ジョジョの奇妙な冒険×推しの子   |黄金を継ぐ者《イレーデ・デ・ローロ》   作:春雨シオン

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 アイにスタンドが発現していたら?の続きになります。今回の話はジョジョの奇妙な冒険第4部の要素をいくらか含んでいますので、未読の方にはちょっとわからないところもあるかもしれません。出来る限り次のパートで説明するので、とりあえず情報を頭に入れていただければ幸いです。


 


水淵神社  ―――その1―――

 

 

 ―――M県S市、杜王町。S市のベッドタウンではあるのだが、観光スポットとして知られている町だ。町の花はフクジュソウで、特産品は牛タンの味噌漬け。このどこにでもあるありふれた町には、普通の人が知らない特徴が一つあった。

 

 

 それは、スタンド使いが多く住んでいること。まるでスタンド使いたちの間に特殊な『引力』が働いているかのように―――この町には特異な才能を持った者たちが集まり、奇妙かつ平凡な日常を送っていた。

 

 

 そんな杜王町に再び、『空条承太郎』は降り立った。彼がこの町で起きた奇妙な一連の『殺人鬼』が起こした事件に巻き込まれたのは、2年と少し前のことだった。自らが少しだけセンチな気分になったことに、承太郎は自分も年を取ったと頭を振った。とはいえ、彼はまだ40に差し掛かったばかりなうえ、つい最近和解した『娘』とも失った時間を取り戻すように、良好な関係を築いているのだった。

 

 

 本来ならば彼は、本業である海洋学者として研究室に籠ったり海に出たりしているか、あるいは家族と過ごしているはずだった。しかし、彼の協力者であるSPW財団にどうしても手に負えない案件が舞い込んだ時、臨時のエージェントとして活動することがあった。今回はまさに、そののっぴきならない事態が迫っているのである。

 

 

 

「承太郎さ~~~ん! こっちこっち、こっちッスよォ~~~~!」

 

 

「……やれやれだぜ。相変わらず目立つ奴だ。」

 

 

 

 船に向かって大声を張り上げながら、大きく手を振る立派なリーゼントをした少年―――東方仗助(ひがしかた じょうすけ)の姿を認め、承太郎は歩き出した。

 

 

 

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

「ご無沙汰してます、承太郎さん! 大体2年ぶりっスかね?」

 

「ああ……。」

 

 

 

 二人は港から移動し、カフェ『ドゥ・マゴ』にやってきた。外のテラス席で座る二人に、ちょうど昼休憩をしているOLらしき女性らがチラチラと視線を送っている。二人とも外国の血が流れているからか彫りが深く、男らしさの中に色気が見え隠れする耽美なビジュアルをしていたため、学生の頃からこうだった。慣れ切った様子でスルーしながら、仗助は口を開いた。

 

 

 

「いきなり『()()()()()()()()』なんて連絡をもらった時はぶっ飛びましたけど、観光に来たってわけじゃあないっスよね? それだったら、あの美人の奥さんとか徐倫とかも一緒だろうから……。」

 

 

「ああ。俺が今日、再びこの町を訪れたのは『岸辺露伴』絡みだ。」

 

 

「ゲッ! あの野郎、また何かやらかしたのかよォ~~。」

 

 

 

 露伴の名が出たとたん、露骨に嫌そうな顔をした仗助。反りが合わないというか、水と油というか、とにかく彼らは相性が悪いのだ。同じスタンド同士である点や、共通の親友がいる点など、仲良くなれそうなところは沢山あるのにも関わらず、どうしても彼らは仲が悪かった。仗助本人の言葉を借りるのであれば、『()()()()()()()()』である。

 

 

 

「それで承太郎さんが、わざわざ後始末に来たってことっスか?」

 

「いや……正確に言うのであれば、まだ何かが起こったわけではない。」

 

 

 そう言いながら承太郎は、一枚の写真を取り出した。いわゆる『マップ』の写真だ。ネットで検索した画像を印刷したものとも言えるだろう。

 

 

 

「何スか? これ……。どっかの山奥に見えますけど……。」

 

 

「ああ。ここは杜王町の少し離れたところにある『泉ヶ岳』という山の中だ。この山の中に、露伴ともう一人、同行者が入っていった。」

 

 

「ああ~~あの山っスか! あれ、でもそれだけなら、別にただの登山っスよね? もともとあそこ目当てに観光客が来ることも多いらしいし、別に問題ないんじゃないっスか?」

 

 

「ああ。ただの登山なら、な。」

 

 

「……ま、露伴がただの登山に、誰かを連れていくわけもないっスよねェ~~。」

 

 

 

 頷いた承太郎は、運ばれてきたエスプレッソを一口啜り、少し声を落として言った。

 

 

 

「仗助。この町の『行方不明者数』が、周辺の他の都市と比べて異常に高いのは知っているな?」

 

 

「……確か、5倍くらいあるんスよね? けどそれは『吉良吉影』の―――いや、それだけってわけでもねぇか。」

 

 

 

 2年前、この杜王町には『連続殺人鬼』が潜んでいた。『吉良吉影』というその男は『性癖』というか、『生きる性』というか、とにかく人を殺すことに全く躊躇がなく、それどころか殺人を楽しんでいた節があった。触れたものを殺傷力の高い爆弾に変えるという能力を持ったそいつは仗助の友人を口封じで殺害し、最終的には仗助たちに追い詰められた末、救急車に轢かれ『事故死』するという結末を辿った。

 

 

 

「この町は何故か―――そういう『風土』とでも言うべきか、スタンド使いが多く集まる。それだけでなく、『振り返ってはいけない小道』なんかの奇妙な場所もある。そのためSPW財団も、ここに支部を作るなどして色々調査を行っていた。」

 

 

「そんな財団が、一つ特に注目していた場所がある。それがこの地図に示されている、『神社』だ。」

 

 

 仗助は地図を手に取り、まじまじと見つめた。確かに山道から少し外れたところに、『水淵神社』と書かれた場所がある。

 

 

「ここが何かあるんスか? ちょっと山奥にあるっスけど、秘境って奴って考えれば別に……。」

 

 

「その神社には、最近にわかにある噂が流れだした。それが―――」

 

 

 

 

 

 

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

 

『必ず再会できる神社』ァ?」

 

 

「そう! 露伴先生も気になるでしょ?」

 

 

 

 話は承太郎がやってくる数時間前にさかのぼる。岸辺露伴は自らの家で、上機嫌にコーヒーのカップを傾けていた。

 

 

 

『ブルーマウンテン』……コーヒーの王様なんて言われているところは気にくわないが、仕事終わりにはちょうどいい一杯だな。」

 

 

 

 露伴は一か月ほど前、非常に貴重で有意義な『体験』をした。一般人がスタンドに目覚める瞬間と、そいつが経験してきた『奇妙な出来事』の記憶を読んだのだ。湯水のように湧き出てくる創作意欲とアイデアのまま、露伴は次の締め切りどころか4週間分の原稿を3日で書き上げてしまった。流石に一度筆をおいたものの、未だに頭の中ではアイデアが渦巻き続けている。

 

 

 

「やはりあの『一族』は面白い……。クソッタレ仗助の奴も、その体験に限って言えば素晴らしいものがあるからな。」

 

 

 そんな上機嫌なところに鳴った玄関先のチャイムにも、露伴は気を悪くすることなくにこやかに対応した。それほどまでに彼は機嫌がよかったのだ。

 

 

 

 もっともそのにこやかな表情は、ドアを開けた瞬間に凍り付くことになるのだが。

 

 

 

「やっほー露伴先生! また来ちゃった♡」

 

 

 

 今まさに彼が思い浮かべていた人物―――星野アイが、子連れで玄関前に立っていたからだ。

 

 

 

「……あのなあ。僕は最悪、君だけならこの際いいとさえ思っているんだ。この僕が友人でもない奴を家に入れてもいいと思ってるんだぞ? スキャンダルとかパパラッチとか、そういう面倒なことを全部呑み込んでやってもいいと思ってるんだぞ?」

 

 

「え~? そんなに私のこと好きになってくれたの?」

 

 

「どう曲解したらそうなるっていうんだッ!? そもそも僕は子供が嫌いなんだよッ!」

 

 

「まあまあそう言わないで……今日はまた、漫画のネタになりそうな都市伝説(クリーピーパスタ)を持ってきたんだからさ。」

 

 

「……はあ?」

 

 

 

 こうして再び露伴のもとに、星野アイによって『奇妙な出会い』がもたらされ、冒頭に戻るわけだ。

 

 

 

 

「最近は『B小町』の皆ともドームライブを成功させたりして、すごく仲良く出来てるんだよね。それは露伴先生のおかげだからすっごく感謝してる! それで、その『B小町』のメンバーのニノに聞いた話で、最近すごいネットとかでも話題になってるんだけど……。」

 

 

 

 前置きをして、アイは語り始めた。「『自分が心の底から再会したいと願う人物と、引き合わせてくれるという神社』についてを―――。

 

 

 

 ―――M県S市の外れにある『泉ヶ岳』という山の中に、『水淵神社』という神社がある。その神社は山道から少し逸れたところにあるため、訪れる人はあまり多くない。普通ならそのまま忘れ去られ、さびれていくだけのはずのそこは、最近とある噂が流れ始めた。

 

 

 それが、『()()()()()()()()()()()()()()』という噂だ。ただ単にそれだけなら、SNSが発達した現代においてあまり魅力的なご利益とは言えない。この神社が噂になったのは、『本人でも気づいていない再会の願いを叶えてくれる』からだ。

 

 

 こんなエピソードがある。とある男が老いた母と共にここを訪れた。母がどうしてもここに行きたいというので、足の悪い母の付き添いをしていたのだ。すると突然霧が濃くなったかと思えば、まったく知らない『老人』が現れた。男が困惑していると、母は泣きながらその老人の手を取り、何度も何度も頭を下げてお礼を言った。その老人がずっと昔、病気で生死の境をさまよった子供だった男を助けた医者であるということを知ったのは、その時が初めてだった。

 

 

 

 

「どう? すっごくいい話じゃない?」

 

 

「やっすいなァーーーッ! そんなに安っぽい話で感動できる読者ばかりなら、この世は漫画家であふれかえっているに違いないねッ!」

 

 

「キレすぎィ~~~ッ!」

 

 

 

 キャハハと笑いながら、アイは二人の子供の頭を撫でて言った。

 

 

 

「私だって、その噂を100%信じてるわけじゃないんだよ? でもさ、別に本物じゃなくても旅行ってことで行ってみてもいいかな~って。社長とかミヤコさんには渋い顔されちゃったけど、今の二人がどんな体験をしたかっていうのはさ、きっと大人になったときに影響すると思うんだよね。」

 

 

「別にいいお母さんぶるつもりはないけどさ、私みたいになってほしくはないんだ。二人ともすっごい天才児だからさ、今いろんなことを経験させてあげたいんだよね。」

 

 

「東京に住んでたら自然とは触れ合えないでしょ? そこであの人に再会できるかもしれないし、そうじゃなくてもアクアとルビーにいい経験させてあげられるかなあって。でもさ、私も山歩きとか全然経験なくて! 露伴先生だったらきっとそういうの慣れてるでしょ?」

 

 

「……だからその、一緒について来てくれない? 杜王町の近くにある神社っていうのも何かこう、運命的じゃない? 何なら()()()のこと、漫画のネタにしてもいいからさ。」

 

 

 

 アイは露伴の顔色を伺うように覗き込む。露伴は彼女に目を合わせないままだったが、大げさにため息をついた。

 

 

 

「……ま、そういうストーリーってのは『無』からは生まれない……。ストーリーが生まれたっていうことは、その土地に何かしらの『土壌』があるっていうことだ。それを見に行くのも悪くはないか。」

 

 

「ッ、先生! やった大好き!」

 

 

「ええい、はしゃぐんじゃあないッ! 言っとくが、そこの子供も騒ぐんじゃあないぞッ! もし迷子にでもなったら僕は一人でさっさと帰るからなッ!」

 

 

「大丈夫だって、二人とも超天才だから!」

 

 

 

 露伴は山歩きの準備をするため物置へと歩いて行き、アイはその背中を手を振りながら見送った。いかにもご機嫌といった様子のアイを見ながら、二人の子供―――『アクア』と『ルビー』はこそこそと相談を始めた。

 

 

 

「……ねぇ、お兄ちゃん。」

 

「ああ、わかってる。アイは間違いなく、ジョルノと再会したいと思ってるんだろうな。こんな怪しい噂にまで縋るくらい―――。」

 

「そんなのどうでもいいでしょ! 肝心なのは、岸辺露伴ママと距離近くない?ってこと!」

 

「……はあ?」

 

「私絶対嫌だからね、あれがパパとか! 最低でもジョルノだから!」

 

「……。」

 

 

 

 こいつは間違いなく、女オタクでCP厨だったに違いない。そう呆れながら、アクアは一人で思考の海に沈む。アイと承太郎さんとの話について行った時、アイには『スタンド』という超能力が備わっていることを聞いた。アイ自身にも心当たりがあったらしく、その『スタンド』を封じ込めてもらうため、岸辺露伴に会いに行ったのが1カ月ほどまえの事だ。

 

 

 その時俺たちはミヤコさんに面倒を見てもらいながら家で留守番をしていたが、帰って来たアイは晴れ晴れとした顔をしていた。ミヤコさんが帰った後、俺たちだけに明かしてくれた。

 

 

 

「ママはね、『スタンド』と生きていくことにしたの。ずっと私を守ってくれたんだって。自分の本心がわからなかったのも、このスタンドのせいなんだって。二人には、『これ』が見えるかな?」

 

 

 

 そう言ってアイは、何もないところを指さした。アイが何を言っているのかわからなかったが、素直に首を振った。その時のアイの顔は、喜びと悲しみが混じったような、哀しい笑顔だった。ルビーが不安そうにアイに抱き着いたのを覚えている。

 

 

 

「……そっか。でも覚えていて、例えあなたたちに『スタンド』がなくても、私たちはずっと家族だから。私はあなたたちを手放すつもりはないから。 ―――愛してるよ、アクア、ルビー。」

 

 

 

 ここまで思い出して、アクアの意識は現在に戻ってきた。ひょっとしたらアイは、また孤独になったんじゃないだろうかと思った。自分たちに『スタンド』はない。それがアイにとって、仲間外れにされたような気になったのかもしれない。だから共に『スタンド』を持つ、あの『一族』に接近しているのかもしれない。

 

 

 

「ねえってば、聞いてるの? ジョルノみたいにイケメンでカリスマに溢れた人じゃないとママには釣り合わなくて―――」

 

 

「ああ、聞いてる聞いてる。それよりお前の方も気をつけろよ。もし岸辺露伴が、俺たちに『スタンド』を使ったら、俺たちに前世の記憶があることがバレるかもしれないんだからな。」

 

 

「……それはヤバくない?」

 

 

「ヤバいに決まってるだろ。だから今から行く神社でも、あくまで年相応のふりをするんだ。間違ってもペラペラ喋ったりするんじゃないぞ。」

 

 

「えー……でも私、4歳の子の年相応なんてわかんないんだけど……。」

 

 

「とりあえず喋らないでおけば……ッ、戻ってきた。お互い気を付けるんだ、いいな?」

 

 

 

 こくりとルビーが頷いたのを見て、アクアは自分の靴に目を落とした。マジックテープで留められたそれは山道でもきっとほどけはしないはずだ。

 

 

(きっと大丈夫だ……。)

 

 

 喉元までこみ上げてきた不安を腹の底に落とし込みながら、アイに手を引かれ露伴の家を出て、4人はバス亭へと向かった。

 

 

 

 

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

 

「あっ、何かそれっぽいの見えてきたよ! ほらルビー、アクア、もうちょっとだけ頑張って!」

 

 

「全く……1時間近く無駄な時間を使った気がするぞ……。」

 

 

 

 一行は山の最寄りのバス亭まで移動し、そこからタクシーでギリギリまで山に近づいたが、それでもかなり長い距離を歩くことになった。露伴は普段から自分の足で取材をすることも多かったため、さほど辛い道行きではなかったし、アイも同年代の女性と比べ運動量は遥かに多いため、まだまだ元気が有り余っている。

 

 

 

「も~。どうせ暇なんでしょ先生。1時間くらい休憩したって罰は当たらないって。」

 

 

「暇、暇だと? 君はこの岸辺露伴を捕まえて、時間を持て余す暇人だって言うのか?」

 

 

「そういうわけじゃないって~~。ね、ルビーにアクアは大丈夫? 帰りは山降りたらタクシー使おうね。」

 

 

「全然大丈夫! ママの顔見たら全回復しちゃった!」

 

「……膝が震えてるぞ。」

 

 

 

 ルビーとアクアは、流石に体が未熟すぎたのかかなり疲れているように見える。神社につくまでの間の休憩所で休んだ時間はあったとはいえ、ここに来るまで弱音や文句の一つも言わなかったことを褒めるべきだろう。

 

 

 

「よーし、それなら早速試してみよっか! 確かニノの話だと、普通に参拝すればいいらしいんだけど……。」

 

 

 

 ちらっちらっと露伴に視線を送るアイ。それに気づいた露伴は、怪訝な表情をしながら言った。

 

 

 

「オイオイオイオイオイオイオイ……。まさかとは思うが、参拝の『作法』すら知らずに来たっていうのか?」

 

 

「いやその、施設ではそんなこと教わらなかったからさ……お願い! 教えて露伴先生!」

 

 

「フン、一応君も僕の漫画の読者だから多少は親切にしてやるよ……。僕を誘っといて正解だったな。」

 

 

 露伴はごく一般な作法で参拝をこなす。道の中心を歩かないことや、二礼二拍手一礼など一通り行い、その横でアイがたどたどしく真似をする。アクアの動作がやけに小慣れているのは、小さい背丈のおかげで気づかれずに済んだようだ。

 

 

 

「それにしても露伴先生も、意外とちゃんとこういうのやるんだね。誰か会いたい人がいるとか?」

 

 

「馬鹿いうんじゃあない。この岸辺露伴以上に優れた人間なんかいるわけがないんだから、再会したい奴なんているはずがないだろう。ただ単に、この行為に対する『リアリティ』が欲しかっただけだ。」

 

 

この人これ多分マジで言ってるからタチ悪いんだよなあ……。

 

 

 アイの言葉が聞こえていないのか、それとも聞こえている上で無視をしたのかは定かではないが、ともかく露伴はアイの言葉を気にもとめなかった。

 

 

 

「それで? 参拝をした後は何をすればいいんだ?」

 

 

「えっとね、なんか『道の真ん中を通りながら鳥居をくぐる』って……あっ、だから真ん中なんだ! 神様の通り道を通るんだね。」

 

 

「なら、さっさと通るとするか。神に対し失礼とかどうとか知らないが、僕の『好奇心』より優先されるようなことはないからな。」

 

 

「えっ? あっ、ちょっと! 待ってよ先生!」

 

 

 一人でスタスタと歩いて行く露伴の背中を、両手でアクアとルビーの手をそれぞれ握ったアイが追いかける。二人の間はおよそ2メートル程度離れていただろうか。アイは露伴の背中から、決して目は離していなかった。

 

 

 

 

「――――え?」

 

 

 

 

 だからこそ、彼女は自らの目を疑った。自分の目の前で、()()()姿()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 

 

「待って!」

 

「ッ、ダメだ、アイ―――!」

 

 

 

 転がり始めた岩は、誰にも止めることが出来ない。アクアの静止も間に合わず、アイはしっかりと両方の掌に力を込めて鳥居の下へと足を踏みだした。そうしてアイも、露伴に続き鳥居をくぐった。確かにしっかりと手を握っていたはずの、()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 

「ま……ママが消えちゃった! ママ!」

 

「やめろ!」

 

 

 

 我を失って鳥居の方へ走りだすルビーの手を、ギリギリのところでアクアが掴んだ。

 

 

 

「何すんの離してよ! 早くママのところに行かなきゃ!」

 

 

「どう考えたってここは異常だ! ()()()で起こったこと、忘れたわけじゃないだろ!」

 

 

「ッ、……!」

 

 

 

 アクアもルビーも、まだ4歳と少しの子供でしかなかった。精神や知能は実年齢より上だが、それでもあくまで一般人なのだ。最近奇妙な体験が連続しているとはいえ、理解の及ばないものに対する恐怖は体に染みついていた。

 

 

 だが、今回はそれがよかった。普通の人間なら混乱して何も考えられないところを、一度立ち止まって冷静に考えを巡らせることが出来る余裕が出来たからだ。

 

 

 

「アイを探しに行きたい気持ちは俺だって同じだ。でもここは山の中で、超常現象が無くたって野生動物やら遭難やらの危険はある。」

 

 

「……そんなの、そんなのわかってる! わかったうえで助けに行くの!」

 

 

「おい―――!」

 

 

「アクアはいいの!? ママがまた、死んじゃうようなことになってもいいの!?」

 

 

「ッ、いいわけ、ないだろ!! あの時何も出来なかったことが、悔しくないわけないだろうが!!」

 

 

 

 ルビーは自らの手を掴んでいるアクアの手を乱暴に振り払った。想像以上に強い力で、アクアは抵抗することも出来ず手を離してしまう。

 

 

 

「アクアが怖気づいたって、私は行くから。ここで待ってればいいでしょ。」

 

 

「……。」

 

 

 迷いのない足取りで鳥居へと向かうルビー。アクアはだがそれでも、ルビーの手を再び掴む。

 

 

 

「このッ、しつこい―――!」

 

 

「俺も行く。というより、二人で行くんだ。」

 

 

 

 アクアはポケットから取り出した、青色のスマートフォンをそっと地面に置いてから言った。

 

 

 

「それ……。」

 

 

「アイが俺たちに買ってくれた『子供ケータイ』……。電話は専用のアプリ同士でしか出来ないから、外部と連絡は取れない。でもアイが持ってるスマホとは連絡が取れるし、『GPS』機能も使える。お前の奴、充電はしっかりあるよな?」

 

 

「う、うん。だってこれ、ゲームとか出来ない奴だし……。」

 

 

「よし……。それなら俺たちは、ここから二人で動くんだ。アイの『GPS』を追いながら、見つけて合流できたら俺の『GPS』を目指して帰ればいい。」

 

 

「本当なら今すぐ下山して、警察に電話したいところだけど、俺たちだけで下山出来るとも思えない。それに、アイを放っておくのも御免だ。」

 

 

「……うん、うん! 行こう、アクア!」

 

 

 

 二人はもう一度、鳥居の前に立った。だが今度はさっきと違い、横に並ぶのではなく『縦』に並んでいる。アクアが前でルビーが後ろ、二人はしっかりとお互いの手を握っていた。

 

 

 

「さっき俺たちが消えなかった理由は多分、『真ん中を通ってなかった』からだ……。アイが中心にいたから、俺たちは真ん中から少しだけ()()()()()。」

 

 

「……うん。」

 

 

「いいか? 行くぞ。」

 

 

「大丈夫……! 行こう!」

 

 

 

 二人は再び、鳥居の下をくぐった。前にいたアクアから消えていくが、それでも歩みを止めることはない。アクアに続きルビーも消え、そうして神社には誰もいなくなった。ただ地面に、水色のスマホだけを残して。

 

 

 

 

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

 

「何だ……ッ!? この景色ッ! 先ほどまでとは明らかに違う!」

 

 

 真っ先に鳥居をくぐった岸辺露伴は、周りの景色を見て戸惑いを隠さずにはいられなかった。一見すると特に変わったところのないように見える場所でも、露伴の優れた観察眼には、唐突に見ている映画の場面が変わったような違和感を覚えた。

 

 

「さらに後ろにはアイやその子供たちもいない……。これは、『別の世界』に送りこまれたと考えるのがよさそうだな。」

 

 

 

 露伴は注意深く、自らのスタンド『天国への扉(ヘブンズドアー)』を出して周囲を警戒しながら歩き出した。もし何かが現れれば、有無を言わさず先手必勝で能力を叩き込むつもりだった。だがその足は、ほんの数歩もしないうちに止まった。異常事態が起きたからだ。

 

 

「……何だ? この季節、この時間に『霧』だと? それに人影も見えるぞ……。」

 

 

 露伴の言葉通り、20メートルほど離れた開けた場所に、濃霧が立ち込めているのが見える。しかもその中にはぼんやりとした人間のシルエットが見える。

 

 

 

「マタギに取材をした時、人間のシルエットは自然の中では目立つという話を聞いたが……こうしてみると実感するな。奴がこの世界の『スタンド使い』なのか……それとも神社の『神』なのか……。」

 

 

 

 ともかく、射程距離に入ったなら即! 『天国への扉(ヘブンズ・ドアー)』で本に変える。それを強く意識しながら、露伴はじりじりと人影に近づいた。彼のスタンドの射程距離は、およそ『15メートル』。もっとも、能力の本質は『記憶を読むこと』『命令を書き込むこと』であるため、そんな長い距離で能力を使ったことはなかった。それこそ、『戦闘』以外においては。

 

 

 

(まだだ……。あと3メートル……。もう少し近づかなくては、スタンドは動けない。)

 

 

 

 獲物を前にした肉食獣が、確実に『仕留められる距離』まで距離を詰めるように。露伴はゆっくりとした動きで人影に近づく。永遠にも思える時間だったが、それでもその時はやってくる。

 

 

 

()()()()()()……! くらえッ! 『ヘブンズ――――』)

 

 

 

「こんなところで何してるの、露伴()()()。」

 

 

「――――。」

 

 

 

 

 『天国への扉(ヘブンズ・ドアー)』の動きがぴたりと止まる。人気のない森の中では、風が草を撫でる音だけがさわさわと響く。露伴は呼吸することも、警戒をすることも忘れ、隠れていた茂みから飛び出した。

 

 

 岸辺露伴のことを、『露伴()()()』と呼ぶ人間は、一人しかいない。そしてその人物は、こんなところにいるはずがない。だからこそ、岸辺露伴は躊躇いなく自らの姿をさらしたのだ。『()()()()()()()()と確信するため』に、彼は自らの目でその人物を見据えたのだ。

 

 

 

「うーわ、何驚いてるの? まるで……『幽霊』に会ったみたい、なんて。ウフフ!」

 

 

「……嘘だ。」

 

 

 

 岸辺露伴は、この世に自分より優れた人間は存在しないと思っている。優れた作品やその作者に対して『敬意』を抱いたり、『親友』と慕う人間はいる。だがそれは、価値や美点を認めているということであり、自分の負けと思う卑下する行為ではない。

 

 

 故にこそ、彼はここに来ても()()()()()()()()()()()()と思っていた。

 

 

 

 ――――だが、存在するのだ。否、存在()()()()のだ。ひねくれ屋な彼が、素直になれない彼が、『寂しい』とこぼした人物が。幼かった露伴を救った、『恩人』がいたのだ。

 

 

 

「もう、せっかくの再会なのにつれないじゃない! ……ひょっとして、私のこと忘れちゃったとか?」

 

 

 

 眉尻を下げ、哀しそうな顔をする少女。その顔につられたのか、露伴の口が自然と言葉を紡いだ。

 

 

 

杉本(すぎもと)……鈴美(れいみ)……。」

 

 

 

 

 

 

 

 

―――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

 

 

 ――――同時刻。神社を訪れた4人は、それぞれの再会を果たした。

 

 

 

 自らが最も『再会したい』と願う誰かに、霧の中で一度きりの邂逅。古い誰もいない神社で、真面目に作法をこなした敬虔な者かつ、最後の最後で『禁忌』に触れるほど、再会を渇望する者。彼らに与えられる、ほんの短い褒美の時。彼らはきっと、そのひと時に心からの感謝をささげたことだろう。何よりも純粋で、何よりも尊い『混じり気のない感謝』を―――――。

 

 

 

 

 

 







「……ところで仗助。お前、『ランドセル』は何色だった?」


「え……。な、何スか急に。そりゃ普通に、『黒』だったスけど……。」


「そう……。俺たちにとって()()()黒だ……。だが時代は移り変わりつつあるんでな。今の子供にとってそれが普通かはわからない。特に子供に、『アクアマリン』なんて名前を付ける奴だからな……。」


「マジッスか……それ。」


「ああ。」



(というより、俺からしたら話が見えてこねえんですけどネェ~~~。この人、娘に一回ガチでキレられたらしいからなァ~~~~。『父さんは察してちゃんが過ぎる、もっとちゃんと喋れ』って。)



「お前はどう思う、仗助。」


「えッ! え~~~~~ッと……ハ、ハハハハ……。」




(クッソォ~~~~!! 今すぐここに来てくんねえかなァ、徐倫さん!!)



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