ジョジョの奇妙な冒険×推しの子   |黄金を継ぐ者《イレーデ・デ・ローロ》   作:春雨シオン

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メイドインヘブンでもくらったんじゃないかと思うくらい時間が早く過ぎ去ってしまいました……。次回で完結できるはずですので、急ぎ投稿いたします。


水淵神社  ―――その3―――

「LOVEマシーン Stage2……。」

 

 

「コレガ貴女ノ能力! 貴女ガ成長シタコトデ、新タナ能力ガ芽生エタノデス! コウシテ人型ノビジョンヲ得テ、アノ頃ハ出来ナカッタ事モ出来ルヨウニナッタノデス。」

 

「例エバ……アイ、少シソチラ側……ソウ、後ロニ歩イテモラッテモイイデスカ?」

 

 

「え? こ、こう?」

 

 

「ソコデ充分デス……私ハ余リ、()()()()()()()()()()()ノデ。」

 

「え……?」

 

 

 ひとまず言う通りにすると、『Stage2』が一瞬のうちに視界から消えた。

 

 

「貴様……見テイタ、ナ?」

 

 

「!?」

 

 

 背中の方からいきなり声が聞こえてきて、驚いて振り向いた。『LOVEマシーン Stage2』がちょうど、ハイキックを放った後の態勢みたいな感じで静止していた。彫刻みたいに静止してた『Stage2』は、膝を曲げてゆっくりと足を下ろした。

 

 

「私ノ足先ヲ見テ……イヤ、ヤッパキモイノデ見ナイデクダサイ。()()()()()ナンテ面白イモノデモナイデスシ。」

 

 

「蜘蛛……? そういえば、露伴先生が、確か――――。」

 

 

「ハイ。私タチガ下手ニ会話ヲスレバ、奴ニ筒抜ケノ可能性ガアリマス。デスカラ、口ニ出サズ心ノ中ダケデ話スノデス。私ハ貴女ノ精神ノ(ビジョン)。私トノ会話ハ、自問自答ダト思ッテクダサイ。」

 

 

 この森の中にいくらでもいそうな蜘蛛が、あいつの目でもあり耳でもあるんだ。そう考えると急に不安になってきて、体がガタガタ震え出す。

 

 

「―――怖イノデスネ、アイ。」

 

「え―――」

 

 

 違う、といいかけて口を手で塞いだ。そうだ、心の中だけで会話するんだった。

 

 

(そんな訳ないじゃん。私はただ、露伴先生を助けなきゃってただそれだけで―――)

 

 

(私ハ貴女ノ精神ソノモノ。隠シ事ハデキマセン。ソシテソノ『恐怖』ハ、決シテ消エル物デハアリマセン。コンナ意味ノワカラナイ状況、恐レルナトイウ方ガ無理トイウ物デス。)

 

 

(―――デスガ、ソレデイイノデス。『恐怖』ヲ認メ、ソレヲ克服スル事コソ、勇気ダッタハズデス。)

 

 

(……あ、それって……)

 

 

『ピンクダークの少年』。貴女ガ最近読ミ始メタ、露伴ノ描イタ漫画デスネ。飽キッポイ貴女ニハ珍シク、19巻、3部ノ途中マデ読ミ終エタ所デス。)

 

 

 そうだ、確か最初の方にそんな感じの台詞があった。……でもなんというか、これが私の分身みたいなものと考えると、かなりウザいなあ。露伴先生は私は周りから愛されてるって言ってくれたけど、確かにこれに付き合ってくれるのは愛がないと出来ないかもしれない。

 

 

(自分ニ対シテ遠慮ナンテ必要ナイデショウ。デスが重要ナノハ、アノ漫画ハ露伴ノ言ウ『リアリティ』ニ基ヅイテ描カレタ物ダト言ウ事。アノ漫画ノ戦イニオケル心得ハ応用デキルカモシレマセン。)

 

 

(戦い……。)

 

 

 

 そっか、そうだよね。私、今からあのおっきな蜘蛛と戦いに行くんだ。露伴先生を助けるために。指先の先まで何かが体の内側を貫いて、心の底から力が湧いてくる。いつの間にか震えはおさまって、疲れた脚に力が戻ってくる。

 

 

 

(勇気ガ出テキマシタネ。勇気コソガ、私ニ『力』ヲ与エテクレル『エネルギー』。覚悟ガ出来タ所デ、()()()()()ヲ教エマス。コレヲ使ッテ、奴ヲブチノメスデスッ!!)

 

 

 

 私の前で、『LOVEマシーン』が拳を握りしめた。さっきまでは気づかなかったけど、その手の甲は少し出っ張っていた。よく見ると、ちょうど何かのカードを差し込めそうな穴が開いている。

 

 

 

(流石私デス。目ノ付ケ所ガイイデスネ。)

 

 

(……自分で自分を褒めるの、虚しくなんないの?)

 

 

(今ノ私ハ完全ニ貴女ニ制御サレテイルワケデハナイノデ。ソレヨリモ、コノ(カートリッジ)ガ重要デス。)

 

 

 

 私はもう一度、『LOVEマシーン Stage2』の目を見つめ返した。この姿が私の内面、私の本当の姿なら、それはきっと『幸運』だと思った。

 

 

 

 

 

 

 

――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

 

 

「―――『人間の偉大さは、恐怖を克服する誇り高き姿にある』……だったか? なあ、露伴。お前の漫画に引用されていた言葉だったはずだな?」

 

 

「……。」

 

 

「お前のやったことは賢い行いではないが……それでも私は許そう。奴は既にこちらに、向かって来つつあるのだからな。その上、新たな能力まで会得したらしい。」

 

 

「これから行われるのは『試練』だ。例え『神』であろうと、『試練』から逃れることは出来ない。だがそれを乗り越えた時、私はさらに成長することが出来る。お前は既に、『克服された者』だがな……。」

 

 

 

 露伴は何かを言い返す気力もないのか、ぐったりと体を弛緩させていた。体は入念に糸で拘束され、もはやスタンドを使うことは不可能だろう。それに口元までぴっちりと覆われ、何とか鼻だけで微かな呼吸をしている。

 

 それをちらりとだけ見て、大蜘蛛は木の上に再び姿を隠した。音一つ立てず、繁茂の中で息を殺していた。

 

 

(蜘蛛たちからの情報は常に入ってきているが―――奴の『能力』そのものは見えなかった。まずはそれを掴むところから始めなくてはならない。)

 

 

 そのための仕込みは既に完了していた。この一帯に、既に糸を張り巡らせて『結界』を構築している。特別なものではないが、そう簡単に破壊できるものではない。人間の女の力で切り拓けるものではないため、必ず能力を使用するはずだ。

 

 

(糸を犠牲に、能力を掴む―――、来たな。)

 

 

 蜘蛛から送られてきた映像から、アイと呼ばれた娘は20メートルほど離れた位置にいると推察する。もう間もなく、糸の結界へと入り込む。この大木を中心に、半径20メートルの結界を張っているからだ。

 

 

 次々と糸が切断され、こちらに娘が近づいてくる。見れば傍らには、先ほどまでは影も形もなかったスタンドがいた。そいつが手刀によって、糸を切断しながら近づいてくるのがわかる。

 

 

(何かしらの能力を使っているようには見えない……。奴のスタンドは、露伴のそれとは違ってそのものに力があるようだな……。近距離パワー型というやつか。)

 

 

 それならば、射程距離はせいぜいが2~3メートル。

 

 

 

「ッ、露伴先生!!」

 

 

「真っすぐ突っ走ってくる……。露伴を前に気が逸ったか? それならそれで、利用させてもらおう。」

 

 

 

 考えている間に娘は露伴のもとにしゃがみ込み、拘束している糸を解こうとし始める。だがそれも蜘蛛の糸から成るもの、そう簡単には解けない。

 

 

 

(―――と、なれば……。)

 

 

 

「駄目だ……あそうだ、『Stage2』! この糸を切って! 露伴先生を傷つけないように!」

 

 

「―――出すと思ったよ……。そのスタンドを出すとッ!!」

 

 

「――――ッ!!」

 

 

 

 頭上からの奇襲。スタンドは既に、糸を切断する態勢になっている。見上げる小娘の顔は驚愕に歪んでいるが、そこから即座に頭上への対処は不可能!!

 

 

 

(もらった……。)

 

 

 

 即座に糸を巻き付け拘束、そこからはどうとでもなる。だがその考えは、あまりに容易く破られた。

 

 

「何ッ!?」

 

 

 小娘はとっさに体を地面に投げ出し、仰向けに寝転がった状態になる。スタンドも一瞬で体勢を替え、最もリーチがある前蹴りを食らわせられた。

 

 

(この速度ッ! それにこの衝撃ッ! スピードもパワーも一流ッ!)

 

 

 咄嗟の行動だったにも関わらず、かなり大きな衝撃が襲ってきた。奴の能力だけでなく、スタンドの攻撃そのものにも注意する必要がありそうだ。普通の人間より大きな体躯をしている私だが、それでも1mばかり吹き飛ばされた。

 

 

 

「その上―――」

 

 

 

 抜け目がない。私が吹き飛ばされた直後には既に、露伴の身柄を確保している。この状況で常に先の事を考えて行動しているのだとすれば驚くべきことだ。ますます『生贄』にふさわしい。『生贄』は優れた人間であるほどいい。

 

 

 とはいえ、露伴のスタンドは既に無力化している。奴が私を脅かすことはないだろう。排除すべきは娘ただ一人。

 

 

(何にせよ、この距離は不味い。露伴を解放されるリスクは負うが、一度距離を取るべきだ。)

 

 

 娘が露伴の糸を切断しているのを尻目に、私は距離をとった。この森の中にいる限り、私の優位は揺らがない。

 

 

(だが、とどめを刺すのはこの手でだ……。最後には奴に近づき、この手でとどめを刺す。それでこそ『安心』であり、試練の『克服』でもある。)

 

 

 

 娘の能力を封じる手立てを考えながら、大蜘蛛は闇の中に姿を消した。

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

 

 

「先生! 目覚まして! ……ダメ、完全に気を失ってる。」

 

 

 やっとの思いで助け出したけど、露伴先生は目を覚まさない。呼吸はしてるみたいだから、命は大丈夫と信じたい。

 

 

 

 さっきは本当に危なかった。あの蜘蛛の体が大きかったおかげで、木の葉が擦れる音でなんとか気づけた。それでも、『Stage2』のスピードが無かったら死んでたんじゃないかと思う。

 

 

「アイ。コノママ此処ニ留マリマショウ。」

 

 

「え? こ、このまま露伴先生を連れて逃げればいいんじゃないの?」

 

 

「貴女ノ筋力デハ彼ヲ背負ッテ逃ゲルノハ不可能デス。私ナラ抱エラレマスガ、ソウスルトアノ蜘蛛ニ襲ワレタ時、圧倒的ニ不利ニナリマス。」

 

 

「そ、そっか……。なんかやっぱり、私より冷静だね。」

 

 

「貴女ホド豊カナ感情ヲ持ッテイナイトイウ事デモアリマス。トモカク、倒サナクテハイケナイノハ相手モ同ジハズデス。ソレニ『承太郎さん』トイウ切リ札ガ此方ニアル以上、時間ハカケラレナイ。スグニデモ襲イカカッテクルデショウ。」

 

 

 

 ここであれを迎え撃つ。そう考えるとなんだか体が熱くなってくる。今までに感じたことのない熱だ。これが『闘志』ってやつなんだろうか。

 

 

 

「―――来マスッ!」

 

 

「うああああああッ!!!」

 

 

 

 決めたはずの覚悟はあっさり消えてしまいそうになる。人間より一回り大きいサイズの蜘蛛が、その8本の足を動かしながらこっちに向かってくる様子はめちゃくちゃ気持ち悪い。それがこっちに向かってジャンプしてきたときは、本当に気を失いかけた。

 

 

 目の前まで来たそれに、『Stage2』が反射的に拳を繰り出す。でもその拳は、()()()()()()()()

 

 

(こ……これ……ッ!)

 

 

 糸だ。『Stage2』の腕と後ろの木を結びつけるように、よく目をこらさないと見えないレベルの細さの()()()()()()()()()()()。それが拳の勢いを殺していた。いや、それどころか後ろに引っ張られているみたいだ。左腕の方は既に肩の後ろまで引っ張られてしまっている。

 

 

「やばっ……」

 

「もう遅いッ!!」

 

 

 無理矢理糸を引きちぎりながら、『Stage2』が蜘蛛に向かって右の拳を放つ。それで蜘蛛の脚を片方は防げた。

 

 

 

 ―――でも。

 

 

 

「……あ。」

 

 

「―――これは露伴が読んだお前の記憶からの情報だったな。お前が腹を刺されたということは。」

 

 

 

 まただ。またあの、二度と感じたくないと思っていた感覚が蘇る。お腹が熱くなって、何かが流れだしていく。生き物が、明確にある決定的な終わりに向かって堕ちていくのが嫌でもわかるこの感覚。

 

 

 『Stage2』がだんだん薄れて見えるのは、スタンドが力を失ってるからなんだろうか。それとも、私の意識が薄れていくから? 

 

 

 

「―――人間にはトラウマというものがある。それに直面すれば、どんな勇者でも体が硬直し、無力になる。お前の場合はこれがそうだった。―――()()()()()()()。最初からこれを狙っていた。」

 

 

 意識は、わりとはっきりしてるみたい。蜘蛛が何か、話しているのが聞こえたから。

 

 

「そう……これも露伴の記憶から得た教訓だが……『人間の素晴らしさは勇気の素晴らしさ』だそうだ……。『恐怖』を克服しッ! それを『支配』するッ!! それこそが勇気であるとッ!! 私は乗り越えたのだ。お前の未知の能力という恐怖をなッ!! これでお前も、『乗り越えられた側』だッ!!」

 

 

「苦痛は与えん。即座にッ! ここで始末をしてやろう……。今日(こんにち)よりここがッ! 我が神殿となるッ!!」

 

 

 そいつの話してることは、言葉ではなく音としてしか聞こえなかった。意識が薄れてきたのかもしれない。今の私を繋ぎとめてるのは、『痛み』だけだった。

 

 

 ―――あの時の、痛み。あの時私は、助けられて―――

 

 

 『スタンド』 『能力』 『拳の穴』

 

 

「――――。」

 

 

 そうだ。私は確かに、触れたんだ。あの蜘蛛の右脚に触れて、殴って……

 

 

「ではとどめを――――ん?」

 

 

 

 蜘蛛から、困惑したような声が漏れた。それが私にとっての、スイッチになった。

 

 

 

「な、何だッ!? 殴られた右の脚がッ!! ()()()()()()()()!!」

 

 

 

 自由に動く右の腕で、お腹の傷に触る。これで少しはマシになるはず。そしたら右手を地面について、体をぐんと持ち上げる。未だ糸が巻き付いている左腕に力を込め、ブチブチと引きちぎった。自由になった両腕で拳を作り、一歩、蜘蛛に向かって大きく踏み込む。

 

 

「ぅ、うう……ッ!!」

 

 

「な、貴様――――」

 

 

 

 何かを言われる前に。そしてまだ動く、相手の左脚に抵抗される前に。技術もへったくれもない、力いっぱいの拳でラッシュを繰り出した。

 

 

 

WRYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYY(うりゃあ―――――――――――――ッ)!!」

 

 

 

 拳を叩き込まれた蜘蛛は大きく吹っ飛ばされ、声にならない悲鳴を上げた。 ……多分。私の方もお腹が痛すぎて、周りの事がよくわからない。さっきの攻撃も自分では全力でやったけど、完全な状態と比べるとどうしても威力は落ちるはず。

 

 

 それでも急がないとダメだ。私は歯を食いしばって、茜色の空を見上げながらそう考えた。

 

 

 

 

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――――なん、だ? この感覚は? 金縛りか?

 

 

 体の感覚が全くない。さっき奴に殴られた箇所はそれほどのダメージを負っているというのか? 

 

 

(いや……それだと、右脚が動かなかった説明がつかないッ! おそらくは、これも奴の能力の一環なのだッ!)

 

 

 

 殴った箇所から、感覚を奪うような能力なのかもしれない。そうだ、そういえば殴られる際に一瞬だけ、何か薄くて白い何かが見えた。まるで、『紙』のような―――

 

 

 

「ハッ!」

 

 

 

 ぺきり、と、音がしたのを聴覚が拾った。この場でそれが出来るのは2人しかいなかったはずだ。

 

 

 

「ハァー……ハァー……ッ!」

 

 

「こ……小娘ェェェ……ッ!!」

 

 

 

 そいつは確かな足取りで立ち、こちらをまっすぐに見据えている。既に薄暗くなりはじめているせいで、その表情を窺い知ることは出来ないが、奴の両手は再び拳を作ってさえいる。突き刺してやった腹の傷は、既にふさがっているとでもいうのか、血の一滴も流れ出してはいない。

 

 

 

「やめろ……ッ! クソッ近づくんじゃあないッ!!」

 

 

 

 何を言っているんだ私は? これじゃあまるで、私が追い詰められているようではないか……。こんな、こんな小娘相手にッ!!

 

 

 冷静になるんだ……。死中に活というように、窮地にあってこそ冷静になるべきなのだッ!!

 

 

「もう……。」

 

 

「!」

 

 

「もう……追ってこないで……ッ!」

 

 

 何だ? どういう意味だというんだ?

 

 

「何……?」

 

 

「私はあなたにお腹を刺されて、あなたは私に殴られた。それでおしまい。両方痛い思いしたんだから、もうそれでいいでしょ? 私は露伴先生を連れて帰るから、もう追っかけてこないで……ッ!!」

 

 

「――――。」

 

 

 

 ……逃げる、というのか? 圧倒的に自分の方が有利だというのに? いきなり、博愛主義者にでもなったというのか?

 

 

 ―――出発点が、そもそも間違っているんじゃあないのか? 小娘が有利なのではなく、不利だったのだとしたら? 奴の不可解な行動が、そういう理由だったとしたならば?

 

 

 奴は私にとどめを刺さないんじゃあなく、刺せないんだとしたら? 私が圧倒的に不利なのは、奴の能力のせいで動けないからだ。私が与えた手傷は、奴の能力のせいで癒えてしまっているからだ。

 

 

 

「わ……わかった……。約束しよう。お前たちを追いかけ、危害を加えたりはしない。」

 

 

「……。」

 

 

 

 わかりかけてきている……。あともう少しで、この謎が解けるという確信があるッ! だがそれには時間が必要だ……。今はこいつを泳がせるべきだ。あと一つ、何か欠片があればきっと解けるのだッ!!

 

 

 

 無言で踵を返し、歩き出した小娘の背中を睨みつけながら考える。露伴の情報によれば、スタンドは原則、一つの能力しか持たない。仮に成長したことにより新たな能力を身に着けたとしても、それは既にあった能力が発展したものであることが多い。単に音を発生させる能力が、音から想起される現象を引き起こすようになったり、触れたものを爆弾に変える能力が、自走する爆弾を生み出すようになったりというようにだ……。

 

 

(奴のスタンドの能力は、『自分の存在を隠す』ことだった……。)

 

 

 ―――『隠す』? 何かを発見されないようにする――――何から?

 

 

 歩きさった小娘の行動は、蜘蛛たちの視界を通じて筒抜けになっている。スマホを取り出し、懐中電灯の代わりにしているようだ。だがそれは何故だか、前に向けられることはなく、()()()()()()()()()()()()()

 

 

 

「そういう、ことか……。掴んだぞ、小娘ェ……。」

 

 

 

 奴の能力は掴んだ。私にとどめを刺しにこなかった理由、つまるところ弱点も理解した。ヒトの身にはあまる、あまりにも強大な力。それを持って、『神』でさえ乗り越えようとしている。

 

 

「絶対に許されないッ! 『神』が克服されるなどと……! 必ず始末してやる……ッ!!」

 

 

 

 

 

―――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

「危なかった……。あと少しでも時間が経ってたら、『カード』が剥がれるところだった……。」

 

 

 痛みは傷がなくなったからか、だんだんと薄れていっていた。でももし()()()()()()()()()、きっと次は死ぬと思う。

 

 

「急いで山から下りて、救急車呼んで……。それに、アクアとルビーも迎えに行ってあげないとだし、露伴先生も抱えなきゃだし……ああもう、ほんっとにキツいんだけど!」

 

 

「……誰が、誰を抱えるんだって?」

 

 

「ッ、先生! 起きたの!? 体は!? 大丈夫!?」

 

 

「うるっせぇなぁ~~~~ッ! 病み上がりなんだから少しは静かにしてくれッ!」

 

 

 

 ヤバい、安心しすぎて普通に泣きそう。というかなんなら、初手で憎まれ口叩けるくらい元気じゃん。

 

 

 

「何が起こったのか気になると思うけど、今はとにかく逃げなきゃ!」

 

 

「その点に関しては同意だ。早いとこ―――」

 

 

「カァーーッ!! カァーーーッ!!」

 

 

「うわっ、な、なにっ!? カラス!?」

 

 

 

 突然一羽のカラスが木々の間から飛び出して、私たちの頭の上を大声で鳴きながら飛び去っていく。ふと隣を見たら、露伴先生の顔に汗が浮かんでいる。

 

 

 

「ヤバい……ッ! あのカラスには、『天国への扉(ヘブンズ・ドアー)』で命令を書き込んであったッ! 『大蜘蛛が岸辺露伴の方に近づいて来たら大声で鳴いて知らせる』と!」

 

 

「て、ことは……!」

 

 

「クソッ逃げるぞッ!! すぐにここを離れるんだッ!!」

 

 

 

 露伴先生が私の前に立って走り出す。私もその背中を追うけど、腕が振れないから走りにくい。スマホのライトでお腹を照らし続けてないと、薄暗くなり始めた今は危ない。

 

 

 バキバキと枝が折れる音が背中の方から聞こえてくる。その音が少しづつ大きくなってくるあたり、だんだんこっちに近づいているみたい。 ……こういう時ばかりは、アイドルやってて聴覚が鋭くなったのが憎い。

 

 

 

「露伴、先生ッ! これ多分、逃げ切れないと思う!」

 

 

「やかましいッ! さっさと走れッ!」

 

 

「私、お腹に穴空いてるからッ! ちょっと走れそうにないかも!」

 

 

 足を止め、体の向きを反転させる。『Stage2』が私の傍に現れ、両方の拳を構える。

 

 

「大丈夫ッ! 今の私なら、絶対勝てるッ!!」

 

 

「君、そいつは……! あ、新しいスタンドッ!? 成長したっていうのかッ!」

 

 

「先生は私のこと、スマホのライトで照らしててッ!」

 

 

 

 露伴先生の方にスマホを放り投げる。壊れないかどうかなんて心配してる暇はない。私の背後から二台持ちで照らしてくれてるみたいで、私の前の方まではっきり見える。

 

 

 

「……ッ!!」

 

 

 

 一瞬だけ、そいつの脚が光の中に見えた。そう思った次の瞬間には目の前にいて、二本の脚を振り上げていた。

 

 

 

 でも。

 

 

 

「うりゃあっ!!」

 

 

 

 遅い。振り下ろされた脚が私の体を突き刺す前に、Stage2はその脚に4回は拳を打ちこんだ。脚には『カード』が貼りつき、蜘蛛は前かがみに倒れ込んだ。

 

 

 

「や……やった! 勝ったッ!!」

 

 

 

 終わってしまえばあっさりだった。必死に逃げ回ってたのがバカみたい。最初に戦った時より遅く感じたのは、きっと私が強くなったからに違いない。

 

 

 

「で、でも……今度はちゃんと、トドメ刺しておかないと。きっちり、再起不能に……。」

 

 

「―――完全に理解したぞ……ッ! お前の能力ッ! 小娘ェ……。」

 

 

「え?」

 

 

 

 思わず体が固まった。能力が、バレたってこと?

 

 

「ハァ、ハァ……。お前のそのスタンドが殴ったとき、手の甲の穴から『カード』が出てくるッ! そしてそれが貼りついた時、そこから何かを『隠して』『無力化する』……!!」

 

 

「……。」

 

 

 

 呼吸が荒くなりそうなのを必死に抑え込む。心臓の音がやけに大きく聞こえるし、体に力が自然と入りすぎてしまう。

 

 

 

「おい星野アイ! 気にするんじゃあないッ! お前の能力が見破られたからといって、お前が圧倒的に有利な事に変わりはないんだ!!」

 

 

「本当に……そう思うか……?」

 

 

「なにを……?」

 

 

「お前の反応で分かるぞ……! この推測は完全に当たっているということがッ! 故に私にはお前の能力の弱点も掴んでいるということッ! ……ひょっとしたら既に、能力を破っていたりするかもしれない……。」

 

 

「……!」

 

 

「ありえないッ!! もしそうなら、お前に襲い掛からない理由がないッ!! はやくとどめを刺すんだッ!!」

 

 

「選択をするのは露伴じゃあないッ!! お前だ、星野アイ……。罠を警戒するか、それともないと決めつけるのかッ!! お前が決めるんだッ!!」

 

 

 

 ど、どうしよう。どうすればいいんだろう。今私の目の前に倒れてる蜘蛛はすぐには動けそうにない……と、思う。でもこいつは『Stage2』の能力を見破ってる。ひょっとしたらもう既に、カードは剥がされてるのかもしれない。いや多分、そう簡単に剥がせるようなものじゃないはずだと思うけど……。

 

 

 

 

「星野アイッ!! 左上だ、避けろォォォォーーーーーーッ!!! 」

 

 

 

 突然響いた露伴先生の声に、体が硬直する。それでも心は露伴先生の言った事を理解したのか、Stage2が私の左肩の方に拳を振る。

 

 

 何かに触ったような気がしたけど、よくわからない。でも、あれ? もともと何もなかったところのはずだよね?

 

 

 

「……あ。」

 

 

 

 何が起こったのかは、すぐにわかった。左のふとももに、500円玉くらいの穴があいていて、そこからドクドク血があふれ出していた。足に力が入らなくて左ひざを地面につく。

 

 

 近くなった地面を見ると、蜘蛛の脚が突き刺さっていた。ただそれは、()()()()()()()()()()()()()()()。体にくっついている代わりに、付け根に糸がつながっている。

 

 

 

「貴様の能力は完璧だった……。カードが貼りついている場所さえ、私はわからないほどの完璧な偽装だ。だがそれでも喋ったのは時間が欲しかったからだ……。私が切り離した足を矢にして、糸で操る弓と矢で木の上から狙撃をするまでの時間がな……。」

 

 

 

 よくよく目を凝らしてみると、蜘蛛の背後に細いキラキラしたものが見える。あの細い糸をより合わせて弓と弦を作って、その上矢を引いて私を撃ったってこと、かな。

 

 

 

(いやいや……そんなこと考えてる場合じゃないでしょ……。)

 

 

 

 そうだ、そうだよ、早く傷を塞がないと……。早く、傷を、塞いで……。

 

 

 

(……どうやって、やるの?)

 

 

 

「―――そう、()()()()()()()()()()使()()()()。既に神託は下ったからだ。『スタンドを使えなくなる』とな。」

 

 

「……ありえない。少なくともお前の能力は、触れないと発動できないはずッ! 僕の能力を学んだと言うのなら……。」

 

 

「その通りだ……。我が能力は、ほんのわずかにでも対象に触れなければ発動できない。」

 

 

「だ……だが体から離れた脚は既に『物体』ッ! 能力の条件を満たさないはずだッ!!」

 

 

「それはどうかな……? そら、このように―――」

 

 

 

「体ともいだ脚とを糸で繋ぎ合わせれば……この脚は体と繋がっている上、私の意のままに操れる。私の体の一部とッ! 何も変わりはしないッ!」

 

 

 

 

(なにか……話してるみたい。ああでも、なんか、もうダメだ……。)

 

 

 

 

 頭がクラクラしてきた。塞いだはずのお腹の穴も、いつの間にかまた開いてる。どんどん血が出て、倒れたい気分だ。ドクドク流れる赤い血を見てたら、何か白いものがあるのが見えた。

 

 

 

(何これ……。『カード』?)

 

 

 

 

「そこで見ているがいい露伴ッ!! この娘を始末した次は貴様だッ!!」

 

 

「ッ、『天国への(ヘブンズ)―――』」

 

 

「もう遅いッ!! 死ねぃッッ!!!」

 

 

 

(そうだ……たしかこのカードが、私のお腹の傷を塞いで……)

 

 

 

 

 

 ―――――私の左の肩から、()()()()()()()()が剥がれ落ちる。左の首筋に、星型の痣が現れた。




『Loveマシーン Stage2』

破壊力:B スピード:A 持続力:E~C 

射程距離:E 精密動作性:D 成長性:A


本体:星野アイ



何かを殴った際の衝撃や、アイ自身がそうしようと考えることで、手の甲についたカートリッジからカードが出る。そのカードが何かに貼りつくと、そこから何かを『隠す』。人間や動物の体に貼りついたならそこから体の感覚を消し去り、何かのものに貼りついたのならものの機能を奪いながら誰にも認識されなくなる。

カードは貼りついた場所さえ認識されなくなるため、剥がすことはほぼ不可能。ただしカードは『光』をエネルギーにしているらしく、暗闇の中では数秒程度で剥がれてしまう。
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