少女、伝説と出会う   作:彦星七

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初めてのバトル

 カントー地方、タマムシシティ。

 暖かなお日様が窓から差し込み、私の頬をゆっくり照らす。

 

「……ィカ! ぉきなさ……」

 

 お母さんの声が響いてる気がするけど、正直まだ眠たい。ごろんと寝返りをうち、もう一度夢の世界へ……

 

 ビチン! パチン! 

 

「ぶぇ……!」

 

 頬に強い刺激を受ける。

 完全に覚めた目で見ると私のベッドの横にニョロボンの『ボンちゃん』が立っていた。

 

「ボンちゃん……もうちょっと優しく起こしてよ」

 

 ボンちゃんが朝に弱い私を『めざましビンタ』で起こすのは、毎朝の恒例行事だ。

 ボンちゃんはお母さんのパートナーのポケモンで、私も子供の頃からの付き合いだ。だからボンちゃん側も、私が『めざましビンタ』をしないと起きないことはよく理解していた。

 今日の任務を達成して私の部屋を出るボンちゃんに、伯爵が声をかけた。どうやらこの2匹は意気投合しているようで、ボンちゃんはガッツポーズで返事をしていた。

 

「スイカ! 学校遅れるわよ!」

「は〜い!」

 

 目を擦りながら、私はベッドから立ち上がった。

 

 〇〇〇

 

 高校はタマムシシティの東側にある。

 私は自転車で通っているけど、ヤマブキシティからバスで通学する生徒も多い。

 

 自転車を止めて階段を駆け上る。

 年季が入ったスライドドアを開けて、元気に挨拶。

 

「おはよ〜!」

 

 すでに登校していた友達に手を振りながら、鞄を机の上に置いた。

 

「スイちゃんおはよう」

 

 私に声をかけてきたのは小学校からの幼馴染のコチヨだった。

 

「冬休みどうだった?」

「楽しかったよ! ガラル地方に旅行に行ってたんだ」

 

 そう言いながら、コチヨに旅行のお土産の飴細工を渡す。

 ガラル地方のお土産は詳しくないけど、これは立ち寄った喫茶店で貰えたものだった。何でもこのお菓子で進化するポケモンが、むこうにはいるらしい。

 

「可愛いお菓子だ〜ありがとう」

 

 コチヨはオシャレな紙袋に入れたお菓子を喜んでくれた。

 でも私はコチヨがもっと喜ぶものを知っている。

 

「どういたしまして……

 でもコチヨはこっちの方が好きでしょ」

 

 そう言いながら、私は伯爵が入っているモンスターボールを見せた。

 

「じゃ〜ん! ついに私もポケモンをゲットしたんだ!」

 

 モンスターボールを握りながらポーズを決める。ちょっとカッコつけすぎたかもしれないけど、初めてのポケモンだからこれくらいで良いだろう。

 そして予想通り、コチヨはモンスターボールに食いついた。

 

「えっ! スイちゃんがポケモンゲットしたの!? 

 どんなポケモン? どんなポケモン?!」

 

 丸メガネの奥で瞳を輝かせながら、コチヨが私にすり寄る。

 実は彼女はポケモンやポケモンバトルが大好きなのだ。

 黒髪や丸メガネの見た目から、大人しい文学少女に見えるコチヨだけど、ポケモンバトルは観戦も、実際にするのも好きという、なかなかアクティブな趣味の持ち主だ。

 事実、彼女自身もポケモンバトルに強く、野生のポケモンから守ってくれたことも少なくない。

 そんなコチヨに私はこれまで、いつかパートナーとなるポケモンと出会ってほしいと言われて続けてきた。

 つまり今の状況は彼女の願いが叶った形でもある。

 

「じゃあ早速……」

 

 コチヨの熱い視線の下、私は教室でボールを投げようとした。だけどあと一歩のところで思いとどまる。

 

「ごめん、後でいいかな。

 実は家を出る時もボールになかなか入ってくれなくて……」

 

 実は通学前に、私と伯爵は一悶着を起こしていた。

 伯爵は狭いモンスターボールに入るのが嫌らしい。だけど私としては1.8mほどある伯爵を野放しで学校に連れて行くわけにもいかない。

 それでモンスターボールの押し付け合いが起こった形だった。

 最終的には根負けした伯爵が諦めて入ってくれた。だから伯爵を自慢するためだけにボールから出して、終わったら「じゃあ、またボールに入ってて」では、いよいよ伯爵も怒るだろう。

 私がそう説明すると、コチヨも理解してくれた。

 

「じゃあ、放課後にしようね」

 

 そして迎えた放課後。

 私はコチヨとグラウンドの端にあるバトルコートに来ていた。ここなら伯爵を出しても大きさ的に問題はない。

 

「伯爵、出てきて」

 

 私は空にボールを放り投げた。

 

「ギャーオ!」

 

 伯爵は勢いよく飛び出すと、そのまま力強く羽ばたくと学校の校庭を軽く一周する。そしていつもの感じでふわふわうきながら、私の横に戻ってきた。

 

「すご〜い! こんなポケモン初めて見た!」

 

 コチヨが歓声を上げる。予想通りというべきか、彼女は興奮を隠せていなかった。

 

「なんてポケモンなんだろう……図鑑でも見たことないし。でも佇まいから只者じゃい感じが出てるし。あと……」

 

 目を輝かせるコチヨを前に、伯爵も満更でもない表情になっていた。

 でもそんな顔、私には見せたことがないから、少し複雑な感じ……

 

「ねえねえ、スイちゃん。

 このポケモン、バトルできる?!」

 

 楽しそうな声でそう訊ねられた。

 

「えっ、バトル……」

 

 思わず、戸惑ってしまう。

 ポケモントレーナーは目と目があったらバトルというから別に変なことではない。だけどそもそも私にポケモンバトルの経験がない。

 上手くできる自信はなかった。

 どうしようか……答えに困っていた時だった。

 

「ギャ〜オ!」

 

 伯爵が高らかに鳴き声を上げた。そして伯爵は仮面の下から細目で私をチラッと見る。「お前にそんな勇気があるか」と言わんばかりだった。

 そんな顔をされたら、私だって黙っちゃいられない。

 

「も、もちろんできるよ!」

「じゃあ決まりだね!」

 

 結局、流れでポケモンバトルをすることになってしまった。

 バトルフィールドでお互いに向かい合うと、コチヨはメガネのブリッジに軽く触れる。

 

「スイちゃんのポケモン強そうだから、私も全力でいこうかな」

 

 そう言うとコチヨは軽やかにボールを投げた。

 

「ガーちゃん! いくよ!」

 

 飛び出てきたのはウインディだった。

 

「ガァアアアア!!!」

 

 ウインディの『ガーちゃん』が校庭に響き渡る咆哮を上げた。その声だけで思わず萎縮してしまう。

 

「えー! ガーちゃんはずるいよ!」

 

 ガーちゃんはコチヨがガーディの頃にゲットしたポケモンで、私もよく一緒に遊んだ思い出がある。だからこそ、その強さはよくわかっていた。

 

「大丈夫だよ! ポケモンバトルは楽しむことが大事だから!」

 

 コチヨはそう言って笑っていた。

 確かにポケモントレーナーの第1歩はコチヨの言う通り、楽しむことなのかもしれない。

 そうなれば先手必勝だ! 

 

「伯爵! はかいこうせん!」

 

 私は勢いよく叫んだ。

 それに合わせて、横の伯爵がタイミングよく必殺のはかいこうせんを……

 出さなかった。

 伯爵は私のことを呆れたような顔で見ている。

 

「あっ……伯爵ってどんな技覚えてるのか知らないんだった」

 

 私は致命的な問題点に気がついてしまった。

 そもそもポケモントレーナーになったばかりの私は、ポケモンの技についてあまりに知識がなかった。加えて、伯爵がどんなポケモンなのかもよくわかっていない。

 だから上手く指示が出せるわけがないのだ。

 

「こうなったら数打ちゃ当たる作戦! 

 伯爵! かえんほうしゃ! ハイドロポンプ! はっぱカッター!」

 

 私は自分が知っている技を片っ端から叫び始めた。そのうち伯爵が覚えている技にぶつかるだろう。

 

「スイちゃん。ごめんだけど、ポケモンバトルは運だけじゃダメだよ。

 ガーちゃん! ほのおのキバ!」

 

 コチヨが手を伸ばすと、ウインディが走り始める。口元で小さな火種を起こすと、それを噛み締めて、牙に炎を宿した。

 

「まずい……じしん! れいとうビーム! ラスターカノン!」

 

 接近するウインディを前に、私は次々に技を叫ぶ。でも伯爵が動くことはなかった。

 それでも私は諦めない。

 

「ムーンフォース! きあいだま! 

 ……サイコキネシス!」

 

 その瞬間だった。

 伯爵が翼を大きく広げる。そして仮面を水色に輝かせながら、ガーちゃんの動きを封じ込めていた。

 

「サイコキネシス……! これだったんだ! 

 やっちゃえ! 伯爵!」

 

 私がそう言うと、伯爵は当然と言うように超パワーでガーちゃんを地面に叩きつけた。

 

 だけど流石はガーちゃん。

 一撃で倒れるような相手ではない。起き上がると、すぐに体勢を立て直した。

 

「見たところ、ひこうタイプとエスパータイプだね。ガーちゃん、ワイルドボルト!」

 

 コチヨが手を振り上げると、ガーちゃんが電撃を纏いながら走り始める。その勢いは砲弾のようだった。

 

「伯爵、サイコキネ……」

 

 だけど間に合わない。先程の攻撃とはスピードが違った。

 ガーちゃんの一撃が伯爵に突き刺さる。

 

「伯爵!! 大丈夫……?」

 

 伯爵はまだダウンしていなかった。

 だけどコチヨの読みどおりで、ひこうタイプの伯爵にはでんきタイプの技は効果がばつぐんのようだった。実際に伯爵も顔をしかめて苦しんでいるように見える。

 こうなると長期戦は不利だ。

 だからこそ一撃を決められる大技を叩き込みたい。

 

 私は出会った時からの伯爵の行動を必死に振り返る。

 

『「ギャーオ!」

 謎のポケモンが現れた!』

 

『手を振るように左の翼を広げると、バシュン! と姿を消した。

 5秒後くらいで私の前に再び姿を現したが、その姿は……3匹になっていた』

 

『黒い仮面が少しずつ青くなって……

 青くなって、光っていって……

 ギュドンッ!! 

「ぎょえぇええ!!?」』

 

「仮面が青くなって……」

 

 思い出した。

 今回のバトルでもサイコキネシスを放った時、伯爵は黒い仮面を光らせていた。恐らく伯爵は攻撃をする時に仮面を光らせるのだろう。

 つまり私が伯爵をゲットした直後に放たれたレーザービームみたいなのもきっと何かの技だと思う。

 

「伯爵、あれやって! 仮面からバー! ってやるやつ」

 

 私はそう言いながら身振り手振りで、アピールする。

 

「仮面から……バー! って……仮面レーザー!」

 

 そう言いながら、最初に私がその技を見せられた時のように「ぎょえぇええ!!?」と驚くそぶりを見せる。

 その瞬間、伯爵は理解したようで、目を輝かせた。そしてあの時と同じように黒い仮面を青く光らせる。

 

「いっけー!」

 

 ギュドンッ!! 

 

 紫色のレーザービームが放たれる。

 閃光は真っ直ぐ突き進むと、そのままガーちゃんを射抜いた。

 

「何、その技……!?」

 

 コチヨが驚くと同時に、あたりに冷気が広がる。そしてそのまま爆発した。

 

「ガーちゃん!」

 

 ガーちゃんはフィールドの中央で横たわりながら、ダウンしていた。

 

 私達は勝利したのだ。

 

「やった……! 勝ったよ、伯爵!」

 

 そう言いながら伯爵に抱きつこうとした。だけど伯爵はふわ〜っと浮いて、私を躱す。

 

「一緒に喜ぼうよ〜」

 

 そう言っても伯爵は降りてこなかった。伯爵はつれない性格のようだ。

 それかポケモンバトルでの私の指示に不満を持ったのか……

 だけどそんな私を褒めてくれたのはコチヨだった。

 

「スイちゃん、すごいね! 本当に初めてのバトル?」

 

 そう言いながら、起き上がったガーちゃんと一緒に近づいていた。

 

「うん。でも私は上手く指示できなかったから……」

 

 私がバトルで何か活躍したかと言われると、ただひたすら技の名前を叫んでいただけだった。

 

「でも最初のバトルってそんなもんだよ」

 

 コチヨはそう言いながら、ナイスファイトを讃えてくれた。

 

「それにしても、スイちゃんの伯爵さん。すごいポケモンだね。ますますどんなポケモンか気になっちゃうね」

 

 そう言いながらコチヨは伯爵の首元を撫でていた。そして当の伯爵は満更でもない顔をしている。

 

「なんでコチヨにはデレるのよ……」

 

 思わず、笑わずにはいられなかった。

 




 ここまでの冒険をレポートに記録しますか?
 →はい
 
『第2話 初めてのバトル
 スイカ
 手持ち:フリーザー(ガラルのすがた)

 おかあさん
 手持ち:ニョロボン

 コチヨ
 手持ち:ウインディ』

 スイカはレポートにしっかり書き残した!
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