日曜日。
私はタマムシシティの公園で、伯爵と花火と一緒に遊んでいた。
「あはは、危ないよ。気をつけてね」
ベンチに座る私の目の前で、伯爵が花火をサイコキネシスで浮かせていた。いわゆる「たかいたかい」を超パワーでしている形だ。
小さい花火に対して、伯爵は子供と遊ぶように接していた。これまで私のポケモンは伯爵しかいなかったから知らなかったけど、実は面倒見が良いのかもしれない。
そんな伯爵のたかいたかいは、仮面を青く光らせながら、花火を空中へ持ち上げ、さらに自らも羽を重ねたまま上下に浮遊するというたかいたかいLv.50くらいはありそうな高等テクニックだった。
そんな伯爵のたかいたかいに花火も喜んでいる。
「ヒノッ……! ヒノッ!」
研究所にいた頃には、想像もできなかったような笑い声を花火が出していた。流石にまだ背中の炎は見れていないけど、少しずつ心を開いてくれていることを私も感じていた。
「たかいたか……って伯爵、ちょっと高すぎじゃない!?」
ベンチからその風景を見ていた私はちょっと違和感を覚えた。
自ら浮遊している伯爵は地上1.5m~2mのところにいるけれど、その伯爵がサイコキネシスで持ち上げている花火は、さらにそれより高い地上4mくらいのところにいるように見える。
普通に考えたらわかるけど、たかいたかいで4mも上げる人はいない。
私が伯爵に声をかけた時だった。
「ヒノッ……!?」
高さ4mの高さで、花火は体勢を崩した。
高さに気がついた花火が慌てふためいたのが始まりだった。
本当なら伯爵がサイコキネシスで支えているから安全だったけど、花火が予想外の行動をしたことで、伯爵も集中を切ってしまった。
そのまま4mの高さから落下し始める花火。
「危ない……!」
私もベンチから立ち上がるけど、距離があって間に合わない。
花火が地面に激突する……そう思った瞬間だった。
「モジャンボ、パワーウィップです」
どこからか声がして、花火は2本の青く逞しいツタに支えられた。そしてそのまま私の目の前までツタが伸びてきて、花火が手渡される。
そのツタの主は公園の入口に立っていた。
モジャンボ、ツルじょうポケモンだ。
そしてその横には着物と袴の女性トレーナーが立っている。
「エ、エリカさん……!?」
それは流石の私でも知っているトレーナーだった。ポケモントレーナー、エリカはタマムシシティのジムリーダーだ。
ジムリーダーとはポケモンバトルの腕を競うポケモンジムの長であり、その街の治安を維持する存在でもある。
簡単にいえばその街の顔と言える存在だ。自分が住んでいる町のジムリーダーを知らないポケモントレーナーはいないだろう。
落下していた花火を助けてくれたのはそんなジムリーダー、エリカだった。
「ありがとうございます。遊んでいたのがヒートアップしちゃったようで……!」
「いえいえ、楽しく遊ぶのは大切なことですから。次は気をつけましょうね」
エリカはそう言うと、ベンチの私の横に座った。
「えっ……」
思わず驚いてしまった。
エリカはあまりに突然に私の横に座った。元々そこに座っていたのかと思うぐらい自然な動きだった。
だけど私にはわからない。
ジムリーダーとして活躍するほどの実力者であるエリカが、私と並んで座る理由を。
ひょっとしたら、私が退くべきなのかもしれない……
そんな感じに考えていた時だった。
「良いポケモン達ですね」
エリカは私にそう語りかけてきた。
「えっ? あっ、はい。
ありがとうございます!」
突然のことにびっくりして、ぎこちない返事になってしまった。
どうやらエリカは伝説のポケモンである伯爵に対して特に驚きもせず、あくまで1ポケモンとして見ているようだった。
「貴女、お名前はなんとおっしゃいますか」
エリカは今度は私について聞いてきた。
「あっ、私スイカと言います。よろしくお願いします!」
「スイカさんですね。こちらこそよろしくお願いいたします」
私のような未熟なポケモントレーナーに興味があるのかわからなかったけど、エリカはうんうんと頷いていた。
だけど彼女の次の一言が、私をさらに驚かせた。
「スイカさん。貴女はポケモントレーナーになったばかりですよね?」
「は……はい。えっ!?」
なぜわかったのだろうか。
私の行動にそれがわかることがあったのか。もしくはエリカは実は超能力者だったり……
いろんなことを考えていた時だった。
「驚かせてしまいましたね」
私の様子を見ていたエリカはくすくすと笑っていた。
「私がそうわかった理由は、遊びです」
遊び。
私が伯爵、花火と一緒に遊んでいたのが理由らしい。私がまるで想像していなかった理由だった。
「遊び、ですか?」
「そうです。デビューしてすぐのトレーナーさんはポケモンとよく遊びます。でも慣れてくると遊ぶのをやめて強さを求めるようになります」
エリカはそう言いながら、ベンチの上によじ登ってきた花火の頭を撫でる。
「でもポケモンと一緒に遊ぶことは、信頼関係を築くための1番単純な方法なのです。
だからポケモンと遊ぶことを忘れないでくださいね」
エリカは私に微笑んだ。
「あ、ありがとうございます……」
エリカの話はそんなに難しい話ではなく、どちらかといえば基本とも言うべき内容だった。
だけどジムリーダーの彼女が言うと、説得力が違うのも事実だった。当たり前のことを当たり前にする。それが何より大切なのだろう。
エリカの言葉の余韻に浸っていた時だった。
「よろしければ、今日これからジム戦の予定ですので、見学されますか?」
エリカは突然、そのように提案した。
どうして初めて出会ったばかりの私にそこまで気を遣ってくれるのだろうか。単純に彼女の気分なのか、それとも私に対して何か思うところがあるのだろうか……
だけどそんなのはどうでもいい。ジムリーダーのポケモンバトルを見学できるチャンスを、私が断る理由はなかった。
「ありがとうございます!」
私は二つ返事で答えた。
〇〇〇
そして迎えたジム戦のバトル。
私は関係者専用扉から顔を出していた。あまり迷惑はかけられないから、腕に花火を抱いて、そして私の後ろに重なるように伯爵が立って見学をしていた。
「モジャンボ、くさむすびです!」
バトルはジムリーダー、エリカが有利に進めていた。いや、ワンサイドゲームと言っても過言ではない。
挑戦者のカイリキーをツルで掴むと、編み物をするかのように器用にカイリキーを締め上げていく。
モジャンボはどっしりとした体型のポケモンで、正直なところスピードはまるでダメだ。
だけどエリカとモジャンボは自分達の戦い方をすることで、カイリキーが得意な近距離戦に持ち込まないようにしていた。
「決めます! じならし!」
エリカが手を伸ばすと、モジャンボはツルで掴んだカイリキーを地面に叩きつける。そして大きく飛び跳ねると、全体重を乗せてカイリキーを踏み潰した。
その振動は裏方の方の私にも、空気に乗って伝わってきた。
「すごい……! ダイナミック!」
私はそう呟いていた。
私の後ろの伯爵も仮面の色を少し青く光らせていた。もしかしたら興奮しているのかもしれない。私の腕の中の花火は、流石にまだ白熱するようなことはなかったけど、それでも背筋を伸ばしながらバトルを見つめていた。
お淑やかにみえてからの、決める時はど迫力に決める。見惚れてしまうようなバトルだった。
〇〇〇
「色々とありがとうございました!」
バトル後、私はエリカに見送られてジムを出た。
もっとバトルを見たかったけど、今日のはあくまで特別体験。無理を言うことはできない。
「スイカさん。立派なポケモントレーナーになって、ぜひこのタマムシジムにいらしてくださいね」
エリカはそう言って私に手を振った。
彼女がどうして私にここまでしてくれるのかはわからない。だけど今日得た知識や経験は、あまりに十分すぎるものだった。
その帰り道、私は伯爵と花火に語りかけた。
「伯爵、花火。私はあのジムに、エリカさんに挑戦してみたい!」
今は無理でもポケモントレーナーとして成長したら、チャレンジをしようと思う。
花火はなんのことかよくわかってなさげで、伯爵は驚いた様子を見せた。だけど2匹とも私の言葉を否定しなかった。
「いつか絶対エリカさんに挑戦してみせる!」
ポケモントレーナーとして1つ目の目標を見つけた、日曜日の夕方だった。
ここまでの冒険をレポートに記録しますか?
→はい
『第7話 見学!タマムシジム
スイカ
手持ち:フリーザー(ガラルのすがた)、ヒノアラシ』
スイカはレポートにしっかり書き残した!