その旨ご承知ください。
それでは本編と併せてお楽しみください。
ガラル地方、ワイルドエリア 。
その広大な大地で私は今日も修行に明け暮れていた。
「はぁ、はぁ……昨日より4秒早い。良い感じ」
ストップウォッチを片手に爽やかな汗を流す。走り込みは私の朝のルーティンになっていた。
私の名前はアズキ。
ガラル地方のヨロイ島にある道場出身で、今は世界を知るために旅をしている。
クーラーボックスからキンキンに冷えたスポーツドリンクを取り出すと、ポケモン達もトレーニングから戻ってきた。
すぐに呼吸を整えるエルレイドと、全身で呼吸をするモクロー。
私と共に島から海を渡って来た相棒だ。
「ふふっ、朝ご飯にしましょう」
エルレイドの手の上で、ぐで〜っと潰れそうになるモクローを見て、私はそう声をかけた。
ただ食事といっても基本的には自炊だ。
スーパーに食材を買いに行くことはあるけど、飲食店に行くことはほとんどない。
実際に、それで困ったことはこれまでもない。道場でおかみさんの手伝いをしていて、料理はある程度心得ていたからだ。
加えて自分達で料理をつければ、己やポケモンの得手・不得手、好き・嫌いを知ることができる。
だから私は自炊を好んだ。
草原の上にビニールシートを引き、調理を始める。
私が米を炊き、エルレイドが具材をカットする。最後に煮込むのはモクローの仕事だ。小さな足でお玉を握り、羽を力強く羽ばたかせてかき混ぜる。
香ばしい匂いが私達のキャンプ周りに漂い始めた時だった。
「ギャーオ!」
ポケモンの鳴き声がした。
左を見ると声の主が立っていた。
見たところ鳥ポケモンだった。
オレンジ色と黒色の刺々しい毛並み。黄色く鋭い瞳。
そして何より特徴的なのは太く、逞しい黒い足だった。
「このポケモン、強い……」
私の頬に、一筋の汗が流れた。
鳥ポケモンは私達に怯えるでも、逆に挑発するわけでもなく、ただ武人として決闘に挑むような、そんな佇まいだった。
仁王立ちという言葉はあの鳥ポケモンにこそ相応しいと思う。
「エルッ!」
そんな鳥ポケモンに対して、エルレイドが私を庇うように立った。
確かに今、戦うことができるのはエルレイドだろう。モクローには悪いけど、まだあの鳥ポケモンと戦える領域には達していない。
それに私のエルレイドも十分に武人だ。
もしかしたらすごい戦いが繰り広げられるのかもしれない。
「エルレイド、頼みます」
私が声をかけるとエルレイドは静かに頷いた。
前に出るエルレイド。
静かに睨み合う鳥ポケモンとエルレイド。その緊張は私にも伝わってくる。
先に動いたのは鳥ポケモンだった。
「ギャァオ!!」
勢いよく大地を蹴ると、力強く飛び跳ねた。そして空中で体勢を整えると飛び蹴りを放つ。
「……!」
言葉が出なかった。
私の真横をエルレイドが弾け飛んでいった。
あまりの速さに私は追いつけなかった。
ただ少し前までエルレイドがいた場所に、鳥ポケモンが立っていた。その足元の草は、電気が走った後のように焦げ付いていた。
ポケモンの技にとびひざげりがあるけど、それを遥かに上回る威力と勢いの蹴りだった。
だけど私のエルレイドも一撃だけで終わるポケモンではない。
「エルレイド、サイコカッター!」
私が声を上げると同時に、目の前にエルレイドが瞬間移動してくる。突然のエルレイドの登場に、鳥ポケモンは目を見開いた。
回避用の技のテレポートを攻撃に応用したエルレイドは、心の刃を実体化させて鳥ポケモンを切り裂いた。
これでお互いに攻撃を1回ずつ与えたことになる。
そのままエルレイドが2回目のサイコカッターを放とうとしたけど、鳥ポケモンのドリルくちばしで弾かれてしまった。
だけど今ので分かったことがある。
鳥ポケモンのタイプだ。
まず鳥ポケモンということからひこうタイプだろう。実際にドリルくちばしを放ったことからも間違いないはずだ。
そしてもう一つは恐らくかくとうタイプだ。あそこまでの蹴り技を見せられると疑いの余地もない。
一方で鳥ポケモンではあるものの、羽は小さく飛ぶことはできないと見える。ただその豪脚は凄まじい速さで大地を蹴ることができるし、空高くに跳ねることはできるようだった。
鳥ポケモンは右脚を後ろに下げて、胸を静かに落とした。踏み込みの体勢だ。
「あの蹴りがくる……」
私は直感的に理解した。
1回目の蹴りを見る限り、鳥ポケモン側が攻撃を外すというのは考えにくいし、エルレイドが回避するほどの時間はないほどに攻撃は早い。
そうなるとエルレイドにできることは限られる。
なすがままに攻撃を喰らうか、それとも……
「エルレイド、受け止めてください」
私は叫んだ。
回避できないのならば、一か八かでガードにかけるしかない。それでも私はエルレイドを信じている。
鳥ポケモンが大地を蹴った。
同時にエルレイドが構える。
鳥ポケモンが雷と共に落ちてくる。わずか数秒の間に電光の蹴りがエルレイドに突き刺さった。
走る閃光。
エルレイドは両手で受け止めながらも、その勢いのままに、足元の土を抉りながら後退していく。
「エェエルレッ……!」
エルレイドは耐えた。
緑の両手に痺れが走っているのが見える。
端正な顔を歪ませながら、立っていた。
それでもエルレイドは耐えた。
「エルレイッ!」
エルレイドは鳥ポケモンの右脚を両手で掴みながら、ハンマー投げのように回転する。
そしてそのまま叩きつけるように鳥ポケモンを投げた。
「インファイト!」
この機を逃すわけにはいかない。
エルレイドは鳥ポケモンの懐に潜り込んだ。
そしてそのまま強力な拳打をたたき込む。
一方の鳥ポケモンもドリルくちばしを釘打ち機のように素早く打ち出す。
こうなるとお互いにノーガードだ。
互いの攻撃を受けようと関係ない。
その体力が、気力が尽きた方が負けになる。
「す、すごい……」
私は唾を飲んだ。
タイプ、特性。野生か否か。トレーナーの指示。
そんなこと関係ない。
ただ弱き方が負ける。
2匹のポケモンの意地と意地のぶつかり合いに私は見惚れてしまった。
そして2匹は同時に爆ぜた。
互いに弾け飛んで、草の上に倒れた。
「エルレイド!」
私はエルレイドを抱き起こした。
体力は切れたようだけど、意識はしっかりしていた。
ひとまず安心し、きずぐすりで応急処置をする。
「鳥ポケモンは……」
相手の鳥ポケモンの方を見る。
そちらも小さく鳴き声をあげており、大事には至ってないことがわかった。
そちらにもきずぐすりで手当てをして、エルレイドと一緒に鳥ポケモンを起き上がらせた時だった。
「モック〜!」
モクローが私達の方へ飛んできた。
お玉を加えており、必死の形相で何かを訴えていた。
「あっ。朝ご飯、まだでしたね……」
モクローは朝ご飯ができたことを伝えていたのだ。
エルレイドと鳥ポケモンのバトルに夢中になるばかりで、モクローが朝ご飯を作ってくれていたことを忘れてしまっていた。
「すみません、モクロー。
朝ご飯を食べましょう」
私がそう言うとモクローは急かすように、キャンプまで飛んでいった。それにエルレイドもついていった。
私も続こうとしたけど、思いとどまって後ろを振り返った。
「あなたも一緒に食べませんか」
鳥ポケモンに声を掛ける。
よくわからない謎の強いポケモンだけど、戦いが終わればそんなこと関係ない。
私の呼びかけに、鋭い目の鳥ポケモンは少し目を柔らかくした。
「ギャーオ!」
鳥ポケモンは地面を蹴って、歩み寄ってきた。そして私と同じ速さでキャンプまで歩いた。
〇〇〇
食事後、私はモンスターボールを差し出した。
「一緒に行きませんか」
私は鳥ポケモンにそう声をかけた。
エルレイドと渡り合った鳥ポケモンはとても強かった。
その強さは魅力的だったし、何よりその武人としての振る舞いに心惹かれた。相手はポケモンだけど、強者として私が学ぶべきことは多い。
だからバトルの中で私は思った。
共に高みに立ちたいと。
「……」
鳥ポケモンは最初はボールを見つめていた。そして次に私の瞳をまっすぐ見た。
嫌がっているというよりは、私を見定めているという感じだった。
数十秒、沈黙だった。
エルレイドとモクローも静かに私と鳥ポケモンのやりとりを見ていた。
そして鳥ポケモンは頭を上げた。
そのまま私達をゆっくり見渡した。
「ギャーオ!」
鳥ポケモンは自らボールのスイッチを押した。
ボールは2回静かに揺れて、3回目でカチッと治った。
「やった……!」
鳥ポケモンは私達を認めてくれたようだった。
すぐにボールから鳥ポケモンを出した。
「ギャーオッ!」
ボールから出た鳥ポケモンは、高らかに叫んだ。
オレンジの毛並みにバチバチと電気を惑わせながら、その逞しさを披露した。
それが鳥ポケモンの挨拶だった。
だから私も応えなければいけない。
「私はアズキ。よろしくお願いします!」
こうして私はワイルドエリアで、新しい仲間と出会った。
強者と戦い成長しながら、私達の旅はまだまだ続く。
ここまでの冒険をレポートに記録しますか?
→はい
『特別編 闘脚伝説1
アズキ
手持ち:サンダー(ガラルのすがた)、エルレイド、モクロー』
アズキはレポートにしっかり書き残した!