慎重術師 作:コケ
聖哉が4年の先輩と行った任務で両面宿儺の指を取り込んだ呪霊を祓ったらしい。その呪霊の強さは特級相当になる。いや、強いと思ったけどそこまでとは思わなかった。もし、聖哉が任務を断り続けて修行に専念してなければ、その呪霊によって多くの術師が死んでいたかもしれない。
それと、聖哉と一緒に行った先輩は次の日に高専を辞めてしまった。今回の件で呪術師を続けることができなくなってしまったんだと思う。だって聖哉がいなければ死んでいた。あの慎重さに今回救われた形となった。
そして、その聖哉は明日の任務の下見に行くらしい。聖哉があの任務で等級があがったので1級呪霊の任務らしい。まあ、聖哉なら大丈夫だと思うけど。
▽▽▽▽▽
竜宮院聖哉は今電車に乗っている。次の日の1級呪霊の任務のために朝から任務先の下見に行っていた。不測の事態に備えどこが安全でどこが危険かを把握するために。
竜宮院は電車から降り、改札を出る。そして、任務先へ歩いて向かう。その際も警戒を怠らない。いつ襲撃が来るか分からない。警戒しているのがバレないように進む。
さらに、竜宮院はいつ狙撃されるか分からないため、防弾チョッキを装着している。以前まではガスマスクを付け、ヘルメットを被り外を歩いていたが、数え切れない程の職務質問を受けたため辞めた。
しばらく歩いていると血を流しながら横たわっている女性を見つけた。竜宮院は反転術式を他者にも使用できる。しかし、恐らく相手は一般人。だから、無闇矢鱈に使用すると厄介なことになってしまう。だが、竜宮院は誰に対しても辛辣だが目の前で死にかけている人を放っておく程薄情ではない。
罠である可能性もあるので視線だけで辺りを警戒しつつ、その女性を丁寧に人気の無いところに運び反転術式を使用する。すると、女性の刺されてできたような傷が塞がっていく。治療が終わり竜宮院はどうするか考える。が、そんな時に第三者の声が聞こえる。
「血の臭い・・・・・・おい、俺の妻に何してやがる。禪院家の奴か?」
声をかけてきたのは黒無地のTシャツ、白のカンフーパンツの口元に傷がある男。その男の手は赤ん坊が眠っているベビーカーを持っていた。
「ふむ。呪力が無いな・・・・・・あぁ、血塗れで倒れてたから保護してたんだ」
「あ゛? おい、どけ」
男は女に駆け寄り、容体を確認する。
「ちゃんと息はしてるな・・・・・・」
竜宮院の目の前にいる男は生きていることを確認し、安堵する。
「オマエ呪力って言ってたな? もしかして反転術式か?」
「うむ」
「そうか。悪かったな、手間をかけさせて。ありがとよ」
「そんなことどうでもいい。質問がある、答えろ」
「生意気な野郎だな。まあ、いい。取り敢えず俺の家に来い。そしたら答えてやる」
「当たり前だ。ここでは危なすぎる。だが、その前にこちらに危害を与えないという縛りを結べ。質問に答えると思わせて俺を拉致監禁するかもしれん。無論、こちらから手を出したら別に構わない」
「めんどくせぇな。仕方ねぇから結んでやるよ」
「お前だけじゃないからな。この女とその赤ん坊も俺に危害を与えるな」
「与えられねぇよ」
「それと名前を教えろ」
「伏黒甚爾だ」
「ふむ、ムキムキゴリラか」
「・・・オマエの名は?」
「竜宮院聖哉だ」
「変わった名前だな」
「そんなことどうでもいい。早く縛りを結べ」
「ヘイヘイ」
2人の間で縛りを結んだ。勿論、1つだけでなく3つの縛りを結んだ。抜け道や縛り忘れがあった困るためである。
「おい、お前ベビーカー持ってろ。妻を運ばなければならない」
「仕方ない」
竜宮院はベビーカーの至る所を見る。
「何してんだ」
「爆弾が仕掛けられてないから確認してるんだ」
「してるわけねぇだろ」
そして、甚爾の家へ竜宮院は向かう。
甚爾に案内され、家に着く。
「おい、何してんだ。早く入れ」
甚爾はドアを開ける。そして、全く家の中に入る気配がない竜宮院にイライラしながら言う。
「罠が仕掛けられてるかもしれん」
「ねぇよ。それに縛り結んだだろ」
「もしかしたら結べてないかもしれん」
「バカかオマエ。3つも結んでやったろ」
甚爾は自分の妻と赤ん坊をベッドに寝かせて聖哉に向き合う。
「それで何が聞きたいんだ?」
「それで聞きたいことはお前に呪力がないことだ。一般人にも少ないが呪力はあるが、お前にはない。そういう類の天与呪縛か?」
「あぁ、呪力が一切ない代わりに異常な身体能力を与えられるやつだ」
「ふむ・・・・・・ 呪術のことについて知ってるってことはそういう家系なのか?」
甚爾は竜宮院の質問にわずかながら顔を歪める。
「・・・・・・禪院家だ」
「禪院・・・御三家の一角か」
「あぁ、俺は呪力が一切ない落ちこぼれだがな」
「ふむ・・・呪力がないから家を追い出されたってことか?」
「いいや、俺みたいな落ちこぼれはアイツらの憂さ晴らしとして利用されるんだよ。だから、憂さ晴らしにいくつか呪具盗んで家出したんだよ」
「ほう・・・・禪院家の呪具を盗み出したのか」
竜宮院は顎に手を当て考える。
「おい、盗み出した中の呪具を1つ寄越せ」
「はぁ? なんでだよ」
「大事な奥さんを助けてやったんだ。あの場に俺がいなかったら間違いなく死んでいた。血の量から見て分かるだろう? 救急車呼んでる間に死んでたかもな。命は金で買えないと言うが、お前は盗み出した呪具で買えるんだ。大人しく渡せ。それに良い仕事を紹介してやる。お前はヒモ臭が漂ってるからな。どうせギャンブルに金を溶かしてるんだろう?」
「チッ。初対面で良くそこまで言えるな。まあ、助けてもらったのは感謝してるからな。1つだけな。それと仕事って何だよ」
「俺の修行に付き合ってもらう。もちろん、その都度金は支払う。まあ、仕事の詳細は後日だ。これからやることがある」
「俺みたいな落ちこぼれに修行相手が務まんのか?」
「お前が落ちこぼれかどうかなんてどうでもいい。お前が今の俺より強いからお前を必要としてるんだ」
伏黒は竜宮院のセリフを聞き、一瞬目を大きく見開く。そして、口角を上げて言う。
「ハッ、野郎に必要だって言われても嬉しくねぇな」
「何を気持ち悪い想像をしている」
「それよりオマエ、今の俺より強いって言ってたな? まるで後々、俺を超える様な言い草だな」
伏黒を不敵な笑みを浮かべ竜宮院に聞く。
「何を言っている。当たり前だ。それに俺の方が強くなったとしても終わりではないからな。丈夫な体を持っているんだ、サンドバッグとして使える」
「おもしれぇこと言うな。いいぜその仕事に関しては。呪具の方は高額なやつじゃなかったらいいぜ」
「まずどんな呪具を持ってるか見せろ」
「呪具なら」
伏黒は口を開け、お"ぇ"と口から丸いものを出す。その丸いのが大きくなりイモムシ型の呪霊となり姿を現した。
「こいつの中にある」
「気持ち悪い。あぁ、気持ち悪い。何でそんな気持ち悪いのを体の中に入れられるんだ。本当に気持ち悪い」
竜宮院は呪霊と伏黒がそれを体内に閉まっている気持ち悪さに引いた。
「気持ち悪い気持ち悪いってうるせぇな」
イモムシが口から呪具を吐き出すのを見て竜宮院は思わず顔を顰める。
「しかし、これは参考になるな・・・・気持ち悪いが」
竜宮院は手を顎に当て何か考え、呟く。
「何がだ?」
伏黒は竜宮院の呟きに対して聞く。
「いや、こっちの話だ」
「そうか。それより選べ。さっきも言ったが額が高すぎるのはダメだ」
「文句を言うな」
「それはこっちのセリフだ」
竜宮院は数ある中の呪具から1つ気になったものがあった。
「おい、これは確か天逆鉾だな? 術式を解除できる」
「よく知ってるな。中々知ってる奴なんていないだろうに。こいつは発動中の強制解除が可能だ」
竜宮院はそれを聞き、思考する。そして、決断する。
「これにする」
「いや、これはダメだ」
「おい、お前の大事な大事な奥さんを助けてやったんだぞ? お前は奥さんよりそっちのほうが価値があるっていうのか? 酷い奴だ。これを聞いたら奥さんは悲しむだろうな。ケチ臭いこと言わずに寄越せ」
「・・・・・・チッ。分かった。だが、仕事の報酬は弾めよ?」
「いいだろう。俺はずっとこれが欲しかったからな。それくらいなら安いものだ。よし、今すぐ縛りを結ぶぞ。渡してから返せと言われたら困るからな。勿論禪院家の奴らもだ」
「ハァ、分かったよ」
縛りを結び、竜宮院は明日の任務の下見のため伏黒の家を後にした。
そして、後日竜宮院と伏黒の間の縛りの通り呪具の譲渡と仕事の契約書を3枚書かせ、成立させた。