慎重術師 作:コケ
「
竜宮院聖哉がそう呟くと、夜蛾が開始の声をあげる。
「はじめっ!」
竜宮院は声が聞こえると体勢を低くし、構える。それに対し、五条は余裕の表情で立っているまま。
竜宮院は低い体勢のまま地を蹴り、正面から五条に迫る。そんな五条は余裕の表情から一転、驚愕の表情に染まる。
「はやっ」
そんな声が五条から漏れる。
20メートルあった距離を一瞬で詰める。そして、五条に殴りかかるものの、五条の無下限術式によって拒まれる。竜宮院は拒まれているのが分かると一旦後退し、思考する。
「やはり、当たらないか……」
竜宮院は事前に調べていた通り、攻撃が当たらなかった。
「動きは良かったけど、それじゃ俺には勝てねぇーよ! やっぱハンデつけてやろうか?」
五条は竜宮院の攻撃が当たらなかったため、煽る。
「いや、いらん」
そう言うや否や、竜宮院は後ろに回り込む。五条は少し遅れて竜宮院の方へ向くが、もう遅かった。竜宮院は右手に炎を纏う。そして、その炎を五条に向けて放つ。
「は!?」
五条は事前に六眼で見た情報と異なり驚く。五条が見た時は竜宮院には術式がなかった。
竜宮院は術式がバレないように己に何らかの縛りを結び、どのような方法でも看破されないようにしていた。それでも、初見でしか通用しないし、事前に情報が出回っていたら意味がない。しかし、竜宮院は少しでも勝率を上げるためにやってるものであってそこまで気にしてはいない。
竜宮院の放った炎は当然五条には当たらないが、視界を奪うことは可能である。竜宮院はその間に後ろへ回り、1枚の折りたたんである袋を取り出す。竜宮院はその袋を広げると手を突っ込み、1つの呪具を取り出す。その呪具は大きさ的に明らかに袋に入るような物ではない。
この袋は竜宮院が呪具を持ち運ぶために3年もの年月をかけて作り上げた物である。呪具には色々な能力を持ったものがある。それに呪具が壊れたら戦闘に支障をきたす。だから、多くの呪具を身につけてなければならない。
しかし、呪具の持ち運びは簡単なものじゃない。どうしようかと竜宮院は考えた。そこで様々な知識を得ようと青ダヌキが色々な便利道具を出すアニメを見た際に思いついた。さらに伏黒甚爾の持っている武器庫呪霊を参考にし、苦労したが作り出すことに成功した。
この袋に入っている間は袋に合わせて呪具の大きさが変わるようになっている。そして、この中に入れた呪具の呪力を完全に消すことはできないが、ある程度は抑えることができる。
「術式を持ってたのは驚いたけど、こんなことしても当たんねぇ・・・よ・・・?」
五条は急に感じた異質な呪力を感知し、不思議に思う。それから、竜宮院の持っている呪具に目を向ける。
(なんで六眼が感知できて無かったんだ!?)
竜宮院は呪具を構え迫る。そして、五条の腿に遠慮なく突き刺す。その時の竜宮院はどうせ反転術式で治すからいいだろう、と考えていた。
(術式が強制解除された・・・・・・)
そう、五条が感じたように術式を強制解除する天逆鉾を竜宮院は使用した。
竜宮院は手に炎を纏い、放つ。
『
この攻撃は術式を解除された今の五条には防ぐことができず、燃え上がる。
だが、まだ竜宮院は止まらない・・・・・・
『
この攻撃を5回繰り返した。炎が上がっていて五条の姿は見えないが、相当酷い姿になっていることを容易に想像できる。
その光景を見ていた4人は余りの容赦の無さに言葉を失っていた。
そして、さらに打とうとする竜宮院に我に返った夜蛾が必死に止めに入る。
「おい聖哉!!やりすぎだ!!」
「まだだ・・・・・・! まだ勝ったか分からん・・・・・・!」
「殺す気か!? 模擬戦でそこまでする奴がいるか!?」
竜宮院は夜蛾に羽交締めにする。
その間に夏油、家入、庵の3人は火を消すために目にも止まらぬ速さで砂をかける。
やがて火が消え、ボロボロの五条が姿を現す。呪具で刺されていただろう場所から血が出ていた。
「さ、悟!?」
夏油が五条の有様を見て、すぐに駆け寄る。
「硝子! 治してくれ!」
「う、うん」
家入は五条の元へ行き、反転術式を使おうとするところに竜宮院が割って入る。
「どけ。俺が治す」
そう言って、竜宮院は五条に近寄り、しゃがむ。高精度の反転術式を使い、傷を治していく。
またしても、4人が驚く。
「聖哉? 反転術式を他者にも使えたのか?」
夜蛾が問う。そして、庵も。
「え? 聖哉?」
2人とも竜宮院が反転術式を使えるのは知っていたが、他者までに使えるとは知らなかった。
「あぁ、使える」
「え? そんなこと聞いてないんだけど」
「言ってないからな」
「えぇ・・・・・」
竜宮院は困惑している庵を放っておき、治療を続ける。五条の傷は塞がり、ぐっすりと寝ている状態になった。そして、竜宮院は立ち上がり、夏油の方へ向く。
「おい、へなちょこ前髪」
竜宮院は夏油に向かって声をかける。
「へ、へなちょこ前髪・・・・・・」
夏油はイケてると思っている自身の前髪をへなちょこ呼ばわりされ、落ち込む。
「次はお前だ。強いんだろ?早く位置につけ」
「ひっ!?」
夏油はこの惨状で続けようとする竜宮院に驚き、先程の容赦の無さを思い出し、恐怖に陥る。
「い、いやいや! 私は大丈夫ですよ」
「せっかく来たんだ、早くしろ」
「え、えぇ・・・そ、そんなぁ・・・・・・」
夏油は膝から崩れ落ちる。瞳からは雫が滴り落ち、地面に水玉模様を描く。
夜蛾はそんな夏油を見てあまりにも可哀想だったので授業を終わらせる。
「聖哉、悪いがもう終わりだ」
「何故だ。さっきの態度からしてそこの
竜宮院は夏油の術式を事前に調べ知っているため、戦うのを楽しみにしていた。しかし、夜蛾に止められ不満の声を漏らす。
「そ、そもそも、聖哉と歌姫の紹介のついでで呼んだんだ。それに、周りを見てみろ。お前があんなに術式を使うからまだ辺りが燃えてるんだ。片付けなければならない。だから、授業はおしまいだ」
その場にいる五条以外の全員が辺りを見回すと炎が燃え盛っている。
「それなら問題ない。あっちを見ろ、水を用意しておいた」
竜宮院が指した方向には大きなバケツが10個と長いホースが3本ある。
「ちゃんとバケツには水が入っている。ホースも繋いであるし、穴が空いてないことも確認済みだ」
竜宮院はこの場へ来る前に水をバケツいっぱいにいれておいた。それに、ホースに穴が空いていないことを確認するためにルーペを用いて隅々まで点検した。竜宮院は後処理のこともしっかりと考える男だ。
「準備がいいのは良いことだが、もう授業はお終いなんだ。頼むから帰ってくれ」
夜蛾は頭を下げて頼み込む。
「まぁ、今回の授業で得られたものがあるから良しとしよう」
そう言って、竜宮院はバケツがある方へ向かう。そんな竜宮院を見て面倒なことが起こることが目に見えている夜蛾は慌てて止める。
「聖哉!! お前はもう帰れ!頼むから帰ってくれ!! 後始末は俺がやる!」
「本当か? その悪人顔で言われても信用できないな」
「縛りを結んでやってもいい! 頼むから、この通りだ!」
夜蛾はまたもや頭を下げる。
「分かった、縛りを結ぼう」
「歌姫センパイ、縛りってあんな感じで使うんですか?」
夜蛾と竜宮院は縛りを結んでいるのを見て、家入は庵に聞く。
「違うわ、硝子。聖哉がおかしいの、基準にしちゃダメよ」
「よし、終わりだ」
竜宮院はそう言い、去っていく。
「はぁ、歌姫も帰っていいぞ」
「先生、ありがとうございました。硝子もごめんね。めちゃくちゃになっちゃって」
「いえいえ、センパイのせいじゃないですよ」
「本当にごめんね。じゃあ、また今度ね」
庵は手を振り、竜宮院を追いかけていった。
「せ、先生。ありがとうございました」
夏油は目に涙を浮かべ、夜蛾にお礼を述べる。
「こっちこそすまない。あいつの性格を事前に教えとくべきだったんだ。あいつはーーーー
ーーーーありえないくらい慎重なんだ」
油断してたから五条はボコボコにされた。油断してなければもう少しもってた。覚醒前の五条だからそこは許してください。