慎重術師 作:コケ
聖哉がやってきてから3ヶ月ちょっと経った。今日は聖哉と任務の日だ。と言っても私の役割は聖哉の初任務のため補助要員みたいな感じだ。任務自体は難しくない3級呪霊を祓うだけ。
と言うか、聖哉の強さは痛いほど身に染みてる。明らかに私よりも強いから補助なんていらないと思うんだけど。
私は準備を終え、補助監督との待ち合わせ場所に向かう。
いつも聖哉に良いようにされてるから少しは出し抜いてやろう。流石に集合時間の30分前にはいないだろう。慎重な聖哉でも30分なら。
私は集合場所である大きな木が2本、その下にベンチが2台置いてある場所へ着いた。が、そこにはベンチの横で腕立て伏せをしている聖哉の姿があった。
えっ? もういるの!? しかも腕立てしてるし。
「せ、聖哉? 早くない? いつから?」
「うるさい、話しかけるな。今取り込み中だ」
「う、うんごめん」
そうよ。今腕立てしてるんだから話かけちゃダメでしょ。何やってるのよ私。って……
「いやいや、こんなとこで腕立てしてるんじゃないわよ!? 周りの人に凄い目で見られてるわよ!?」
「準備体操くらいどこでやってもいいだろ。体を温めてないと怪我をする」
「準備体操? 何回やってるのよ」
「今でちょうど300回だ」
そう言って腕立てをやめ、立ち上がる聖哉。
「それでいつからと言ったな。確か下見をしたのが2時間前だからここに来たのは1時間前くらいだな。」
「はやっ!?・・・・・・ん?下見?何の?」
「今日の任務先の下見しかないだろう。バカか?」
「バ、バカ!? てか、なんで下見?」
「もし特級呪霊に遭遇した場合に逃走するための経路を確認するために決まっているだろう」
「逃走経路? でも、補助監督がいるから・・・・」
「補助監督なんてアテにならん」
「ちょっとそれは失礼じゃない?呪霊を祓うことが全てじゃないのよ?」
「何か勘違いしているかもしれんが、俺はお前もアテにしていない」
こ、こいつ・・・・・・!アテにされてないのは分かる。で、でも・・・・・・!
「その通りだけど! 否定できないけど! 言い方ってもんがあるでしょ!?」
私は大声で聖哉に言い返す。
「うるさい、騒ぐな。周りが凄い目で見ているぞ」
「ぐぬぬぬぬ……」
私が言い負かされ、下唇を噛んで体をぷるぷると震わせている間に聖哉は座り上体起こしを始める。
「えぇっ!? ちょっと何してんの!? 私を白い目で見てた人達がまだいるのよ!? なんで平気で腹筋できるの!?」
「お前は準備体操するのにわざわざ人目を気にするのか? それに遊びで任務に行くわけではない。恥ずかしがってるようじゃ、死ぬぞ」
「確かに準備体操は大事だけど、場所を考えなさいよ」
「別に誰の迷惑にもならないようにしているだろう」
「私の迷惑になってるのよ!? 恥ずかしいでしょ!!」
「俺はお前のような巫女装束を着てバカみたいに騒いでいる女と一緒にいて恥ずかしい」
「こ、こいつ・・・・・・!」
私は何も言い返さずに横で上体起こしをする聖哉と一緒に補助監督を待つこと20分・・・・・・
1台の車がこちらに向かってきた。そして車が私達の前で止まり、車から1人の女性が降り、挨拶をする。
「お待たせしました! 庵3級術師と竜宮院4級術師。私は山田と申します」
「おはようございます。今日はよろしくお願いします」
「はい! こちらこそよろしくお願いします!」
「ん? 聖哉も挨拶を・・・って聖哉!?」
聖哉は補助監督が乗ってきた車の中に入って何かを探している。
「ちょっと何してるの聖哉!」
「爆弾が仕掛けられてないか確認しているんだ」
「いや、あるわけないでしょ!?」
「絶対とは言えないだろう?少しでも可能性があるなら潰しておきたい」
「えぇ……」
ちょっと補助監督の人も困惑してるじゃない。もう何を言っても聞かないから聖哉の好きにさせるか。
「よし、何も仕掛けられてなかった」
聖哉は確認し終わると車から出て、報告してきた。
「だが、まだ分からない。術式により視認できないようにされてるかもしれない」
「疑いすぎよ!? もういいでしょ!?」
私はまだ調べようとする聖哉の首根っこ掴んで車の中に押し込んだ。
「山田さん! 行きましょう!!」
「え、えぇ!」
そうしてやっと車に乗ることができ、任務先に向かう。
「着きました」
どうやら任務地に着いたみたいだ。
「ありがとうございます」
私はここまで連れてきてくれた補助監督にお礼を言う。車から降りようと椅子から立ち上がろうとした時、聖哉が口を開いた。
「おい、もう少し遠くに駐車しろ。ここは危ない」
「は、はい! 分かりました!」
へぇ、ちゃんと考えてるんだ。
補助監督が聖哉の指示に従い、車を移動する。
「よし、行くぞ歌姫」
「分かったわ」
私達は車を降り、補助監督の説明を受ける。
「ここで3級呪霊十数体が発見されました。被害者はいないとのことです。
何か質問はありますか?」
「私はないです」
「何点かある。嘘偽りなく答えろ」
「はい、なんでしょう?」
「まずーーー」
「ーーーーです。もういいですよね?もう勘弁してくださいお願いします」
補助監督が膝をつけ、おでこを地面に擦り付けながら言う。地面をよく見ると小さな水玉模様ができていた・・・・・・って何してんの!?
「ちょっと! 山田さん! 顔あげてください!! こんな奴に頭さげる必要ないですよ!!」
「ふむ、情報収集はこれでいい。では行くとしよう」
「は い゛ぃ゛」
もう顔がグシャグシャじゃないの。あぁ、鼻水が口の中に・・・・・・
鬼気迫る顔で30分も質問するなんて病気よ、病気。アンタ、事前に確認してるんでしょ?
「で、では、帳を下ろじまずぅ・・・・」
『闇より出でて・・・・ひぐっ、闇より黒ぐ、ぞの穢れを禊ぎ祓え゛ぇ゛』
補助監督の山田さんが帳を下ろす。って、それちゃんと帳下りるの!?
しかし、私の心配とは余所に帳が完全に下りる。
そして、聖哉は呪霊がいるであろう場所を見つめながら呟く。
「
だっせぇー・・・・なにカッコつけてんの?まだそういうの卒業できてない感じ?
「おい、早くしろ。ただでさえお前は足手まといなのだから、きびきび動け」
「わ、分かったわよ!」
確かに聖哉より弱いけど、足手まといはないでしょ!? 足手まといは!?
私達は進んでいくと、呪霊の姿が確認できた。
「見たところ12匹ね。報告通り3級程度ね。よし、聖哉祓いましょう
って、聖哉?」
聖哉は後ろの大きな岩に隠れ、顔だけ出している。
「呪力は大したことないな。しかし、呪力をわざと弱く偽っている可能性もある」
「ちょっと聖哉? 何してるの?」
「まず、敵の情報を得てからだ。弱いように見せかけて急に変態するかもしれない」
「警戒するのは大事だけど! 今回は大丈夫よ! 3級呪霊よ、聖哉なら余裕よ!」
「はぁ・・・うるさい女だな」
「うるさくさせてるのはアンタでしょ!?」
「おい、お前がうるさいから呪霊がこっちに気づいたぞ。どうしてくれるんだ」
「私のせい!?」
「そこをどけ、今から祓う」
そう言い、まとめてかかってきた呪霊に対し、構える。そうすると、右手が炎に包まれる。
『
右手の炎を呪霊にぶつけると、瞬時に一面が燃え上がる。
「ちょっ、ちょっと!?何してるの!?」
てか、ヘルズ・ファイアって何よその厨二チックなネーミングセンスは!?
「アンタ。やりすぎよ!まあでも、祓い終わったし帰りましょう」
「まだだ・・・・・・!まだ生きてるかもしれん・・・・・・!」
「へ?」
そして、聖哉の左手が炎に包まれる。
『
「ちょっと!?もう祓い終わったでしょ!?もう帳上っちゃってるわよ!?」
「まだわからない・・・・・・!安心できん・・・・・・!」
『
「うわぁぁぁぁああああ」
そして、聖哉はそのあと3発追加で打った。
「ふぅ、これで安心だ」
辺り一面が焼け野原になってしまったのを認識して私はもう何も考えたくなくなった。
「もう嫌だ・・・・・・帰りたい・・・・・・」
「おい、早くしろ。これから戸田と手合わせをする予定なんだ」
もう、何なのこの人・・・・・・