少女、伝説と出会う   作:彦星七

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予防接種

「ん? 何か来てる」

 

 ある日、学校から帰るとポストに手紙が来ていた。私宛のその手紙は予防接種の案内だった。

 

「あれ、私この前打ったよね……ん?」

 

 内容をよく見ると、それは私宛だけど私に向けた手紙じゃなかった。私のポケモンに向けた案内だった。

 

「へぇ、ポケモンにも予防接種ってあるんだ」

 

 冷静に考えると当然かもしれないけど、ポケモンにも予防接種はあるらしい。案内を見ると近くのポケモンセンターやポケモン用の病院で接種ができるとのことだった。

 お値段はするけど、ポケモンのためなら仕方がない。特に小さい花火は病気になったら悪化してしまうかもしれない。

 予防できるならそれに越したことはない。

 ただなんとなくだけど、ゴースのように実体がないポケモンは注射が打てない気がする。ポケモンによっては注射ができないポケモンがいるかもしれない。

 その辺りがよくわからかったから、私はモッカ博士に電話で聞いてみた。

 

「ワクチンかい? 

 そうだね。多くのポケモンは問題なく接種できるよ」

 

 ポケモントレーナーになりたての私に博士はわかりやすく説明してくれた。

 ポケモンによってワクチンの接種方法は変わってくるらしい。

 ただ一部のゴーストタイプのポケモンは、体が透けてしまうからワクチンが打てないらしい。逆にはがねタイプやいわタイプのポケモンは体が硬いから、特別な注射器を用いるとのことだった。

 

「あぁ。それと僕の研究所のポケモンはみんなワクチンを接種済だよ。だからスイカちゃんのヒノアラシもワクチンはもう打ってるから大丈夫だね」

 

 電話の最後に博士は思い出したようにそう言った。

 

「なーんだ、花火はもう打ち終わってるんだ」

 

 よかった~っと背伸びをする。

 だけど同時に私は気がついた。

 

「あれ……伯爵ってワクチン打ってないよね」

 

 伯爵は元々野生のポケモンで、私がゲットしたポケモンだった。当たり前だけど、野生のポケモンにはワクチンを打っているわけがない。

 

 チラッと横を見る。

 すると伯爵は私に合わせるように、明後日の方向を向いて私の視線を外した。

 エスパータイプだからか伯爵は予防接種がどんなものか察したようだった。明らかに嫌な顔をしている。

 

「伯爵~、予防接種に行くよ」

 

 私がそう言うと、伯爵はバシュン! と音を立てて姿を消した。そして再びバシュン! と音が鳴ると、私の後ろに姿を現した。「捕まってたまるか」と言わんばかりだった。

 だけど私だって何も考えがないわけではない。

 

「伯爵、行くよ!」

 

 私は勢いよく振り返ると、伯爵の体にモンスターボールをちょん! と当てた。

 

「ギャァオォォ……」

 

 伯爵はびっくりしたような顔をしながら、ボールに吸い込まれていった。「謀ったなぁ!」とでも言いたげな顔だった。

 

「予防接種いこうね!」

 

 私は伯爵のボールを鞄に入れた。

 

 〇〇〇

 

 予防接種は家の近くのポケモンセンターで受けることができた。

 ジョーイさんに受付を済ませて、私はソファに腰掛けていた。

 

「そういえばポケモンセンターに来るのは久しぶりかも」

 

 これまでポケモントレーナーではなかった私は、ポケモンセンターに来た回数も数えるくらいだった。最後に来たのは、もしかしたら小学校の社会科見学かもしれなかった。

 そんな私だから目に入るもの全てが新鮮だった。

 ポケモンを回復するための装置、健康管理の啓発ポスター、そしてナース服を着ているラッキー。

 年甲斐もないけど、私は目に入るもの全てに頭を向けていた。

 そんな私とは対照的なのは横にいる伯爵だった。

 いつも通りふわふわと浮いているものの、その動きはどこかぎこちない。マントのように羽を重ねているけど、よく見たら子供の手遊びのような感じにもじもじとしている。

 

「ドンファ~ン!!!」

 

 回復をしてもらったポケモンが元気いっぱいにそう叫ぼうものなら、ビクッ! と体を震わせていた。

 どうやらビビっているようだった。

 

「伯爵、伝説のポケモンでしょ~」

 

 私がそう言うと伯爵は取ってつけたように優雅なポーズをしてみせた。

 だけどその目は、仮面の下で泳いでいた。

 

 そしてその時は突然訪れた。

 

「スイカさん、いらっしゃいますか」

 

 ジョーイさんが私の名前を呼んだ。

 返事をして立ち上がる。どうやら準備はできたようだった。

 そして一方の伯爵は……

 嘴を拗らせるような難しい顔をしていた。

 明らかに予防接種を嫌がっている。

 だけどそんな伯爵の後ろの方から声が聞こえた。

 

「ママ! あのポケモンすごいかっこいい!」

 

 子供の声が聞こえた。

 その視線の先のポケモンは伯爵だった。

 

 伝説のポケモンとして伯爵はただならぬ雰囲気を出している。日頃の生活でも注目はされており、伯爵側もそれは理解していた。

 伯爵の性格的に「周りが何を言おうが関係ない」のは間違いないけど、同時に伯爵にはプライドがあった。というより、伯爵のプライドはなかなか高い。

 伝説のポケモンが予防接種を怖がっている。そんな様子を子供に見られるなんて、他ならぬ伯爵自身が許せない……らしい。

 伯爵は仮面の下で目を青白く光らせていた。覚悟はすでに決めており、ある種の悟りの域に到達したように見える。

 

「伯爵、すごいよ……」

 

 私も伯爵のプライドには脱帽だった。

 

 私と伯爵はジョーイさんに連れられて、治療室に入った。

 

「そこで待っていてくださいね」

 

 ジョーイさんはそう言うと、ガサゴソと探し始めた。

 この時間が何より苦痛だ。

 伯爵の気持ちは痛いくらいにわかる。かつての私もそうだった。

 

 そして待たされた伯爵に、ジョーイさんが見せつけたのはスポイトのようなものだった。

 

「はい、嘴を開けてください」

 

 ジョーイさんがそう言いながら、伯爵の嘴を摘むと、口の中にピュッ! と何かを入れた。

 風邪のときに喉奥にかけるスプレー薬みたいな感じだった。

 

「はい、終わりました」

 

 ジョーイさんはそう言うとにこやかに微笑んだ。

 

「えっ……?!」

 

 私は呆気に取られた。

 

「予防接種って注射じゃないんですか?」

 

 思わず訊ねてしまった。

 

「もちろん注射タイプもあるんですが、鳥ポケモンのワクチンは口から摂取するんです」

 

 聞けば、ジョーイさんが伯爵の口に入れたのは、生ワクチンというものだった。

 

 私は予防接種と聞いたからには、注射だとばかり思い込んでいた。

 いや、私だけじゃなくて伯爵も注射だと思っていたはずだ。

 そう思った私は伯爵の方を見た。

 伯爵は翼を大きく重ねており、得意げな様子だった。

 

「伯爵、それはダサいよ」

 

 ビビりまくっていた伯爵を知っているからこそ、私は思わず笑ってしまった。

 

 だけどどんな形であれ、予防接種を受けたことには間違いない。

 

「でも伯爵も頑張ったから、美味しいものでも飲んで帰ろっか。

 何にする? サイコソーダ? ミックスオレ?」

 

 私と伯爵はそう話しながら、並んでポケモンセンターを出たのだった。




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『第10話 予防接種
 スイカ
 手持ち:フリーザー(ガラルのすがた)、ヒノアラシ』

 スイカはレポートにしっかり書き残した!
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