少女、伝説と出会う   作:彦星七

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火花の特訓

「いくよ、花火。ひのこ!」

 

 私が右手を伸ばして指示を出す。

 その指示に答えて花火が深く息を吸い込む。そしてたくさん吸い込んで大きく膨れ上がったお腹を解き放つように、花火は勢いよく息を吐いた。

 

 ボオッ! と花火の背中の斑点から強く炎が出る。気合いは十分だ。そしてここぞと見極めた花火がブウッ! と強く息を吐いた。

 放たれた息は炎を帯びて、ふわふわとまっすぐ進んでいく。

 

 ひのこはできた。

 あとはその攻撃が決まるかどうか……

 

「カポエラー! こうそくスピン!」

 

 ホウリの指示でカポエラーが頭の角を軸にして高速回転を始める。そしてそのままぐるぐる回りながら、花火の放ったひのこにぶつかっていく。

 

 バシュッ……

 

 カポエラーの突撃は花火のひのこをかき消した。それだけではなく、動きを止めたカポエラーにも熱そうなそぶりはなかった。

 

「あぁ〜、今回は惜しかったのに」

 

 私は思わず空を見上げた。

 

 ジムリーダー、エリカに挑戦する予定だけど、花火にはポケモンバトルの経験がない。だからとりあえず基本的な技の練習をしているところだった。

 バトルの練習だからコチヨにお願いしたのだけど、コチヨは元々予定があったようで、急遽ホウリに代理をお願いした形だった。

 

「ごめん、今のは受けた方が良かったかな……」

 

 そんなホウリが申し訳なさそうに声をかける。横のカポエラーも「やってしまった」と言いそうな顔をしていた。

 

「いえ、厳しくやってくださいとお願いしたのは私ですから、先輩達は悪くありません」

 

 練習の今、中途半端な優しさでひのこができたとしても、それで実際のジム戦が上手くいくことはないだろう。

 練習で完璧にできるようになって、ようやく本番でバトルすることができるようになる。

 

「いくよ、花火! もう一回!」

「ヒノッ!」

 

 花火もやる気満々だ。

 

 〇〇〇

 

 1時間後。

 

「ェラ……!?」

 

 カポエラーが弾け飛んだ。

 花火の放ったひのこが見事に決まった。

 

「ヒノ……ヒノッ……」

 

 花火もすっかり息が上がっていた。

 だけど今のひのこは火の玉としてカポエラーに襲いかかった。これまでの線香花火のようなすぐに消えてしまいそうな弱々しい炎ではなかった。

 

「やったね花火!」

「ヒノッ!」

 

 花火に声をかけると、花火は背中の斑点から炎を出して答えた。アローラフェスで初めて炎を出せるようになった花火は、もう背中の炎を自分のものにしていた。

 そして今、技のひのこを決めることができた。

 花火は着実に成長していた。

 

「先輩、カポエラー、ありがとうございます!」

 

 ここまで来れたのも、ホウリとカポエラーの協力があってこそだ。私はそう言いながら、ホウリにきずぐすりを差し出した。

 

「どういたしまして。役に立てたのなら何よりだよ」

 

 私からきずぐすりを受け取ると、ホウリはカポエラーの手当てをした。患部にきずぐすりを吹きかけると、カポエラーはすぐに元気になった。

 ひのこのダメージはそこまで深刻なことになるわけではない。

 だけどそれは私も薄々と理解していた。

 

 頑張った花火に対して良くない言い方だけど、まだ「ひのこ」でしかない。

 ほのおタイプの技はくさタイプに効果抜群とはいえ、流石にひのこをくらったからといって、ダウンするようなポケモンは少ないだろう。

 ましてや私より格上の相手である、ジムリーダーエリカのポケモン相手ではもってのほかだ。ひのこでジム戦を突破しようなんて、逆にある種の達人がするようなチャレンジになる。

 

 実際のところは、かえんほうしゃやだいもんじといった強い技を覚えさせたい気持ちはある。

 ただ「じゃあ次はだいもんじの練習をしよう」と言ったところで、難易度が高いだいもんじを花火がすぐにマスターできることはないだろう。

 焦ったいけど1つ1つ練習して覚えていくしかない……。

 

「大丈夫だよ。スイカ達ならすぐにできるはずさ」

 

 私の表情にそんな思いが出ていたのだろうか、ホウリが励ましの言葉をかけてくれた。

 新聞部として活動しているからか、ホウリはなかなか視野が広い。

 そういうことにすぐに気がつくようだ。

 

「そうだよね。トレーナーの私があれこれ考えても仕方がないもんね!」

 

 私が「うん!」と頷いた時だった。

 

「ヒノォ!」

 

 花火の声がした。

 どうやら花火はホウリのカポエラーと遊んでいるらしい。

 華麗なステップから、ジャンプして頭の角を軸にクルクルと回るカポエラー。

 好奇心旺盛な花火もそれを真似しようとして丸い足を懸命に動かしてステップを踏み始める。そしてカポエラーと同じ形で、さながらブレイクダンスのように頭を軸に回転しようとした。

 だけど花火はバランスを崩してしまい、背中からコロンと転がった。

 そもそもヒノアラシというポケモンの体の形からして、ブレイクダンスはとても難しいはずだ。全体的にまん丸とした体つきで、手足は短い。キビキビと動けるような体ではないはずだ。

 それでも花火は諦めなかった。カポエラーに教わりながら、何度も回転しようとする。そしてその度にバランスを崩し、前転や後転のような形になってしまう。

 その繰り返しだった。

 

 だけど私は花火のそのひたむきさを見ると、下手に呼び止めることも気が引けた。楽しそうに、だけど真剣に取り組む花火の姿を見ると応援したくなった。

 

 そしてまさにそんな時だった。

 

「ヒノッ……!?」

 

 これまでと同じように花火がバランスを崩す。

 だけど斜めに転げ落ちそうになった花火は、咄嗟の驚きで背中から炎を出した。するとその炎でさらに勢いづいた花火は、炎を纏いながらクルクルと転がっていった。

 そして3回転くらいしたところで、花火の勢いは止まった。何気ない一幕だったけど、私は思わず見惚れてしまった。

 だけど私の横からホウリは声を上げた。

 

「今のは……かえんぐるま!」

 

 私はよく知らなかったけど、ホウリが言うにはそういう技があるらしい。ひのこよりも強い技になるという。

 

「花火、もう一回できる?」

「ヒノッ!」

 

 私が尋ねると、花火は自信満々に握り拳を上げた。どうやらブレイクダンスの練習でコツは掴んだようだ。

 

「いくよ! かえんぐるま!」

 

 両手を上げて構える花火。

 背中の斑点から炎を勢いよく出すと、勢いよく走り始める。そして花火はステップを踏み込み、炎を纏いながら前転を始めた。

 クルクルと勢いよく転がっていく花火。神話でありそうな炎を纏った車輪のような感じになっていた。

 そして花火はさっきと比べてさらに高騰テクニックを披露していた。自分で回転の方向を変えていたのだ。真っ直ぐ進んでいたはずの花火は、途中から左の方へ回転し、そしてそのまま私の方を向いた。

 

「ヒノッ……ヒィノ……!」

 

 回転を止め、着地した花火は目を回していた。あれだけ回転したから仕方がないだろう。

 だけどその手は自信満々にガッツポーズをしていた。やった! と言いたげな清々しい顔だった。

 

「そうか。こんなに簡単だったんだね」

 

 私は目を回している花火を抱き上げた。

 私が思っているよりも簡単にポケモンは技を覚えていく。しかもトレーナーが思いもよらなかったことがきっかけになったりする。

 

「今日だけで技2つマスターだな」

「はい!」

 

 ホウリに私は力強く返事をする。

 花火は間違いなく成長している。もしかしたらジムリーダー、エリカに挑戦するのもそう遠くないのかもしれなかった。




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『第11話 火花の特訓
 スイカ
 手持ち:フリーザー(ガラルのすがた)、ヒノアラシ』

 スイカはレポートにしっかり書き残した!
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