ある日の放課後。
「ごめん、ちょっといい?」
廊下を1人で歩いていた私は、後ろから声をかけられた。
「はい、なんでしょうか?」
声の方に振り返る。
後ろに立っていたのは1人の男子生徒だった。華やかな感じではないけど、端正な顔の人だ。
制服のクラス章の色から、どうやら私より1つ上の学年のようだ。
「急にごめんね。
僕はホウリ、新聞部なんだ」
男子生徒は自己紹介をした。
新聞部。
私も存在していることはなんとなくわかっていた。廊下の掲示板に定期的に校内新聞が発行されていたのを見たことがあったからだ。
だけどこうやって、実際に活動をしているのを見るのは初めてだった。
「それで君のポケモンについて取材をさせてもらいたいんだ。ダメかな?」
私のポケモン。
その言葉だけで、伯爵のことを指しているのはすぐにわかった。
実際のところ、私も学校内で伯爵をボールから出すことも少なくなく、意図して伯爵を隠そうとはしていなかった。
それに「なんか凄そうなポケモンがいる」と噂になっていることも、コチヨから聞いていた。
だからこうやって取材を受けることも、もしかしたら時間の問題だったのかもしれない。
「大丈夫です。よければ今からでも」
今日はこれから特に予定もない。宿題の量もそんなに多くないから、大丈夫だ。
「ありがとう。じゃあ早速!」
インタビューが今始まる。
〇〇〇
私が案内されたのは小さな部屋だった。
表札はなかったけど、どうやらそこが新聞部の部室のようだ。
本棚には大小様々な本が置かれており、新聞部らしくファイルに新聞や切り抜きが閉じられていた。
そんな小さな部室の長机の上に置かれている資料を、ホウリは端の方へ押し込んだ。
「荷物は空いているところに置いてくれていいからね」
まるで自分の家に招待したような話し方だった。
促された私は長机の端に鞄を置いた。
「じゃあ改めて。僕はホウリ、この新聞部の部長だ。よろしくね」
対面に向かい合ったホウリは私にそう自己紹介をする。確かに部長なら「好きなところに座って」って話し方も納得できる。
「私、スイカっていいます。よろしくお願いします」
私も自己紹介をする。
そして鞄からボールを取り出した。
「そしてこれが伯爵です!」
私はボールのスイッチを押した。
光と共に姿を見せる伯爵。その場を理解していたのか、登場の瞬間から羽を優雅に重ねていた。
「おぉ……すごい、すごい!」
ホウリは興味深々で伯爵を見ていた。
「写真……撮ってもいいかな」
「大丈夫です!」
私がそう言うとホウリはカメラを構えた。するとそれを見た伯爵が少し角度を変えて、仮面をキランと光らせる。まるでファッションモデルのようだった。
プライドが高いポケモンだけど、持ち上げられた時にはノリが良い性格でもある。本当に憎めない性格の伝説のポケモンだ。
「すごい……よくわからないけど、オーラが違う!」
ホウリは夢中でシャッターを切っていた。整った顔が崩れるほどに興奮しているようだ。
これがジャーナリズムというものなのだろうか……
「実は伯爵は伝説のポケモンらしいです」
「で……伝説のポケモン!? 噂以上だ!」
私がそう言うとホウリは飛び上がった。大袈裟かもしれないけど、間違いなく飛び上がっていた。その拍子に椅子がガタンと倒れたほどだった。
まさかこんな反応が来るとは思っていなかった私は伯爵と出会い、これまでのこと、そしてジムリーダー、エリカに挑戦しようとしていることを包み隠さず話した。
その間もホウリは「うんうん」と頷きながら、すごいスピードでメモを走らせていた。
「ガラル地方の伝説のポケモン、フリーザー。これだけで校内新聞1年間は書ける!」
ホウリは満面の笑みだった。
校内新聞を読んでいる人がどれくらいいるかはわからないけど、生徒が伝説のポケモンをパートナーにしているという学校は他にはないだろう。
記事のネタとしては十分過ぎると私も思う。
だけど私も気になることが1つあった。
「先輩、新聞部って他の方はいないんでしょうか?」
ホウリ以外のメンバーが来る気配が一向にないのだ。部室の大きさからしてもそんなに大人数が入れる大きさではないけど、活動日に部員が来ないのはおかしい。
定期試験期間でもないから、全員が全員欠席することは考えられなかった。
「ん? 新聞部は僕1人だよ」
ホウリはさも当然というふうにそう返事をした。
「えっ!? ということは新聞は先輩1人で作ってるんですか?」
「うん。もう1年ぐらいはそうかな。
僕とポケモン達で作ってるよ」
そう言ってホウリがボールを取り出す。
出てきたのはカポエラーとゾロアだった。
2匹並んで飛び出したかと思うと、後ろのゾロアはすぐにカポエラーへと姿を変えた。
「……!」
突然のことに私はびっくりした。
慌ててスマホを取り出し、後ろのカポエラーの方へ向ける。博士のポケモン図鑑はしっかりとゾロアの紹介を表示していた。ゾロアは特性「イリュージョン」で姿を変えることができるようだった。
どうやらホウリはこの2匹のポケモンのアシストを受けながら、新聞を作っているらしい。
だけど1人で作っているという事実は、私にとって衝撃的だった。
ネタ探し、作成、添削、印刷。
全てを1人でしていると思うと、その労力は計り知れない。
その事実を踏まえると、相当なインパクトがある伯爵は、ホウリにとってありがたい存在なのだろう。
伯爵だけで「校内新聞1年間は書ける」というのはあながち間違いではないのかもしれない。
「あれでしょうか……よければ、私がこれから伯爵と色んなことを経験したら、先輩にお話しますけど」
「えっ! いいのか!」
ホウリはパァ! と明るい表情を見せた。
新聞作成についてはわからないけど、伯爵については私が1番わかっているはずだ。せめてネタの提供ぐらいはできるだろう。
「はい、任せてください。でもその代わりすごい記事にしてくださいね!」
伯爵との経験や冒険が校内新聞という形ではあれ、文字で記録に残るのは、実際のところ私自身も嬉しい。
こんなことができる女子高生は、私の他にはいないはずだ。
「任せといて! すごいのにしてやるさ!」
ホウリは力強くそう言った。
〇〇〇
数日後、学校の掲示板で校内新聞が更新された。
その内容はやはり伯爵と私についてだった。私と伯爵の写真がデカデカと真ん中に貼られており、伯爵の説明が書かれている。
そして最後にはこう綴られていた。
「これから定期的に、スイカさんとパートナーポケモンの『伯爵』(フリーザー(ガラルの姿))が繰り広げる冒険記録『少女、伝説と出会う』を掲載していきます。
お楽しみにしてください」
どうやらホウリは私と伯爵のことを、記録文学のように纏めるつもりのようだ。
確かにその形なら一大イベントがなくても記事にはできるし、何なら1年間くらい続けることだってできるだろう。
だけどそれには1つだけ問題点がある。
私がある程度、物語性のある生活をしないといけないということだ。もちろん新聞の中では「私への誹謗中傷はやめましょう」と書かれているけど、だからと言って限度もある。
極端な例だけど、起きる、学校へ行く、帰る、宿題をする、ご飯を食べる、寝る、また起きる……のような生活だけでは記事として破綻してしまうのは間違いないからだ。
「先輩、私のハードルを上げないでくださいよ〜」
私は横で一緒に記事を見ていたホウリに話しかけた。
「結構反響大きいんだよね。
でも大丈夫! 根拠はないけど、君なら面白くしてくれそうな気がするんだ」
ホウリは笑顔でそう言った。
その言葉に私は苦笑いしかできなかったけど、そう言ってくれると嬉しい思いもあった。
そしてホウリはポケットから名札を取り出した。
「はい、これ渡しとくね。
これでいつでも部室に来て良いから」
渡されたのは「仮入部」と書かれた名札だった。
どうやらホウリは私のために色々としてくれたようだ。私が希望したわけではないけど、1番楽な形で私が参加できるようにしてくれた格好だった。
「ありがとうございます!」
ホウリの気遣いに私は熱いものを感じた。
それは校内新聞という1つの目的を達成するための仲間意識なのかもしれない。
私も伯爵と色んなことを頑張ろうと思えてきた。
「楽しみにしているよ、君の大冒険を」
ここまでの冒険をレポートに記録しますか?
→はい
『第8話 突撃!新聞部!
スイカ
手持ち:フリーザー(ガラルのすがた)、ヒノアラシ
ホウリ
手持ち:カポエラー、ゾロア』
スイカはレポートにしっかり書き残した!