犬神。
ーーそれは祀っている一族に繁栄をもたらすもの。しかし生贄を捧げ続けなければならない。捧げ続けなければあっという間に没落するから。
如何に『個性』といえど
否。これは『個性』というにはあまりにも悲惨である。
「犬神……お前は…一体なんなんだ……」
【…儂の起源はお前の知るところであろう。そういうことだ。】
犬神は姉の亡骸を見遣り、ため息を吐きながら告げた。
【お前の知りたい事はお前の父である前当主の遺書に書いてある……。儂はそれを預かった。】
そう言って何処から出したのか犬神の足元に何枚もの和紙が現れた。
なぜ姉がこの儀式の本質を見抜いていたのかそれも聞きたかった。だがきっとこの紙に全て書いてあるような気がして一先ず読むことに専念する。
ーーそこには父の
曰く、自分には兄と妹がいたと。
何も知らずに当主になれる事を喜んでいた幼い頃の自分の愚かしさを呪っていた。
『
子を産ませるためだけに迎えたはずの妻を愛してしまったこと。そして愛してしまったが故に殊更真実を伝えられなかった罪悪感。
本来なら喜ぶべきの子供の誕生も、限られた生にすぎないやるせなさ。
そして掟を破り、自分の娘に儀式の本質を伝えた自己満足故の偽善。
きっと息子は父を恨むだろう。だが残された息子にやって欲しいことがあるのだと。そして息子にしか出来ないことなのだと。
読み終わってもなぜか父に対して怒りは湧いてこなかった。父の言葉が決め手になったのかもしれない。だがきっと聡明な姉なら気づいていたから。
父が頑なに『清明』以外の名前を呼ばせなかったこと。そして異様と言っていいほど宗家の子供は記録上、皆一人っ子だったから。
なぜ気付かなかったのか。いや、気づきたくなかったのか。あの陽だまりのような日常に甘えていた。
泣いて過去に戻れるのなら今すぐでも泣き喚こう。
けれども零れ落ちた命は戻ってこない。ならば姉の遺志を継ぎ、この土御門を導いて行かなければならない。そして父の願いを叶えよう。自分にはもう優しい日々も愛しい人もいないのだから。
「もし、僕が今死んだら犬神はどうなる?」
【……お勧めはしない。……分家の血の濃い者たちでまた『
「そうか」
わかっていたことだ。これは当主だけの秘密ではない。本邸にいる使用人は分家の者だし、当主の子供達が死んだ時、記録が書き換えられる訳だから、一部にしろ分家も限られた一部の人々は知っているのだろう。
【…お前の名を聞いていなかったな。】
犬神が疲れたような悲しそうな目をこちらに向けて居てるのはきっと思い違いではないだろう。
僕にとって唯一だった姉は、僕の代わりに死んだ。
もう二度とあの日々は帰ってこない。
これは決別だ。
「……
【そうか…お前もまた清明を背負う者。ならば見届けよう。お前が死ぬ、その時まで。】