「失礼します。当主様が逝去なさいました。」
昼下がり少し肌寒い日だった。
母屋で見た事のある女性が僕達のいる部屋の襖を開けた。
「……明旦七時より『式鬼卸(しきおろし)』を行います。本日はお二人とも全ての授業が免除されます。明日に備え休息をお取りください。」
そう言って姉弟の団欒は中断された。
二人が突然のことに驚き固まっていると、使用人は頭を下げたまま静かに襖をしめた。
「姉さん…平気?」
「…突然で実感がないけれど、やっぱり悲しいわ。今日は姉さんと一緒の部屋で寝てくれる?」
泣いたり取り乱したりはしていないが、本当の意味で二人きりの家族になってしまったことが姉は悲しいのだろう。
しょうがないなぁと言うと姉に抱きしめられた。
姉は次期当主として父には頻繁ではないにしろ、僕よりも会っていたのだろう。けれどそれは当主と次期当主としての時間であって親子の語らいではないのだ。
本当の父では無いのかと思ったこともあった。
しかし成長すればするほどこの顔は父そっくりになっていくし、昔、幼心に姉に尋ねると、悲しそうな顔をして、お父さんを許してあげて。と言われただけだった。
姉にそんな顔をさせたかったわけではないのでこの話は二度と出すことはなくなった。
たから父というよりも、一族の長である。と自分の中で踏ん切りをつけた。
でも姉は優しいから。
自分の父として死を悲しんでいるんだろう。
僕は薄情なのだろう。
あぁ、まだあの人は四十手前ではなかったか。くらいの感情である。
たから抱きしめられて背中にまわっている姉の手が僅かに震えていても、僕は掛ける言葉が見つからない。
「アザミのことは姉さんが守るから。」
姉の手は震えたままなのに、声だけは強く聞こえた。
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朝、父の死を伝えに来てくれた使用人に起こされると姉は既に向かったと伝えられた。
(…起こしてくれてもよかったのに)
少年の顔を見てわずかに驚いた様な顔をしていたが、すぐ表情を元に戻し参りましょう、と連れ立った。
半年ぶりに向かう母屋にわずかに懐かしさを感じながら儀式のことを考える。
(昔は退治して調伏したり、呪具を作ってたみたいだけど…そんな手順すっ飛ばして従えられる『個性』かぁ……便利だな。…というか『個性』っていわれてもな…)
土御門の本邸から少し離れたところに分家の人たちの住宅地があり、その更に奥に娯楽場所や、学校、病院がある。
姉と共に遊びに行ったことはあるが、一族はみな無個性である。だから『個性』なんてものいまいちピンと来ない。
テレビをつければ必ずと言っていい程見ることもあるが、里から出たことない自分とっては身近に感じないのだ。
そうして歩いていると母屋についた。
「それでは式鬼の間に御案内いたします。」
案内してくれた彼女はいつも通り無表情であったが、なぜか自分の中で不安と緊張が膨らんだ。
案内された部屋は初めて入った場所だった。薄暗く全体は見えないが五十人が余裕を持って入れそうな部屋に姉がポツンと前方に座っていた。
「それではこれより『式鬼卸』が始まります。今からこの部屋は閉じられ、終わり次第お迎えにあがります。」
そういって使用人は重厚そうな扉を閉めガチャガチャと鍵をかけているようだった。
鍵までかける必要があるのか?と思いつつ置いていった姉に文句のひとつでも言ってやろうと姉に近づく。
「アザミ、もう始まるから、そこでいい子に座ってなさい」
厳しい声に思わず足が止まる。しかし儀式が始まる以上終わってから構ってもらおうと思い、姉より少し後ろに座った。
ーそいつは突然現れたんだ。音もなく。
使用人A「……(アザミ様カワユス)」無表情
弟「……」