「アローラ地方は4つの島から構成されています。これは他の地方には見られない特徴で、ポケモンの生態系や文化も、独自のものが生まれております。また……」
地理の授業。
今日はアローラ地方に関する内容だった。
メレメレ島、アーカラ島、ウラウラ島、ポニ島の4つの島からなるアローラ地方は、その独特の地方性からか、授業の温度感もいつもと違っていた。
教科書に書いている内容でさえ堅苦しくなかった。
青い海、暖かい気候、そしてパンケーキ。
資料集の写真を見るだけで、リゾート旅行に行ったような気分にさせてくれる。
旅行好きの私はそもそも地理の授業は好きで得意だった。
だけど今日の授業はより一層楽しかった。私もアローラ地方には行ったことがないから、聞くこと全てが新鮮だった。言い過ぎかもしれないけど、知識が入ってくることに喜びすら感じていた。
「そういえば昨日からタマムシデパートの前の広場で、アローラ地方のイベントがやっているみたいですね。
興味がある人は行ってみても面白いと思いますよ」
授業の終わり時に先生がそう言った。
先生はさらっと言ったけど、私はその言葉を聞き逃さなかった。
すぐに左後ろのコチヨと目が合った。
よし、決行だ。
〇〇〇
「着いた、アローラフェス!」
放課後。
私はコチヨと2人で、先生が言ってたアローラ地方のイベントに行った。
平日ということもありそんなに混んでいる様子ではなかったけど、それでも催し物はしっかり出ていた。
「これがアローラ地方だって、花火」
私の肩に乗っている花火を撫でる。花火も煌びやかなアローラ地方の展示物に目を輝かせていた。
今回のアローラフェスはポケモンも一緒に体験できることが多いらしい。ただ入場の決まりとして、1.5m以上のポケモンは展示物やスペースの関係からボールから出すことはできなかった。
私は当然伯爵とも一緒に参加したかったけど、ルールには従うしかなかった。
コチヨもウインディのガーちゃんはボールから出さずに、カメールの「ゼニッチ」と一緒に歩いていた。ゼニッチは私の花火と同じように、コチヨがモッカ博士から貰ったポケモンだった。
「たくさん写真撮ろうね!」
「うん!」
それは私とコチヨで決めたことだった。
参加できない伯爵とガーちゃんのために、写真をたくさん撮って、お土産を買って帰って、帰ってから楽しんでもらうつもりだ。
入場口を通るとスタッフのお姉さんが声をかけてきた。
「アロ〜ラ!」
最初は私もコチヨもなんのことかわからなかったけど、どうやらアローラ地方で「こんにちは」に相当する挨拶らしい。
「アローラ!」
私とコチヨは元気に返事した。
こんなのは楽しんだもの勝ちだ。
「コチヨこれがマラサダだって!」
入ってすぐに私が見つけたのは、アローラ地方のお菓子のマラサダだ。今日の授業でも説明されており、わかりやすくいえばドーナツみたいなものだった。
「スイちゃん結構味あるよ。どれにしよっか」
コチヨが指差したメニュー表には結構な種類の味が書かれていた。
「カラサダ、スッパサダ、シブサダ……」
「うーん、やっぱりアマサダとかの方が美味しいのかな……」
2人並んでう〜んと首を捻る。
正直なところ酸っぱいドーナツなんて想像がつかない。普通なら避けるような味だけど、わざわざメニューにするということは美味しいのかもしれない。レモンのような酸っぱさだとすれば分からなくもなかった。
「決めた! 私、アマサダとスッパサダで!」
「じゃあ私はアマサダとカラサダで!」
私とコチヨでそれぞれ頼んだ。
2人とも甘いアマサダと、それぞれ勇気を出したスッパサダとカラサダだった。流石に2人とも渋味のシブサダは選ばなかったけど……
キッチンカーのおじさんに揚げたてを紙袋に入れてもらった。
「お姉ちゃん、これすっごく酸っぱいよ!」
恰幅の良いおじさんは私に明るくそう言いながら、紙袋を渡してきた。
「が、頑張ります……!」
もしかしたらスッパサダは玄人向けなのかもしれない……
そんな私の横で花火とゼニッチはアマサダのかけらをおじさんから貰っていた。サービスでくれたようだった。
「ヒノッ!」
花火はおじさんから貰ったアマサダのかけらを手で掴むと、小さい口で精一杯齧るように食べ始めた。
「花火、美味しい?」
私がそう聞いても、返事をしてくれないくらいには夢中で食べていた。
アローラ地方の魅力は食べ物だけではない。
独自の発達を遂げたポケモンの生態系も見応えがある。
実際にアローラ地方のポケモンが何匹か来ており、触れ合えるようになっていた。
「スイちゃん、このポケモンすごいよ!」
コチヨが夢中になっていたのは、バクガメスというほのお・ドラゴンタイプのポケモンだった。
亀のポケモンのようで、背中の甲羅は刺々しく逞しかった。
「コチヨ、そのトゲトゲ爆発するらしいよ!」
パネルに貼られていた説明を見て私は叫んだ。私にはよくわからないけど、硫黄を含んでいるトゲトゲは自らの身を守るために敵からの攻撃を受けると爆発するとのことだった。
コチヨも慌ててバクガメスから手を離す。
「触ったくらいじゃ爆発しないから大丈夫ですよ」
スタッフのお兄さんが補足するようにそう言った。
確かに冷静に考えれば、人が触っただけで爆発するようなポケモンを触れ合いコーナーに置くわけがなかった。
一方で、花火はあるポケモンを見ていた。
「何を見てるの、花火」
私が花火の目線の先を見るとそこにいたのは、黒い体で頭は真っ白な骨のポケモン。そして手には棍棒のような真っ直ぐな骨。
「えっ、これがアローラ地方のガラガラなんだ!?」
私はびっくりした。
私が知っているガラガラは黄土色の体をしている。何より目の前のガラガラはほのお・ゴーストタイプだけど、私が知っているのはじめんタイプだった。
「博士のジグザグマみたいだね」
私の横からコチヨが覗き込んだ。
どうやら前にモッカ博士に見せてもらったガラル地方のジグザグマと同じ感じのようだった。
だけど当のガラガラは私達トレーナーのことはお構いなしに、骨をバトンのようにくるくる回してパフォーマンスをしていた。そしてある程度すると骨の先が緑色に発火した。
「すごーい! ファイヤーダンスだ!」
炎を巧みに操るガラガラの舞は圧巻だった。
だけど私以上に興奮していたのが花火だった。楽しそうに「ヒノッ! ヒノッ!」と声をあげてきた。
するとパフォーマンスを終わらせたガラガラがある行動に出た。
「ガラッ」
ガラガラは突然骨を花火に突き出した。
「やってみるか」といった感じだった。
花火は少し戸惑ったような仕草を見せる。
だけどスタッフのお兄さんも止める様子はなかった。
「花火、やってみようよ」
私がそう声をかけると、花火は勇気が出たらしく、ガラガラから骨を受け取った。
とはいえ当然だけど、骨を渡されたかといってすぐにファイヤーダンスができるわけではない。
花火は回そうとするたびに上手く手掴みができずに、ポロポロと骨を取りこぼしていた。
ガラガラも教えてくれてはいるけど、初心者には難しい。そもそもヒノアラシというポケモンは今みたいに2足で立つこともできるけど、基本的に4足歩行のポケモンだ。
だから人間やガラガラの手みたいに、指の構造自体が細いものを掴みにくいのかもしれない。
「ヒノ……」
最初はチャレンジしようとしていた花火だったけど、次第にやる気を落としていくのが目に見えてわかった。
このままじゃ花火が落ち込んでしまう。そう気がついた私は手を伸ばした。
「ほら、こうだよ花火」
私が骨の外側を掴み、ゆっくり回していく。花火と私の4つの手があるから、さっきみたいにポロポロ落とすことはなかった。
そのまま少しずつスピードを上げていく。
ガラガラほどじゃないけど、様になっていった。
「ヒノッ!」
花火が楽しそうな声を上げる。
するとそれを聞いたガラガラが手を伸ばして、骨の両端をオレンジ色の炎をつけてくれた。
くるくると回転する骨と炎。
側から見たら花火も立派なファイヤーダンサーだった。
「はい、花火ちゃんこっちだよ〜」
コチヨがスマホを向けて、花火の勇姿を動画撮影する。
骨の回転はほとんど私の力に寄るところが多いから、若干私の手が疲れてきた。
だけど花火が喜ぶためなら我慢できる。
そう思った時だった。
「ヒノッ! ヒノォ!」
花火が楽しそうな声を上げた。
瞬間、花火の背中の斑点からぶわぁあ! と炎が巻き上がった。
「花火! 炎出てるよ!」
私は驚いて思わず骨を落としかけた。
いきなり炎が出てきてびっくりしたのもあるけど、花火は研究所に保護されていた時から、背中の炎は出せないでいた。
でも今、間違いなく花火の背中から炎は出ていた。しかもひのこみたいに弱々しいものではなくて、それこそススキ花火のように勢いよく出るものだった。
「ヒノッ……!?」
花火は自分の背中を見てびっくりしていた。
花火も背中から炎を出せると思っていなかったのだろう。私ではなく花火の方が骨を手放してしまった。
「あっ、熱っ……!」
私も火のついた骨はどうしようもない。
慌てて火を消して、骨をガラガラに返した。
「ヒノッ!」
そんな私にヒノアラシが飛びついてきた。
その目はキラキラと輝いていた。
「花火、火出せたね! やったね!」
私もそう言うと花火を抱きしめた。
正直泣きそうだった。
花火は前のトレーナーに捨てられて、心を閉ざした。それの象徴ともいえた着かない炎。
それが私達と触れ合うことで、1つの柵を超えてくれた。つまり私達には心を開いてくれたことになる。
花火が意識していたのか、していなかったのかはわからないけど、どっちであれ嬉しかった。
最後は記念撮影。
「せっかくだからZワザのポーズで撮ろうよ!」
コチヨが提案した。
Zワザはアローラ地方に伝わる特別な技のことで、トレーナーの思いをポケモンに乗せて強力な技を放つことができるらしい。
もちろん道具もない、経験もない私達が実際にできるわけはないけど、ポーズを取って記念撮影なら誰にだってできる。
「えっと……これで良いのかな」
普段の写真撮影ではしないポーズだから戸惑ってしまう。
「うん、ちゃんとできてますよ!」
でもスタッフのお姉さんにそう言われると恥ずかしさなんてどこかに消えてしまった。
花火とゼニッチに合わせて、私はほのおタイプの、コチヨはみずタイプのポーズを取った。
「撮りまーす! はい!」
私達は写真に残る以上の貴重な経験をすることができた。そして何より、花火との仲をまた一つ深めることができたのだった。
ここまでの冒険をレポートに記録しますか?
→はい
『第9話 着火!
スイカ
手持ち:フリーザー(ガラルのすがた)、ヒノアラシ
コチヨ
手持ち:ウインディ、カメール』
スイカはレポートにしっかり書き残した!