「お嬢様! お嬢様! 今日が入学式でしょう!! 遅れますよ!!」
「ふええええ……」
お嬢様は朝に弱い。
今日もお布団に籠ってその可愛らしい大きな耳だけ布団から出して籠城態勢である。
そんなお嬢様のことを起こすのがボクの役目の一つである。
「あとごふん……」
「そういってもう20分経ちましたが」
「じゃあ後さんじゅっぷん……」
「お嬢様、もう起きてますよね?」
まだ眠い時はお嬢様は「あとごふん……」以外言わない。
こちらの言葉に対し意味のあることを言える程度になっているのだからもう目が覚めているのは明らかだった。
ボクは一気に布団を引っぺがした。
黒い大きな毛虫のように丸まっているお嬢様がそこにいた。
お嬢様はボクほどではないが髪の量が多くそれでいて小柄なので、丸まると黒い毛虫みたいになって可愛いのだ。
「ふえええ、お布団の外、寒いよぉ」
「早く着替えればいいだけです」
もう4月なのだしそう寒くない。だがお嬢様はそんな文句を言った。
布団の上でいまだもぞもぞしているお嬢様に、温めておいた制服を渡す。
「早く着替えないと、朝ご飯抜きですよ」
「それはいやだよぉ」
もそもそと可愛い黒毛虫から可愛いウマ娘に進化したお嬢様は、へにょへにょした表情のまま制服に着替え始めた。
「そう言えばラプンツェル」
「なんですかお嬢様」
目を覚ましたお嬢様と二人、朝食を食べる。
制服を着たお嬢様はいつも以上に可愛い。
現在ボクの手作り食パンを、一斤そのままかぶりついている。かなり豪快な食べ方である。
「今日からその『お嬢様』禁止ね」
「何でですか!? もしかしてクビですか!?」
「そうじゃないよ。というかラプンツェルは義妹なんだからクビも何もないでしょ」
お嬢様の両親は、現在ボクの養父、養母でもある。
拾ってくれたお嬢様も、ご両親にも非常に感謝しているが、養子縁組までしてもらうとなんとなく腰が引けてしまうのだ。だから、ボクはずっとお嬢様と呼び続けて、自分を調子に乗らないように戒めていたのだが、今回それが禁止されてしまった。
少し悲しくてしょんぼりしてしまう。
「同級生にお嬢様とか呼ばれている子がいたら、ラプンツェルはどう思う?」
「特殊プレイですね」
「だから『お嬢様』禁止」
「でもお嬢様はお嬢様ですし」
特殊プレイと思われるのもありかな、と思ってそう答えたのだが、お嬢様は怒ってボクのほっぺを摘んでこねくり回し始めた。
あまり捏ねられるとほっぺがお餅になっちゃうぅ。
「つぎ『お嬢様』っていったら揉むから」
「もうほっぺ揉まれてましゅぅ」
「もっとすごいところ揉むから」
「すごいところ!?」
一体何をされてしまうのか、ちょっと知りたくなってしまうが、あまりふざけ過ぎると入学式に遅れそうなので我慢する。
「わ、わかりましたお嬢しゃまあああ」
「ほっぺ、やわらかいね」
思わず今までの癖でまた、お嬢様と言ってしまったら捏ねまわす速度が上がる。
過失は許してほしいが、どうも許されない様だ。
「ごめんなしゃいらいしゅさまぁぁ」
「様付けも禁止」
「じゃ、じゃあライスおねえしゃま?」
ライスお姉さまの手が止まる。
学年も同じで年齢も同じだが、ライスお姉さまの方が設定上数日年上である。
設定上というのはボクの正確な誕生日がわかっていないので、誕生日はあくまで養父母が決めたものだからだ。
だが、何にしろライスお姉さまの方が年上ということになっているのは間違いない。
お姉さま呼びに少し悩むそぶりを見せるライスお姉さま。
頼れるカッコいい女性に憧れがあるライスお姉さまの性癖にクリティカルヒットしたようだ。
「むむ、もう一度呼んで」
「ライスお姉さま♡」
「むむむむむ」
少し悩んだライスお姉さまだったが……
「やっぱり同級生からお姉さまって呼ばれるの変だし無しで。他人行儀過ぎるから敬称も一切禁止」
「ざんねん。わかりましたライス」
残念ながらお姉さまは、ライス的にアウトと判断されたようだ。
ちょっと違和感があるが、呼び捨てにするように言われたので素直に従うことにするのだった。
評判が良ければ続きます