖哉を高専に呼ぶことを伝えたら、『竜宮院が来るのか。なら、1年生も一緒の方がいいの。儂はおめかしでもするかの』なんて言い出して合同になった。というか、聖哉のことを気に入りすぎなんだよなぁ。
「もしかして高田ちゃんか!?」
目がガンギマリな東堂が私に詰め寄ってくる。
「なわけないでしょ。そもそもあまり知らないのよ」
「なら、俺が教え込むとしよう」
「いや、しなくていいわよ」
「まずは一昨日放送したグルメ番組を今から見に行こう」
「東堂、静かにしなさいよ」
西宮が手に持っている箒で東堂の頭を叩く。
「西宮の言う通りだ。先生を困らせるな」
「それで先生、誰が来るんでしょうか?」
東堂をメカ丸と一緒に抑え込んでいる加茂から質問される。
「おい、離せ!! 高田ちゃんが!!」
「暴れるな東堂!!」
「聖哉・・・竜宮院が来るのよ、特級術師の。あなた達も耳にしたことあるんじゃない?」
「竜宮院さんですか!?」
うわっ、ビックリした。三輪って時々急にテンション上がるのよね。可愛らしくて良いけど。
「霞ちゃん、どうしたのよそんな大声出して」
「私ってシン・陰流の門下生なんです。そこで最高師範が竜宮院さんについて仰ってたんですよ。不思議な奴だって。
門下生を余すことなく、薙ぎ倒して『おい、シン・陰流の技を教えろ』って高圧的な態度で言ってきたって」
いや、聖哉ってどこにでもいるな。
「そこからがおかしかったんです。シン・陰流って門外不出の縛りを結ぶんですよ。そうじゃないと取得できないんです。それで、縛りで故意にシン・陰流の技術を門外へ伝えることが禁止されてるんです。その縛りによって術式効果が底上げされてるんです」
それは聞いたことがある。聖哉なら、習得できる技はなんでも習得するだろうし、何も不思議ではない。一体どこが不思議な奴なんだろうか? 秒で習得できたとか? 聖哉ならあり得る。・・・いや、聖哉は控えめに言っても不思議な奴だったわ。最近、感覚が麻痺してる気がする。
「でも、竜宮院さんは縛りを結ぶ前から未完成ですが、シン・陰流『簡易領域』を使えたらしいんです」
うーん、普通に聖哉ならあり得そうだと思ってしまう。
「でも、それは術式効果が上がらないんじゃないのカ?」
東堂を抑えたままメカ丸が三輪に疑問を述べる。
「いや、それが普通に底上げされてるんですよね。それも通常の門下生よりも効果が強いんですよ。それで、師範が不思議な奴だって言ってたんです」
確かにそれは不思議だと思う。けど、聖哉だからなぁ・・・
「面白い奴なら良いんだがな。もしかしたら、将来的に高田ちゃんの個握に一緒に行くことになる
いつの間にか加茂とメカ丸の拘束を解いた東堂が白い歯を見せ、不敵な笑みを浮かべて言う。
面倒なことが起きなければ良いけど。
「どんな女が
「何故そんなことを言わなければならない」
「性癖にはソイツの全てが反映される。女の趣味がつまらん奴はソイツ自身もつまらん。俺はつまらん男が大嫌いだ」
東堂のセリフを聞いた聖哉は私に冷たく、鋭い視線を送る。
「おい、歌姫。この異常者はお前の生徒だろう? 何とかしろ」
い、異常者!? ちょっとそれは言い過ぎじゃ・・・・・・? 何とかしろって言われても・・・・・・ 取り敢えず、自己紹介からでいいか。
「まずは自己紹介をしましょう。じゃあ、加茂からお願い」
「はい。私は加茂のーー」
「俺は東堂葵。
加茂が名乗ろうとするところを東堂が遮る。
「いや、私は加茂って・・・」
「歌姫、早くコイツを何とかしろ」
聖哉の鋭い眼差しが私を射抜く。
「と、東堂・・・」
「早く答えろ」
東堂は全く聞く耳を持ってくれない。でも、聖哉の好みは気になるかも。どうせ答えてくれないだろうけど。
「さては、俺の弱みを握ろうとしているな? 通りでおかしいと思ったんだ。初対面でそんな口を聞くなんてな」
いや、アンタも初対面でかなりめちゃくちゃなこと言ってるけど・・・・・・
「自身の
東堂は顔を上に向ける。そうか、そうか・・・ と呟きながら目からは大量の涙が流れ落ち、地面に染み込む。
うわぁ・・・ 高校生がそんなことで涙流さないでよ。絵面が酷すぎる・・・・・・
「退屈だよ」
東堂は上着を脱ぎ捨て、勢いよく地を蹴り、聖哉に掴みかかろうとするが・・・
・・・呪力のこもった聖哉の拳が東堂の腹部に突き刺さる。
「ごふっ!?」
さらに、顔に蹴りを入れる。
「ぶへっ」
「とんでもない奴がいたもんだ」
「えっ?」
誰かが目の前の光景に声を漏らす。
殴られた東堂は地面に横たわり、口からは血が流れて・・・
「せ、聖哉!? ちょっとやり過ぎよ。もっと加減できたでしょ」
「下手に加減して、生きてたらどうする?」
「い、いや、殺すなよ」
「ど、んな・・・女が・・・
こ、怖すぎる・・・ 東堂がゾンビのように聖哉の足にしがみつきながら好みを聞いてくる。
「この死に損ないが」
聖哉は東堂を蹴飛ばし、顔に向かってペッ、と唾を吐く。
「おーい!? 流石にそれはやり過ぎでしょ!? 私の生徒なのよ!?」
「ん・・・? もしや・・・」
聖哉は私を無視し、横たわっている東堂に近づき、手をかざす。やがて東堂の体は光に包まれる。
傷が治ってる? これは反転術式!? 聖哉も流石にやり過ぎたと思って反省したのかしら。そもそも大の大人がムキになって高校生相手に唾吐くなんて恥ずかしいわ・・・・・・
「・・・なに? 傷が治っているだと? 呪霊ではなかったのか。いや、そんなわけがない。どっからどう見ても怪しい。1回、焼いてみるか」
聖哉の手には大きな炎が纏い始める。
「って、おーい!? 反省してないんかい!?」
「・・・反省? 何故俺が反省しないとならない。元はと言えばまともに教育できてないお前のせいだろう。それを人のせいにするな」
きぃーーー!!! 仕方ないじゃない!? 入学してきた時点で完成されてたんだから!!
「歌姫先生、東堂が大人しくなったから自己紹介再開しませんか?」
この一連の流れを黙って見ていた西宮が私に提案してきた。
「じゃあ、まずは加茂から」
「はい。私は加茂のーー」
「竜宮院、来ておったか」
加茂が名乗ろうとしているところを『I LOVE 慎重』とプリントされた服を着た楽巌寺学長が遮る。分かりづらいが顔を良く見てみると、嬉しそうに頬を緩ませているのが分かる。
「なんだジイさん、そのダサい服は。罰の類か?」
ダサい服って言うな!? 皆、思ってても口にしてないんだから!!
「ダ、ダサいじゃと・・・・・・?」
聖哉の発言が学長の心に突き刺さり、倒れ込んでしまう。
「が、学長!? 皆、学長を運ぶの手伝って!! ・・・・・・って聖哉!! どこ行くのよ!?」
「もう終わっただろう?」
「いや、アンタのせいで学長が・・・」
「俺は事実を言ったまでだ」
「私は加茂のーー」
「・・・・・・ はっ! 高田ちゃんの食べ歩きコーナーがあと1時間で始まる!! こんなことしてられん!! 真依! 観に行くぞ!!」
「ちょっと真依ちゃんを連れてかないでよ」
「私は行かないわよ」
「あれ竜宮院さんは? 写真一緒に撮りたかったんだけど・・・」
「三輪、竜宮院さんはもう帰っタ」
「ダ、ダサいのか・・・ この服は・・・・・・」
あー、もうめちゃくちゃだ・・・・・・
それと学長。その服は控えめに言ってダサいです。口が裂けても言えないけど。
東堂が歳上相手にこんな行動取るか?って思ったけど、例え歳下であっても好みのタイプが自分と合わないからって半殺しにするような奴だし、まあ良いかなって。七海にはしなさそうだけど。