※このゲームのプレイヤーには人権がありません 作:墨山鉄久
このゲームは現代、厳密には1900年代後半の技術力と異世界の融合をコンセプトとして作られている。開発者曰く、この年代の銃火器は様々な兵器の過渡期となっていて面白おかしい武器が多いため、プレイヤー達が独自に発展させる余地も大きいかららしい。
開発者の意図としては人権のないプレイヤーが力を合わせてモンスターを倒し、国からプレイヤー達が国民と認められる事を想定して、それはゲームが公開された時からの謳い文句だった。
けど開発者は人間の、ゲーマーの協調性のなさを甘く見ていた。
良くも悪くも自由度の高いこのゲームで、プレイヤー達は自らが英雄になることを望み足を引っ張りあった。おかげでゲームの攻略も進まないし今の私の目指す目標も中々達成できそうにない。
「大佐、八百屋の大将が部下を連れて怒鳴り込んできてます。どうしますか?」
「武装は?」
「拳銃のみです」
「大将以外は丁重にお出迎えしてあげなさい」
ニヤリと笑って答えるとマジメ腐った顔でライトはさらに問いかけてきた。
「大将は?」
そんなの分かりきってる事でしょうに。
「事前にアポイントも取らない礼儀知らずには相応の対応を。
拘束して私の前に跪かせなさい」
そう言うとライトは表情一つ変えずに了解といい敬礼して出ていった。
それからそう時間をおかずにマシンガンを連射する音と拳銃の発砲音が聞こえ5分も立たずにその音が鳴り止むと荒々しく扉が開かれた。
「テメェなんのつもりだ!!」
入ってきたのは紺色の前掛けに白色で八百屋と刺繍された、鉢巻を巻いた大男のプレイヤーだった。
「あら随分なご挨拶ね」
わかっていたことではあるけど今詰めてる連中じゃあ八百屋の大将を止めることはできなかったみたいね。
「事前にアポイントもなく仮想敵のクランが兵隊連れてカチコンできたら、こっちも兵隊使って潰すに決まってるでしょ」
「アポイントもなくだと!? そっちこそ断りもなしにウチのシマに事務所作るたぁどういう了見だ」
「協定に違反はしてないわよ」
「ほら吹くんじゃねえよ! 協定だと会合所属の組織の本部がある区画に、ギルドハウスを新規取得する事はできねぇはずだろ!」
「言葉は正確に話してちょうだい。クランが区域内にギルドハウスを新規で取得するのが禁止されているだけでクラン内でギルドハウスを交換するのは禁止されてないわよ」
今回の場合該当する区画にギルドハウスを持つギルドが偶々私のクランに加入して契約違反でそのギルドからクランハウスを取り上げたに過ぎない。だからこれは新規取得ではない。
「だが新規取得したギルドハウスを立て直すのはやりすぎだろ!」
「協定では建て直しに関しては何も規定がありません。合法です」
拳銃を片手に入ってきたのはライトだった。
「ライト! テメェ俺の部下はどうした!」
「キルしました。そういう命令でしたので」
「テメェウチの部下殺してタダで済むと思ってんのか!? ギルドハウスの件と合わせてどう落とし前つけるつもりなんだ!」
「ギルドハウスの件は協定違反じゃないし、アンタの部下は武装していた以上、殺されても文句言えないわよ」
そもそもこのゲーム、所謂デスペナは存在しない。その代わりに死んでからも殺された身体はその場に残り、その装備品や金品は好きなように剥ぎ取る事ができると言うイかれた使用をしている。しかも殺した当人だけでなく、誰でも剥ぎ取れるから有名プレイヤーがデスしようもんならまるで蟻みたいにプレイヤーが群がる事になる。
「ただの鉄砲玉ならともかく、ウチの幹部も混ざってたんだぞ! 一体何枚の人権が飛んだと思ってんだ!!」
「あら、あらあらあらあらぁ!!?」
人権持ちが飛んだ! こんな重要な情報を隠す事ができないから八百屋の大将は三大クランの中でも最弱だなんて言われるのよ。本来プレイヤーメイドの半分以上を抑えていればもっと勢力を大きく出来るでしょうに。頭がコレだから相手をするのが楽でいいわ。
「アンタ達の作る物は街の外でも認められるほどの出来。だからこそ外と取り引きする為に人権持ちは多く必要なのに、その人権持ちを連れてくるだなんて」
デスペナルティがないこのゲームにも例外はある。デスした時の唯一のペナルティらしいペナルティは、人権を失う事だ。いくつか抜け道はあるみたいだけど、基本的にデスすれば人権は喪失する。再び人権を得る事は可能だけど、私達みたいな大組織でもそれをするのはかなり大変だ。
「死んだのは誰かしら。火災報知器? それともガスマスク?」
八百屋の数少ない戦闘員の幹部で、この街でも上位の対人戦闘の実力者の名前を上げると八百屋の大将は顔を顰めた。
「どっちも大事な商談に行ってて不在だ。テメェがそれを知らないはずねえだろ」
「そう言えばそうだったわね。じゃあ少し格が落ちるけどカーテンレールとか?」
最初の二人に比べるとやや実力は落ちるが、それでもこの街で戦闘員でありながら長い間人権を維持し続ける実力者だ。もし今回倒せたのであればかなりの戦果になる。
「人のギルドメンバーを勝手に格付けすんじゃねえ」
「確認したところこちらが把握している人権持ちは含まれていませんでした。後で精査しますがおそらく大将が嘘を言っているだけでしょう」
「なんだ。残念ね」
基本的に短絡的な大将だけど、こと交渉に関しては抜群のセンスを持っている。交渉に入る前の行動で多少のミスがあっても、その後の交渉で巻き返してしまう。
「だがウチの人権持ちがヤられたのは嘘じゃねぇ。ギルドハウスの件と合わせてどう落とし前をつけるつもりだ」
これは少し厄介なことになったかもしれないわね。別に私達は悪くないけど、八百屋の縄張りにギルドハウスを取得した上に人権持ちも排除したとなると、会合で問題視される可能性が高い。
「私はウチのクラン所属のギルドが契約を破ったからその代償をもらっただけよ。それに難癖つけてきたのはアンタでしょ。人のクランの事情に首を突っ込まないでくれる?」
「場所が問題だって言ってんだ。契約を破ったならクランから追放するなりすればいいだけだろ。それをせずにギルドハウスだけ奪ってるのは元々そっちが目的だったからじゃねえのか?」
「アンタがどう思おうと勝手だけど、相応の根拠があって言ってるのよね?」
八百屋のトップをキルしたとなれば会合の連中は全力で私達を排除しにくるだろう。だけどこのゲーム、舐められたら終わりだ。少しでも弱みを見せたらそれに漬け込んでくるのがこのゲームのプレイヤー達だからだ。
「……いや、今のは俺の想像だ。だがそう言われても仕方のない事をしたってのは分かってるだろうな?」
自分の失言を認めながらも私の迂闊さを暗に責めるわけね。ここで大将の失言をしつこく叩けば都合が悪いからこの問いに答えなかった。それは暗に大将の言った事を認めたのだと会合で宣うつもりかしら。
「そうね。言われてみれば少し迂闊だったかもしれないわね。だけどそれなら武装した手下を連れて怒鳴り込まずとも、最初から話し合いにくればよかったじゃない。そうすればアンタは人権持ちを失わなくてすんだのよ」
「確かに俺も迂闊だったかもしれねぇ。だがだからと言って会合が今回のテメェの所業を許すと思うのか?」
八百屋の規模は生産系クランのトップと言うだけあって、私達のクランよりも規模は大きい。だけどその武力は私達には遠く及ばない。だから会合とそこに所属するもう一つのクランの武力を使って脅しをかけている。
「会合ごときが私達を止められると本気で思っているの?」
対人において私達のクランは他の追随を許さない。この街の全てが敵に回ったとしても最後は勝ち残る事ができる。
「お前達の武力を持ってすれば、この街の支配者になる事は容易い。だがそうなれば最後はこの国の軍隊によって、弱った俺たちプレイヤーは駆逐される。残るのはこの街の残骸だけだろうな」
私のクランの武力はこの国の軍事力に匹敵する。だがそれには会合からの協力が得られていれば、と言う枕詞がつく。会合を打ち倒し、この街の支配者になったとしても、それ以前の力を振るう事は不可能だ。
「……もういいわ、降参。アンタの要求を言いなさい」
どうもこちらの部が悪い。思わずため息を吐いて手を上げ降参の意思を示すと、八百屋の大将は安堵した様子を見せた。
「俺の要求はギルドハウスの放棄だ」
つまるところ八百屋の保持する人権いくつかと私が手に入れたギルドハウスの交換と言うわけね。最初から狙っていたのか、それとも即興か。おそらく後者だけどどうにもしてやられた感が拭えないわね。
「いいわ。私としても本格的な戦闘になるのは本意じゃないし」
比較的簡単に人権が手に入った初期ならともかく、今の人権は私のクランが総出で、しかも他の活動を投げ出しても十が限界だ。普段の活動をしながらなら平均して二、三。八百屋も似たようなものだろう。今回の抗争で八百屋の人権を一、二ヶ月分飛ばしたかもしれないけど、代わりに八百屋に対する橋頭堡となるギルドハウスを失った。短期的には私の勝ちだけど、長期的にみれば八百屋が得をした形になる。
「よく言うぜ。戦闘になったらなったで、別に構わないと思ってるくせに」
「そんなわけないでしょ。アンタが言った通り、この街全てを相手に勝つ事はできてもその後が続かないもの」
「俺達はプレイヤーだ。仮に滅ぼされてもまだ次がある。ましてやテメェは……」
「大将、私がその話を嫌いだって知ってるわよね」
このゲームはプレイヤーに人権がない。だけどそれ以外は何不自由なく、なんでもできる。できるが故に、自分でも後悔したくなるような酷い事をした事もある。
「それがどうした。プレイヤーならテメェが、いやテメェらの悪行は誰もが知ってる事だ。なんで自分のクラン名を悪人なんてしてんのか知らねぇが、自分がこのゲームじゃあ害悪プレイヤーの権化だって事はよく分かってんだろうよ。今更何を恥じる」
「八百屋の大将、ウチのリーダーを侮辱して生きて帰れると思っているのなら、そのまま続けなさい。そうでないなら口を閉じろ」
私の考えを代弁してライトが拳銃を抜いた。
「おいおい、手打ちは済んだのにまだドンパチするつもりか?」
「手打ちが済んだ? あくまでも話し合いが終わっただけで、まだこちらは条件を履行していません。履行していない以上、手打ちはまだ済んでないとみなすべきでしょう」
屁理屈だ。だけどここに私達三人しかいない以上、これに異議を唱えるのは八百屋の大将しかいない。そんなのこの街最強の武力を持つ私達にかかれば簡単に封殺できるものでしかない。
八百屋の大将は見誤った。私が大人しく降参したからと言って抗争が終結したと思ったのかもしれないけど、だからと言って無駄話をして、しかも不愉快な無駄話をしてあまつさえそれを許すほど、私は寛容じゃない。
「オイオイ、ちょっとした冗談じゃねぇか。そんな本気にならずともいいだろう」
「恨むなら軽率な自分を恨むのね。貴方の言った通り、別に私はこの街で戦争を起こす事に躊躇いはないの」
大将をキルする事は即ち八百屋と戦争状態になる事を意味する。そしてそれは同時に会合とも敵対する事に繋がる。
この選択が間違いだという事はよく分かっているけど、所詮はゲームだ。いくらでも巻き返しはできる。そう自分に言い聞かせ、引き金を引こうとした時だった。部屋の窓が甲高い音を立てて割れ、何者かが部屋に侵入した。